トピック

未発表の「S660 Modulo X」についても語られた神保町フリーミーティング #08「土屋圭市×桂伸一 Modulo徹底討論会」レポート

「Modulo」「Modulo X」の開発はどのように行なわれているのか?

2018年3月26日 開催

 Car Watchが主催する「神保町フリーミーティング」は、クルマ業界から参加していただいたゲストから中身の濃い話をたっぷり聞けるトークショー形式の読者参加型フリーイベントである。

 8回目となる「神保町フリーミーティング#8」は3月26日に開催。この回のゲストには、もはや説明不要の人気者・土屋圭市氏、そしてモータージャーナリストの桂伸一氏、さらに2017年12月にシリーズ第4弾となる「フリード Modulo X」をデビューさせたホンダアクセスから福田正剛氏、湯沢峰司氏、松岡靖和氏という3名のModuloシリーズ開発担当者をお呼びしている。

 このメンバーで送るテーマは“「Modulo」「Modulo X」シリーズの魅力を全方位で探る!! 土屋圭市×桂伸一 Modulo徹底討論会“である。

いつもは編集部のある神保町三井ビルディングで開かれる神保町フリーミーティングだが、今回はTKPガーデンシティPREMIUM神保町での開催。参加者はいつものようにCar Watch誌上で募集。多数の応募の中から抽選で選ばれた読者の方に参加していただいた
今回の司会進行は編集部の紅一点・北村が務めた

 定刻になり会場には土屋氏、桂氏、そしてホンダアクセスのModulo開発陣の福田氏、湯沢氏、松岡氏が入室。拍手に迎えられながらステージへ上がった。今回の会場はCar Watch編集部と同じビルにあるセミナールームではなく、隣接するビルのTKPガーデンシティPREMIUM神保町にあるレンタル会議室を使用したが、部屋サイズが少々コンパクトでゲストが並ぶステージ部と客席との距離が近い。そのため、いつも以上に一体感というか密度の高さを感じるイベントとなった。この雰囲気がトークにどんな影響を及ぼすのか、興味あるところだ。

ステージ前に勢揃いした今回の登壇者

 さて、トークショーをスタートさせるにあたってホンダアクセス 広報部の石井裕氏が開催の挨拶を行なったので、まずはそこから紹介しよう。

 石井氏は「Moduloに関することやSUPER GTの話などなど、神保町フリーミーティングではこれまで4回ほどホンダアクセスのお話をさせていただきました。そして今回はホンダ純正アクセサリーのModuloとコンプリートカーのModulo Xについて取り上げていく内容です。さて、今回の注目点はモータージャーナリストの桂さんにも登場いただくことです。われわれの印象として、桂さんは思ったことをズバッと言う方です。それだけにちょっとドキドキする面もあります。しかし、こういう場ではスルドイ指摘はアリだと思いますので、皆さん、楽しみにしていてください」と語った。

株式会社ホンダアクセス 広報の石井裕氏が最初の挨拶を行なった。今回のテーマはホンダアクセスのブランド「Modulo」と「Modulo X」について

「Modulo」「Modulo X」とは?

Modulo開発の統括者 福田正剛氏

 石井氏の挨拶のあと、いよいよ本編開始。まずはホンダアクセス Modulo開発の統括者 福田正剛氏によるModuloとModulo Xのプレゼンテーションだ。

 福田氏は会場に集まった読者さんを見回すようにしながら「皆さん、Moduloという名前はご存じでしょうか?」とひと言。会場の「うんうん」という頷きを受けて笑顔に。そして「知っていてくれましたか、ありがとうございます」のあと「ご存じの方も多いようですが、ここでは改めてModuloの紹介から入らせていただきます」と切り出した。

 福田氏からは「Moduloはホンダアクセスの純正カスタマイズ用品のブランド名で、1990年代に誕生しました。このころはクルマ好きの方々にとっては素晴らしい時代と言えたでしょう。魅力あるクルマがたくさん発売されました。ホンダでも初代『NSX』が発売されたころですね。そういった中でModuloはアルミホイールのブランドとしてデビューしたのです」と、Moduloのスタートについて語った。

 続けて「その後、世間ではクルマのカスタマイズを広めるきっかけになった規制緩和も行なわれました。会場の皆さまも車高調整サスペンションキットを入れたりエアロを組んだりを経験されたことがある方がいるかもしれませんね。そしてModuloもアルミホイールに加えて、エアロパーツやサスペンションキットなどをホンダ車用に作るようになっていきました」とModuloが歩んできた道を解説。

 2012年ごろになると、われわれユーザーにもModuloの名前は浸透していたと思うが、それをさらに強く印象付けたのが2013年1月に開催された東京オートサロンに展示されたホンダアクセスが手がけた「N-ONE」のコンセプトカーだった。

 このクルマについて福田氏は、「カスタマイズが身近になるにつれてユーザーの意識に変化が出てきました。カスタムしたクルマに対する価値感がそれまでよりも高まってきたんですね。部位ごとに用品を付けるのではなくて、1台のクルマとして仕上げてあるカスタムカーが欲しいというニーズが出てきたのです。そして、その声に応える形で生まれたのが“Modulo X”で、その最初が東京オートサロンに出展したN-ONE Modulo Styleなのです」と語った。

 Car Watchをいつも読んでいただいている読者の皆さんならModuloとModulo Xの違いはご存じだろうが、初めて記事を読む方もいると思うので簡単に整理しておこう。

 ホンダアクセスはホンダ車の純正アクセサリーを作る会社で、その商品群の中のブランドがModuloである。そのため、Modulo製品はユーザーが付けたいものを自由に選んで購入できるのだ。

 そしてModuloパーツやその他のアクセサリーを長年開発し、ホンダ車を知り尽くしたホンダアクセスの技術者がその匠の技と経験を注ぎ込んで「1台のクルマ」として作りあげたコンプリートカーがModulo Xである。使っているパーツは用品として購入できるModuloパーツではなく、開発陣が求める乗り味を実現するために開発の方向を定め、Modulo X専用に新たに作ったものが使われている。

 また、Modulo Xは完成車として販売しているので、新車の製造ラインでほかの新車と同じように組み立てられているのもポイント。このModulo Xに組み込まれる専用パーツは標準車のオーナーには魅力的だろうが、Modulo X専用パーツはセットで装着することで本来の効果が出るものなので、単品販売をしない(Modulo X車の補修は除く)設定になっている。

 このような違いがあるModuloとModulo X。これらの名前と特徴をここで覚えておいていただきたい。

福田氏からはModuloとModulo Xの違いについて説明があった。全国のディーラーで純正アクセサリーとして購入できるのがModulo、コンプリートカーがModulo Xだ

鷹栖プルービンググラウンドで鍛えられるModulo&Modulo X

 さて、話を戻して福田氏の発言を続けて紹介しよう。「ModuloとModulo Xの走りの面についてです。“走り”という表現だとサーキット走行を思い浮かべる方も多いと思います。そして乗り心地も硬いという連想もあるでしょう。しかし、われわれが作るModulo Xの“走り”というのは一般道がターゲットです。普段乗りから高速道路、ワインディングなどを走行したとき、乗り心地がいいだけでなく、スポーティであり上質感がある乗り味のことです。そのため、開発時はストリートを想定した条件で徹底的に鍛え上げています」と、Moduloの走りの基本方針を語った。

 ではそのModulo、Modulo Xはどのように作られているのか? ここからが今回のテーマの核心となる部分だ。

 福田氏は「ではModulo、Modulo Xの作り方について解説します。ホンダは北海道 旭川に鷹栖プルービンググラウンドというテストコースを持っています。ここは“ホンダの聖地”とも言われている施設で、ここでは時間と手間を掛けてホンダのクルマが作り上げられています。その鷹栖は有名なニュルブルクリンクのコースに負けないくらいの高低差があったり、先が見えないコーナーが連続するようなハードなコースがあります。一般的にテストコースというと周回路というオーバルなコースが主体になると思いますが、ホンダは先にワインディングコースを作ったんですね。変わってますよね(笑)。でも、これは人の感性を重視した開発でクルマを鍛えていきたいという考えなんです。そしてModuloシリーズもそういうコースを使って同じように開発し、作り上げたものです」とのこと。鷹栖にはワインディングコースだけでなく、荒れた一般道を再現したコースもあると聞く。そんなあらゆる道路状況を使って開発を行なっているという。

モータージャーナリストの桂伸一氏。桂氏は、今回の登壇に向けて事前にModuloデモカーの試乗をした

 今回はモータージャーナリストの桂氏に来ていただいているが、話をするなら実際に乗っていないと何も語れないということで、桂氏は事前にModuloパーツ装着車を試乗。その中の何台かについて印象が語られた。

 走行ステージは道が細くてコーナーもきつく、さらに路面の荒れもひどい関東の某峠。そこをまず「Modulo S660」(Moduloパーツ装着車)で走行した。

 桂氏は「自動車メーカーは大きな視野であらゆるドライバーが乗れるように、長い時間と巨額な予算を使ってクルマを開発していますので、完成したクルマのバランスはしっかり取れているわけです。それに対してチューニングするというのは、どこかはよくなるけどどこかはわるくなるというのが普通なんです。ただし、ここも製作のコストがかけられるかどうかによってずいぶん変わってくるのです。そんなことを分かっていると思われる方々が作っているのがModuloじゃないかと思うんです。(実際に乗った印象は)走りのグレードを上げつつ、全体的なバランスも取っている印象です。S660の標準車はいいクルマですが、ボクの感覚では加減速のときのピッチングがちょっと気になるところもありました。ところがModulo S660はそれがなくなっていて、そこがまずよかったですね」と語った。

 これについてModulo開発陣の湯沢氏は、「桂さんが言われたようにメーカーが作るクルマというのはデキがいいものです。その上でわれわれはどのような味付けでバランスを取っていくかということをやっているわけですが、これがすごく大変なことです。時間優先でものを作って、ちょっと乗って“これでいいや”ではなくて、時間を掛けながら“これでいいのか?”と常に考えて作っていかないとできないものです。なんというか“悩んで悩んで開発する”という感じです。数値も取りますが、やはり最後は自分の感性を非常に大事にして作っています。ここは皆さんにも共感していただける部分が多いのではないかと思います」とのこと。

 つまり標準車から方向性をガラリと変えるのではなく、独自の味付けを加えながら人の感性を重視してバランスさせる。そうやって開発を行なっているので、Modulo S660は標準車のS660と比較したときも全体のイメージに違和感を感じない仕上がりになっているということなのだろう。

桂氏は「路面からの細かな入力も最初はスッと柔らかく入り、それでいて姿勢はあまり崩さないという上質感がいいと思うんですけど……これヨイショだなぁ」と言って会場を笑わせる

ステップワゴン Modulo X、その印象は

 今度は「ステップワゴン Modulo X」の印象だ。「次に乗せてもらったのがステップワゴン Modulo Xでした。ステップワゴンはもちろん標準車にも乗っていますが、実は標準車に対しても全然わるい印象がないんです。そんな意識がありながらも、乗り味の質が上がったなということは感じました。あと、例えばステアリングを操作したとき、ドライバーには“こう動く”というイメージがあると思うんですけど、ステップワゴン Modulo XだけじゃなくてModuloのクルマはドライバーの意思に忠実な動きをしてくれると感じました」と言い、さらに「全車、自分で運転しましたがステップワゴン Modulo Xは2列目、3列目にも乗ってみたかったですね」とコメント。

 これに対して試乗時に同乗していた福田氏からは「やはりそうですか、実はこのクルマを仕上げるときに土屋さんにも乗ってもらいましたが、ボクが“どうぞ”と言ったら土屋さんは後ろに乗りました。しかもリクライングをすべて倒してから“さぁ行こう”と言うのです。『それでいいんですか?』と聞き返したら土屋さんは『ミニバンならセカンド席に家族や子供も乗るでしょ? 大事なのは運転手の目線じゃないでしょ? だからまずは家族の部分がちゃんと成立しているかどうかを見るんだよ』と言ったんですよ」と、当時のやり取りを説明。

 さらに湯沢氏は「安定して走れるクルマは家族と会話が弾んだり、遊び疲れて寝ている子供のために静かに運転することができます。ステップワゴン Modulo Xの開発時はそんな安定したクルマを作りたいという気持ちがありましたが、これが土屋さんや桂さんが気にした2列目、3列目の大切さということなんでしょうね。また、家族で出かければ高速道路を走る機会も多いと考えているので、前後の空力バランスを取るなど空力もしっかりとやっています。加えてサスペンションもショックアブソーバーのストロークを長く取る作りで、タイヤの接地感が薄くならないようにしていますので、空力のよさと合わせて高速走行時でも4つのタイヤがキチンと仕事するクルマになっています」とアピールした。

ステップワゴン Modulo X。桂氏も「帰り道に高速道路を使いましたが、レーンチェンジしたときでも車体が揺れたあとの戻りがスムーズでした」とコメント
Modulo X開発担当の湯沢峰司氏。テストドライブも担当する。空力の面をしっかり作ることで、運転するお父さんが疲れないで目的地までいけるクルマになるとのこと
Modulo開発アドバイザーを務める土屋圭市氏

 ここまでの話をずっと聞いていた土屋氏だが、ステップワゴン Modulo Xの乗り味に話題がいくと「開発がはじまって10カ月くらいはボクは運転しないです。2列目、3列目に乗って“これでいいの?”と言ってますよ。実際にステアリングを握るのは、福田さんたちの仕上げがまとまってきてからですよ」とコメント。

 さらに「コボちゃん(桂氏のニックネーム)もオレもだけど、世界中の自動車メーカーが出してくる新車に乗ることができます。これはクルマ作りの動向を掴むのにすごく役立つことです。そしてModuloの開発にはいろいろな現場で得た知識と経験を生かします。世界中のクルマと常に比較しているんです」と、Moduloシリーズの開発の基準の高さを語るが、もともとデキのよい標準車がベースなだけに「そこからもっといいクルマにする」のは簡単なことではない。

 このことについては、「福田さんたちは自らの手である程度仕上げてからオレに乗ってくれというスタイル。自分たちの仕事に自信があるんだよね。でも、たまにアレっと思うタイミングで乗ってくれと連絡がくることもありますが、そういうときは迷いが出てるんでしょうね」と語った。

 この発言でModulo Xがより分かりやすくなったのでないだろうか。土屋氏が開発に関わるということだけ聞くと、土屋氏主導でなにもかもが進むイメージもあるがそうでなく、冒頭で触れたように悩みながら作り、その過程で「クルマとは」の引き出しが多い土屋氏の意見を聞き、目指す方向からずれないようにしているということ。何より迷いが出るということはそれくらい真剣に開発していると証拠だろう。

ホンダアクセスのスタッフが鍛え上げ、それを要所でチェックするのが土屋氏の役目

 このやり取りを聞いていた桂氏。標準車を鍛えて仕上げて、それが生産ラインで作られているという事実からポロッと口にしたのが「和製AMGですね」だった。それに対して土屋氏が「そう、福田さんたちとはAMGになろうねと話してるよ」とひと言。これを聞いた桂氏は、「自動車メーカーの作るクルマは予算の中で条件を満たしつつ仕上げていくので、乗り手によっては不満を感じる部分があるわけですよ。ところがModulo Xはその枠を飛び越えて作れるってことですね」と、Modulo Xの魅力について話していた。

 そして、今度は福田氏から「予算のことももちろんありますが、Modulo Xの開発には2~3年ほどの時間を掛けてます。その際には先のことも考えています。例えば、最近では一部の高速道路の速度制限が引き上げられましたが、この話が出たときからそれを見越した作りを取り入れています。湯沢が言った空力の面がまさにそれです。また、今後は高速道路での自動運転解禁も控えていますが、そのときになって直進性がいまひとつで“振られてしまう”と言われるのはイヤなので、開発の段階で“今後、クルマに何が必要なのか”を見越した作りを盛り込むこともしているのです」と付け加えた。

福田氏のコメントのあと桂氏から出た言葉が「和製AMGですね」のひと言だったが、実際に土屋氏と福田氏は「AMGを目指そう」といったニュアンスの会話もしているという

 また、桂氏が「フリード Modulo Xの開発時の映像を見たんですけど、土屋さんが過激に走ってましたね」と、映像見た率直なコメントを発すると、土屋氏は、「フリードもステップワゴンと同様の鍛え方をしていますよ。ホンダアクセスのスタッフはユーザーが使用する速度域を想定したテストは行ないますが、そこから飛び越えた速度は普通試しません。ボクはよくアジアの国々に仕事で出かけるのですが、そこで見かける日本車の乗られ方はすごいです。荒れた道でも120km/hくらいでカッ飛んでいるんです。海外での話ですが、そういう使われ方があるのは事実なんです。だからボクはテストの時に同じことをする。鷹栖のコースには高低差が50m以上あるところがありますが、そこを駆け下りてきてうねりで跳ねながらコーナーを曲がるなんてことも福田さんを横に乗せてやってます。そういうテストをしていくと、車両が仕上がるころには“これは誰が乗ってもクリアできるぜ”というレベルになっているんですよ」と解説。

 また、福田氏からは「テストコースではけっこうな速度域も試しますが、土屋さんのテストは“まさかこのスピードで行くの”というレベルです。これはわれわれにはムリです。場所によっては高速域なのにタイヤが完全に浮くし、コーナーが連続する区間だと当然クルマの振られ方も大きいのですが、土屋さんに乗ってもらえるとそんなハイレベルなシーンまで追求していくことができるんです」と語った。

土屋氏はミニバンも高速域の走りのよさが必要と考えている。理由は外乱に強いクルマに仕上げることで走行安定性を高めるためだ。それを実現したのがステップワゴンとフリードのModulo Xだ

 これを聞いた桂氏はなるほどという顔をしたが、「以前試乗したフリード Modulo X、確かに運転席はいい感じでした。だけど2列目はちょっと硬く感じられましたが、これはどういうことです?」と気になっていた点を質問。

 この質問に対し、土屋氏は「ステップワゴンは家族で乗ることに重点を置いたけど、フリードはもうちょっと年齢が若い人が乗ることを考えているんだよ。だからあえて味付けを変えた。しかも開発段階では“やりすぎ”と言えるレベルまでいった。『これはフリード Type Rだな、やめよう』という言葉が出たくらい。そこでもう1度考え直したんだ。それにさ、ステップワゴン Modulo Xと同じ味つけだったらステップワゴン Modulo Xでいいじゃないかとも考えた。そんな風に悩んだ末に仕上がったのがフリード Modulo Xの乗り味だよ」と返した。

 このコメントについて、福田氏は「(シビックやインテグラなど)Type Rに乗っていた人が結婚して家族を持って、それに合ったクルマを買うとなったとき“これなら”と思えるクルマでもありますね」と付け足した。

未発表のS660 Modulo Xは乗り心地がいい?

S660 Modulo X開発担当者の松岡靖和氏

 さて、ここまで聞き役に徹していた松岡氏だが、発言を控えていたのにはワケがある。それが何かというと、松岡氏が現在開発を担当しているクルマこそ、ホンダファンが登場を待ち焦がれている「S660 Modulo X」だからである。今回の開催では「大トリ」としてふさわしいネタだけにたっぷり引いたわけである。ということで、ここからはS660 Modulo Xについて紹介したい。

 マイクを持った松岡氏は、「S660 Modulo Xは2018年の東京オートサロンと大阪オートメッセでコンセプトモデルとしてお披露目させていただきましたが、現在は最後の仕上げを行なっている最中です。ぜひ期待していて下さい」と短めに発言。次の言葉を待つ会場は一瞬の沈黙。「あれ? これで終わり?」と思ったとき、桂氏が「この話はもうちょっと突っ込んでもいいの?」と切り込んでくれた。すると少しの間があって松岡氏から「……いいですよ」とのひと言。

 それじゃとばかりに桂氏は、「先ほど流れた映像(会場では鷹栖テストコースでのS660開発風景を記録した映像が流されていた)で気がついたんですけど、市販済みのアクティブリアスポイラーにガーニーフラップが付いてましたね。あれはどういうことですか」と質問。

 このことについて松岡氏は、「S660 Modulo Xはフロントバンパーを専用で作っているので、Modulo S660用のフロントフェイスキットに合わせてあるリア側との空力バランスが変わってきたんです。それで手当が必要なのでガーニーフラップを付けましたが、ここでリアウイングの大型化などにいかなかったのには理由があります。クルマで遊ぶ人たちにとって、ガーニーフラップは心をくすぐるパーツじゃないですか。だから空力のバランスを取るという真面目な部分だけでなく、そういった面白さも演出してみたということです。このパーツもほかのパーツ同様に、何度も走行テストを繰り返して仕上げたので、すでに発売しているModulo製品のエアロをフルコンプリートしたときより高いダウンフォースを発生でき、空力バランスもさらにいいものに仕上がっています。いいというより“けっこうなエアロマシン”という感じですね」と、非常のワクワクする答えを聞かせてくれた。

 ちなみに、ガーニーフラップを付けることは企画当初はなかったというが、湯沢氏が自らステアリングを握り、S660 Modulo Xを鍛えていく過程でどうしても必要と感じた。そのことをModuloを統括する福田氏へ報告。すると福田氏は予算などを再計算して悩んだというが、「よくするには必要なんだよね、やるか」とGOを出したという。この話に「そうですよね、バランスを取らないとね」と桂氏が言うと「そうですね、でもちょっとムリしました」と福田氏が笑いながら答えた。

桂氏の質問に答える形でS660 Modulo Xの空力について語ってくれた松岡氏。S660 Modulo Xのことを「エアロマシン」と呼んだところが非常に興味深いところ

 さて、松岡氏の話に戻るが、今度はS660 Modulo Xで追加された装備について少し明かしてもらったのでそれを紹介しよう。すでに紹介したリアのガーニーフラップとそれを付けるきっかけになった専用のフロントバンパー、そしてModulo製品では減衰力固定式にしていた前後ダンパーのセッティングを変えて減衰力調整式にしているところだ。

 これらは3年前にデビューさせたS660 Moduloの走りよりもさらに高みを目指し、よりハイスピードな領域でも安定して走れるように仕上げたものということだが、松岡氏からここで面白い発言があった。

 松岡氏曰く、「われわれ開発陣も驚いたのが、走りが引き締まっていくと同時に乗り心地がすごくよくなってきたことです。サスペンションはModulo製品のものから減衰力の変更をしていますが、実はそれほど変えていないんです。それなのに乗り心地が向上したのはなぜか? と思うところでしょうが、これも今回開発したエアロの効果です。操安性に加えて乗り心地まで上げてしまうのは3年かけて積み重ねてきた技術の進化かな、と思っています」とのこと。

 では、そのエアロパーツの効果はどれくらいのスピードから体感できるかだが、これには湯沢氏が「60km/hくらいから効きます。ステアリングには確実に伝わります」と回答。さらに「この開発をスタートさせる際は世の中のS660の動向も見ています。われわれメーカーは規制を守らなければいけないのでパワーは64PS、そして135km/hで効く速度リミッターは外せません。でも、カスタマイズの手法の1つとしてリミッターを切ったりパワーアップしたりしますよね。するとModulo Xも同じように乗られることが十分有り得ます。ここはわれわれの立場を超えた領域ですが、そこもちゃんと考えて“このクルマはいいモノにする”という意識を持って開発を進めていました。だから土屋さんに乗ってもらった開発車両はスピードリミッターを解除しています。そして最終段階では“180km/h出しても全然問題ない”というコメントももらっています」とのことだ。

 ここで福田氏は、「映像にデザイナーやモデラーとかがスポイラーを削っているシーンが流れましたけど、現場ではこの人たちも乗せるんですよ。しかもS660 Modulo Xの開発を始める前にはNSX(NA型)にも乗ってもらい、ミッドシップの走りを体感してもらってます。これは“こういうのを作るんだ”と伝えたいためです。そして開発が進み、ある程度までできたところでS660の開発車に乗せるんですが、そのときは彼らの仕事(バンパーの形状の手直し)と合わせて行ないます。すると“たったあれだけでこんなに変わるんですか!?”と自分の仕事がクルマに与える影響が身をもって分かる。そうなるとがぜん面白さが出るので、“もっとよくするにはどうすればいいか”という発想も出てきます。すると現場がドンドン回るようになっていくのです。今回は前後のエアロのことだけ話していますが、本当は床下の工夫やフィンを付けているとか、すっごく細かい作り込みが各所に施されているのです。開発に関わった色々な人たちのアイデアや体験したことをモノにしようと頑張った部分がすごく出ているクルマだと思います。S660 Modulo Xが発売されたら細かいところも見ていただいて“こんなふうにできているんだ”と気がついてもらえたら嬉しいです」と語った。

 最後に盛り上げてくれたS660 Modulo Xだが、今回のような話を聞いたら発売が余計に気になるものになったはず。そこで発売日が公開されたら真っ先にCar Watch誌面で紹介していきたいと思うので、そのときをお互い楽しみに待ちましょう!

開発陣の気持ちの入れ具合が伝わるModulo X製作の話だった。メーカーの人たちがこんなアツさでクルマを作ってくれているということは、なんだか無性に嬉しい気持ちになる
そしてこの人、土屋氏がアドバイザーとして作りの面に目を光らせ、本気で走らせていることがModulo Xの鍛え上げに大きな影響を与えている。このメンバーだから作れるクルマと言えるだろう
2017年12月に発売されたフリード Modulo X。Type Rに乗っていた人が乗り換えても満足できるファミリーカーとのこと。試乗車を用意しているディーラーもあるので、ぜひ乗って今回のトークの内容を体感してほしい

 さて、このあともトークが続き、会場やインターネットでの中継を見ていた人からの質疑応答なども行なわれた。最後に今回、桂氏が乗ったModulo仕様車とModulo Xを紹介して締めたいと思う。

会の終了後、参加者との記念撮影に応じる土屋氏と桂氏
このイベントはニコニコ生放送とYouTubeのCar Watchチャンネルで配信。スケジュールの都合で会場へ来られなかった方は配信で参加していただいた
Modulo S660
Modulo S660

・主な装着Modulo用品
アクティブスポイラー:16万2000円
フロントフェイスキット:10万8000円
リアロアバンパー:8万4240円
サスペンション:13万8240円
スポーツブレーキパッド:3万7800円
ディスクロータードリルドタイプ:6万4800円
アルミホイール MR-R01 ステルスブラック:フロント用 3万1320円/本、リア用 3万3480円/本
など

Modulo フィット
Modulo フィット

・主な装着Modulo用品
Moduloサスペンション:FF車専用 9万9360円
Moduloアルミホイール MS-025 ステルスブラック:3万1320円/本
エアロフィン リア左右セット:1万9440円
カスタマイズシート(運転席):6万4800円
カスタマイズシート(助手席):6万4800円
など

グレイス HYBRID EX
グレイス HYBRID EX

・主な装着Modulo用品
Moduloロアスカート フロント用:3万9960円
Moduloロアスカート リア用:3万9960円
Moduloロアスカート サイド用:4万8600円
Moduloサスペンション FF車専用:12万4200円
など

ジェイド RS
ジェイド RS

・主な装着Modulo用品
Moduloサスペンション:10万5840円
Moduloフロントグリル(エンブレムイルミネーション付):4万5360円
Moduloアルミホイール MG-015 スパッタリング仕上げ:4万5360円/本
など