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【ニュル24時間 2017】モータースポーツの最前線で戦ったスバルディーラーメカニック達の挑戦

1990年のWRCサファリラリーから続くディーラーメカニック派遣プロジェクト

2017年5月25日~28日(現地時間)開催

ニュルブルクリンク24時間耐久レースの決勝前グリッドウォークに並ぶ90号車「SUBARU WRX STI」

 スバルは、古くからディーラーで働いているメカニックをモータースポーツの最前線に派遣し、現場で得た経験や技術をディーラーに持ち帰ることで、一般整備やオーナーとのコミュニケーションなどに活かしてきた。

 1990年のWRCサファリラリーから始まったディーラーメカニックのモータースポーツへの派遣プロジェクトは、実に約30年にも渡って続けられていて、近年では「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」や「全日本ラリー」「86/BRZレース」などさまざまなカテゴリーに波及している。1990年からの延べ参加人数を数えると相当な人数となり、近くのディーラーや車検や整備をお願いしているディーラーにもモータースポーツの最前線で活躍したメカニックがいるはずだ。

 2017年は5月27日~28日(現地時間)に決勝レースが行なわれた「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」へのディーラーメカニック派遣プロジェクトは、さまざまなレースカテゴリーの中でも選抜基準が厳しいが、もっとも人気となっているレース。

ディーラーメカニックが整備した「SUBARU WRX STI」がニュルブルクリンクを走行した

 まずは、派遣の基準となるのが社内規定の「スバル1級整備士」を持っていることになる。スバルの整備士の階級は4級から1級までで、文字どおり1級はメカニックの最高峰となる。試験内容は筆記、実技やユーザーとの対応など多岐にわたり判断される。地域によっては、スバル1級整備士を保持している人が数人ということもあるほど難関の試験だという。

 限られた1級という資格を持つことで、初めてニュルブルクリンク24時間耐久レースへの派遣基準を満たすことになり、その中かから毎年、多数のメカニックが応募。近年では毎回6名の厳選された人がニュルブルクリンクの地へ向かうことになる。

左から、北海道スバル 横井さん、福島スバル 原さん、静岡スバル 佐々木さん、岐阜スバル 内藤さん、京都スバル 宇都宮さん、大阪スバル 村居さん
90号車「SUBARU WRX STI」にディーラーメカニックが参加する北海道スバル、福島スバル、静岡スバル、岐阜スバル、京都スバル、大阪スバルのステッカーが貼られる
岐阜スバル 県庁前店に勤務する内藤文さん

 2017年は北海道スバル、福島スバル、静岡スバル、岐阜スバル、大阪スバル、京都スバルの6社から6名のディーラーメカニックがニュルブルクリンク24時間耐久レースに派遣されていて、その中の岐阜スバル県庁前店に勤務する内藤文さんにお話を聞いた。

 内藤さんはスバル1級整備士を取得してニュルブルクリンク24時間耐久レースの派遣プロジェクトに応募するも、2016年は落ちてしまったそうで、2017年は2回目の応募で現地へ来ることができたそうだ。

 内藤さんは「ニュルブルクリンク24時間耐久レースへの応募には、フロントストラットをアッセンブリーで交換する作業を2分50秒以内で行なう作業風景と意気込みなどを話した動画を本部へ送って判断してもらいました。昨年に初めて応募したのですが落ちてしまったため、今年はサービス部の人たちとディスカッションしながら、どうしたら受かるのかを考えてきました」と明かした。

 他に参加していたディーラーメカニックに聞いても1回目の応募で参加できた人は少なく、複数回の応募で受かったというパターンが多いようだ。

 内藤さんは「3月の富士スピードウェイでのシェイクダウンを合わせた前後3日間で基本的なトレーニングと作業内容を覚え、あとは各ディーラーで実作業やイメージトレーニングを行なってきました。また、過去の動画を何回も確認し、ピット作業中の動きや作業内容を見直しています」と、ニュルブルクリンク24時間耐久レースへの派遣が決まってからは、決勝レースでもっとも重要となるピット作業を中心にトレーニングを繰り返してきたそうだ。

 レース中のピット作業は6人のディーラーメカニックが分担するそうで、内藤さんはタイヤ交換とレース中に1回実施するブレーキ交換のサポートが任務だった。ただ1人で頑張ればいいものでなく、チームワークで動いて最高のパフォーマンスを出すことが求められる。このプロジェクトの参加者は後にマネージメント職に付く人も多いという。

5月27日15時30分(現地時間)に決勝スタート

 レース結果は既報のとおりだが、現地時間の5月28日6時ごろマルセル・ラッセー選手がドライブ中に、他のマシンがSTIの90号車「SUBARU WRX STI」のボディ左側に接触。このアクシデントにより90号車はダメージを受けて緊急ピットイン。ピットに戻るとメカニック達による懸命な作業により、90号車は応急処置が施されてコースに復帰。

 しかし、まだ表彰台を狙える圏内を走行していた現地時間12時30分ごろ、カルロ・ヴァンダム選手がドライブ中、90号車はフロント右側から出火、車両火災となり90号車は最後までレースを走り続けることができず、クラス3連覇を目指した挑戦が終わった。

 レース終了後、内藤さんは「1週間以上にわたる長いレースに挑んで、正直準備は万端ではなかったかもしれませんが、出来る限りのことはやれたと思います。チームはレース序盤に苦しんでいましたが、夜になってからは結構いけそうな感じになってきていたので、このアクシデントはとても残念です。ディーラーメカニックは全員力を出せたと思いますし、とてもよい経験になりました。今後ディーラーの仕事でも役にたつことはたくさんあったと思います。応援していただいたお客様には、これからのサービス業務でご恩をお返していきたいと思います」とコメントしている。

 普段の作業場であるディーラーのガレージとは異なる現場で貴重な経験を積んだ6人のディーラーメカニックは、各店舗に戻り24時間レースで経験したことを伝えることになる。

決勝レース前にチーム監督やドライバーと一緒に記念撮影

提供:株式会社SUBARU

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。