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【日産360】2020年までに実用化を目指す自動運転技術「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」

“交通死亡事故ゼロ”の世界の実現に向け第一歩を踏み出した日産

自動運転技術「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」を搭載したEV「リーフ」
2013年8月19日~開催

 日産自動車が8月28日に発表した自動運転技術「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」は、ドライバーを介さずに自律的な車両の運転を可能とする画期的なシステムだ。トヨタ自動車やダイムラーをはじめ、各国の自動車メーカーが同様の取り組みを行っているが、日産は2020年までに複数の車両に搭載して実用化(まずはアメリカ市場と予想)すると明言した初の自動車メーカーとなった。今回はその取材のため、米カリフォルニア州アーバインで開催されたイベント「日産360」に参加した。

自動運転に課せられた定義とは

 「自動運転」と聞いて、皆さんはどんなものを想像するだろうか? 乗り物好きの私としては、「SF映画に登場する近未来的なスマートなクルマ」を真っ先に想像したのだが、実のところ世の中には、すでに自動運転技術が随所に採り入れられている。

 大きなところでは、工場におけるオートメーション化も自動運転の一部と言えるし、各家庭に普及しているエアコンもその1つだ。最近では、外気温の変化に対応するだけでなく、人の居場所を検知しつつ、湿度や消費電力の管理に至るまで、きめ細かな自動運転を行う人工知能を搭載したエアコンも登場した。

 一方、乗り物の世界における自動運転に目を向けてみると、旅客機など航空機全般に採用されている「オートパイロット」が有名だ。速度を一定に保つ機能だけでなく、設定したポイントをたどりながら、刻々と変化する上空での気象変化に対応しつつ、高度や針路なども正確にコントロールする。また、飛行時だけでなく、タイヤが地面に着地した瞬間に最適な制動力を立ち上げる「オートブレーキ」など、着陸時にも自動運転の技術が介入している。

 そもそも自動運転に課せられた定義とは、人(ドライバーや操縦者)が行うべき操作を部分的、または全般的に機械が請け負うことだ。それにより人が操作を行うことで生じる身体的な負担を減らし、疲労を取り除くことで操作ミスを防ぎながら、安全な環境を手に入れることにある。

 人間の眼に代わるカメラや各種センサーに加えて、足や腕に代わる多機能なモーターやアクチュエーターなどの存在。そして、これらを司る高性能なCPUは脳に代わって状況を判断し指令を出す中枢部となる。つまり、クルマで言うところの自動運転とは、運転にまつわる認知/判断/操作の三原則を、システムだけで自律的に完結させることが目的の1つにあるわけだ。

 「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」は、こうした自律的な自動運転を具現化したもので、今回、システムは電気自動車(EV)「リーフ」に組み込まれていたが、なにもEVでなければ自動運転が成立しないわけではない。必要性の是非はともかくとして、パワートレーンに制約はなく理論的には「GT-R」や小型トラックの「NT450」にも搭載することは可能なのだ。

大きく4つのセンサーで常時センシングを実施

メガピクセル対応のCMOS単眼カメラをフロントウインドー上部に装着

 車両に装着されているセンサーは大きく4つ。1つ目はフロントウインドー上部に装着されたメガピクセル対応のCMOS単眼カメラ(モノカラーで120m先まで検知)。2つ目は車体の前後中央/前部左右/側面左右の計6カ所に設置されたレーザースキャナー。3つ目は車体の前後/両ドアミラー下にあるアラウンドビューモニター用カメラ。そして4つ目は車体前方用の長距離(77GHzと予想)ミリ波レーダーと、車体後方の情報を得るための24GHzミリ波レーダーだ。

 アラウンドビューモニターは、すでに全世界73万台もの日産車に搭載して販売されている技術。4つのカメラからの映像をデジタル処理して融合させ、まるで自車を真上から俯瞰しているような画像をモニターに映し出し、駐車時における視界の補助や低速走行時の死角を減らす便利な機能だ。

 実験車両では、これら4つのセンサーからの情報を、速度をはじめとした走行条件によって使い分けつつ、時にはそのいくつかを融合させながら、自車の周囲360°に対して常時センシングを行っている。

 このうち、単独でのセンサー精度が高いのはレーザースキャナーで、実験車両では6つのスキャナーで自車を取り囲むようにセンシングする。測定範囲は最大80mまでと限定的ながら、角度分解度は一定で、その際の測定誤差は数cm単位と極わずかであることを特徴とする。「衝突被害軽減ブレーキ」などで一般的になってきたミリ波レーダーは、測定範囲においては200m(長距離77GHz)程度あるが、測位誤差という点では30cm程度とレーザースキャナーには及ばない。「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」では、駐車車両の側方通過も行うため、誤差の少ないレーザースキャナーを採用している。

レーザースキャナーを車体の前後中央、前部左右、側面左右の計6カ所に設置
車体の前後/両ドアミラー下にアラウンドビューモニター用カメラがある
車内には2つのモニターが備わり、車両360°の状況とCMOS単眼カメラの映像を映し出す。またトランクには自動運転を行うための機材がびっしり積まれている

テストコース内で行われたデモ

信号機のある交差点では、信号の点灯位置を把握して黄/赤信号である場合は停止。写真のように青になると発進

 試乗はテストコース内に模擬された市街地や高速道路を、アクセルとブレーキに一切手を触れずに行った。スタートからしばらくは市街地走行が続く。最初の想定シーンは交差点だ。一時停止の道路標識と白線を認識し、白線手前で一旦停止。交差道路に他車がいないことを確認してから再スタートする。

 信号機のある交差点では、信号の点灯位置を把握して黄/赤信号である場合は停止する。搭載するCMOSカメラは単色カメラであるため、当然、色の識別はできないが、予め各国で定められた道路法規がプログラミングされているため、信号内のどこが赤色であるかを判断しているのだ。ちなみに開発陣によるとカメラをカラー化することも可能だというが、センサーをRGBの順で並べると感度が1/4に下がってしまう(≒解像度が1/4に低下する)問題点が生じるため、現在は採用していないと言う。

 駐車場では、レーザースキャナーや単眼カメラで駐車スペースを探し出し、アラウンドビューモニターの情報をもとに自律走行しながら駐車まで行う。出庫時も同様に、各種センサーからの情報をもとに駐車スペースから発進し、自力でドライバーが指定した場所まで周囲の交通環境にあわせて自律走行する。

 駐車車両により自車進路がふさがれてしまった、いわゆるすれ違いが行われるシーンでは、対向車線に入って進路を確保するわけだが、ともすると対向車線から迫りくる車両と重なってしまうことがある。こうした状況下では、まず対向車線車両との相対速度と距離を測定しながら、やり過ごしてからの進路変更が妥当であればそちらを選択して、安全が確保された段階で駐車車両の側方を通過する。このほか、信号機が設置されていない交差点における優先車両の認識能力もあるため、同乗している身としては、非常に紳士的で模範的なドライバーのようなふるまいをするシステムに親近感すら覚えてしまう。

レーザースキャナーや単眼カメラで駐車スペースを探し出し、アラウンドビューモニターの情報をもとに駐車するデモの様子
各種センサーからの情報をもとに駐車スペースから発進し、自力でドライバーが指定した場所まで周囲の交通環境にあわせて出庫する様子

 高速道路では、合流路でしっかりと加速をしながら本線へ進路変更するタイミングを計る。クルージングはACC(アダプティブクルーズコントロール)で経験している環境そのものなのだが、「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」では、そこから追い越しも行う。その際、自車後方の追い越し車線に他車いる場合、現在の速度差では追い越し途中で車間距離が短くなり危険と判断されるときには、市街地でのすれ違いと同じく、他車をやり過ごしてから追い越しを開始する。

 ドライバーが体調に異変をきたした場合にも自動運転がアシストする。ルーフ前方、ちょうどルームミラーの付け根あたりにあるSOSボタンを押すと、周囲の安全を見極めながら、路肩に停止させてハザードランプを点滅。同時に、エマージェンシーセンターに携帯電話経由で連絡し、停車した自車位置のGPS情報とともに、ドライバーが運転できないことを外部に通達する。日本でも日産、トヨタ、ホンダ、三菱自動車、マツダ、日野自動車などの一部の車両には「ヘルプネット」という同様の緊急連絡システムが搭載されているが、こうした既存の緊急通報システムと自動運転技術の融合は、もうすでに夢の世界の話ではなくなってきたのだと痛感した。

駐車車両の間から人が飛び出してきたときの状況を再現したデモ(飛び出してきたのは人形)。ドライバーがハンドルを握っていなくても自動でハンドルが切れ、人形を避けている
工事などで車線が2車線から1車線に減少するといった状況を想定したデモ。障害物に沿って車線を右から左に移している

自動運転技術の確立に向け第一歩を踏み出した日産

日産自動車 IT&ITS開発部 ITS開発グループの飯島徹也氏

 高い緊急回避能力も「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」ならではの機能。じつは昨年に開催された日産の「先進技術試乗会」において、ハンドルで緊急回避をする実験車両に試乗していたのだが、このときはハンドルで行う緊急回避に必要性を感じなかった。というのも、危険を回避するためにとった急ハンドルでの進路変更により、周囲の安全性が損なわれてしまうのではないかと考えたからだ。

 しかし、測定誤差数cmと高い精度を持つレーザースキャナーによって、周囲に安全な回避スペースが確保された場合にのみ、それが機能するということから、当初考えていたよりもずっと現実味を帯びた緊急回避能力を持っていることが分かった。しかし、そうであったとしても、悪天候下や路面状況によってはハンドルを切っても曲がらない状況に陥るわけで、やはりブレーキによる減速こそ回避の第一歩となるのではないだろうか……。

 「その通りです。ハンドルで避けることは手段の1つであり、当然、ブレーキによる減速で避けることができれば減速で対処します」と語るのは、日産自動車 IT&ITS開発部 ITS開発グループの飯島徹也氏。氏はさらに「現段階でのNISSAN AUTONOMOUS DRIVEは、考え得る自動運転に対する可能性のすべてを体感いただくための車両」であるが、「これがすべてではない」と続ける。

 自律型にこだわる自動運転技術の確立は、万人が願う“交通死亡事故ゼロ”の世界への入り口だ。そのため「NISSAN AUTONOMOUS DRIVE」では、敷かれたレールの上を走るだけの完全なる自動運転を目指したのではなく、ときにドライバーが自動運転をオーバーライドしながら機械との協調運転によって、ヒューマンエラーを極限まで取り除くことを目的とする。自動運転と聞くと、機械が得意とする瞬間的なステアリングさばきや緊急ブレーキの性能など、とかく派手な一面ばかりに目が行ってしまうが、今回の実験車両は、各国における自動運転に対する統一言語を構築していくための第一歩として考えるべきなのだろう。

 次回は開発者である飯島氏と、同じく自動運転の開発に従事されている日産自動車の三田村健氏から伺った、日産の自動運転に対する考え方をお伝えしたい。

(西村直人:NAC)