ソニー「nav-u」のNV-U75シリーズを徹底レビュー<後編>
NV-U75シリーズの進化を体感インプレッション

ワンセグ用チューナーを省いたNV-U75。ビデオ系再生機能も非搭載となるが、ナビ機能はNV-U75Vと変わらない。実売価格はNV-U75Vに比べて1万円安い5万5000円前後

NV-U75V(関連製品含む):11月7日発売
NV-U75:11月14日発売
オープンプライス



 ソニーのPND(Portable Navigation Device)である「nav-u」。その最新モデルとなる「NV-U75シリーズ」がいよいよ発売された。前編では、その進化したスペックについて触れたが、今回は11月7日に発売となった「NV-U75V」を実際に使用してのレポートをお届けする。

 まず本体を目の前にして、最も目を引くのが、そのPNDらしからぬ斬新なデザインだ。表面はフルフラット化され、モニターやメニューボタンなどとの間に段差は一切ない。ボタンはブラック地をベースとし、フレームまでもブラックアウトされたデザインは従来のPNDには見られなかった斬新さにあふれている。

 このデザインを採用するにあたってnav-uはある大きな変更を行っている。それはタッチパネル方式だ。従来は画面を押した時の圧力を関知して判定する感圧式を採用していたが、それを人の微弱電流を検知して判定する静電容量式に変更したのだ。これはパネルのフラット感を維持するために採用されたものだが、これによって操作フィーリングは大きく変わった。

 ソニーではこの方式の採用によって感度が高まり、より軽いタッチで操作できるようになったとしている。しかし、実際に使ってみるとその逆で、指でしっかりとボタンを押さないと反応してくれない。従来は画面を汚すまいと指を裏返して爪で操作しても反応してくれた。それができなくなってしまったのだ。これはnav-uが得意としていたジェスチャーコマンドにも影響を与えているようで、少々強めに指を押しつけて動かさないと反応しなくなっているのだ。ただ、人によってはもっと簡単に反応することもあるようで、この気まぐれさも静電容量式の不満な点だ。

新規採用となった静電容量式タッチパネルは感度に優れるメリットがある半面、画面に触れない状態でも関知してしまうことがあるジェスチャーコマンドの動き(画像はNV-U3Vのもの)。画面上で指を回転させれば地図の縮尺が変わり、山型の動きをすれば自宅へのルート探索を開始する

 メニューを押すと「行き先」「最寄」「自宅・お気に入り」の従来と同じタブ式メニュー画面が表示される。アイコンは大きめで、タブも押しやすいデザイン。ボタンを押すとアラートと共にアイコンの色が変化し、確実に入力されたことがわかる。タブを切り換えるごとにカテゴリーが変わるというのも分かりやすい。

各ボタンが大型であるため、押しやすさは抜群。タブによってカテゴリー別にメニューが開かれるのも極めてスムーズ。左から「ナビ」「アプリ」「設定」の各メニュー

 目的地検索では、住所や電話番号、ジャンル、名称などがあるのは従来どおり。電話番号検索では個人宅にもnav-uとして初めて対応。電話番号と姓名が一致すればピンポイントで対象地を表示する。「最寄」で選べるカテゴリーは従来どおりだが、新たに目的地周辺やその方向にある施設に絞り込める機能が追加された。ただ、ルート沿いではなく「目的地方向」で探すタイプで、自車位置から目的地方角を見て、その方角にあるものを対象にするらしい。ルートが大きく回り込んでいるときは対象とならなくなるが、おそらくルート沿いに限定すると検索する際の負荷が大きくなってしまうからと推測される。

ジャンル別検索では都道府県別に絞り込んだ後、「あかさたな……」のタブで頭出しができるようになった電話番号検索は個人宅にも初対応。電話番号を入力した後で目的の個人宅の姓名を入力。電話番号の登録と一致すれば対象地がピンポイントで表示される最寄り検索では自車位置周辺以外に、目的地周辺や目的地方向に絞り込んで検索できるようになった。ルート沿いではないことに注意
住所検索では番地を直接入力できるのが使いやすい。ピンポイントで絞り込めるのは住居表示地域以外に大字地域でも可能ガイドブック機能を使えば詳細な情報が画像付きで見ることができ、「PetaMap」を使えばインターネット経由で最新情報を探してくることもできる主要な施設では駐車場情報も収録。たとえばホテルを選べば、関係する駐車場の位置を目的地に設定できる
駅を目的地として検索すると(写真左)、駅の所在位置以外に、各出入口情報(写真中/右)を表示できる。

 大きく改善されたと思うのが目的地を探す速さだ。従来は対象項目が多いと「検索中……」の表示が出て少しずつ件数が増えていった。U75も決して速い方とは言えないが、その時間がかなり短くなっている。名称での検索は、あかさたな……の携帯電話方式だけでなく50音方式にも対応し、好みに応じて選べるようになったのは便利。ただ、携帯電話方式は横に、あかさたな……と並ぶので違和感がないが、50音方式では「あ行」が左から始まる。これは不自然だろう。また、名称は部分一致検索にも対応しているのは評価できるが、最初に「ジャンル」か「地域選択」を選んだら次の絞り込みができない。検索での使い勝手は今一歩のように感じた。

目的地を検索する速度は大幅にアップ。「検索中……」が表示されている時間がかなり短くなった携帯電話方式キーボード。「あ行」「か行」…… それぞれの行で表示される文字を順番に入力していく50音配列キーボード。縦に並んでいるのに、左からあ行が始まるのは不自然。キーワード検索で指定した文字列を含んだ曖昧検索が可能になる

 ルート探索にかかる所要時間は、100km程度でも15秒前後を要する。これはPNDとして少々遅めに感じる時間だ。この原因はどこにあるのか。それは従来とは違って渋滞予測データを考慮しながらルート探索を実行しているからだ。このデータの負荷がルート探索に影響を与えてしまっているのだ。探索ルートは全部6種類が選べるが、同時に表示するのではなく、一つずつ選んでから探索していくタイプ。探索後は全体図が出て、総距離数や高速道利用距離、高速道路の料金、利用するICなどの情報が表示される。この辺はよく配慮されている。経由地は最大10カ所まで設定できるのも十分すぎるほどだ。

目的地とする対象地が表示されたら「ここへ行く」を押す。これでルート探索が始まる。「ルートに追加」を押せば経由地として設定されるルート探索中の画面。近距離でも10秒以上を要し、これは再探索時にも同様な傾向を示す新たに追加となった渋滞予測機能のON/OFFメニュー。OFFにすると探索スピードは約2割程度速くなった
ルート探索後は最初に「推奨ルート1」が表示される。ルートの詳細情報も表示されるが、利用IC(インターチェンジ)の変更ができるわけではない「ルート確認」→「探索条件」を押すと、この画面が表示され、探索条件を変更したルートが案内される一般道優先で探索し直した結果。ワンタッチで条件変更ができるのは使いやすい

 ルート案内中に表示されるガイドには細かな改良が加わり、一段と見やすく分かりやすいものになった。異なる縮尺の地図を2画面で同時表示できるようになり、右左折の情報も左側にまとめて表示されるように変更されたのだ。交差点の拡大図は、従来どおり分岐点に近づくに従って2段階に拡大され、分岐点までのアプローチ状況をプログレスバーを使って表示。交差点名はリニアPCM録音した肉声で読み上げるので、右左折の案内とともにとても聞き取りやすかった。高速道路上での案内は従来を踏襲したものだが、ハイウェイモードの表示やリアルな分岐点ガイドなど、その分かりやすさはPNDとして間違いなくトップクラスと言ってよい。

新たに2画面表示が可能となり、異なった縮尺や3D/2Dの組み合わせが選べる。設定画面(写真右)ではその組み合わせが自在に設定できる1画面でも画面をタッチして表示されるサブメニューから2画面表示への切り替えができる
3D表示でも市街地図レベルから広域レベルまで縮尺は自在に変えることが可能。縮尺の切り換えもスムーズだ。写真左から順に1km/100m/25mの各スケール

 ルート案内中で気になったのは、案内ルートを外れて再探索を行うタイミングが遅いことだ。元々探索スピードが速くないこともあり、外れてから再探索が始まるまでの時間を含めると予想以上に時間を要する。このタイミングだと、分岐点をいくつか通り過ぎてしまってから新ルートの案内となるのだ。しかし、案内ルートはおおむね実用性が高く、そのガイドには信頼がおける。一般道路と高速道路を色分けして表示するのもわかりやすい。また、地図画面下の「ナビ」を押すとサブメニューが表示され、経由地スキップや一般道/高速道、地図の2画面表示の切り替えが行えるのも使いやすかった。

案内ルートを外れて(写真左)から新ルートを案内(写真右)するまでは目測で200m程度過ぎてから画面にタッチして表示されるサブメニューで「ナビ」を選択。経由地スキップや一般道/高速道の切り換えなどが選べる

 地図の表示能力は相当に高くなっている。これはメモリーの容量が8GBに倍増したことに伴うものだが、ゼンリンがデータとして持っているすべての1335エリアで市街地図表示を実現。3D表示でビルが立ち上がったりはしないものの、個人宅と事業所の色分けをして表示したり、異なった縮尺の地図表示ができるようになったりしたことも評価できる。3D表示の角度が変えられたり、ノースアップ/ヘディングアップの切り替えも可能。また、地図が3D表示になっていてもスクロール時は自動的に2D表示に切り替わるのは使いやすい。

分岐点に近づくと左側に拡大図を表示するが、その縮尺は2段階(写真左:広域→写真右:詳細)で行われる。交差点名のある交差点では音声でも案内される
おなじみの3D交差点拡大図。交差点名は音声ではガイドされるのに画面上では表示されなくなる道路上にある方面案内標識そのままを表示し、ルート案内中は進行方向をガイド。交差点に近づくと拡大図に切り換える
高速道路への案内も充実した内容。都市高速入口では3Dマップ(写真左)で案内し、高速道路走行中はハイウェイモード(写真中)で各施設を案内。分岐点では車線を含む詳細なJCTガイド(写真右)で案内する
高速道路で事故多発地点となりがちな合流箇所では、地図上のアイコンと音声によってそれを案内する(画像は部分アップ)GPS信号の検出により走行中の操作は自動的にできなくなる。これはワンセグを含むAV系の視聴でも動作し、画面を表示しなくなる

 そして注目の測位能力だが、その実力はこれまでどおりとても高いものだった。一般道を走行中はほぼ正確に自車位置を表示。分岐点でのターンでも自車位置をリニアに回転させて追従し、GPS信号を受信しながらの走行で不安はほとんど感じなかった。

 一方、GPS信号をロストした時の動作状況はどうか。U75の実力はここで発揮される。これまでのnav-u(NV-U3Cを除く)もジャイロ&加速度センサーによって安定した測位を継続していたが、実はある一定の距離に到達すると測位を止めてしまっていたのだと言う。理由は誤差が積み重なってしまうことを避けるためだ。しかし、U75では新たなジャイロ&加速度センサーの運用方法を採用し、これがかつてない測位能力を発揮するのだと言う。

 本来、ジャイロセンサーは左右/上下の動きを検出し、加速度センサーは前後方向の動きを検出して車速パルスに代わる役割を果たしてきた。しかし、加速度センサーで得られる情報はそれほど正確なものではない。短い距離ならよいが、距離が長くなると誤差がどうしても積算されてしまっていたというわけだ。

 そこでU75では、2つのジャイロセンサーを用いながら、加速度センサーを上下方向の動きにも活用。この組み合わせでクルマの挙動を把握し、GPS信号とリンクしつつ走行しながら絶対速度を学習していく。これによってGPS信号なしでも車速パルスに迫る正確な速度が算出できるようになったのだと言う。このような測位方式を採用したのはソニーが初めてだ。

 ではこれでどの程度の効果を発揮するのか。まずは高架道下を走行してみた。延々と続く高架道の下にもかかわらず、ピタリと正しい位置を表示している。緩やかなカーブでややズレを見せたが、マップマッチングですぐに正しい位置に修正。次に地下駐車場。入口から入っていくとすぐに道路から自車位置を外し、そのまま道のないエリアで測位し始めた。ただ、ここでクルマを回転させると周囲の道路にマッチング。そのまま誤差は修正されないまま地上へと向かうことになった。地上に出るとすぐにGPS信号を受信し、正しい位置に復帰。あとは誤差がないまま首都高速の入口へと案内した。

高架下を走行していると、自車マークが薄いオレンジ色に変化。これがGPSをロストした証拠。その状態でもまったく問題なく位置を正確に表示した高速道が上を走るレインボーブリッジで、下の一般道を走ってみる。GPS信号は途切れがちとなったが、それでも誤差は発生せずお台場地区・青海付近にある地下トンネルを走行。ルートを引かずに走行してみたが、測位能力の高さはここでも実証して見せた

 続いて首都高のトンネル内での測位状況。トンネル内で分岐点がある数少ない箇所で、あえて案内ルートと違う方向へ進んでみる。分岐点の位置をしっかりと把握し、案内ルートを外れて少し進むと新ルートでの案内に切り換えた。再探索のタイミングが遅いのはここでも同じだが、認識そのものは従来と変わらぬ高い能力を見せたことになる。本来はもっと距離の長いトンネルを走行しないと真の実力はつかめないのだろうが、今回は試せる場所を走行することはできなかった。いずれ機会を見て試すことにしたい。

首都高の三宅坂トンネル内を走行し、GPS信号をロストした状態で分岐点での測位精度を検証。分岐点で案内ルートを外れると、少し進んだところでそれを認識。間もなく再探索を実行し、新ルートでの案内を開始した

 クルマから降りてのサポートもトップレベルだ。歩行ナビ機能を備え、これはサブメニューで簡単に切り換えられる。クルマで案内していたルートとは別に歩行者専用ルートを案内する機能を備え、徒歩でなければ通れないようなルートを使って目的地まで誘導。右左折を音声案内するほか、エレベーターやエスカレーターがあることまで画面で知らせる。現在地の測位もかなり敏感に反応し、道を間違えてもそれをすぐに地図上で反映。電子コンパスを搭載した効果がうまく作用しているのではないかとみられる。

 公表データでのバッテリー駆動時間は、通常モードで約3時間、表示が暗くなる省電力モードで約5.5時間となっているが、通常モードで徒歩ナビを使用したところ、2時間30分でバッテリー残量警告が出た。実際に移動している時間はこの内1時間30分ほどだったが、電子コンパスの作動などによって、多くバッテリーを消費したのかもしれない。

品川駅高輪口に目的地を設定すると、カールートでは遠く回り込んだルートを案内(写真左)。それを歩行ナビに切り換えると品川駅構内を通過するルートに切り換えた(写真右)

 AV機能で魅力なのはやはりワンセグの録画機能を備えたこと、それにソニー製レコーダで録画した番組をメモリースティックDuoを介して再生可能とする「おでかけ転送」に対応したことだ。ワンセグ録画機能は、番組表を使った予約機能をPNDで初めて搭載。番組表にタッチしていくだけでそのまま録画予約ができる。ただ、ワンセグでは1日分の番組表しか表示できないため、それ以降の予約するために日時指定、繰り返し録画を指定することができる。「おでかけ転送」はすでにPSP用にも搭載されている機能だが、U75ではレコーダーの対応機種が本年登場したソニー製レコーダーに限られているのが残念だ。ただ、画質の転送レートは高く、ワンセグ以上の画質で楽しめる点は評価できる。

ワンセグに対しては、ソニー初の録画予約機能を搭載した(写真左)。番組表にタッチすればそのまま録画予約をできるようにしたのはPND初(写真右)。時間指定や、繰り返し録画にも対応している
レコーダーで録画した番組をメモリースティックDuoを介して再生可能。画面をタッチすれば、画像のように表示サイズを小さくすることもできるBluetoothによる携帯電話のハンズフリー通話には標準で対応。メモリースティックDuoに保存した音楽ファイルをA2DPによって対応カーオーディオで再生することもできる

 PNDとしては未曾有の高精度測位を実現し、高い目的地検索能力を装備するなど、すべてを一新したU75シリーズはまさに“新世代nav-u”と呼ぶにふさわしい。VICSやAV機能に対してもその内容は充実そのもので、そこからは妥協する姿は微塵も感じられない。ここまで高機能なPNDを世に送り出せたのも、自社にフルナビのラインアップを備えていないからとソニーの開発者は話す。PNDにかけるソニーの意気込みが感じられる1台となったのは確かだ。

VICSはFM多重に初対応。ビーコンユニットと組み合わせれば、渋滞予測機能と合わせ、交通状況を考慮した高精度なルート案内を実現する。ルート上に渋滞があると、アイコンでそれを知らせたりもする(写真左下)。写真右上ではビーコンによるレベル1を表示している一般道のVICSビーコン・レベル2の情報高速道のVICSビーコン・レベル2の情報

2D表示の全スケール

25m50m100m
200m300m500m
1km2km5km
10km20km50km
100km200km400km
800km縮尺を連続して変化させられるので、好みのスケールで地図を表示させることもできる。画像は170mスケールでの表示

(会田 肇)
2009年 11月 18日