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64号車 中嶋悟総監督、牧野任祐選手/34号車 道上龍選手、大津弘樹選手が2019年の戦いに向けて語った「SUPER GT Moduloチームトークショー 2019」
- 提供:
- 株式会社ホンダアクセス
2019年4月12日 14:24
- 2019年3月19日開催
レースファン待望のSUPER GTが2019年もいよいよ始まる。開幕の舞台は4月13日~14日の岡山国際サーキット。今はちょうどシーズンイン直前ということで、ファンの間にはさまざまなニュースが飛び交っているが、その中でも大きなトピックとして話題になったのがModuloの動向だ。
ModuloとSUPER GTの関わりは2013年のウィダー Moduloから始まり、その後Drago Moduloが2年続き、続いてEpson Modulo。そして2018年はGT300クラスでModulo KENWOOD NSX GT3を走らせていた。
このようにSUPER GTに深く関わってきたModuloだが、2019年はさらにその存在感を高めてきた。そう、ご存じの方も多いと思うが今シーズンのModuloはGT500クラスの64号車「Modulo Nakajima Racing」とGT300クラスの34号車「Modulo Drago CORSE」の2チームをサポートすることになったのだ。どちらのチームも人気、実力ともに高いので、2019年のSUPER GTではModuloの名前を耳にすることが増えるだろう。
さて、そんな旬なチームとなればレースファンでなくても興味を持つものである。そこでCar WatchとModuloチームをサポートするホンダアクセスは両チームの監督、ドライバーをCar Watchの名物企画「神保町フリーミーティング」に招いて、2019年の抱負やチームの裏話などたっぷり聞ける機会を設けた。
では、神保町フリーミーティングにお招きしたチームメンバーを紹介しよう。まずはGT500クラス 64号車のModulo Nakajima Racingから中嶋悟総監督と牧野任祐選手。そしてGT300クラス 34号車のModulo Drago CORSEから道上龍選手と大津弘樹選手だ。
中嶋総監督から参加メンバーの自己紹介から始まったのだが、最初にマイクを取った中嶋総監督が笑顔で気さくなあいさつをしてくれたので、会場に少し感じられていた緊張感というかステージと客席の距離感が一気に詰まる。そしてその雰囲気は、あとに続くドライバー陣もそれぞれの個性を出せるようないい流れを作ってくれた。
最初の話題は2019年のF1開幕戦でホンダのパワーユニットを積むレッドブルが3位表彰台に立ったことだった。ホンダF1のうれしい話題となれば中嶋総監督に話を聞かないわけにはいかない。そこでまずこの話題を振ったところ、中嶋総監督は「いい結果が出たということはうれしいことですが、この結果はパワーユニットだけで得たものではなくて、車両との組み合わせがよかったことからのことでしょう。今回は3位ということですが、1位を目指してこれからも頑張っていただきたいなと思います」とゆっくりとした口調で語った。コメントとしては短いものだったが、会場にいる参加者にはホンダF1ドライバー時代の中嶋総監督をリアルタイムで見ていた人も多いので、その人からの期待が高まっている2019年のホンダF1に関する話が目の前で聞けたことは、感無量のことだったと思う。
さて、本題のSUPER GTの話題だが、フリーミーティング開催時の両チームはセパンと岡山でのテストを終わらせている状況だったので、この2つのテストをこなして見えてきたことがあるかを聞いてみた。
中嶋総監督からは「去年の12月と今年の2月にセパンでテストをして、3月に岡山でもテストをしましたが、まあまあ順調だったという印象です。でも、セパンテストがよかったからといってその年のレースがいいかというとそうでもないんです(笑)。ただ、今回のテストを行なったことで基本的な部分ができたような気がします」というコメントだった。
続いて牧野選手だが、牧野選手は2年ほどヨーロッパでレースをしていたので日本のレースは久々の復帰だ。そこで牧野選手は「久しぶりの日本復帰です。まだセパンと岡山のテストしか乗っていませんが、セパンは暑く、岡山は寒いという状況でした。僕たちが使うダンロップタイヤにもコースごとに得手不得手はありますが、確実に進歩をしているのが実感できました。とくに夏場のレースが楽しみなくらいのものになっていると思います」ということだった。
今度は34号車の話題だが、NSX GT3は今シーズンからより戦闘力を高めたエボリューションモデルになる。そこでまずは走らせてみた感想を道上選手に聞いてみた。道上選手は「NSX GT3は去年デビューしたマシンですが、“すんなり乗れるクルマなのかな”という当初の期待とは違うもので、思うようにいかないことがたくさんありました。でも、これはNSX GT3に限らず、デビューして1年目のクルマにとって仕方のないことでした。しかし、2年目の今年はエボリューションモデルが出てきました。僕らのチームは空力パーツのみですが早い時期からキットの組み込みができたので、2月のセパンテストで走らせてみましたところ、去年のクルマではブレーキングから姿勢が乱れることが多かったのですが、エボリューションモデルではリアの安定感が増していて、思い切ってコーナーへ飛び込んでいけるようになっていました。状況は違いますが、この前行なった岡山のテストでは去年のデータより約1秒くらいのタイムアップでした」と確実なレベルアップを体感できたことを語った。
大津選手からは「岡山国際サーキットの公式テストでは初日の午前中は雨でした。僕はそこで乗せてもらいましたが結果は3位です。去年は雨で上位にいられたことがなかったくらい厳しさがありましたが、エボリューションモデルでは雨でグリップが低い中でも好感触を得ることができました。クルマの進歩があったことを体感できたと思います」という感想が聞けた。さらに今シーズンの見込みを聞いてみると「去年よりは手応えを感じていますが、いざレースが始まってみるとまわりのクルマも速くなっている可能性も大いにあるので油断はできないですね。公式テストではRC Fが速かったという印象です」とのことだった。
さて、時間の長い神保町フリーミーティングなので、レースの話題からちょっと離れたトークも行なわれた。その中でとくに盛り上がったのが、3月2日~3日に鈴鹿サーキットで開催された「モースポフェス 2019 SUZUKA」についてだ。
このイベントでは毎回、中嶋総監督と日産の星野監督による“永遠のライバル対決”という模擬レースが行なわれていた。このレースについて中嶋総監督は「あの人(星野監督)は必ずフライングしていくんで……」と切り出すと、それを知っている会場には笑いが涌く。そして「まあ、それでも来場してくれたお客さんが喜んでくれればいいんですけどね」と笑顔で語る。
そんな“永遠のライバル対決”だったが、2019年からは“新・永遠のライバル対決”と模様替えして、脇阪監督、本山選手、そして道上選手の3人による戦いとなった。
これについて道上選手は「中嶋さんと星野さんが長年やられてきた場ですから、自分がその場に呼んでもらえるのはすごいことです。あの場に立てることは僕らにとって幸せなことですよ」と感想を語った。ここで中嶋総監督は「来てくれるお客さんは去年の内容を覚えているからね、手を抜くのは無理だよ」と茶々を入れる。
そして道上選手からは「手は抜けないですよ。でも、そんな意味も込めて来年から古いGTカーで対決するのはやめようという話になってます。僕が乗ったカストロール 無限 NSXは動態保存)用なので、絶対に壊せないクルマなんです。だから雨が降ったら走行しない予定でしたが、お客さんも大勢集まってくれるので、ホンダの山本部長から『雨でも走れ』という指示が出ました。とはいえ、雨を走るタイヤがないんです。現行のGTカーのフロントタイヤは太さは合うのですが径が合わず。まあ、リアは無理矢理でなんとかなりましたが、フロントはどうにもなりません。そこでヨコハマタイヤさんに相談しましたら、大阪の営業所に履けそうなサイズのSタイヤがあるということでそれを履くことになりましたが、排水性が不安なので、なんとタイヤサービスで3本ほどトレッドに排水用の溝を掘ってもらいました。それでなんとか走ったのですが、僕としてはレースより緊張しました。なにせ当時のGTカーはハンドルが90度くらいまでしか切れないので、リアが流れると立て直せないんです。そんなクルマだったのでスピンだけはしないように慎重に走ってました」という裏話が聞けた。
64号車に乗る牧野選手は、SUPER GTのほかに同じNakajima Racingからスーパーフォーミュラにも参戦するので、GT500クラスとSFマシンの印象について聞いてみた。牧野選手によると「乗る前は2台乗り換えは難しいのかなと思っていましたが、今のGT500マシンはフォーミュラに近いので、乗っている時の感覚はどちらもあまり変わらなかったです。ただ、SFマシンは去年までのSF14からSF19になったことで、かなり速さが増していますので、そこについてはまだ対応し切れていないところがあります。このSF19は、鈴鹿サーキットではF1の次に速いクルマなので体力的にも厳しいですよ」ということだ。
さて、開始から約1時間経ったところで、中嶋総監督は次の仕事があるためここで退出することになった。最後に「2019年はどこかのコースで、34号車と64号車でそれぞれのクラスの1位を獲れたらいいよね。Moduloで1&1ですよ」と語ってくれた。
チームメイトへの印象なども語られたドライバー3人のトーク
残りの時間はドライバー3人でのトークとなった。ここでの最初の話題は岡山国際サーキットの公式テスト時のこと。牧野選手が乗る64号車が道上選手の34号車に追いついた時があった。その時点で道上選手はタイムアタック中だったので「わるいね」と思いつつ最後まで前で走り切ったという。
ここで牧野選手に「どうして抜かなかったのか?」と訪ねると「実は何度かパッシングをしましたが、すごく攻めていたのでこれはよけてくれないなと思って後ろに付いていました。無理に抜いたらあとで怒られそうですから(笑)」と答える。
続けて牧野選手は「Modulo同士なので気を遣うじゃないですか」と言ったあと「でも、ちょっと聞いてくださいよ。鈴鹿で僕らの64号車はお披露目しまして、ホント傷1つないピカピカの状態でした。そして当日はデモレースが東コースを使って開催されたんです。グリッドに並ぶためピットアウトした時に後を見たら大津君がいたんです。鈴鹿の東コースはダンロップコーナーを過ぎたら“右”に反れるのですが、どうやら大津くんは東コースということを忘れていたようで、ダンロップコーナーをいつものように走ってきて、もうちょっとでまっさらのクルマを壊されるところだったんです(笑)」と語りながら、いたずらっぽく大津選手の方を見る。
すると大津選手は「任祐(牧野選手)が避けてくれたのであたらずに済んだのですが、彼がこっちを見ていなかったらModulo同士の大激突が起きてましたね」と反省気味に語る。そして「本当に間違えていたの?」という問いかけに「そうです……。任祐のクルマがコーナーでフラフラしていたので(タイヤが温まっていなかった)抜かしてそのままデグナーまで行こうと思ってました。そして行こうと思っていたら任祐が急に曲がり始めたので……。その時点で“東コースだった”と思い出してブレーキを目一杯踏んだのです」と、ものすごい裏話を聞かせてくれた。
ここで間髪入れずに牧野選手は「大津君は先輩ですが、あの時はホントに“なんだコイツ、あぶねぇ~”と思いましたよ」と発言すると、会場には大きな笑いが涌いた。このことは一歩間違えば大事件になる深刻な話だったが、そこは明るい性格の若い2人のドライバー同士、テンポよくコミカルに聞かせてくれたので、こんな爆弾発言(?)でも会場の雰囲気は重くならず、それどころかいっそうよくしてくれた感じだった。
2人の会話は息も合っていて面白かったので、シーズンが始まってからもModuloブースなどのステージで聞かせてほしいとも感じた。
続いては、2019年のマシン的に相性がよさそうなサーキットはどこか?ということを聞いてみると、牧野選手は「鈴鹿が一番相性いいんじゃないですか」と答えた。次に大津選手に聞いてみると、大津選手は富士スピードウェイを挙げた。
同じクルマに乗る道上選手には「道上選手も富士がいいと考えていますか?」と聞くと、少し考えてから「そうですね」と答えた。そして「鈴鹿サーキットはモースポフェスの時に少し走れたので感覚を見てみましたが、エボになって改善されたポイントが他のサーキットより少ない感じなので、ここは今年も厳しそうです。今年のクルマは富士もいいですが、僕としては鈴鹿以外はそこそこ行けるのではないでしょうか」と語った。
そしてさらに「鈴鹿サーキットは本当に難しいんです。クルマの性能だけでなく、ドライバーのスキルも問われるサーキットですから。僕も長年レースをやっていますが、他のドライバーを評価するうえでも鈴鹿サーキットの走りを見るのが一番参考になるんです」ということも教えてくれた。こういった発言は、本来メディア向けの会見で語られるようなことなので、それを会場で生で聞けるこの日の状況は、会場に来ていたレースファンにはたまらないものだっただろう。
このあとは2018年シーズンを振り返る話題で盛り上がり、話題は今年のマシンのデザインに移った。会場のスクリーンには64号車と34号車の並走シーンなどが映し出されたので、それを見ながらおのおのが感想を語った。
まず道上選手は「僕の感想としては白の部分が増えたのがよかったと思います。去年のクルマもよかったのですが、白が増えたことで明るいイメージになったし、光沢があるシルバーのModuloホイールとのバランスがいいように感じます。あと、あのホイールはただキレイなだけではなく、ブレーキダストが付きにくいんです。だからタイヤ交換の時にブレーキダストが舞うことがないんですよ」と、感想に加えて“へ~”となる話も教えてくれた。
大津選手は「すごくカッコいいなと思っています。僕も白が入ったことが気に入っていて、道上さんと同じくホイールと合っている気がします。ただ、他のドライバーからは64号車と見分けがつかないとも言われています」というコメントだ。
この見分けが付きにくいことについては、牧野選手から「僕らだけでなく、今年はARTAも500と300で同じようなカラーリングだし、16号車のNSX-GTも黒っぽい感じになってます。この間のテストの時も前は34号車だと思って近づいたら16号車だったということもありました。GT300に対しては接近を知らせるためにパッシングをするのですが、こんな状況だと迷う部分が出そうですね」と、色が今年のレース展開で“何か”のきっかけになるようなことを予感をさせる発言もあった。
今回は会場に集まった読者から事前に登壇者への質問をうかがっていたので、3選手はその質問にていねいに答えていた。そして「今年はどこで1勝を挙げますか?」というストレートな質問が読み上げられた。
この問いに対して、34号車を代表して道上選手は「まあ、富士はちょっと頑張りたいなというところはあります。でも、燃費を考慮して、ピットで掛かる時間が長くなります。だからそのロスを埋めるためにコース上でマージンを広げるレースをする必要があるのです。それだけに“勝つ”ということは簡単なことではないと思っています」と、道上選手らしい冷静な意見が聞けた。
牧野選手は「僕らのクルマが使うダンロップタイヤは暑い時期のほうが得意なので、夏の鈴鹿サーキットかタイかなと思っています。そこまでにタイヤの開発を含めて今よりもっとレベルアップして、鈴鹿かタイで一発いいところを見せたいと思っています」と、こちらも牧野選手らしい勢いを感じるコメントだった。
というところで、神保町フリーミーティングも終了の時間が迫ってきた。そこで最後にそれぞれのチームメイトについてどう感じているかを聞いてみた。
牧野選手とペアを組むのはインドからのドライバー「ナレイン・カーティケヤン選手」だが、牧野選手によると「彼はとてもいい人で、僕は英語ができるのでコミュニケーションもバッチリ取れています。ただ、彼の辛いもの好きにはちょっとついていけません」と、冗談も交えてチームワークがいいところを感じさせてくれた。
次に大津選手に、2年目になる道上選手とのコンビについて聞いてみると「道上さんとはマシンの感じ方が近くて求めるところも同じです。だからすごくやりやすいですし、チーム自体も中身が強くなったというか、人員も増えてより頼もしくなっています。だから今年は去年以上の成績が出せると信じています」という、開幕が楽しみになるコメントをくれた。
そして最後の道上選手は「大津は去年F3から上がってきたので、GTカーのような箱型のクルマのレースは未経験でした。でも、彼は勉強家なのでいろいろ努力をしているところは見ていますし、去年戦ってすごく成長したと感じています。今後はGT500だったりスーパーフォーミュラだったりと、まだまだ上はありますので、そこを目指してさまざまなものをさらに磨いていってほしいと思っています。僕としては、来年はGT500に上がってほしいと思っているんですよ」と、大津選手のことを高く評価していることを語ってくれた。