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年額3600円+税でカーナビ地図が常時最新に。「地図割プラス」のアグレッシブなサービスの中身

差分更新もできて相次ぐ道路開通に対応。実際に地図更新して新旧ルートを比較してみた

年額3600円(税別)でカーナビの地図データを最新に

 5月10日にインクリメントPから発表されたサービスは、パイオニアのカロッツェリアブランド「サイバーナビ」(2011年~2015年モデル)のユーザーにとっては衝撃的と言える内容だったかもしれない。わずか3600円(税別)/年で最新の地図データに更新でき、その後も定期的に更新し続けられる「地図割プラス」がスタートしたのだ。

 これまでの同カーナビの地図データ更新費用は、1回あたり1万6000円(税別)。一気に価格が4分の1以下となり、「高いから」という理由で更新を断念していたユーザーでも気軽に購入できるレベルになったのではないだろうか。そんなお得感MAXの「地図割プラス」がどんなサービスなのか、企画を担当した同社 第一事業本部 第二企画制作部 第一グループ 二宮康輔氏の話と、実機での更新手順を交えて探ってみたい。

インクリメントP株式会社 第一事業本部 第二企画制作部 第一グループ 二宮康輔氏

「価格」の安さを求める声に応えた大幅値下げ

 まずは「地図割プラス」のサービス内容を改めてチェックしてみよう。

「地図割プラス」は、正確には「MapFan」の有償サービス「MapFanプレミアム」に含まれる1サービスという位置付けだ。MapFanプレミアムは、PC向け地図サービスとスマートフォン用地図アプリ(Android/iOS)の2つを、より便利な機能とともに活用できるようにするもの。これに「地図割プラス」が付加されたことで、車載カーナビの地図データを追加費用なしで最新にする権利も得ることができる。

 対象となるカーナビは、パイオニアのカロッツェリアブランドから発売されたサイバーナビシリーズの2011年~2015年モデル(モデル一覧はこちら。「楽ナビ」シリーズも2019年の秋には対象となる予定)。これらカーナビの地図更新にかかる費用はこれまで1万6000円(税別)だったところ、MapFanプレミアムの会員になると年会費の3600円(税別)のみでOKということになる。ただし、MapFanプレミアムの月額会員(税別300円)は対象になっていないので、年額会員として登録し直す必要がある点にだけ注意したい。

「地図割プラス」が対象となる、2011年~2015年モデルのカロッツェリア「サイバーナビ」

 当然ながら新規に登録するユーザーも、すでに会員となっているユーザーも、まったく同じサービスを受けることが可能。6月30日までは「Amazonギフト券 de キャッシュバックキャンペーン!」が実施されており、「地図割プラス」でカーナビの地図更新を行なったユーザーの中から抽選で100名に3600円分のAmazonギフト券をプレゼントしている。つまり、これに当選すれば最初の年額費用はほとんど実質無料になるわけだ。

6月30日まで「Amazonギフト券 de キャッシュバックキャンペーン!」を実施中

 なぜこれほどの大幅値下げに踏み切ったのか。二宮氏によると、既存のカーナビユーザーにアンケートを取った結果、地図更新でネックになっている一番の理由に「価格」を挙げた人が圧倒的に多かったからだという。ただ、この結果を受けて単に値下げだけするのではなく、既存の地図サービスも同時に便利に使ってもらいたいと考え、MapFanプレミアムの年額会員向けに提供することとしたのだとか。

 大胆な値段設定は、自社で独自に地図データを作成し、提供している会社だからこそできること、と同氏。会員であればスマホ向けのMapFanアプリもフル機能で使えるため、「クルマを降りた後はMapFanアプリで目的地までの徒歩移動をナビする」といった活用方法も想定しているようだ。

地図データを最新にするメリットとは

 さて、対象となるカーナビは2011年~2015年のモデルということで、発売から少なくとも約4年は経過している。多くのモデルには発売後3年間の無償地図更新が付帯されているが、4年経っているということは、有償の更新サービスを利用していない限り、古い地図データのままになっているはずのものだ。

 データが古いとしても、サイバーナビの使い勝手のよさや機能の豊富さ、基本性能の高さから、クルマを新しく乗り換えた後もカーナビだけ載せ替えて長く使い続ける人も少なくないだろう。手間や費用の面で地図データの更新に踏み切れず、それでも必要最低限のルート案内は問題なくこなしてくれるので古いデータのままで問題ない、と思っている人もいるはずだ。

 しかしその場合、知らないうちに“損している”可能性があることも頭に入れておきたい。とりわけここ数年は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックとその後に向けたインフラ開発で、道路の新規開通や新スポットのオープンが全国各地で相次いでいる。2018年の道路開通だけを見ても、東京外環自動車道、新東名高速道路、新名神高速道路などの主要な高速・自動車専用道路で新たな区間が走行可能になったのはご存じの通り。

 古いデータのカーナビだと、これらの道路や経路情報が含まれておらず、ルート案内されることもないので、近道や空いている道を見逃して遠まわりしていても不思議ではない。あまりにも道路事情の変化ペースが速いため、自分のクルマが渋滞にハマっているなか、新しいデータのカーナビを使っているクルマだけが渋滞を回避して得をする、そんな状況にもなりつつあるのだ。

ドライブ中に他のクルマが自分の知らない近道に入っていくのを見ることもある、と二宮氏

 実際、サイバーナビにおける2018年春時点の地図データと2019年春時点の地図データとを比べると、たった1年間で6万か所以上にもおよぶ更新が発生しているという。2年、3年と地図更新していない期間が長くなるほど、累計の変更箇所はふくれ上がっていくのは間違いない。そのせいで、本来ならもっと近道できていたはずなのに、無駄に走行距離を伸ばしている可能性もある。

 渋滞にハマったり遠まわりしたりすることによって浪費した時間、燃料、通行料金を考えれば、もしかすると3600円どころの損失では済まないかもしれない。それに、二宮氏いわく「新規開通した道路を使うことでストレスなく、安心してドライブできる」というお金に換算しにくい部分の効果も決して小さくないはずだ。

 常に最適なルートが案内され、さまざまなコストを節約できると考えれば、日常的にカーナビを使う人なら3600円は十分に“取り戻せる”額ではある。「サラリーマンの飲み会1回分の費用が平均で4000円程度と聞いている。飲み会を1回控えるだけで、家族に言い訳することなく、自分の小遣いの範囲で地図更新できる」という点も重要なところではないか、と二宮氏は話す。

 また、MapFanプレミアムの年額会員であり続ける限り、1回きりではなく、今後定期的に配信される新しい地図データでカーナビをアップデートし続けられるのもポイントだ。小さな変更箇所が含まれる差分更新は毎月、全データ更新は年2回のペースで実施されるので、手間を惜しまなければ毎月更新があるたびにカーナビをアップデートして常に最新の情報にしておくこともできる。忙しければ数か月に1回や半年に1回更新する、という形でもいいだろう。

 なお、2016年以降の新しいサイバーナビについては、類似サービスとして「MapFanスマートメンバーズ」などを用意しており、地図更新以外にもさまざまなコンテンツが充実している。「地図割プラス」でしばらくは今あるカーナビを使い、その後最新のカーナビに買い替えて長く使い続けたとしても、地図更新を途切れさせることはないのだ。

2014年の地図を更新するとどう変わる?

「地図割プラス」でカーナビの地図データを更新すると、地図やルートはどう変化するのだろうか。実際にデータの古いカーナビを最新データにアップデートしてチェックしてみることにした。試した機種は2012年発売のサイバーナビ「AVIC-ZH99」で、地図データは2014年のもの。現在の最新地図データは2019年春なので、およそ5年間分の更新データを一気に適用することになる。

2012年モデルのカロッツェリア サイバーナビ「AVIC-ZH99」
地図データは2014年のもの

 通常の「ダウンロード版」でアップデートを実行するときには以下のものを用意しよう。

・MapFanプレミアムの年額会員登録
・PC(Windows)
・SDカード(16GB以上)
・専用ソフトウェア「ナビスタジオ」

 大まかな手順としては、地図サイトの「MapFan」にログインして「地図クーポン」を発行し、PCにナビスタジオをインストール。ナビスタジオ上で地図クーポンを使って地図のバージョンアップデータをダウンロードし、カーナビとペアリング(1度SDカードをカーナビに挿す)したSDカードをPCに接続して地図データを書き込む。その後はカーナビのカードスロットに地図データの入ったSDカードを挿入して、画面の指示に従って更新処理を行なうだけだ。

「地図割プラス」に登録
地図クーポンを発行する。この際にカーナビの型番が必要となる
「ナビスタジオ」をダウンロード
ナビスタジオで地図データをダウンロードする。ファイルサイズは8GB近くあるようだ。この時点で地図データのダウンロードが混んでいる場合は、ダウンロード予約をして別の日に改めて作業する必要がある
SDカードへの書き込みが完了
カーナビのカードスロットに地図データがコピーされたSDカードを挿入する
すぐにいくつかのプログラム更新が開始される
プログラム更新が終了すると画面が切り替わり、バージョンアップ開始前にナビを利用しながら更新か、ナビを停止して更新かを選択
今回はナビを停止して更新を選択。バージョンアップには約90分かかるとの案内
何度か再起動を繰り返し、バージョンアップ完了
2019年のデータに置き換わった

 PCで地図データをダウンロードする際には大容量の通信が発生するため、インターネット回線は不可欠。全データ更新の場合、カーナビでのアップデート処理にもトータルで90分程度の時間がかかり、その間は電源をOFFにできないため、エンジンがかけっぱなしになる点にも注意したい(通常のアップデートより時間はかかるが、カーナビを利用ながら更新も可能)。

 ちなみにPCやSDカード、インターネット固定回線のいずれかを持っていない場合は、最新の地図データをSDカードごと入手できる「地図更新ソフト SDカード版」を別途購入する選択肢もある。こちらは「地図割プラス」のユーザーなら特別価格の6380円(税別。2019年6月下旬発売予定)で購入可能。手間を少しでも減らしたいユーザーにもおすすめだ。

 というわけで、アップデートによって地図やルート案内はどんな風に変わるのか、以下の通り日本各地でルート検索して確かめてみた。2014年時点の古いデータでのルート候補の画面と、最新データでのルート候補の画面で、描かれているルートのラインだけでなく距離、時間、料金にも大きな差があることが分かるはずだ。

新湘南バイパス 藤沢IC(インターチェンジ)→御殿場プレミアムアウトレット

 東名高速道路しか使わなかった古いデータでのルートでは、所要時間が1時間13分。一方新しいデータでは、一部ではあるものの開通した新東名高速道路を利用することで約17分の時間短縮に。通行料金はわずかに上がってしまったが、燃費も考えると大差はなさそう。3月9日に新しく開通したばかりの足柄スマートICは今回の更新ではまだ含まれておらず、今後の差分更新で追加される予定だ。

2014年データの推奨ルート
2014年データの6ルート地図
2019年データの推奨ルート
2019年データの6ルート地図
東名高速 岡崎IC→ピエリ守山

 距離、通行料金はほぼ変わらないものの、新しいデータでは開通した新名神高速を利用することで約16分の時間短縮。各所で話題のショッピングモールにアクセスしやすいルートを発見できた。

2014年データの推奨ルート
2014年データの6ルート地図
2019年データの推奨ルート
2019年データの6ルート地図
東北自動車道 佐野藤岡IC→つくば宇宙センター

 古いデータではわざわざ外環まで南下し、常磐道で再び北上するという大まわりのルート。しかし、新しいデータでは開通した圏央道(首都圏中央連絡自動車道)ルートが選択され、地図の縮尺も変わった。時間にして約15分、料金はトータルで1000円近く削減できている。

2014年データの推奨ルート
2014年データの6ルート地図
2019年データの推奨ルート
2019年データの6ルート地図
東北道 佐野藤岡IC→富士急ハイランド

 古いデータでは混雑する首都高を経由しているが、新しいデータでは開通した圏央道を利用し、所要時間はなんと約40分減。料金は推定燃料費も含めると810円も安くなった。

2014年データの推奨ルート
2014年データの6ルート地図
2019年データの推奨ルート
2019年データの6ルート地図
そのほかの新しく追加された道路「山手トンネル」

 画面のほぼ中央を横切る山手トンネル。2015年に開通した大井JCT(ジャンクション)と大橋JCT間もしっかり反映。湾岸線や羽田空港へのアクセスを大きく改善した経路が加わることで、移動の効率は確実に高まるだろう。

2014年データの地図
2019年データの地図
そのほかの新しく追加された道路・スポット「豊洲大橋」

 築地市場の移転先である東京 豊洲周辺。更新後のデータには豊洲市場と、2018年に一般に開放された豊洲大橋がしっかりと表示されている。

2014年データの地図
2019年データの地図
そのほかの新しく追加されたスポット「メッツァ(ムーミンバレーパーク)」

 2018年末に開業した埼玉 宮沢湖畔の商業施設「メッツァ」が地図に反映されている。2019年3月にオープンしたテーマパーク「ムーミンバレーパーク」もある注目のスポットだ。

2014年データの地図
2019年データの地図

最新の道路、スポットが最小限のタイムラグで

 PCとスマホアプリの有償地図サービスであるMapFanプレミアムが以前から年額3600円(税別)だったところに、価格はそのままで新たに追加される形になったわけで、かなりチャレンジングでアグレッシブなサービスと言える「地図割プラス」。サブスクリプション形式で最新のサービスを提供するのはネットの世界ではもはや珍しくないが、旧モデルもカバーして長期にわたって提供するというのは、他分野の製品も含めてあまり例のない懐の深さではないだろうか。カーナビ向けのデジタル地図制作からスタートした企業ならではのこだわり、みたいなものもあるのかもしれない。

 地図データの整備拠点である、インクリメントP 東北開発センター(岩手県盛岡市)では、情報収集部隊が日々、新しい道路の開通や新スポットに関する情報をできるだけ早い段階からキャッチしている。場合によっては開通前からあらかじめデータを仕込んで非表示に設定しておき、開通後のデータ更新時に有効にすることで、最小限のタイムラグで地図に反映させるような態勢を整えているという。

 2019年も新しい道路の開通や新スポットが多数計画されているが、それらも毎月の差分更新などでスピーディに反映されていくはずだ。夏休みなど、連休の道路混雑を適切に回避するためにも、マイカーのカーナビが「地図割プラス」の対象機種に入っていないか、地図データが古くなっていないか、今一度確認してみてはいかがだろうか。