想定価格50万円以下のプラグインハイブリッド・コンバージョンキットが登場
2代目プリウスが簡単に40km/Lカーに

ESIJのコンバージョンキットを装着したプリウス(NHW20)



 ハイブリッド車(HV)のバッテリー容量を増やし、コンセントから充電できるようにして、電気での走行距離を伸ばした「プラグインハイブリッド車」(PHEV)。メーカーによる市販車としては、トヨタ プリウスPHEVがあるが、これは官公庁などへのリース販売のみで、一般人が入手するのは難しい。

 そんななか、市販されているHVのプリウスを、PHEVにする「コンバージョンキット」が開発されたと聞き、茨城県水戸市のエナジーシステムズインターナショナルジャパン(ESIJ)を訪れた。

ESIJの高須忠文氏

 PHEVにコンバートされたプリウスで出迎えてくださったのは、ESIJ代表の高須忠文氏。高須氏は、若くしてアメリカに渡り、さまざまなビジネスで活躍された後、日本に戻られた。日本に戻ったのはリタイアして人生を楽しむためだったが、ビジネスの楽しさが忘れられず、こうしてPHEVコンバージョンキットを事業として育てるべく、精力的に活動している。

 ちなみに高須氏は、クラシックカーのコレクションやレース出場を趣味とする、根っからのカー・ガイ。カワサキZ1000を、当時世界選手権で活躍していたエディ・ローソン選手のマシンのレプリカに仕立て上げ、販売するビジネスを手がけていたこともある。

50万円以下も可能なコンバージョンキット
 HVをPHEVにするコンバージョンキットは、米国などではいくつかのベンダーから発売されており、州によっては補助金により、実質ほぼ無料で取り付けられる場合もあると言う。

 これらのキットは、ニッケル水素バッテリーなど比較的安価なバッテリーを採用しているにも関わらず、おおむね100万円以上するものがほとんど。しかし、ESIJのキットは、高性能なリチウムイオンバッテリーを採用しながら、取り付け費込みで50万円以下でも販売できると言う。

 ESIJのコンバージョンキットの仕組みを簡単に言えば、元からあるプリウスの駆動用バッテリーに、さらにバッテリーを追加するだけだ。

 キットのバッテリーからの電気は、一旦プリウスのバッテリーに入り、モーターを回す。また、モーターが回生したエネルギーはプリウスのバッテリーにのみ戻され、キットのバッテリーへ電気が流れ込むことはない。

 つまり、コンバージョンキットのバッテリーとプリウスのモーターは、直接エネルギーをやりとりすることがない。これこそが、ESIJのキットのポリシーだ。キットのバッテリーからエネルギーをプリウスに流すだけなので、構造を簡単にでき、安価にキットを取り付けられる。

普通に走って25km/L
 キットのバッテリー・ユニットは、3.2Vのセルを32個搭載する。多数のセルを積むため、どうしてもセルごとに性能のバラつきが出るが、これを検知して最適に制御するための「バランサー」と呼ばれる回路も積む。

 セルは2つずつ並列で接続して、できた16組を直列で繋ぐ。これをDC/DCコンバーターで250Vに昇圧して供する。バッテリーユニット全体の総容量は4kWh。家庭にある100V電源から、5時間で満充電にできる。バッテリーの寿命は、2000回の充放電サイクル、約8~10年を想定していると言う。

 ちなみに、ESIJのキットは100Vと200Vでの充電に対応しており、200Vの急速充電への対応も準備中である。これは、急速充電の規格がまだ完全に固まっていないことと、キットのバッテリーが空になっても、プリウスのエンジンで帰ってこられるので、急速充電の必要性が薄いからだ。

 テスラ・モーターズなど、ノートパソコンなどで使われている「18650」というセルを大量に積む手法を採るEVがあるが、ESIJのバッテリーは中国で生産するリチウムリン酸鉄タイプのもの。原料のリチウムも中国で調達し、バランサー、DC/DCコンバーターといった周辺回路も中国で開発・生産される。構造の簡単さと合わせ、これがESIJのキットが50万円以下を実現できる理由なのだ。

プリウス(NHW20)のトランクルーム下に搭載されたコンバージョンキット。トランクルーム容量は減らない
これがリチウムイオンバッテリーのセル各セルのばらつきを考慮して充放電を制御するバランサーセルの手前(バンパー側)にある直方体がDC/DCコンバーター
充電プラグはリアバンパー左側に充電ケーブルの繋がる先は、一般的な家庭用100V電源

 気になる航続距離と燃費だが、2代目プリウス(NHW20)にこのキットを取り付けた場合、バッテリーのみで走行できるのが約20km。3代目プリウス(ZVW30)用キットは、これが約40kmと大幅に向上すると言う。

 燃費はエコモードで40km/L以上に及び、元気よく走っても25km/Lは簡単に超えるという。都内を走るプリウスのタクシーが18km/L程度であることを考えると、これは立派な成績と言える。実際、あまりエコランがうまくない記者が運転してみても、瞬間燃費計は30km/Lを上回る。

 仕事で東京によく行く高須氏の場合、高速道路はエンジンで走り、都内ではモーターで走るようにすると言う。エンジンとモーターの特性を考えると、これがもっともこのクルマに適した使い方と言えるだろう。

NHW20はすでに形式認定を取得済みステアリングコラム右にコンバージョンキットのON/OFFスイッチを増設
エネルギーモニターは通常のプリウスと同じだが、コンバージョンキットをONにして停止していると、キットのバッテリーから電気が流れ込むため、バッテリーの残量が増えていく水戸市内を30分ほど走ってきたところ。それほど燃費に気を遣った走りはしなかったが、履歴は見事に40km/Lで揃っている

シンプルな設計も武器に
 構造が簡単ということにはまだメリットがある。まず取付が簡単なこと。2時間もあれば作業は終わると言う。米国ではユーザー自身による、DIYでの取付も行われている。さらに、プリウス以外のHV、たとえばインサイトやCR-Zにも容易に搭載できるということだ。

 しかし、ESIJではまず2代目プリウス(NHW20)と3代目プリウス(ZVW30)にターゲットを絞った。「調べれば調べるほど、プリウスはよく考えられたクルマだと思う」と高須氏は言う。

 前述のとおり、キットのバッテリーにはエネルギーが回生されないので、これが空になれば、キットの重量(約100kg)分のデッドウエイトを積んだプリウスになる。しかし、2代目プリウスならば、キット込みでも重量は1350kgにすぎないし、1日都内を走り回った程度では、空にはならないだろう。

 それよりも、このシンプルな設計によりインストール台数が増えることが見込まれ、それだけ環境負荷やガソリンの消費量が下がることのほうが重要と見るべきだろう。生産キャパシティは年間1000台が確保されているということだ。ESIJでは日本での販路を開拓中だ。

取材時は型式認定がまだ取れていなかった3代目プリウス(ZVW30)のコンバージョンキット装着車。ON/OFFスイッチやバッテリーの搭載方法はほぼ同じ

(編集部:田中真一郎)
2010年 6月 15日