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ホンダアクセスの純正カーナビ「ギャザズ2016年モデル」について開発陣に聞く

全モデルインターナビ対応。多彩なオプションパーツを用意

ギャザズ2016年モデルを担当したホンダアクセスの開発陣

 クルマに装着するオプションパーツはいろいろあるけれど、なかでもプライオリティが高いパーツと言えるのがカーナビだ。最近では取り外しが容易なポータブルタイプの「PND(Portable Navigation Device)」や、もっと手軽にスマホを利用する場合もあるけれど、自車位置やルート案内などの精度やオーディオとの親和性を考えると、まだまだインパネに装着する「据え置き型」が主流と言える。

 そんな据え置き型ナビも大別すると、アフターマーケットで汎用モデルとして販売されている「市販ナビ」と、自動車メーカーが設定する「純正ナビ」と呼ばれるものの2種類がある。で、少しヤヤコシイのだけれども、純正ナビにも自動車メーカーが生産ラインで装着する「メーカーオプション(MOP)ナビ」と、ディーラーで装着する「ディーラーオプション(DOP)ナビ」の2種類があったりする。

 それぞれのモデルのイメージは下の表のとおり。簡単に言えば、市販ナビは先進的な機能の採用が早く、多くのメーカーやモデルの中から選べる半面、ルックスとしては汎用的なデザインになりがち。MOPナビは専用設計となるだけにフィッティングがよく、クルマに直結した機能があるなどよい面があるものの、開発時期の点でタイムラグがあり、モデルサイクルも長くなりがちで先進機能は遅れ気味。もちろん種類も選ぶことはできない。DOPナビはちょうどその中間といった感じになる。

カーナビの傾向MOPナビDOPナビ市販ナビ
先進機能
フィッティング/機能◎~○
ルックス
種類

 最近では市販ナビが車種専用モデルをリリースする一方、自動車メーカーはMOPナビと市販ナビの隙間を埋めるべくDOPナビにどんどん先進機能を採り入れるなど、こういった垣根を取り払う方向で進んでいるといえる。

 DOPナビへの取り組みは自動車メーカーごとに若干温度差があって、力を入れていると言えるのがホンダ車向けの「ギャザズ」だ。ギャザズはホンダの純正アクセサリーを開発・販売しているホンダアクセスによるカーナビ&カーオーディオのブランドとなる。

 2017年に30周年を迎えるというギャザズの2016年モデルについて、ホンダアクセス 開発部の高松義人氏、樋口寛氏、光成貴宏氏、古賀勇貴氏にお話を伺った。

3年6万km保証に耐えうる設計

ギャザズ2016年モデル。ステップワゴンに装着した9インチプレミアム インターナビ VXM-165VFNi

 まず、聞いてみたのは「市販ナビとの違い」だ。完成品から見た一般的な傾向を説明したが、開発的にはどういった差別化を図っているのだろうか。高松氏は大きなポイントとして「3年6万km保証に耐えうる設計をしているほか、車両と同期開発をすることで、ホンダ車のインパネにマッチしたデザインで開発できる点」と話す。市販ナビは一般的な家電製品と同じく1年保証が普通。3倍もの長期保証を実現しているのは「基準を定めサプライヤーと共有。温度特性やパーツの耐久試験などを厳しいところに設定しているため」(樋口氏)だという。カーナビは値が張る商品でそうそう買い換えるものではないだけに、保証期間の長さはユーザーにとっては嬉しいポイントだ。

 インパネとのマッチングについては「黒の光沢パネルが増えてきているのにあわせてナビパネルを設計。どのクルマでもあまり違和感のないようにしている」(高松氏)とのこと。クルマのインテリアデザインは流行廃りがあるため、そうした動向を踏まえて商品設計が行なえるのは純正ナビならではのメリットと言えるだろう。

ピアノブラックのパネルに静電式ボタンが並ぶ。最近のホンダ車にマッチする意匠となっている

 機能面で大きいのは「インターナビ」の存在だ。これは通信により渋滞情報をはじめとしたリアルタイム情報を手に入れることができる機能で、通信費用も「リンクアップフリー」により次回車検まで無料。ホンダディーラーで車検を受けることで、次回更新まで再度無料で利用することができる。

 インターナビは全国のインターナビ装着車の走行データ(フローティングカーデータ)を集めることで、VICSではデータ配信されていない道路でも渋滞情報が表示できるほか、サーバー側で膨大な情報から最適なルートを選び出す「インターナビルート」などの便利な機能が満載。インターナビルートでは「最速ルート」「らくらく運転ルート」「省燃費ルート」など6つのルートからユーザーが選ぶことが可能になっている。

 樋口氏はこうしたインターナビのメリットについて「ルート品質と到着予想時間の精度が高いのがウリだと考えています」と説明。都市部では道路状況によって目的地への到着時間が10分~20分前後するようなこともある。走りやすいルートを案内するとともに、より正確な到着時間をユーザーに提供することで、ムリのない安全なドライブが可能になるというわけだ。また、「ルート周辺のオススメレストランや観光情報の案内を一部地域で始めている」と話す。単なる道案内だけにとどまらないのが、インターナビの魅力なのだ。

ギャザズ2016年モデルの特長

2016年モデルの解説をしてくれた株式会社ホンダアクセス 開発部 高松義人氏。「純正ナビの大きなメリットは3年6万km保証にある」と語る

 ギャザズのカーナビは基本的に1年周期でニューモデルを投入している。最新となる2016年モデルはどんな特徴を持っているのだろうか?

 高松氏は「ナビとオーディオが一緒になったAV一体型カーナビは、どの商品も主要な機能全部入りで飽和状態。もともと市販ナビが先行していたものが、DOPナビの機能も差がなくなってきた。それならクルマと一緒に買おうかと選んで貰えることが多くなってきたと思っています」と前置きし、「機能の差異がなくなってきたので“純正としての特長をどこに出せるのか”というところにフォーカスを当てて企画しました」という。

 その結果、全モデルインターナビ対応、オプションの充実、オーディオの強化を盛り込み、現時点で6モデルがラインアップされている。

・9インチプレミアム インターナビ「VXM-165VFNi」:21万6000円
・8インチプレミアム インターナビ「VXM-165VFEi」:19万4400円
・スタンダード インターナビ「VXM-165VFi」:16万5240円
・ベーシック インターナビ「VXM-164VFi」:13万7160円
・エントリー インターナビ プラス「VXM-164VFXi」:11万7720円
・エントリー インターナビ「VXM-164CSi」:9万9900円

ギャザズ2016年モデル。フィットに装着したスタンダード インターナビ VXM-165VFi
モニター背後にはCD/DVDおよび音楽録音用のSDメモリーカードスロットがある
一部車種にはオプションで、インパネ装着用のHDMIおよびUSB端子が用意されている

 名称を見ても分かるように全モデルがインターナビ対応となった。これは「クルマとディーラーをつなぐということ。ホンダからのお知らせをお客様に届けたい。車検が近づいているなど重要なお知らせをして、ディーラーとお客様を繋いでもっとクルマの生活を便利にしていきたい」(高松氏)ため。これまでインターナビへの対応は一部モデルに限定されていたが、2016年モデルから「すべてのお客様にサービスを提供したいというところが、ようやく実現した」(高松氏)そうだ。リンクアップフリーにより無料で通信機能を使うことができるインターナビは、市販ナビにはなかなかマネのできない部分。差別化を図るという意味では大きな武器となる。そういった意味でも全モデル標準化には大きな意味があると言える。

地図画面
リンクアップフリーでインターナビが3年間無料で利用できる
ホンダからのお知らせを受け取ることができる
ルート探索には「Internaviルート」がある
6つの探索条件から好みのルートを選択できる
料金と時間をバランスよく考慮した「スマートルート」の探索例
VICSが提供されない道路でもプローブ情報により道路状況が取得できる。点線がインターナビによる交通情報
天気予報も見ることができる
駐車場の満空情報は便利
ミニバンで効果を発揮する「後席会話機能」。フロントシートの声をマイクで拾ってリアスピーカーで再生するので、会話がスムーズに行なえる
地図画面上のボタンでON/OFF切り替えが可能
メニューのボタン数を好みに応じてカスタマイズできる

 もう1つの柱となっているのが、ナビに装着できるオプションパーツの充実だ。高松氏は「市販ナビとの差別化という点でオプションの充実があります。安心・安全系の“リアカメラ de あんしんプラス”、ナビ連動型ドライブレコーダー、ETC2.0車載器、加えてスタンダードインターナビ以上のモデルでは、スピーカーとセットで車種別の音響セッティングができる機能も採用しています。従来のナビとオーディオの一体機という枠からもっと拡張していくような考え方で商品ラインアップをしています」と、その理由を述べた。

 そのほかベーシック インターナビ以上のモデルでは、毎年1回 3年間無料で地図データをアップデートできる仕組みも採用された。

 高松氏は「以前から地図データは可能な限り多く更新できるようにしたいという思いがありましたので、今回のモデルでは毎年1回、3年間無償で更新できる仕組みにしました」と話す。データ更新は毎年秋頃が予定されており、更新作業はディーラーに足を運ぶ必要があるものの、少なくとも車検まで毎年新しい地図が使えるのはユーザーにとってかなり嬉しいポイントと言えるハズだ。

リアカメラを有効活用する「リアカメラ de あんしんプラス」

 インターナビについては従来からある機能なので、この記事ではオプションパーツについて掘り下げていきたい。まず、「リアカメラ de あんしんプラス」だ。これは車両に装着されているリアカメラを活用、より安心して運転できるようにするアドオンアイテムで、「後退出庫サポート」「後方死角サポート」「車線キープサポート」の3つの機能を実現する。

 大まかなイメージとしてはカメラとナビの間に画像認識のコントローラーを割り込ませ、その結果をナビの画面上に表示するとともに警報音で警告する仕組み。コントローラー本体はインパネ内など見えない場所に設置されるが、「車両と同期開発しているので、車両に悪影響を与えない場所に設置しています」と高松氏。

 先に保証の長さやマッチングが純正ならではのメリットと書いたけれども、装着時の安全性といった面でも純正のアドバンテージが生かされているわけだ。

 このアイテムを開発した背景には「もともと、リアカメラを用品として設定していたのですが、最近のホンダ車には“ナビ装着用スペシャルパッケージ”が標準で用意されていますので、リアカメラ単体の販売が減ってきています」という事情があったと高松氏。そこで「カメラとナビを使ってもっと新しいことはできないかと研究して実現したのが“リアカメラ de あんしんプラス”という商品になります」というワケだ。また、「安全系の装備としては、フロント側にはホンダセンシングがありますが、リア側はあまり標準ではやってないんですね。『これをリーズナブルな価格で出せれば、お客様に喜んでもらえるのでは?』ということで対応しています」。

 ドライバーの安心・安全に対する意識の高まりも、こうしたアイテムの開発を後押ししたと言える。

後退出庫サポート
クルマを認識
人も認識できる

 通常のリアカメラは画像を表示するだけだが、こちらは「バックカメラと同時に機能が動作して、人やクルマが接近してくる方向を矢印や四角い枠組みで表示。ナビからピピピという警告音も出します」(光成氏)。リアカメラの映像にプラスして警告機能を付加することで安全度が高められ、混雑したPA(パーキングエリア)やSA(サービスエリア)といったシチュエーションでは、間違いなく役に立つ嬉しい機能といえる。クルマだけでなく歩行者まで検知できるのがポイントとなるが、開発が大変だったと光成氏。「歩行者が子供だった場合、背が低いので場所によってはカメラから見えないこともあるため」と、その理由を教えてくれた。

 リアカメラのようにワイドな画角を持つカメラだと見かけの大きさが強調されるため、カメラから離れてしまうと見た目以上に小さく映ってしまう。判定基準やアルゴリズムなどを教えてもらうことはできなかったが、そうした状況でもキチンと動作するサジ加減こそ、この機能のキモと言える部分なのだろう。

後方死角サポート
上部に動作状況を示すアイコンを表示。斜線が入っているのは速度が動作条件に達していないため

 死角になりがちな後方左右から近づいてくるクルマを検知、警告してくれる機能。これは「約30km/h以上で走行している際に常時監視」(光成氏)とのこと。単純にそれだけだと併走するクルマがいた場合、ずっと警告が出てしまいそうだが、「車両からの信号を取得してウインカーも見ています」とのことで、通常はナビ画面上のアイコンでの表示にとどめて、ウインカー作動時のみ強い警告を行なうようになっている。汎用モデルである市販ナビが車両の信号を利用するのは難しく、こうした機能が使えるのは純正ナビならではのメリットだ。

車線キープサポート
約30km/h以上で走行すると後方死角サポートが利用可能になる
左後方にクルマがいることを警告
ウインカー作動時にクルマがいると画面上と音で強い警告が行なわれる
カメラが汚れていることを画面上で教えてくれる

 ウインカーを出さずに車線を逸脱しそうになると警告を行なう機能で、60km/h以上で走行しているときのみ動作する。クルマの場合、操舵をしてからフロント→リアの順に移動していくため、リアカメラでは反応が遅れそうなイメージがある。

 光成氏によれば「ホンダセンシングはフロントで見ていますが、こちらはバックカメラで見ていますので、(反応が)少し遅くなります」とのこと。ただし、「クルマの長さと車線の位置関係を見ていますので、ISO規格にはミートしています」という。加えて「車種別に設定値を用意してテストで確認を繰り返し、ホンダ車に最適なセッティングとしてお客様に提供できる仕組みにしています」と高松氏。

 カメラの装着位置や車幅など装着車にマッチしたデータを利用することで、正確な情報を出しているというわけだ。

株式会社ホンダアクセス 開発部 光成貴宏氏

 多機能で実用性も高いリアカメラ de あんしんプラスだが、安全にかかわる商品だけに開発にあたっての苦労もかなりあったと思われる。「データ作成からテスト準備、実際のテストと1機種にかなり時間が掛かります。ナビゲーションと同時に発売できたのは6モデルで、今年の1月に軽自動車にも対応しました」と光成氏。

 高松氏も「開発中は認識精度を上げるために走り込みをだいぶ行ないました。この商品の企画自体は、ナビ本体の企画よりも前にスタートしています」といい、ずっと以前から温めていた企画だったと明かす。こうした事情について「ディーラーオプションの場合、短い期間で開発を行なう必要があります。ホンダアクセスとして意思を入れなければならない部分と、サプライヤーの技術を上手く活用して、純正ならではの商品に仕立てています」(高松氏)。

 このアイテムについてもサプライヤーの持っている画像認識技術、それをホンダアクセスがどう使うかという点で意思を入れるところからスタートしたわけだ。ただ、ベースとなる技術があるとはいえ、「最初はなかなか上手くいかなかった。要素技術は持っていましたが、ホンダアクセスとして発売するには性能が要求されるので、そこにかなり時間が掛かってしまいました」と光成氏。

 そんな「純正品質」の一例としてカメラの汚れに対する考え方がある。車外にあるリアカメラは雨天時にタイヤからの巻き上げなどでレンズ面が汚れてしまうことがある。リバースギヤに入れて画面を見れば確認できるものの、その機会がない場合は汚れていることを認識せずに走ってしまい、リアカメラ de あんしんプラスが動作しない可能性があるのだ。

 光成氏も「(車外の)カメラを使っているので雨には弱いです」と認識しており、「汚れていることを知らせる機能が付いています」とキチンと対策されているとアピール。また、ホンダセンシングと機能が重複する部分についても「3つの機能をそれぞれ個別にON/OFFできるようにしています」と、ユーザーに不安を抱かせないように対策済み。ユーザーが求める「純正品質」の実現に向け、多くの「トライ&エラー」が行なわれているのだ。

 この3つの機能をカーナビに追加できるリアカメラ de あんしんプラスの価格は1万8360円。機能を考えれば割安と思える設定になっている。

 高松氏は「安いと思います。ナビを買っていただいてさらにオプションを買っていただくというのはハードルが高い。開発当初からお客様に受け入れられる価格を想定して商品開発に取り組みました」と話す。こうした拡張系のアイテムはコストダウンを意識して上級モデルに限られてしまうことが多いけれど、「安心・安全(機能)は幅広いお客様に提供したいので、エントリー インターナビ以外のモデルには装着できるようにしています」と高松氏。

 また、対応ナビを装着していれば、後付けも可能だという。「そんなアイテムがあるの知らなかった」なんて場合でも大丈夫なのだ。

機種別にテストを重ねて開発されている

そのほかのオプション

 高速道路を走る機会が多いなら装着したいのがETC車載器だ。もちろんギャザズでも用意されていたが、その上位互換となるETC2.0車載器(DSRC車載器から名称変更)は発売していなかった。

 その理由について高松氏は「ETC2.0は今までやっていませんでした。というのも、インターナビはもともとダイナミックルートガイダンス(※)ができていましたから、機能としては必要なかったんですね」という。ベーシックなETC車載器に加えて渋滞回避支援、安全運転支援といった機能を持つのがETC2.0の特長だが、インターナビがあるが故に料金収受だけの素のETC車載器で十分だったのだ。ちょっと話はそれてしまうけれども、同様の理由でVICS WIDEも非対応となっている。「インターナビと重複している部分があって、まだまだ優位性があると思いますので2016年モデルでは対応していません」(樋口氏)。

※渋滞情報などを元に案内ルートを自動的に再探索する機能

ETC2.0車載器(ナビ連動タイプ)
ナビ連動タイプのドライブレコーダー

 だが、2016年モデルの発売に合せて「ETC2.0車載器(ナビ連動タイプ)」が新たに設定された。これは「2016年モデルの企画当時に“ETC2.0を活用した交通量分散による料金割引が始まる”という情報を入手し、お客様のメリットという観点から対応が必要だろうということで用意しました」と高松氏。現在、圏央道のみのサービスだが料金が約2割引になるとあって、よく利用するユーザーには恩恵が大きいことが決め手になったのだ。また、「コストダウンが進んだところで対応したので、価格的には安価にご提供できたと思います」(高松氏)なんて副次的なメリットも。

 実際、オプションカタログを見ると「ETC車載器(ナビ連動タイプ)」が1万6416円、ETC2.0車載器(ナビ連動タイプ)は1万9440円と価格差はわずか3000円弱(ともに本体のみの価格)。現状、割引路線の拡大という話は出ていないものの、このぐらいの価格差ならETC2.0車載器を選んでおいた方がよさそうだ。

 そのほか、人気のナビオプションとしてリア席モニターも9インチと11インチをラインアップ。さらに最近は装着車が増えつつあるドライブレコーダーも連動タイプが設定された。こちらは後日、別記事で紹介したい。

天井に装着する11インチ リア席モニター。ナビと組み合わせることで地デジやDVDビデオの映像が楽しめる
モニター収納時
LEDルームランプを内蔵
HDMI入力端子を装備

オーディオ

 スタンダード インターナビ以上のモデルに新たに設定された「音の匠」。これは音楽エンジニアリングのプロフェッショナル集団「ミキサーズ・ラボ」による音響チューニングの名称で、パナソニック製の市販ナビにも搭載されている機能だ。音の匠はカーナビ本体だけでは利用することができず、オプションで用意された「ハイグレードスピーカーシステム」を装着し、ディーラーで車種専用パラメーターをインストールすることで利用可能となる。

ステップワゴンとフィットの画面。ハイグレードスピーカーシステムを装着しディーラーで車種専用パラメーターをインストールすることで「音の匠」ボタンが押せるようになる

 この機能の採用について高松氏は「AV一体型カーナビを始めてから音に対してのコダワリが減ってきていた部分があって、もう一度立ち返って音を追求してみようという企画がありました。上のモデルで車種別でチューニングしていい音で聴いてほしい」「スピーカーを加えることでいい音になる」というところからスタートしたという。

株式会社ホンダアクセス 開発部 古賀勇貴氏

 オーディオまわりを担当した古賀氏は「“クルマに乗りたい”“クルマの中で音楽を聴きたい”という気持ちを音響で創ることをコンセプトに、バランスがよく音場がはっきりしていて情報量豊かで臨場感、開放感を感じる音を目指したと」いう。

 まず、ナビゲーション本体では電源、グランド回路、パターンを新設計したほか、低歪・低ノイズのパワーアンプ、カスタムストラーダコンデンサなどを採用することで、基本となる土台をかさ上げ。組み合わされるハイグレードスピーカーシステムは「多くのスピーカーを試聴した結果、コンセプトを達成できるスピーカー」(古賀氏)として、アルパインの「DDリニア」をチョイスした。このスピーカーも市販品とは異なり「ホンダ車専用のバッフル、ボイスコイル、さらにハイパスフィルターも専用設計することでベストマッチを図っている」(古賀氏)という。

スピーカーを交換していることは外観からは分からない
オンダッシュタイプのデュアルエミッションツィーター。車種によってはビルトインタイプになる

 こうして完成したシステムにさらに磨きをかけるのが「ミキサーズ・ラボ」。車種別に設定されたセッティングを、システムを装着したクルマで試聴と微調整を繰り返し、「コンサート会場でいうとアリーナの1列目~3列目というような空間」(古賀氏)を作り上げた。「お客様は使えないのですが、音の調整には“パラメトリックイコライザー”を使用しています」という。これは前述のようにコンサート会場のような解放感と楽器の音の情報量、さらに臨場感を求めた結果、「タイムアライメントは使わないほうがベスト」という判断になったそうだ。ただし、「1車種だけは(スピーカー配置の関係で)タイムアライメントも使用しています」という。

ユーザーが調節できるのはグラフィックイコライザーだが、車種専用セッティングはパラメトリックイコライザーで行なっている

 ハイグレードスピーカーシステムの価格は装着する車種によって異なり、4スピーカーで3万240円、6スピーカーで4万4280円、8スピーカーで4万9680円(各工賃別)。車種別専用セッティングが加わることを考えるとかなり安い設定に思えるが、「今回ターゲットにしているユーザーは入門~ライト層なので、お求めやすい価格に設定しています。音に関わる部分はコストを掛けて、それ以外はコストダウンすることで実現しています」と古賀氏。車種が限定されるため、スピーカーの調整機能を省いたり装飾を省略したりといったスピーカー本体の工夫に加え、「装着が容易になるようなバッフル板とナット類を専用設計しています」(高松氏)と作業面でのコストダウンにも配慮。その結果がこの価格に反映されているというわけだ。

 実際にシステムが装着されたステップワゴンに乗り込み試聴してみたところ、価格からは想像できないほどのイイ音を楽しむことができた。ギャザズの場合はナビはもちろんスピーカー、クルマを決め打ちでチューニングできるとあって、セッティングを追い込めるという点が大きい。音楽好きなら間違いなく買いのオプションと言える。

Apple CarPlayにもいち早く対応

Apple CarPlay

 車内で安全、快適にiPhoneを楽しめる「Apple CarPlay」。カーナビとバッティングする部分もある機能だけれども、2016年モデルではしっかりと対応した。高松氏は「技術的なところから言うと、クルマ側に求められる能力も結構必要だというところもあって、スタンダードインターナビ以上のモデルならパワー的にも余裕があるということで対応しました。本来なら“これがあればオンボードのナビはいらないよね”ということになるのですが、そこまでやろうとすると車載器の値段も安くする必要があります。でも、それをやるには能力が高いプロセッサが必要になるので、安くできないというジレンマがあります。まずはここで様子を見ようというところです」と導入の経緯を話す。

 ただ、実際にApple CarPlayを使用するとなると、ホンダ純正ならではのインターナビとのすみわけは非常に難しい。しかし「用品メーカーとして世の中で進んでいくような技術は我々も手を掛けていかなければいけないと思っています」と高松氏。

株式会社ホンダアクセス 開発部 樋口寛氏

 樋口氏は「シンプルで洗練されたユーザーインターフェイスとSiriを使った音声認識による電話発信や楽曲再生、目的地設定、メッセージ送信ができるところ」がApple CarPlayの優れた面であるとしながら、一方で据え置き型のナビは「インターナビ渋滞情報を反映したルート検索や細かな経由地設定、ルート種別選択ができるといった優れた特長があります」と語り、それぞれにメリットがあると紹介する。

 それらとユーザーのメリットも考慮した上で、今回の対応となったワケだ。ただ、現状ではユーザーからの引きは弱いとのことで、「残念ながら“まだあまり浸透していない”というところでしょうか」(高松氏)、「海外メーカーのクルマでは標準搭載しているモデルが増えてきていますので、今後は認知度が上がり、より多くのお客様に使っていただけると考えています」(樋口氏)といった状況のようだ。

 もう一方の勢力となるAndroid Autoについては現状未対応となっているが、「海外向けのシビックやアコードではApple CarPlayと両対応で出しています。今後は視野に入ってくると思います」(樋口氏)という。高松氏も「世の中がどう流れていくか正直分からない面があるので、我々としてはいつでもそういう技術に対応できるようにしていかなければならない。この先のモデルでは搭載を検討していくことになると思います」と話す。

 最初に書いたように市販ナビと純正ナビの垣根は低くなりつつある。とはいえ、先進機能の採用という面では市販ナビが一歩先を行っているし、クルマとのマッチングや保証といった面では純正ナビが有利だ。ギャザズの2016年モデルはそうした純正ナビならではのメリットを、インターナビをはじめとして音の匠やオプションの充実などでさらに伸ばしてきた。ホンダ車の購入を考えているなら、こうしたメリットは大きな魅力となるハズだ。

協力:株式会社ホンダアクセス