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半導体企業NVIDIAによる自動車向けシミュレーション プラットフォーム、DRIVE SimがOmniverseの対応で自動運転・先進安全開発を加速

6/23-24開催のNVIDIA AI DAYS 2022で最新情報を紹介

自動運転ソフトウェア開発プラットフォーム、NVIDIA DRIVE Simのイメージ画像

 現代の自動車産業はCASE(Connected:常時ネット接続、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)という言葉に代表されるように、100年に一度の大変革の時代と言われるようになって久しい。自動車がインターネットに常時接続されるようになり、Uberなどに代表されるシェアエコノミーが一般的になり、自動運転や先進安全、電動化という新しい技術の波が押し寄せてきている。

 自動運転1つを取っても、その前段階と言えるADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)が本格的な普及段階を迎えている。自動ブレーキなどを実現するADASは、高級車に用意される装備だったが、今やコンパクトカーや軽自動車といった普及価格帯の自動車に標準装備やオプション装備され、自動ブレーキについては新型車において義務化の時代となっている。

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 そうしたADASの延長線上にあるのが、レベル3~レベル5という言葉で総称される本格的な自動運転だ。高速道路だけ、渋滞時のみなどさまざまな条件下で限定的な自動運転を実現するレベル3、一定の条件下で完全に自動車のシステムが運転するレベル4、そしてそもそも人間が運転する装置が用意されていないレベル5などの自動運転は、2025年あたりから市販車にも本格的に採用される見通しだ。

 そんな時代の入り口にいる現在、自動車のデジタル化は日々進んでいる。自動車におけるデジタル化とは、従来は何らかのアナログ回路などで実現されていた機能が、今後は高い演算性能を備えた半導体とその上で動作するソフトウェアの組み合わせに置き換えられていくということだ。今後は自動車の機能や自動車そのものが、ソフトウェアにより定義されていく、そういう時代にさしかかっているのだ。

 今後、クルマはスマートフォンやPCなどに採用されているハイパフォーマンスなSoC(System on a Chip)が複数搭載され、その上で自動車メーカーやサプライヤーが開発したソフトウェアが実行され、ADASや自動運転の機能が実現されていく。自動車メーカーやサプライヤーにとっては、他社と差別化できるような高機能で高性能、高品質なソフトウェアを、他社よりも効率よく、低コストで作成することが鍵になりつつある。

 そうした事情を反映し、世界の自動車メーカーはソフトウェアへの投資を強めている。例えば、生産数で1位、2位を争う日本のトヨタ自動車は「ウーブン・プラネット・ホールディングス」というソフトウェア子会社を設立したし、ドイツのフォルクスワーゲン・グループはCARIAD(カアリアド)というグループ傘下のカーメーカーのソフトウェア開発を行なうソフトウェア子会社を設立している。いずれの自動車メーカーもソフトウェアが次世代自動車の商品力を決める鍵になると考えているからだ。

AI向けの演算装置GPUで有名になったNVIDIA、その躍進の鍵はソフトウェアソリューションの充実

 自動車のソフトウェアを開発する上で、ユニークで利便性の高いツールを提供している企業がある。それがAIを実現する半導体で知られるNVIDIA(エヌビディア)だ。

 元々はPC用のグラフィックスチップ(GPU=Graphics Processing Unitと呼ばれる)事業で急成長を遂げたNVIDIAは、2000年代半ばから同社が提供する半導体を、ゲーム用途だけでなくAIのような汎用演算にも利用するソフトウェア環境(CUDAと呼ばれている)を構築してきた。その結果、同社のGPUは、今やAIを実現するためのマシンラーニング/ディープラーニングにおける学習プロセスの演算に利用されるようになり、AIが大きな注目を集めるようになると急成長を遂げた。今や、AIのための半導体と言えばNVIDIAというポジションを確固たるものとしている。

 そのNVIDIAが近年取り組んできたのが車載向けの半導体事業。他社に比べて高い処理能力を持つ半導体を用意したことで、高いコンピューティング性能を必要とするADASや自動運転システムを実現する半導体として採用が進んでいる。

 だが、NVIDIAの半導体が自動車メーカーに採用されているのはそうした高性能な半導体を提供していることだけが理由ではない。実のところ、半導体とセットで提供されているソフトウェアや、その開発環境が優れているため、NVIDIAの半導体を選択しているという自動車メーカーが多いのだ。

 というのも、NVIDIAは半導体メーカーでありながら、ソフトウェアソリューションの提供にも力を入れている。NVIDIAの創業者でCEOを務め、今や半導体産業のカリスマ経営者の一人と言ってよいジェンスン・フアン氏は「NVIDIAはソフトウェア企業でもある」と言ってはばからないほど。NVIDIAはソフトウェアソリューションを年々拡充し、毎年同社のテクノロジカンファレンス「GTC」で最新技術などを発表、ソリューションの充実を図っている。

NVIDIAが提供しているDRIVE Sim、開発環境を容易に構築してAI開発のプロセスを加速

DRIVE Simのユースケース

 NVIDIAが自動車メーカーなどに提供しているのが、自動運転ソフトウェア開発ププラットフォーム「NVIDIA DRIVE Sim」だ。DRIVE SimはこれまでもNVIDIAが自動車メーカーやティアワンのサプライヤーなどに提供してきたシミュレーションツールで、現代のADASや自動運転システムの開発に必要不可欠なAIの学習や検証を、仮想環境を通じてできるようにしたものだ。

 エヌビディア合同会社 オートモーティブ ビジネス事業部 シニア アカウント マネージャーの由良直之氏によれば「現代の自動車の開発はデータを収集し、AIのモデルを作り、それをクルマに実装してテスト走行してデータを収集し……というサイクルをグルグルと回していくことになる。そうしたサイクルの中で時間と手間がかかるのが、テスト走行だ。実際の路上などでは望んだシーンを再現するのは簡単ではない。そこで仮想空間の中で実車のデータを基にした車両を作り、それを走らせることでさまざまなデータを得るシミュレーションツールを使うのが一般的になっている」とのことで、AIの開発、そしてそのデータ取りといった作業を仮想空間で行なうのがDRIVE Simのようなシミュレーションツールなのだ。

 NVIDIAが提供するDRIVE Simはそうしたシミュレーションツールの草分けで、2021年11月に行なわれた同社のテクノロジカンファレンス「GTC 2021」では「NVIDIA Omniverse(オムニバース)」に対応した最新バージョンが発表されたという。Omniverseは仮想コラボレーションと物理的に正確なリアルタイム シミュレーションのためのオープン プラットフォームであり、 大規模なマルチセンサー シミュレーションへの対応、NVIDIA RTX を使用した物理的に正確なリアルタイム センサー シミュレーションといった機能の拡張をDRIVE Simに提供するほか、エコシステムの拡大も実現する。

 シミュレーションツールを使うメリットは、AIを活用した開発のボトルネックになりやすい、動作検証テストやAIの学習といった環境をシミュレーションの中で完結できることだ。

 例えば、霧の中を走らせてAIがきちんと動作するかをテストしたいと思っても、実際の路上で霧の環境に出くわすのはなかなか難しい。同様に、横断歩道に歩行者が飛び出してきてほしいとか、「動物に注意」の看板がある道路で実際に動物が飛び出してくる……そんな環境を実際の路上で人為的に作り出すのは難しいというのは容易に想像できるだろう。

 しかし、バーチャル環境の中であれば、設定により雨を降らせたり、雪を降らせたりは容易だし、横断歩道で歩行者が飛び出す、路上に動物が飛び出す、なんていうシーンも容易に再現できる。

 由良氏は「実際の路上で検証試験を行なう場合には、撮影した動画などで検証するが、仮によいシーンが撮影できたとしてもそのシーンの中にある物体を後から動かしてバリエーションを広げて検証することはできない。また、動画では撮影した動画などに映っている人間、動物、信号、標識などのデータを一つ一つラベリングしていく必要があり非常に多大な手間がかかる。そうした必要がないこともシミュレーションツールを使うメリットだ」と述べ、AIを利用した自動運転開発シーンでシミュレーションツールを使うメリットは自動車開発の生産性向上だと強調した。

NVIDIA DRIVE Sim グラウンド トゥルースの実例

ゲームエンジンベースのシミュレータと比較して、自動車開発に向いた性能や表示品質などを備えるDRIVE Sim

ゲームエンジンベースのシミュレータとの比較

 これまでもそうしたシミュレーションツールは、NVIDIAが提供するDRIVE Simでなくてもすでに流通しており、利用している自動車メーカーやサプライヤーなども少なくないだろう。では今なぜDRIVE Simが必要なのだろうか? その鍵は「ゲームエンジン」というキーワードにある。

 現在の自動車メーカーなどが使っているシステムの多く、そしてNVIDIA自身が提供してきたDRIVE Simの最初のバージョンでは「ゲームエンジン」と呼ばれる、コンシューマ向けのゲームタイトルを作るのに利用するソフトウェアエンジンをベースにしている。このゲームエンジンは、GPUを利用して美しいレンダリングを高効率で実現し、ゲームコンソールやPC向けのゲームタイトルを開発するときの基礎として利用されている。

 ゲームエンジンを使うと、比較的低コストでシミュレータ環境を構築することが可能であるため、これまでのシミュレーションツールに採用されてきたという。

 NVIDIAの由良氏は「ゲームエンジンはゲームエンジンで素晴らしいソリューション。われわれのDRIVE Simの最初のバージョンでもゲームエンジンを利用していた。しかし、自動車の開発という観点で見てみると、機能を拡張していくときに課題が出てきたため、最新バージョンになるときに、今の新しいエンジンに変更した」と述べ、Omniverseに対応したDRIVE Simのバージョン2以降ではゲームエンジンではない、新しいグラフィックスエンジンを採用しており、いくつかの点で自動車ソフトウェア開発向けに大きな強化がされているという。

 最大のメリットは性能面だ。高解像度のカメラをいくつも利用する自動運転では、複数のGPUを利用したシミュレーションが必要不可欠だ。ゲームエンジンでは、基本的に1つのGPUを利用してレンダリングと呼ばれる描画を行なうように設計されている。これは、PCやゲームコンソールなどが基本的に1つのGPUしか搭載されていないシステムを前提にしているため。複数のGPU向けに作っても実行タイミングのコントロールや再現性の保証がされていないためだ。

 そこでDRIVE Simの最新バージョンでは複数のGPUにネイティブで対応するようにゼロから設計しなおされている。これにより1つのシステムで複数のGPUを利用した場合、それぞれのGPUの実行タイミングを正確に一致させることが可能となり、また同じシナリオを繰り返した場合に実行結果が同じになる再現性も保証されている。しかもローカルにある単一ワークステーション内で複数のGPUを取り扱うだけではなく、サーバー上でマルチノードにまたがったGPUの活用も可能である。

 センサーの利用方法でも同様だ。由良氏によればゲームエンジンのセンサーはゲーム向けに最適化されており、ゲームをプレイするゲーマー(人間)にとって描画がきれいだと感じるように設計されているため、必ずしも物理的に正確な描写とはなっておらず、自動車のソフトウェア開発に向かないところがあるという。そこで「DRIVE Simの最新バージョンでは、センサーの設計をできるだけ正確に実現できるように物理的に正確なセンサーを再現している」と由良氏は説明した。

NVIDIA DRIVE Sim, Powered By Omniverse

 NVIDIA DRIVE Simの最新バージョンでは、ANSYSのようなツールベンダー、ヴァレオやコンチネンタルなどのティアワンのサプライヤー、さらにはソニーやオンセミなどのCMOSセンサーのベンダーからセンサーに関する情報などが提供されており、それらを活用して環境を構築することが可能になっている。

 このほかにもモジュラーデザインになっているため機能拡張が簡単で、最初からクラウドネイティブな設計になっているなど、新しいバージョンのDRIVE Simがより柔軟性があり大きくパワーアップしていると由良氏は強調した。

NVIDIA Omniverse Replicator For DRIVE Sim – Synthetic Data
Domain Randomization

レイトレーシングをサポートするRTXとDRIVE Simのエコシステムが自動車の開発を加速

シミュレーションを使うメリット
DRIVE Simは自動車開発のさまざまな段階で利用することができる

 由良氏によれば、こうした仮想空間でのシミュレーションツールを使いこなす上で、以前は2つの課題があったと説明する。それが「見た目の違和感(Appearance Gap)と、仮想空間でのオブジェクトの少なさへの違和感(Content Gap)」という2つだという。見た目の違和感という意味では、以前から指摘されている課題だ。要するに仮想環境に作り出される映像のクオリティが低すぎて、現実を再現しているように見えないため、シミュレータとしての役に立たないという議論だ。

RTXによるリアルタイム・レイトレーシングのメリット

 だが、これは今やGPUの性能が大幅に向上し、光源からの光の当たり方などを忠実に再現できる「レイトレーシング」などの手法が一般的になりつつあることで、フォトリアルな映像をリアルタイムに再生することが可能になっている。例えば、NVIDIAがゲーム向けに提供しているGPU「GeForce RTX 30シリーズ」では、前出のレイトレーシングを演算する機能として専用の演算器が搭載されており、フォトリアルな3Dコンテンツをリアルタイムに再生することを可能になっている。

 Omniverseに対応したDRIVE Simでは、そうしたGPUのリアルタイム・レイトレーシング機能(NVIDIA RTX)を利用することで、より現実に近いクオリティ(フォトリアル)にコンテンツを再現することが可能になっており、見た目の違和感というのはなくなりつつある。また、レイトレーシングにより、LiDARやレーダー、超音波センサーなどに関してもより正確なシミュレーションが可能となり、それらのセンサーを用いた認識アルゴリズムの開発に活用できる。

大規模なアセットへのアクセスが可能に

 そしてもう1つが、そうした仮想空間におけるオブジジェクトの少なさへの違和感というのは、現実の路上では信号、標識、歩行者、動物などなど多数の物体があり、自動運転ではそれらを車両が認識しながら歩行者がいるからスピードを落とそう、前方に障害物があるからレーンを変更して進もうなどの判断をシステムが行ないながら運転する。仮にシミュレーションツールでそうした環境を仮想空間に構築する場合でも、そうした物体を多数置いておかなければ、リアルなシミュレーションにはならず、それこそ「ゲーム感」が出てしまうことになる。

 それを解決するには、仮想環境の中に歩行者や標識、信号などのデータを入れておいていけばいいが、言葉で言えば簡単なようだが、そもそもそのデータがない場合には1から自分で作ったりする必要がある。それには多大な時間がかかってしまう。そこで、DRIVE Simでは、シーンデータ、オブジェクトのデータなどをサードパーティーが提供する3Dツールからインポートすることが可能で、さらにサードパーティーから購入できるようになっている。由良氏によれば、現在NVIDIAはそうしたオブジェクトのデータを販売しているISVに対してDRIVE Simに対応したデータ形式などを公開しており、直接DRIVE Simに対応したコンテンツを購入して、シミュレータに組み込んで実環境に近いシミュレーション環境を構築することが可能だという。

 それにより、1から自分で構築するのに比べて圧倒的に省力で、かつ低コストにフォトリアルで実際の環境に近いような環境を構築することが可能だと由良氏は説明した。しかもそうしたオブジェクトには、すでにラベル付けも終わっているので、AIの開発を行なっているデータエンジニアにとっても効率よく検証を行なうことが可能になり、貴重なデータエンジニアのリソースを効率よく活用することが可能になる。

 現在NVIDIAは、こうしたDRIVE Simのエコシステムに参加したいパートナー企業を絶賛募集中。3月に行なわれたNVIDIAのバーチャルカンファレンス、GTC 2022ではDRIVE Simを含めたNVIDIAの自動車向けソリューションの最新情報が発表された。NVIDIAの日本法人は6月23日~24日に「NVIDIA AI DAYS 2022」という無料のオンラインイベントを開催予定で、その中で由良氏は6月24日に「GTC 2022 Automotive Highlights」と題したセッションでGTCのニュースを凝縮して解説する。


NVIDIA DRIVE Simについてのお問い合わせ

DRIVE Simは現在アーリーアクセスプログラムを開設してご利用希望受付けをしております。ご利用を希望される方や、DRIVE Simのエコシステムへの参加にご関心のある方は、以下までお問い合わせください。

エヌビディア合同会社 お問い合わせ窓口
https://nvj-inquiry.jp/nvidia-drive.html

2022年6月23日~24日に無料開催「NVIDIA AI DAYS 2022」

 AIとGPUコンピューティングを活用した世界最先端の技術やソリューションを紹介するとともに、国内の数多くの企業による先進事例や産学連携事例などを一挙にお届けするNVIDIA日本法人主催のイベント。

 NVIDIA DRIVE SimやNVIDIAの自動運転技術についての最新情報をさらに詳しく知りたい方は、「NVIDIA AI DAYS」にぜひ参加登録のうえ、6月24日10時~10時40分に開催される「GTC 2022 Automotive Highlights」と題したセッションをご視聴ください。

登録URL:https://nvda.ws/3PgbHQO