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【ニュル24時間 2017】決勝レポート。残り30分の雨で逆転した29号車「Audi R8 LMS」が総合優勝

SP 3Tクラスには日本勢がエントリー

2017年5月25日~28日(現地時間)開催

24時間を走り切った上位ドライバー

 近年は欧州メーカーがワークスサポートを行ない、GT3勢による激戦が繰り広げられているニュルブルクリンク24時間耐久レース。2017年も5月27日~28日にかけて「第45回ニュルブルクリンク24時間耐久レース」の決勝レースが開催された。主催者の発表によると、25日の予選から28日の決勝までに計20万5000人がレースを観戦したという。

 2016年もレース序盤に悪天候で雹が降ってレースが一時中断されるなど、ニュルブルクリンクは不安定な天候で知られていて、「ニュルウエザー」などと言われるほどチームやドライバーを困惑させてきた。だが、今年は5月25日のフリー走行から一貫して晴天が続き、気温も25℃を超える陽気となった。決勝レース前にも気温は25℃、路面温度も40℃を超えることになり、悪天候よりも気温の上昇を気にする2017年の24時間となった。

 好天の下でスタートする24時間レースは、まず計20のクラスに分かれた159台のマシンが1時間半かけてスターティンググリッドに並ぶ。15時半前には全車がグリッドに整列し、159台が3グループに分かれてフォーメーションラップをスタート。24時間レースの火蓋が切られた。

ポールポジションからスタートしたTRAUM MOTORSPORT SA(704号車)の「SCG003C」

 ポールポジションからスタートしたのは、強豪揃いのGT3勢を押さえたTRAUM MOTORSPORT SA(704号車)の「SCG003C」で、約1時間を走行し上位陣がルーティンのピットストップを開始する7周目までトップをキープ。観衆を沸かせる走りを見せた。

29号車「Audi R8 LMS」

 2スティント目へと突入し実力を発揮してきたのが、過去5年間で3勝を飾っているAudi R8 LMS。レース開始から6時間を経過した時点で、トップはAudi Sport Team Landの29号車「Audi R8 LMS」、2番手はAudi Sport Team WRTの9号車「Audi R8 LMS」、3番手はHARIBO Racing Team Mercedes-AMGの8号車「Mercedes-AMG GT3」でトップ2をAudi R8 LMSが占めた。ただ、トップから20番手までが同一周回で走る混戦で、少しのミスも許されない緊迫した展開が続く。

9号車「Audi R8 LMS」

 スタートから7時間が経過し、22時を過ぎるころになるとニュルブルクリンクに夕闇が迫る。この時点でも29号車「Audi R8 LMS」と9号車「Audi R8 LMS」のトップ2は変わらず、3位にはBMW Team Schnitzer(43号車)の「BMW M6 GT3」、4位にも同チームの42号車が続いた。トラブルやクラッシュが頻発する夜間の走行帯だが、所々で接触やクラッシュはあるもののレースを中断するような大きなトラブルもなく進行。

29号車「Audi R8 LMS」の走り

 わずか6時間ほどの夜間走行を終え、5時前にはニュルブルクリンクの夜が明け始める。スタートからレースの半分となる12時間が経過した時点でも、29号車「Audi R8 LMS」と9号車「Audi R8 LMS」のトップ2は変わらず、これをBMW M6 GT3勢が追う展開となった。トップ2台のタイム差はピットインのタイミングにもよるが、29号車「Audi R8 LMS」が1分以上のリードを保ちながらレースは終盤戦を迎える。

 レースが残り1時間を切った時点でも29号車「Audi R8 LMS」は9号車「Audi R8 LMS」に対してリードを保っていたが、ルーティンのピットイン後にスローダウンを喫してしまう。すぐにマシンはレースペースを取り戻したが、その間に9号車「Audi R8 LMS」に逆転されてしまう。

9号車「Audi R8 LMS」

 ただ、最後になってレースウィーク初の雨がノルドシュライフェの北側で降り始める。最初は局地的な雨だったが、すぐに降雨の範囲は拡大し、全長25kmのコースの半分がウエット路面となる。

ファイナルラップでの逆転劇を演出したAudi Sport Team Landのケルビン・バン・デル・リンデ選手

 ここでいち早くウエットタイヤに交換したのが、遅れを取ってしまった29号車「Audi R8 LMS」。ギャンブルかに思えた判断だったが、雨量はさらに増していき、コースアウトするマシンが続出するほどになった。Audi Sport Team Land 29号車「Audi R8 LMS」がウエットタイヤに交換したタイミングは抜群で、上位を走っていた9号車「Audi R8 LMS」とRowe Racing 98号車「BMW M6 GT3」をパス。そしてそのままファイナルラップに入り、見事に再逆転してトップチェッカーを受けた。

29号車「Audi R8 LMS」

 2位には最終周でウエットタイヤに交換し、最後の1周で順位を入れ替えたRowe Racing 98号車「BMW M6 GT3」、3位は157周目までトップだったAudi Sport Team WRT 9号車「Audi R8 LMS」となった。

9号車「Audi R8 LMS」
ニュルブルクリンク24時間耐久レースはマシンのポディウムが用意される

 このAudi R8 LMSの勝利により、2012年からの6年間で4度目のチャンピオンをアウディにもたらすことになった。

総合優勝を果たしたAudi Sport Team Landの4人のドライバー

日本勢がエントリーしたSP 3Tクラス

SP 3Tクラスには日本勢がエントリーした
170号車「Lexus RC」には、SUPER GTでも活躍する井口卓人選手、蒲生尚弥選手、松井孝充選手に加えてトヨタの開発ドライバー矢吹久選手が乗り込んだ
90号車「SUBARU WRX STI」は山内英輝選手が唯一の日本人ドライバーとして参戦
山内英輝選手と井口卓人選手は、SUPER GTにはチームメイトとして参戦している

 総合優勝争いの一方で、STI(スバルテクニカインターナショナル)の90号車「SUBARU WRX STI」とTOYOTA GAZOO Racingの170号車「Lexus RC」が日本勢としてエントリーしたSP 3Tクラス。予選結果のとおり、日本勢の2台にLMS Engineeringの89号車「Audi TTRS2」の三つ巴の戦いとなった。

 クラストップタイムをマークした89号車「Audi TTRS2」は決勝のラップタイムでもアドバンテージを持っていて、スタートからじわじわとリードを拡げていく。最初のルーティンのピットストップは 89号車「Audi TTRS2」が7周目、90号車「SUBARU WRX STI」と170号車「Lexus RC」が8周目となった。ここで最初のトラブルに襲われたのが90号車「SUBARU WRX STI」で、ピットスタート時にエンジンが掛からなくなり約5分を失ってしまう。続いてトラブルに見舞われたのが170号車「Lexus RC」で他車と接触を喫するが、損傷箇所は少なくピットインのタイミングでもあったため、ロスタイムはほぼなく走行を続けた。

89号車「Audi TTRS2」

 89号車「Audi TTRS2」は序盤からトラブルもなく安定したラップタイムを刻みながら、ルーティンの7周を守り周回を重ねる。夜を迎え気温が下がってくると90号車「SUBARU WRX STI」はラップタイムを上げていき、170号車「Lexus RC」を抜いて89号車「Audi TTRS2」と数秒差の戦いを行なうまでにギャップを縮めた。3台は同一周回のまま夜明けを迎えるが、ここでまたしても90号車「SUBARU WRX STI」に悲劇が襲う。

 マルセル・ラッセー選手がドライビング中のグランプリコースで、他車が左サイドに接触。接触の勢いでコース外まで飛ばされてしまうほどのクラッシュだったが、なんとかピットに戻り修復を行なう。車両の修復によって5分以上のタイムを失い、その後も緊急のピットインを強いられるうち、89号車「Audi TTRS2」にラップダウンされてしまう。90号車「SUBARU WRX STI」に襲いかかる悲劇は接触だけにとどまらず、126周目には車両前方から出火してしまい、マシンをコースサイドに停めるしかなくリタイヤとなった。

90号車「SUBARU WRX STI」

 90号車「SUBARU WRX STI」のリタイヤで2台の戦いとなった89号車「Audi TTRS2」と170号車「Lexus RC」。一時は1ラップ差を付けるまで89号車「Audi TTRS2」がリードしていたが、終盤に入ると170号車「Lexus RC」がペースをアップし、差を詰めていく。残り1時間の時点で2台の差は約3分まで縮まったが、最後までこのタイム差は保たれ89号車「Audi TTRS2」がクラス優勝を果たした。総合結果は、89号車「Audi TTRS2」が145周を周回し総合24位、170号車「Lexus RC」も145周を周回し総合25位だった。

170号車「Lexus RC」