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フォルクスワーゲン、自動運転責任者 ヘルゲ・ノイナー博士による自動運転技術の開発状況

「レベル3の自動運転が普及するまでは数十年かかる。そのためにADASの技術を発展させて提供していくことが大事」

2019年1月16日 開催

フォルクスワーゲン グループ 研究部門 自動運転責任者 ヘルゲ・ノイナー博士

 独フォルクスワーゲンとフォルクスワーゲン グループ ジャパンは1月16日、都内で記者説明会を開催し、フォルクスワーゲン グループ 研究部門 自動運転責任者 ヘルゲ・ノイナー博士による同グループにおける自動運転技術の開発状況についての解説を行なった。

 この中でノイナー博士は、「レベル3の自動運転が普及するまでには数十年の単位で時間がかかる。さまざまな自動車をより安全にするADASの技術を開発し、ユーザーに提供していきたい」と述べ、本格的な自動運転が普及価格帯のクルマに利用できるようになるまでに、その前段階としてさまざまな自動運転の技術を開発し、それをオプションなどの形でユーザーに柔軟に提供していきたいと説明した。

自動運転やガーディアンエンジェルの機能などは最初はオプションとして提供していく方向

 フォルクスワーゲン グループ 研究部門 自動運転責任者 ヘルゲ・ノイナー博士は「フォルクスワーゲンはセドリックというドライバーレスの自動運転車の試作を行なった。だが、実はセドリックはフォルクスワーゲンにとって初の自動運転車ではない。すでに15年前から砂漠の中で走らせるなどの実験を行なってきている」と述べ、フォルクスワーゲンの自動運転の開発が今日、昨日に始まったモノではなく、長い時間をかけて行なわれてきたプロジェクトであることを強調する。

フォルクスワーゲンが開発しているレベル5の自動運転車「セドリック」

 その上で、自動運転を実現する自動車メーカーのモチベーションとしては「運転を安全にしたい、これがスタート。そして化石燃料の消費量を減らすなどのリソースの効率化、都市部における空間利用の効率、さらに顧客が求める移動中の快適な空間などを実現すること」と述べ、安全で効率がよく、快適なモビリティ社会の実現が目的だとした。

自動運転の目的

 その最初の段階となるのが、自動運転の5つ段階(レベル1~レベル5)のうち、自動車による自律運転が実現されるレベル3以上の実現に向けて、最初の段階となるレベル3の実現がスタートになると述べ、「レベル3は自動運転のすべての機能を持っているが、一定の条件下でそれを実現するというものになる。レベル2までがすべて人間の監視が必要になる“運転アシスト機能”であるのに対して、レベル3では高速道路走行時など一定の条件下で自動運転を実現できる。しかし、マニュアルモードと自動運転モードの2つのモードがあり、状況によってそれを切り替える必要があり、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)が必要になる」と述べ、レベル3の実現ではHMIが重要になると指摘した。

自動運転のレベル

 ノイナー博士によれば、そうしたHMIの一例として色の使い方を紹介した。ノイナー博士は自動運転車を初めて運転する人でも理解しやすいように、自動運転モードがONになっている時はグリーンで表示しておき、マニュアルモードに切り替えるときにはドライバーに警告を出すシステムに必要がある。その時にドライバーが運転席で何をしているか、あるいはドライバーの年齢などの違いで運転動作を引き受けてマニュアルモードに切り替えるまでどれぐらい時間がかかるかを調査したとノイナー博士。

 それによれば、年齢による差は大きくなく、音楽やビデオゲームなどをやっていると引き継ぎまでに時間がかかることが分かったという。しかし、それでも最大で10秒で引き継げることが分かっており、それを念頭に置いて開発していく必要があると述べた。

HMIの例
引き継ぎにかかる時間

 その上で、「こうした機能をどのように市販していくか考えると、運転アシスト機能は現状ではオプションとして提供されているが、自動運転機能もオプションとして提供していくことになると思う。かつ、特定の街だけで使えるというのではダメで、どこでも使えることを想定しているし、オプションとしてお買い求めいただくにはコストも重要になる」と述べ、自動運転機能は当初はオプションのような形で提供される可能性が高いだろうと指摘。

ガーディアンエンジェル

 そうして今後開発していくべき自動運転機能としては、例えばガーディアンエンジェル(守護者)のような機能があるとし、「例えば見通しのわるいカーブを曲がるときに、地図の情報を元にカーブがあることをあらかじめ認識しておけば、ドライバーが正しく反応しないときにはシステムが介入するなどの仕組みが考えられる」と述べ、今後はそうした機能を自動車メーカーとしてユーザーに提案していくと説明した。

ノイナー博士のそのほかのスライド

レベル5の開発ではステップバイステップでシナリオを作りながら発展させていく

 次いでノイナー博士は、セドリックのようなレベル5(ドライバーレスでの完全自動運転)の実現に向けた技術開発について説明。

 レベル5の自動運転車、具体的にはセドリックのような街中を走る車両の場合にはMaaS(Mobility As-a-Service)の一部として、現在街中を走る交通機関と競争することになる。このため、人件費などとのトレードオフを考えながら開発していく必要があるとノイナー博士は指摘するとともに、「人間はいくつかのことを並列に考えながら自動車を運転している。その人間と同じように運転するのは容易ではない。自動運転ではそれをアルゴリズムにより実現するが、人間が運転するよりも安全だと証明することは容易ではない」と述べ、人間が運転しているよりも安全だということを実現していくために、体系的なアプローチを取っていくことが必要だと説く。

複雑性の管理
自動運転と人の運転

 具体的には高速道路では道路のレベル、交通インフラ、物体、環境などの5つのレイヤーに分けてそれぞれシナリオを設定して対処していくとノイナー博士。「車線がどれくらいの幅か、まわりに動いているものがある。そういうものを取り込んでシミュレーションを行ない、最後は人間がシナリオを決めて機械が実行可能なようにしていく」と述べ、そうしたシナリオを作り込んでいくことが自動車メーカーとしては重要になり、それを元に現実世界のデータを取り込んで、ディープラーニングなどの手法により実現されるAIを鍛えていくのだと説明した。

5つのレイヤー
ノイナー博士のそのほかのスライド

レベル3の普及には数十年単位で時間がかかる、ADAS技術のさらなる発展が必要

 終了後には質疑応答が行なわれた。CESでフォルクスワーゲンとモービルアイが発表した、レベル2+に関する取り組みの定義に関しての質問には、「レベル2/2+とレベル3の差は明確で、ドライバーが監視している必要があるかそうでないか。ではレベル2+は何かという話だが、渋滞監視システムなどはすでにレベル2にも実装されているが、レベル2+はレベル2の次世代製品のようなもので、現在のレベル2には実装されていないレーチェンジ機能などが実装されることになるだろう」と解説。

 また、セドリックの実現を2021年としていることに対して、他社のレベル5に比べると遅いのではないかという質問には「決して遅れているとは思わない。たしかに米国のベンチャーなどでもう少し早いところもあるかもしれないが、われわれが作っているのは“本当のクルマ”で、2021年にそれを実現することはマーケットニーズに適っていると考えている」とコメントする。

 一方で、ガーディアンエンジェルとレベル3の違いに関しては、「ガーディアンエンジェルは、緊急ブレーキなど今ある技術よりも多くの機能をカバーするセーフティシステムになる。例えば、現在のレベル3は特定の状況、例えば高速道路などでだけ自動運転ができるが、それと同じ機能を郊外で使いたいなどのニーズが出てくる。それに応える必要があると考えている。おそらくレベル3の技術がすべてのクルマに搭載されるよりも、ガーディアンエンジェルが入ってくる方が早いと考えている」と述べた。

 レベル3の自動運転車が発売される時期に関しては、「具体的にいつとは言いづらい。レベル3の機能を全部のクルマが搭載するまでにはまだまだ時間がかかる。それこそ数十年の単位でかかるかもしれない。ADASの機能を拡張し、それを提供できるのであればそれをいち早く提供していきたい」と述べ、レベル3の自動運転が普及するまでには相応の時間がかかることが予想され、そのためガーディアンエンジェルなど自動運転の機能をベースにした安全機能が先に普及する可能性があると示唆した。

 また、ガーディアンエンジェルの課題は? という質問には、「技術的にレベル4やレベル5と比べると簡単だが、HMIに関しては課題がある。何が課題かと言えば、ドライバーに普段は普通に運転できるが、何か(トラブルなどが)あったときにシステムが介入することを理解してもらう必要があることだ。そこが微妙な線で、それを理解してもらうことが大事だ」と述べている。