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2014年10月24日

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2014年10月22日

【特別企画】FLACで始めるロスレス音楽生活(前編)
クルマでもPCでも音質劣化のないファイルオーディオ環境を


変貌する音楽の聞き方、聞かれ方
 アウトドアに限らずあらゆる場面で、音楽を聞く手段としてiPodなどの携帯音楽プレーヤーがメインソースとなって久しい。カーオーディオでもiPod/iPhoneへの対応は必須の機能となっているが、一方で音楽CDをカーナビの内蔵メモリーやHDDに蓄積する「ミュージックサーバー」機能も音楽ソースとしてポピュラーだ。今ではお気に入りの音楽CDを1枚ずつ取り出してCDプレーヤーで演奏する、という機会は本当に少なくなった。

左からiPod touch、iPod classic、ウォークマン。いずれも代表的な携帯音楽プレーヤー

 その一方で、「携帯音楽プレーヤーでは音声が圧縮されるのでイヤだ」「自分はあくまでも音楽CD再生にこだわりたい」という人は実は少なくない。携帯プレーヤーやミュージックサーバーでは、ほとんどの場合、音声信号は音楽CDに記録されている信号を効率よくメモリーやHDDに収録するため、デジタル技術を駆使して圧縮して記録する。音楽を純粋に楽しもうと思っても、そのことに抵抗を感じる人は多いだろう。

 ソフトウェアやハードウェアの技術が進化した現在では、圧縮された音でも決してわるいものではないが、実はオーディオの楽しみというのはそのプロセスを充分に吟味することも含まれている。だからこそ納得できないプロセスは避けたい。このようなこだわりはとても大切だ。しかし最近では市場に残っているホーム用、カー用の音楽CDプレーヤーは、カンタンには手が届かないハイエンドモデルか、CD数枚分で買える超廉価モデルのどちらかだ。よい音を楽しむためには理想と現実の狭間で大いに悩むことになる。



iTunesから利用可能なiTunes Storeでは、さまざまな楽曲をAAC形式のファイルで販売。iTunesは楽曲ライブラリの管理も容易なほか、音楽再生、音楽CDの取り込みなどができる

さまざまなオーディオ圧縮方式
 オーディオの圧縮技術で古くからあるポピュラーな方式は「MP3」だ。データを巧妙に間引くことにより、音楽CDに記録されたデジタルデータと比べ1曲のサイズを1/10程度に削減できる。「AAC」はiPodで広く知られるようになったフォーマットで、サポートする機器が極めて多く、現時点で最もメジャーなフォーマットだろう。AACでは著作権保護機構(DRM)がサポートされているので、iTunes Storeの有料楽曲配信にも活用されている。そのほかにもソニーの「ATRAC3」、マイクロソフトの「WMA(Windows Media Audio)」など、さまざまな音声圧縮方式がある。

 どの方式がベストか、という議論は以前は多く行われていたが、圧縮・再生技術ともに進歩した現在では、方式による差はあまり気にならず、手持ちの機材にマッチするフォーマットを選択すれば問題はないだろう。

 しかし、これらのフォーマットはいずれも音楽CDに記録されたデータに比べ、損失──ロスを伴う圧縮を行う。再生時には切り捨てられてしまったデータを完全に復元することができない。これらの方式がまとめて「非可逆圧縮」と呼ばれるゆえんである。

 これに対してまったく圧縮を行わない「WAV」「AIFF」といったフォーマットがある。いずれも音声のデジタルデータをそのまま記録する「非圧縮」方式で、WAVはWindows PC、AIFFはMacintoshの標準フォーマットだ。いずれもiPod/iPhoneで再生可能で、iTunesを用いてファイルの作成ができる。音質にこだわり圧縮によるデータロスを嫌ってこの方式でライブラリを作っている人も多いことだろう。

 WAV形式は音楽CDに記録されているデータを1bitの違いもなく記録することができるので「ビットパーフェクト」と呼ばれることもある。データの再現性では最も確実で安心できるフォーマットだ。しかしながら、大量のディスクスペースを消費する。音楽CDフォーマット(CD-DA)を例に取ると、仮にまったくの無音であろうが一杯詰まっていようが一律1分約10MBの記録容量が必要だ。HDDやフラッシュメモリーの単価が下がった今日であっても、いかにも収納効率のわるい点が気になる。

 またファイルに楽曲情報を記録できない(「タグ」を付けられない)という欠点がある。iTunesを使用している場合は独自の方法で曲名、アーティスト名が表示されるが、ファイル自体にはこれらの情報は記録されていないので、ひとたび外の世界に出て、たとえばiPod以外のプレーヤーで再生しようとすると唯一「ファイル名」だけが手がかりになる。うまくファイル名をつけておかないとアルバム名はおろか曲名も分からず、再生曲順もバラバラになってしまう。曲数が少ないうちは何とかなるが、数が増えると楽曲管理は困難を極める。WAV形式によるライブラリ構築は音質的には安心だが、後々の使い勝手に少々苦労することになる。

第3の道、ロスレス方式
 データの切り捨ては行わないが、データ圧縮を行って容量を小さくするのが「可逆圧縮」となる「ロスレス圧縮」だ。MP3やAACなどの非可逆圧縮と比べデータ容量は大きくなるものの、信号のロスがないので「ビットパーフェクト」となり、タグ情報もしっかりと記録が可能なものがある。

 「削減は行なわなくとも信号に手を加えることには変わりない」という潔癖主義的な否定論も一部にはあるが、音楽CDと同じデータに確実に復元できる。音質にこだわる、プロセスを重視する人には、現時点では音質、利便性を両立できる理想的なアプローチだ。

 最も簡単にロスレス圧縮データを作る方法は、iTunesを使用して音楽CDを取り込む(インポートする)際に「Apple ロスレス・エンコーダ」を選択すればよい。これは「Apple Lossless」フォーマットでの取り込みを行っている。

 また、フリーの圧縮コーデック「FLAC(Free Lossless Audio Codec)」を利用した音楽CDの取り込みもポピュラーだ。FLACにすることで、幅広いプラットフォームでのファイル作成と再生が可能になる。このほかにもソニーによるATRAC Advanced Lossless方式や WMA Lossless方式といったロスレスフォーマットがあるが、これらは対応機器が限られ、MacintoshなどWindows PC以外での圧縮・再生が困難といった問題がある。

iTunesのインポート設定。音楽CDを取り込む際の変換エンジンを指定できる。「Apple ロスレス・エンコーダ」を指定すると、ロスレス圧縮データを作成できる FLACの公式Webサイト。FLACに関する開発情報や解説が記載されている。残念ながら英語とロシア語のみ

ファイル形式一覧表

ファイル形式 音質 容量(音楽CD取り込み時) タグ 圧縮形式 音楽配信サイトの対応
MP3 音楽CD以下 1/10程度も可能 規格あり 非可逆圧縮 多い
AAC 音楽CD以下 1/10程度も可能 規格なし 非可逆圧縮 多い
WAV 音楽CD以上も可能 音楽CDと同等 規格なし 非圧縮 多い
AIFF 音楽CD以上も可能 音楽CDと同等 規格あり 非圧縮 少ない
FLAC 音楽CD以上も可能 1/2〜3/4程度 規格あり 可逆圧縮 多い
Apple Lossless 音楽CD以上も可能 1/2〜3/4程度 規格あり 可逆圧縮 少ない
WMA Lossless 音楽CD以上も可能 1/2〜3/4程度 規格あり 可逆圧縮 少ない

右下の機器がネットワークオーディオプレーヤー「LINN Klimax DS」。左のNASからネットワーク経由でファイルを読み込み、ネットワーク端末を利用してのコントロールが可能

LINN Klimax DSとFLAC
 2008年初頭に、オーディオの世界で極めて注目すべき製品が発売された。それまではPCで作成した音楽ファイルをハイエンドオーディオ機器で再生するという行為はごく一部のPCに詳しい人以外はほとんど試みなかったが、英スコットランドのLINN Productsがネットワークオーディオプレーヤー「Klimax DS」という新しいジャンルの製品を発売し、そのような状況に変化をもたらした。Klimax DSはアルミの塊を切削したぜいたくなケースに電子基板を収め、294万円とたいへん高価であったが、それまでに体験したことのない高品位な再生音が多くのハイエンドオーディオリスナーの心をつかむ。LINNはその後矢継ぎ早にラインアップを強化して「ファイルオーディオ」と呼ばれるオーディオの1ジャンルを築くまでに認知度を高めることになった。

 LINNのネットワークプレーヤーは、いずれも自分で音楽CDを取り込んだファイルをネットワーク上のファイルサーバーに置いて再生を行うことが前提だ。このときLINNが推奨したフォーマットがFLACで、自社のWebサイトでFLACファイルを作成できる推奨フリーソフトを数種類、使用方法とともに紹介していた。LINNの一連の商品により、FLACは有名になったといえるだろう。

 音楽CDプレーヤーでは再生のたびにメカが動き、読み取りエラーが発生するたびにエラー訂正を行いながら再生を行う。圧縮オーディオに比べて音がよいと言われる音楽CDの再生も、実はメカに起因する不安定さ、エラー訂正処理がシステムに与える負荷、不確実性といった弱点がある(後に策定されたデータCD[CD-ROM]では、エラー訂正処理を強化して不確実性を排除している)。

 音楽CD再生の場合、PCを使用して音楽データを取り込み、ファイルに固定することでハードウェアの問題、エラー訂正の問題から解放される。LINN Klimax DSの登場により、ファイルオーディオは、利便性だけでなく安定した高音質再生を実現できるメリットを併せ持っていることが知られるようになったのである。

 これらファイルオーディオを再生するネットワークプレーヤーの分野では、しばらく新興オーディオメーカーの商品がポピュラーであったが、昨年からはヤマハ、マランツといった一般ユーザーになじみが深い有力メーカーから製品が発売されるようになった。

 ヤマハのネットワークプレーヤー「NP-S2000」(20万8950円)は、往年のヤマハHi-Fiコンポーネントの素晴らしいデザインと、本格的なオーディオ設計が注目だ。あまり知られていないが、ヤマハは高性能ルーターなどのネットワーク機器メーカーとしても高い実力を持っている。また、マランツ「NA7004」(9万7650円)はLINNやヤマハの製品と比べると比較的手頃な価格の本格的なネットワークプレーヤーで、ファイルオーディオへの第一歩を踏み出すための価値ある1台だ。

ヤマハ「NP-S2000」 マランツ「NA7004」

 この2つの機器はいずれもロスレスフォーマットとしてFLACフォーマットに対応しているが、アップル独自規格であるApple Losslessには対応していない(高価なLINN Klimax DSはApple Lossless対応)。逆にアップルのiTunesとiPod/iPhoneではFLACファイルの再生はできない。この2つのロスレスフォーマットは相互乗り入れがむずかしいのが現状だ。

 iPodをメインソースとして使用するのであればApple Losslessでファイル化すればよいが、PCではiTunesで再生できるもののネットワークプレーヤーでの再生は困難で自由が効かない。一方でFLACはiPod/iPhoneで再生できない点が弱点だが、それ以外のソフトウェアや対応機器は豊富で、選択の自由度が極めて大きいのが魅力だ。

筆者は2年かけて手持ちの音楽CDをFLAC化した

 FLACには数多くの対応ソフトがあり、簡単にフォーマット変換ができるので、現時点での1つの理想的なライブラリ構築方法としてはFLACを「マスター音源」として保持して、iPod/iPhoneあるいはウォークマンで聞く曲は別途変換・転送するというスタイルがオススメだろう。

 筆者はこのスタイルで約2年かけて手持ちの音楽CD約600枚をFLAC化した。外で聞きたい音楽はビットレートの高いAACに変換して64GBのウォークマンとiPod nano 6Gで楽しんでいる。家では米Logitech製の「Transporter」というネットワークプレーヤーを使用。高品位サウンドと利便性、そして将来にわたり不安の少ないライブラリ構築を狙い、成功したと思っている。


HD音源
 FLACなどのロスレスフォーマットによる音楽再生の画期的な一面は、音楽CDのフォーマットを超える高音質音源がいともカンタンに再生できてしまうことにある。今まで一般ユーザーが聞くことのできる高音質音源にはSACDやDVD-Audioといったディスクフォーマットがあったがいずれもハードウェア、ソフトウェアへの相応の投資が必要でハードルが高かった。しかしファイルオーディオの世界では音楽CDフォーマットの呪縛から解き放たれ、ファイルをクリックするだけで今まで聞くことのできなかった高品位なサウンドを実に簡単に手中にすることが可能だ。

 音楽CDフォーマットはよく知られているように、サンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16bitで2チャンネルステレオの音声信号をデジタルデータ化している。音楽CDフォーマットを超えるハイサンプリング、ハイビットによる高音質音源は「ハイレゾ」「HD音源」などと呼ばれ、スタジオマスター音源に迫るサウンドが魅力。現在は国内外にHD音源の音楽配信サイトが数多くあり、手軽にマスター音源レベルのファイルを購入することが可能だ。

LINN RECORDS(http://www.linnrecords.com
 LINNは自社のレーベル「LINN RECORDS」の高音質音源を発売していて、日本からも購入が可能だ。音源から始まり、ネットワークを介してLINN製のプレーヤー、アンプ、スピーカーを通じて家の中まで1本のラインでつながる世界観はとても魅力的だ。

HDtracks(https://www.hdtracks.com
 チェスキーレコードが主宰する「HDtracks」はジャズやポピュラーミュージックの歴史的名盤や、独グラモフォンのクラシック・カタログなど数多くのレーベルのHDリマスター音源を販売しており、音楽ファンにとっては目が離せない。日本のクレジットカードでは決済ができないため購入のハードルが少し高いのが残念だ。

 日本国内でもクリプトン(KRIPTON HQM STORE、http://www.kripton.co.jp/service/hqm.htm)、オンキヨー(e-onkyo music、http://music.e-onkyo.com/)といった高音質音楽配信サイトがある。

LINN RECORDS HDtracks KRIPTON HQM STORE

高音質フォーマットの主流となるFLAC
 FLACは音質的なメリットだけでなく、再生の自由度が高い点も魅力だ。FLACフォーマットはDRM(デジタル著作権管理)に対応しないので、HD音源ファイル購入に使用したPC以外でも問題なく再生可能で、フォーマットに対応したメディアプレーヤーであれば特別な制約なしに再生が可能だ。

 たとえばDRM保護されたWMA楽曲の場合、購入に使用したPC以外では基本的に再生はできず、自作PCはサポート対象外。バックアップが不適切だとHDDの交換やOSの再インストールで楽曲を失う可能性があるなど制約はきわめて大きい。最近は音楽配信サイトの高音質フォーマットは完全にFLACに移行している。ユーザーの利便性を考えれば必然的な流れであろう。

唯一のFLAC対応カーナビ、ケンウッド「彩速ナビ」
 高音質フォーマットとして利便性の高いFLACではあるが、ポータブルオーディオ機器での再生対応は現状ではほとんど進んでいない。その中でケンウッドのカーナビ「彩速ナビゲーション-AVENUE」シリーズ(MDV-727DT、MDV-626DT、MDV-525、MDV-323)は、カーオーディオ/カーナビ製品として唯一FLAC再生に対応している。PCで作成したFLACライブラリをそのままSDやUSBメモリーにコピーするだけで、ダイレクトに再生が可能な点は評価に値する。

 彩速ナビはナビゲーション性能と操作レスポンスの優秀さで注目されている人気モデルだが、カーオーディオとしての能力も高い。FLAC再生以外にも、上位3モデル(MDV-727DT、MDV-626DT、MDV-525)はこのクラスとしては画期的なDSP搭載モデルとなっており、車室内の音場補正がデジタルで可能である点も評価ポイントだ。

 車室内では左右のスピーカーまでの距離が運転席、助手席とも不均等になり、これが音場再現や音質に対する大きな阻害要因となっている。DSPによるタイムアラインメント(時間軸補正)を行うことで音場、音質ともに大幅に改善される。これはカーオーディオにとっては必須の機能だ。

カーナビはもちろん、カーオーディオを含めても唯一のFLAC対応機となるのがケンウッドの「彩速ナビ」シリーズ。写真は上位機のMDV-727DT FLACファイルは、SD/SDHCカード、またはUSBメモリー経由での再生が可能。手軽にロスレス音楽をクルマで楽しめる

 「彩速ナビ」は48kHz/16bitを超えるフォーマットには対応していないのでHD音源はダイレクトに再生できない。この点は残念だが、最下位機種のMDV-323でもFLACのほか、MP3/WMA/AAC/WAVに対応している。ロスレス圧縮となるFLAC対応は、ホーム、アウトドア、そしてクルマの中での高音質音楽環境構築の強い味方となることだろう。

 次回はFLACファイルの上手な作成方法と、ライブラリの構築方法について解説する。

(三宅 健)
2011年 8月 29日