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【SUPER GTインタビュー】ミシュラン、50kgを超えてくるウェイトハンデへの対応が鍵

7月23日~24日開催のSUGOでは80kgのウェイトハンデに

 日本で最も人気があるレースシリーズとなるSUPER GTは、世界的に見て非常にユニークなレースシリーズの1つである。観客を飽きさせないために特定のクルマだけがぶっちぎるレースにならないようにウェイトハンデ制を敷いているのもそうだし、もう1つの大きな特徴としてタイヤのコンペティション(競争)があることが挙げられる。

 世界的に見ると、F1を含めてほとんどのシリーズがタイヤはワンメイク供給となっているのに、SUPER GTはGT500も、GT300も複数のタイヤメーカーが各チームにタイヤを供給しており、タイヤの性能でも競争するレースとなっている。言うまでもなく、クルマを路面に接地させているのはタイヤなので、タイヤの性能こそがレースの結果を左右していると言っても過言ではない。

 そうしたSUPER GTの上位クラスであるGT500で、ここ5年で4回もチャンピオンチームにタイヤを供給しているのが、フランスのタイヤメーカーであるミシュランだ。2015年、そして2014年のチャンピオンとなった1号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)にタイヤを供給してきたミシュランは、2016年も同チームの他、46号車 S Road CRAFTSPORTS GT-R(本山哲/千代勝正組)の2台にタイヤを供給し、特に1号車については前人未踏の3年連続チャンピオンに挑むことになる。

 ミシュランの日本での活動を担当する日本法人、日本ミシュランタイヤでモータースポーツ活動を統括する日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャ 小田島広明氏にお話を伺ってきたので、昨シーズンの総括や今シーズンに向けて意気込みについて伺った。

最終戦に大逆転で2015シーズンのチャンピオンを獲得。2年連続5年間で4度目

 2015年の最終戦となるツインリンクもてぎで行なわれた第8戦 MOTEGI GT 250km RACEは、これより劇的な展開はないのではというレースになったことを覚えている読者も少なくないだろう。予選でチャンピオンを争う2チーム(1号車とライバルのブリヂストンタイヤを履く12号車 カルソニック IMPUL GT-R)の明暗が大きく分かれ、1号車がまさかの予選Q1敗退で12位に沈み、12号車は5位になったからだ。これで、最終戦を前にしてポイントをリードしていた12号車が有利となり、予選日の夜にはほとんどの関係者が12号車がチャンピオンになるだろうと予想したほどだった。

日本ミシュランタイヤ株式会社 モータースポーツマネージャ 小田島広明氏

 小田島氏も「予選日の夜にはまずいぞという雰囲気はあった。予選日の雨のコンディションに我々のウェットタイヤはマッチしていなかった。ただ、日曜日の天気は乾いていく方向だと予想されていたので、チャンスはあると考えていた」と、予選が終わった後はチームも含めてかなり厳しいという認識はあったようだ。

 だが、決勝レースは“レースは終わってみなければ分からない”の典型的な展開になった。12位からスタートした1号車は徐々に順位を上げ、ピットストップが終わってみると、直接のライバルとなる12号車の前に出ることに成功したのだ。最終的に1号車は2位まで順位を上げ、ポイントで12号車を逆転して2年連続のチャンピオンを獲得したのだ。

 この勝利について小田島氏は「もてぎのレースではレース直前に雨が降ってきて、第1スティントを担当したクインタレッリ選手がプッシュできたのが大きく順位を上げられた理由。そして、ピットイン時のニスモチームのピット作業も素晴らしかったが、ライバルの前にとどまることができたのは、松田選手が他車に比べて速いアウトラップで帰ってくることができたからだ」と、その勝因を語る。

 小田島氏が強調している速いアウトラップにより、そこで他車に対して差をつけることができた。つまり、他車に対して暖まりのよいタイヤを供給することができたことが勝因だったということだ。というのも、ピットアウト後には交換したばかりのタイヤは冷えている。このため、温度が上がるまではタイヤに熱を入れることを意識して走らないといけないのだが、昨年あらゆるレースで、ミシュランはタイヤの熱入れで他のタイヤメーカーに対して優位に立っていた。それが非常によく表れたレースが最終戦のツインリンクもてぎのレースだったということだ。もっとも、昨年のシーズン自体は、決して楽勝だったという訳ではない。というのも、最終戦までポイントをリードしていたのは、ライバルのブリヂストンを履く12号車だった。

 小田島氏は「例えば、開幕戦をトラブルで逃してしまうなど上位で勝てるレースを落としていた。しかし、最終戦1つ前の第7戦オートポリスを勝ったことで、ポイントで12号車に並ぶことができた。あの第7戦のレースがターニングポイントだった」とする。

 実は、オートポリスの第7戦もかなり激しいレースだった。1号車は第2スティントを松田次生選手のドライブでトップを走っていたが、12号車をドライブする安田裕信選手と激しいトップ争いを展開し、1度12号車が前に出るものの、即座に抜き返すというレースを展開して勝つことで12号車とポイントで並ぶ展開に持ち込めたのだ。その激しい走りが、最終戦での奇蹟の大逆転につながっていったのだ。

強さの秘密は「事実を尊重して、正確にフィードバックすること」とミシュラン小田島氏

 このように5年間で4タイトル、かつ直近では2年連続という結果を残しているミシュランだが、その強さの理由はなんなのだろうか? 率直に"なんで?"と小田島氏に問いかけた。

 小田島氏は「特別なことをやっている訳ではない。弊社の開発姿勢としては事実を尊重するということ。こうなるはずだ、こうなって欲しいという希望はあるけど、実際にやってみたらそうではないこともある。それを受け止めて正確に分析して、次のフィードバックに反映するということを繰り返していく。実際競争に打ち勝つには、タイヤがどこか尖っているだけでなく、チーム、ドライバー、車両、全部が揃ってあらゆる状況に対応できるトータルパフォーマンスを実現できる」とする。

 勝てるタイヤの開発というのは、我々が思ってよりもかなり地味な作業のようだ。

 小田島氏によればミシュランの開発思想としては、市販車のタイヤ開発も同じだということで、こうしたレース活動で得られた知見を市販タイヤに積極的にフィードバックしているという。例えば、ミシュランがワンメイク供給している、電気自動車によるフォーミュラカーレースである「Formula E」には、18インチというフォーミュラカーとしてはかなり大きなホイールを採用したタイヤを供給している。

 小田島氏によれば、Formula Eの主催者とミシュランで話し合って、市販車用のタイヤに直接フィードバックできるようにしたいということで18インチにしたのだという。「市販車と同じようなインチサイズにすることで、市販車用のプロファイルに近いタイヤでレーシングタイヤを作ることができる。また、Formula Eではドライでもウェットでも同じ溝ありでレースをするので、市街地のレースが多く、市販車のタイヤにフィードバックできるデータは多い」とのこと。この他、今年ミシュランは、2輪の世界最高峰MotoGPへのワンメイクタイヤ供給を開始したのだが、そちらでも17インチという2輪のホイールとしては一般的なサイズへと変更していく意向だという。

 なお、こうしたワンメイク供給となるレースには、SUPER GTでの競争から得た知見もフィードバックされるという。「開発ペースという意味では、コンペティションが存在しているここSUPER GTが1番進んでいる」(小田島氏)との通りで、そうした競争で得たデータが様々な形で、他のミシュランのタイヤへとフィードバックされ、最終的にはそれが市販車用のタイヤへとつながっているのだ。

今シーズンを勝ち抜く鍵は、50kgを超えるウェイトハンデへの対処。SUGOから80kgを搭載

 そうしたミシュランの今シーズンだが、このインタビューが行なわれた第2戦富士の予選日の時点で終わっていた開幕戦を優勝という素晴らしい結果を出している。というのも、実は開幕戦の岡山は、これまでミシュランが1度も勝ったことがないレースで、小田島氏によればこのレースで勝ったことで、SUPER GTが転戦しているすべてのサーキットで勝ったことになったのだという。

 小田島氏は「岡山での勝因は持ち込んだタイヤが温度にマッチしたこと、逆に言えばライバル勢が外したからとも言える」と分析する。このことは多くの関係者が指摘することだが、現在のSUPER GTは非常に競争が厳しくなっており、各タイヤメーカーともにかなりギリギリを狙ったスペックのタイヤを作り持ち込んでいると言われている。このため、事前の予想とわずかに温度が違ってしまっても、タイヤメーカーが想定した性能を発揮しないということが起きている。

「競争は非常にピンポイントになりつつある、そこに合わせ込めるかどうか、タイヤメーカーとチームの腕の見せ所だ」(小田島氏)と、タイヤメーカーにとっても、チームにとっても、より勝つことが難しいレースにSUPER GTはなりつつある。

 なお、今シーズンは基本的に車両の規定も、タイヤの使い方の規定(持ち込みセット数の制限やマーキングタイヤのルール)も2014年から導入されているそれが継続されており、競争の軸が大きく変わりそうなことは特にないと小田島氏は説明する。

 ただし、1つだけ大きなルール変更があり「ウェイトハンデのルールが、去年までは50kgを超えるとリストリクターの1段階ダウンに変えることができた。しかし、今年はそれがなくなり、50kgを超えて100kgまでウェイトが積まれるようになっている。このためタイヤにかかる負荷は大きくなると予想しており、それにどのように対処するかがポイントになる」と小田島氏は説明する。

 SUPER GTでは、第6戦まではポイント×2kgのウェイトハンデを積むルールになっている。このウェイトハンデは、ある車両だけが独走してシリーズがつまらなくなってしまうことを防ぐ目的で導入されたもので、実際それがあるおかげで、SUPER GTは毎年最終戦まで激しい競争が実現されている。

 昨年まではこのウェイトハンデが、エンジンの燃料リストリクターと呼ばれる燃料を噴射する量を制限する装置のメモリを1段階下げることで、50kgのウェイトハンデに置き換えるということが可能になっていたため、最大でも50kgのウェイトハンデとなっていた(GT500の場合)。しかし、今年はこの特例がなくなったため、最大で100kgのウェイトハンデが搭載される可能性があるのだ。

 実際、このインタビューは第2戦富士の決勝前に行なわれたのだが、その決勝レースでは1号車が開幕戦に続いて2連勝を飾ることになった。これにより、ポイントは40点となり、次戦となる菅生のレースでは80kgのウェイトハンデを搭載することになるのだ。

「仮にだが、ここ(富士)でいい成績を取ると、次のレースから大きなウェイトを積むことになる。特にタイヤに対する負荷が大きくなる鈴鹿1000kmが大変だと考えている。テストでは既にテストしているが、レースでは未知の世界となるので」(小田島氏)と、テストでの準備は進んでいるとのことだが、実際にレースでどうなるのか、それが次戦菅生戦での1つの鍵となるだろう。

 そうしたミシュランの今年の目標を聞いてみると「2つのジンクスを破りたい。1つは開幕戦の岡山では勝てないということだが、これは既に実現できた。2つめは開幕戦の岡山で表彰台にあがるとチャンピオンにはなれないというもの。この2つめのジンクスを破っていきたい」と、小田島氏。

 開幕戦、そして第2戦富士で連勝をしたことで、その目標に限りなく近づいたと言えるミシュラン。果たして最終戦を迎えるときにはどのような結果になるだろうか、その鍵は"50kg以上"というウェイトハンデへの対応が握っていることは間違いないだろう。