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賞金総額1億円!! “隠れワークス”がメーカーの威信かけ戦う「SUZUKA 10H」

笠原一輝が注目する「SUZUKA 10H」見どころとは?

2019年8月23日~25日 開催

2018年の「SUZUKA 10H」を取材した笠原一輝がその魅力をレポート

 8月23日~25日に鈴鹿サーキットにおいて、「2019 第48回サマーエンデュランス『BHオークション SMBC 鈴鹿10時間耐久レース』」(略称:SUZUKA 10H)が開催される。SUZUKA 10Hは2017年までは鈴鹿1000kmレースとして開催されていた伝統のレースで、7月下旬から8月上旬にかけて行なわれる2輪の夏の祭典となる「鈴鹿8時間耐久レース」(鈴鹿8耐)と並んで、4輪の夏の祭典に位置づけられる。

 従来の鈴鹿1000kmレースがSUPER GTという日本の最高峰のレース・シリーズの1戦として開催されていたのに対して、SUZUKA 10HはインターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)というFIA-GT3規格のレーシングカーで争われる国際的な選手権の1戦となる。さらに賞金総額1億円という、近年のレースではあり得ないほどの太っ腹な賞金が出るとあって、多くのエントラントの間でも人気が集中。今年も昨年の規模を超えるエントリーがすでに集まっており、昨年のレースを上まわる盛り上がりが確実な状況になっている。

 そんなSUZUKA 10Hを楽しむ上で、必要となる前提知識や見どころについて紹介していきたい。

夏の鈴鹿をさまざまなマシンが走り抜ける国際的なレースがSUZUKA 10Hだ

インターコンチネンタルGTチャレンジの1戦として行なわれるSUZUKA 10H

 SUZUKA 10H(スズカテンエイチ)の愛称が定着しつつある鈴鹿10時間耐久レースだが、2019年で2回目の開催となる。その前身と言える鈴鹿1000kmレースまで含めると、これまで47回開催されており、今年が48回目となる。日本のレースでこれだけ長く続いているイベントというのは他にはちょっと思いつかないぐらい。ちなみに、同じ鈴鹿サーキットで開催されているF1日本GPは1987年に初開催されてから32年が経過しているが、2度開催されない年があったのでそれを省くと、2019年の10月に行なわれるレースで31回目の開催となる。そうした鈴鹿でのF1よりも長く開催されている伝統のレースの最新版がSUZUKA 10Hなのだ。

 そのSUZUKA 10Hだが、従来行なわれていた鈴鹿1000kmレースとの大きな違いは、SUPER GTのシリーズの1戦から、世界的なGTカーシリーズの1戦という形で位置づけが変更されたこと。主役となるマシンもFIA-GT3という、カスタマーレーシング向けの車両が走行できるように変更されていることだ。

 SUZUKA 10HはIGTCというグローバルな規模で行なわれているFIA-GT3を利用した選手権の1戦として行なわれている。IGTCはSRO Motorsports Group(SRO)という企業がプロモートする世界的なシリーズで、以下の5戦から構成されている。

バサースト12時間(2月1日~2月3日)
カリフォルニア8時間(3月27日~3月30日)
スパ24時間(7月25日~7月28日)
SUZUKA 10H(8月23日~8月25日)
キャラミ9時間(11月21日~11月23日)

バサースト12時間
カリフォルニア8時間

 特に注目されるのは世界三大耐久レースの1つとされるスパ24時間レースが入っていること。スパ24時間レースは特に欧州の自動車メーカーに注目されているレースになり、どの自動車メーカーも自社の車両が勝ってほしいと思っている注目のレースと言える。SUZUKA 10HはそうしたIGTCの4戦目として行なわれるため、チャンピオンシップを争っているチームにとっては是が非でも勝っておきたいレースの1つと言え、激しい争いが期待できるレースになりそうだ。

世界三大耐久レースのスパ24時間も含まれる

使用されるレーシングカーはFIA-GT3、マザーシャシーを含むSUPER GT/GT300も参戦可能

 SUZUKA 10Hが含まれるIGTCは、メーカー、またはメーカーに準ずるチューナーなどが製作し、FIAが認定する「FIA-GT3」というカスタマー向けレーシングカーを利用して行なわれる。現在世界的に、メーカーがプライベートチームにレーシングカーを走らせる“カスタマーレーシング”と呼ばれるタイプのレースが盛り上がりを見せていて、FIA-GT3はその規格の代表的なものと言える。

 FIA-GT3ではメーカー間の差をBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる性能調整によって、異なるマシン間での性能差をできるだけ少なくすることに成功。多彩な車種が走り、かつ面白いレースという、本来であれば不可能な仕組みを実現している。このFIA-GT3の規格を策定したのがIGTCのプロモーターであるSROで、その意味でIGTCがFIA-GT3規格で行なわれているのは自然な流れだ。

 SUZUKA 10HではそのFIA-GT3の車両に加えて、SUPER GTのGT300クラス車両とスーパー耐久のST-Xクラス車両も参戦できる(ST-X規定は実質的にFIA-GT3)。というのも、GT300クラスではその車両規則の一部にFIA-GT3車両が認められており、その性能調整もSUPER GTのプロモーターであるGTA(GTアソシエイション)と協力してSROが行なっているからだ。

 ただし、SUPER GTのGT300クラス車両は、FIA-GT3だけでなく、マザーシャシーやJAF-GT300などのSUPER GT独自の車両も含まれており、それらの車両も参加することができる。もちろんFIA-GT3との間ではBoPを利用した性能調整が行なわれる(普段のSUPER GTで行なわれている措置と同じものだと考えれば分かりやすい)。GT300クラスに参戦しているCarsTokaiDream28はロータスエヴォーラMCというマザーシャシーを利用してこのSUZUKA 10Hに参戦する。そうしたSUPER GT勢とIGTCで常に上位を走るチームとの戦いも見どころの1つとなる。

エンジン形式も駆動方式も異なるマシン同士が性能調整によって同じレースで争う。さらにSUPER GT GT300クラスのマシンやスーパー耐久マシンも共に争う

 タイヤはF1でもお馴染みイタリアのタイヤメーカー「ピレリ」のワンメイクとなる。これはIGTCのコントロールタイヤとしてピレリが契約しているためだ。鈴鹿サーキットという地元のサーキットに海外勢を迎え撃つSUPER GTのレーシングチームにとっては、国内では経験がないピレリタイヤをどう使いこなしていくかが課題になるだろう(なおスーパー耐久はピレリのワンメイク)。IGTCを上位で戦っている海外のチームはピレリタイヤを熟知しているだけに、そこがSUPER GT勢が上位を目指す上でのハードルになるだろう。

ミカ・ハッキネン選手、脇阪寿一選手、本山哲選手、道上龍選手など往年の名ドライバーも参戦

 SUZUKA 10Hのもう1つの注目ポイントはドライバーだ。SUZUKA 10Hのドライバーは1台につき3名のドライバーが搭乗する形になっている。このドライバーはプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズというFIAが規定している4つのクラスに分類されている。クラス分けはとても複雑なのだが、大雑把に言えばF1やWECなどのグローバルなシリーズで活躍しているドライバーがプラチナになり、国内選手権で活躍しているような選手がゴールドやシルバー、そしていわゆるジェントルマンドライバーがブロンズというようにカテゴリーされる。

 今回はドライバーの組み合わせの違いで「PRO」(ドライバーのカテゴリーを問わない)、「PRO-AM」(最大でプラチナ+ブロンズ+ブロンズまで)、「SILVER」(最大でシルバー+シルバー+シルバーまで)、「AM」(最大でブロンズ+ブロンズ+ブロンズまで)という4つのクラスが設定されている。これはPRO-AMやAMといったジェントルマンドライバーが参加しやすいクラスを作ることで、参加台数を増やしていくという主催者側の狙いがあるものと考えることができる。

 こうした細かなクラス分けを行なっていることもあり、多種多彩なドライバーが参戦している。中でも要注目はPlanex SmaCam Racingの11号車 McLaren 720S GT3(ミカ・ハッキネン/久保田克昭/石浦宏明組)に搭乗するミカ・ハッキネン選手だ。ハッキネン選手に関しては説明するまでもないと思うが、1998年と1999年のF1チャンピオンで、2回のチャンピオンとも、決定したのは鈴鹿サーキットで行なわれていた日本GPだったという、鈴鹿とは縁が深いF1チャンピオンの1人と言える。そのハッキネン選手がトリオを組むのは、2015年および2017年のスーパーフォーミュラのチャンピオンで日本を代表するドライバーの1人でもある石浦宏明選手、そして11号車のチームオーナーでもある通信機器メーカー「Planex」の経営者でもある久保田克昭選手の2人だ。久々に鈴鹿で本気のレースをするハッキネン選手がどんな走りを見せてくれるのか、オールドF1ファンならずとも要注目と言える。

ミカ・ハッキネン選手がレースに復帰する

 そしてもう1つの注目ポイントは、2000年代初頭からSUPER GTで日本の3大メーカー(トヨタ、日産、ホンダ)のエースドライバーとして活躍してきた脇阪寿一選手、本山哲選手、道上龍選手の3人が出場して、久々に同じレースを走るということだろう。脇阪寿一選手はLM corsaの60号車 Porsche 911 GT3 R(脇阪寿一/脇阪薰一/TBN組)に、本山哲選手はTAIROKU RACINGの300 NISSAN GT-R NISMO GT3(ハリソン・ニューウェイ/ニコラス・コスタ/本山哲組)に、そして道上龍選手は普段からSUPER GTに参戦しているModulo Drago CORSEの034号車 Honda NSX GT3 Evo(道上龍/大津弘樹/中嶋大祐組)に搭乗して戦う。

 SUPER GTのオールドファンなら、「脇阪 vs 本山 vs 道上」と言えば、そらで「スープラ vs GT-R vs NSX」という構図が浮かんでくるのではないだろうか。そうした日本のレーシングシーンを盛り上げてきた3人のベテランの戦いがもう1度SUZUKA 10Hで見ることができる、それもSUZUKA 10Hの注目点と言えるだろう。

脇阪 vs 本山 vs 道上という三つどもえの対決が見られる

「隠れワークス」参戦。メーカーはチームサポートの充実で総合優勝を目指す

 ここまで日本のチームやドライバーなどを中心にSUZUKA 10Hの注目ポイントを見てきたが、SUZUKA 10Hの魅力はそれだけではない。すでに述べた通り、SUZUKA 10Hはグローバルに行なわれているIGTCの中の1戦として行なわれる。このため、IGTCをレギュラーで戦っているチームもSUZUKA 10Hに参戦するということだ。

IGTCを戦う海外勢が多数参戦する

 実際、2018年に総合トップを争ったのは、海外から参戦したレーシングチームだった。優勝したのはMercedes-AMG Team GruppeM Racingの888号車 Mercedes-AMG GT3、2位に入ったのもMercedes-AMG Team Strakka Racingの43号車 Mercedes-AMG GT3、そして3位はAudi Sport Team Absolute Racingの6号車 Audi R8 LMS GT3、4位はAUDI SPORT TEAM WRTの66号車 Audi R8 LMSというように、ドイツの自動車メーカーであるメルセデス、そしてアウディの名前を冠したチームが1-2位と、3-4位を独占する結果(2018年のレースのレポートはこちら)となった。

 FIA-GT3では基本的にカスタマーレーシングという仕組みであることはすでに説明した通り。ジェントルマンドライバーがメーカーの販売する吊るしのレーシングカーを買って走らせる。マシンの改造はほぼ認められず、車種による性能の違いはBoPで調整することでレースを成立させる、というのがFIA-GT3の考え方で、メーカーがワークスチームを結成して参戦するカテゴリーではない。

 しかし、レースである以上は、メーカーも自分の車両に勝ってほしいと思うのは自然な発想。そこで欧州のメーカーには「カスタマーレーシングサポート」という考え方を打ち出しているところがあり、具体的には世界の強豪チームをワークスチーム化するのではなく、「隠れワークスチーム」的なポジションを与えて、陰日向にサポートを提供していく仕組みだ。

 2018年のSUZUKA 10Hに優勝したMercedes-AMG Team GruppeM Racing、2位のMercedes-AMG Team Strakka Racingという2つのレーシングチームの前についている「Mercedes-AMG Team」は、メルセデスのレーシング部門であるMercedes-AMGがサポートしていますよという意味。具体的にはMercedes-AMGのカスタマーレーシングのサポートチームが実際にサーキットまでやってきて、チームのセッティングやトラブルが発生したときのパーツ交換などをサポートする。3位に入った「Audi Sport Team Absolute Racing」、4位に入ったAUDI SPORT TEAM WRTの「Audi Sport Team」も同様の意味合いで、アウディのレース部門であるAudi Sportが後援するチームとなる。

2018年のSUZUKA 10HではMercedes-AMGがサポートする888号車(左)優勝、43号車(右)が2位になった
3位の6号車(左)と4位の66号車(右)はAudi Sportがサポートする

 同じ位置づけとしてはBMW Team Schnizer、Bentley Team M-Sportなどがあり、いずれもメーカーのワークスチームではないプライベートチームの扱いだが、メーカーが後援するチームになっている。

 そして2019年からそうした輪に加わったのがホンダ。ホンダが後援しているHonda Team Motulは30号車 Honda NSX GT3 Evo(ベルトラン・バケット/マルコ・ボナノミ/武藤英紀組)をシリーズに参戦させており、SUPER GTでもお馴染みベルトラン・バゲット選手がレギュラードライバーを務めている。SUZUKA 10HではゲストドライバーとしてSUPER GTで16号車 MOTUL MUGEN NSX-GTのエースドライバーを務めている武藤英紀が参加することなども要注目だ。

ホンダがバックアップしてIGTCシリーズ参戦中の30号車 Honda NSX GT3 Evo

 また、日本のチームという意味では、2018年のSUZUKA 10Hで日本勢としては最上位に入ったMercedes-AMG Team Goodsmileは確実に上位に絡んできそうだ。普段は4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也組)をSUPER GTで走らせているグッドスマイルレーシングだが、2018年のSUZUKA 10Hでも、そして2019年のSUZUKA 10HでもMercedes-AMG Teamとついていることからも分かるように、Mercedes-AMGのサポートを受ける形での参戦になる。ドライバーは2018年と同じく谷口信輝選手、片岡龍也選手のレギュラー2人に、元F1ドライバーの小林可夢偉選手が加わるゴールデントリオだ。2018年は普段履き慣れていないピレリタイヤに戸惑った側面もあったが、それでも日本勢最上位の5位でゴールしており、ピレリに慣れてきた2019年はさらなる上位進出、いや総合優勝のチャンスも十分にある。

夜にはサーキットが幻想的な雰囲気に。見ても、撮っても、応援しても楽しめるイベント

 2018年のSUZUKA 10Hを見ていて最も盛り上がった瞬間は、ゴール直前にMercedes-AMG Team Goodsmileがすぐ後ろの車両から激しく追い上げられ、デッドヒートを繰り広げていた時だろう。ちょうどその頃はグランドスタンドに座っていた観客がサイリウムライトを振り始めた時間とも一致しており、Mercedes-AMG Team Goodsmileの00号車 Mercedes-AMG GT3がメインストレートに帰ってくる度にサイリウムライトが振られる様子はなかなか幻想的だった。そしてゴール後には、鈴鹿1000kmレース以来の伝統となっている花火が打ち上げられ、それを見ないと夏が終わらないというレースファンも少なくないのではないだろうか。

ゴール間近、グランドスタンドではサイリウムライトが振られ幻想的な雰囲気となった

 そして、そうしたナイトセッションでは、レーシングカーの写真を撮るカメラマンにとってもシャッターチャンスだ。通常のレースであれば、昼間にしか行なわれないため、昼間の写真がメインになるだろう。しかし、SUZUKA 10Hでは午前中、午後とそれぞれ太陽からの光が違う環境で撮影ができ、かつ夕方、そしてナイトセッションと光量が違う時間帯も1つのレースで撮影することができる。

夕暮れ時や夜の写真が撮れるのは耐久レースならではの魅力

 日本のレースファンであれば、SUPER GTに参戦しているGT300チーム、そしてHonda Team Motulの30号車 Honda NSX GT3 Evoに搭乗するベルトラン・バゲット選手や武藤英紀選手のようなGT500ドライバー、そして日本のレースシーンを引っ張ってきた脇阪寿一選手、本山哲選手、道上龍選手という3人のベテランドライバーの戦いも見逃せないだろう。

 さらに目の肥えたレースファンであれば、IGTCの上位ランカーといった世界レベルのレーシングチームが繰り広げる総合優勝争いに、日本代表と言えるMercedes-AMG Team Goodsmileがどこまで絡んでいけるのか、そこが注目ポイントとなる。

 そうしたさまざまな側面を持つSUZUKA 10Hは、風景で楽しむことができ、そして日本のレーシングチームの活躍を応援することができ、そして何よりも世界の強豪レーシングチームが見せてくれる本物の戦いを楽しめるレースになること請け合いだ。

いろいろな楽しみ方ができる魅力のたくさん詰まったレース、それがSUZUKA 10Hだ