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橋本洋平のツインモーター4WD搭載「アウトランダーPHEV」を氷結湖面で乗ってみた
ランエボ譲りの4WDシステム「S-AWC」と、パドルコントロールによる回生ブレーキは雪道最強!!
(2014/2/14 08:55)
「三菱自動車工業の『アウトランダーPHEV』を長野県の女神湖氷上で走らせるイベントがあるんですけれど、ご予定いかがですか?」。Car Watch編集者からの電話は、いつもよりどこかウキウキした声に感じた。雪山を愛し、昔は週末の度にスキー板を積んでゲレンデへと向かっていたというCar Watch編集者。雪とか氷とか聞けばそれだけでウキウキなのだろう。だが、愛していたのはスキーだけではない。雪道をクルマと対話しながら走るドライブも大好物。雪道のためにフルタイム4WD車を愛車にしているという。
対する筆者も同類項で括れる人間だ。その昔は映画「私をスキーに連れてって」に影響を受け、スキーにクルマ、そして無線機(もちろん免許も取りました)まで揃え、ゲレンデに向かうまでの道のりを仲間と共に楽しんだクチである。当時乗っていたFRスポーツにムチを入れ、クルマと路面に格闘しながらワインディングを走っていた。それだけに飽き足らず、スキーもせずゲレンデの駐車場で1日クルマを走らせていたこともある。一体何をしに雪山へ行ったのやら(笑)。
そんな雪道偏愛二人組をアウトランダーPHEVが納得させられるか否か。今回の氷上試乗におけるポイントはそこである。
未来を先取りする4WDシステムを搭載した「アウトランダーPHEV」
アウトランダーPHEVはその車名が示すように、充電もできるハイブリッド車、つまりプラグインハイブリッド車という環境対応車としての側面がある一方、ツインモーター4WDという成り立ちを活かし、かつてランサーエボリューションシリーズで培った4輪制御技術をそこに惜しみなく投入することで悪路走破性を高めている。これはすなわちアクティブヨーコントロール(AYC)、アクティブスタビリティコントロール(ASC)、そしてABSを統合制御するS-AWC(Super ALL Wheel Control)が備わっているということだ。駆動力、そして4輪個別でブレーキを操ることで、クルマを曲げる制御もやってのけるのだ。
メリットはそれだけじゃない。アウトランダーPHEVが採用するツインモーター4WDは、プロペラシャフト等の機械的な結合がないためレスポンスは良好。ガソリン車のようなアクセル操作に対するレスポンス遅れが極めて小さく、要求したトルクが即座に展開されるという利点もある。かつて舗装路における試乗でもその辺りのメリットを十分に感じたことがあるが、氷上という悪条件でどう走るかが気になるところだ。
女神湖に訪れてみると、試乗用のアウトランダーPHEVが並べられていた。実はココ、夏場は完全なる湖。クルマが並んでいる場所は湖面なのだ。およそ30cmはあるという氷の厚みで今回のようなイベントができるというわけ。はじめは氷が割れやしないかとヒヤヒヤものだったが、車重1.8tのクルマが何台並ぼうともビクともしない環境を見ていると、そんな心配事も吹き飛んでくる。
そんな湖面だからして、コンセントなんてものがあるハズもなく……。アレ? 充電はどうするんだっけ? ──なんて心配事がまたまた浮かんでくるが、よくよく考えてみればコンセントを探す必要もない。アウトランダーPHEVは、その名が示すとおり単なるEVではなく、ガソリンエンジンを搭載し電気を作り続けることが可能。それを蓄電してモーターを駆動するのだから、ガソリンさえあればコンセントがない状況であってもいつまでも走ることができるのだ。
そんなアウトランダーPHEVに乗り込み、早速氷上を走らせてみる。すると、走り出しから圧倒的な駆動力でグッと加速を重ねてくれる。発進時にフロントホイールがスリップした瞬間、リアのモーターが駆動を開始し、巨体をスルスルと動かすのだ。鈍重な感覚は一切なくスピードを乗せて行けるところに好感が持てる。
ただし、そこまで加速ができてしまうと、今度は止まる&曲がるが心配なところ。試しにドカンとブレーキングを行いコーナーへとアプローチしてみると……。1.8tの車体は素直にコーナーのクリッピングへ向けて旋回を始めるのだ。これは4輪を独立してブレーキ制御し、ヨーを発生させることができるからこそ。ステアリングだけに頼らず、クルマ全体で曲げるための動きを作れるから曲がりやすいのだろう。さらにいえば、ガソリンモデルのアウトランダーに比べて30mmも重心高を下げているということも効いている。床下に総電圧300V、総電力量12kWhを生み出すリチウムイオンバッテリーが備わることをネガとはせず、すべてをポジティブに使おうと狙った形跡がそこに見える。これにはCar Watch編集者も驚き。
Bモードをパドルでコントロールすることで、速くて安全なブレーキが可能に
少し乗っただけでアウトランダーPHEVのよさを感じ取った我々は、さらなるよさを発見しようと限界域を探り出す。狙うはこのイベントの最後に行われるらしい媒体対抗タイムアタック大会での優勝である。そこでアクティブスタビリティコントロールをOFFにし、今度は本気で氷上を攻めてみる。
すると、トラクション方向の制御はドライバー主体になるが、ブレーキングやコーナーリング時の4駆制御は残されていることが判明した。シャシー制御は絶対に変えないという自信の現れか? 人間の右足だけでは絶対にできない4輪制御は最後まで残すのだ。
けれどもそのS-AWCはあくまで安定方向に制御されるということも知った。かつてのランサーエボリューションのように右足のコントロールで派手にドリフトをするようなトルク配分を行うことはできなかった。技術者にそこをうかがえば「やろうと思えばランエボのようにもできるが、あくまでSUVを考えたセッティングとした」とのこと。フロント&リアともにオープンデフとしていることもランエボとは違う。曲げすぎれば横転の危険もあるSUV。そのことをよく知ったセッティングがそこにある。
感心したのはそれだけじゃない。ステアリングに備えられたパドルを操作することで、回生ブレーキ量を任意にコントロールできる点が低μ(ミュー:摩擦係数)路ではかなりのメリットであると確認できたのだ。これはよくあるダウンシフトのようにパドル操作をすればエンジンブレーキが効くように減速を開始。回生ブレーキの介入量を6段階(B0~B5)でコントロールすることが可能だ。
このエンブレならぬモーターブレーキを可能にするこの制御により、ブレーキングをせずして4輪が安定したまま減速する感覚を味わえる。リアにもモーターを備えたアウトランダーPHEVならではの減速の仕方といっていい。フロントエンジンにモーターをプラスしたようなクルマではこうはいかない。回生ブレーキをマックスで効かせたB5モードで走ると、フロントタイヤの負担は明らかに減り、コーナーリングフォースを発生させやすくなるから面白い。はじめに感じたスイスイ曲がる感覚はより一層増してくるのだ。
そこで見えてきた氷上ドライブ最速メニューは、スタビリティコントロールカット+ツインモーター4WD・LOCKモードによってトラクションを稼ぎ、さらに回生ブレーキをマックスにするというセッティングだった。Car Watch編集者とともに「これならイケル!」と思うほどの乗りやすさ。まさかSUVでありPHEVの車両でここまで一体感ある走りが楽しめるとは……。ホントに驚くばかりだ。
さらに我々には元ラリーストの大先輩モータージャーナリスト 日下部保雄氏から伝授していただいた低ミュー路の乗り方がある。それはスタッドレスタイヤの旨味を最大限に活かす走法で、低ミュー路では小刻みにステアリングを動かし(切ったり戻したりするいわゆるソーイング)を行い、常にピークグリップを探れというのだ(詳細は下記の記事参照)。
●氷結路面で1日楽しめる「2014 iceGUARD5 & PROSPEC Winter Driving Park」に参加してみた
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140213_635093.html
アウトランダーPHEVの走りやすさに加え、この走り方があれば我々Car Watchチームは鬼に金棒。試乗会の最後に行われた参加ジャーナリストと編集者との合計タイムで争うタイムアタックイベントでトップになることができた。これは、積極的に回生ブレーキを用いるB5モードの使いこなしが大きく影響したのだろう。
SUVのアウトランダーPHEVでここまでできるのならやっぱり見てみたいのは同様のシステムを思い切り走りに振った“ランエボPHEV”。そんなことを思わせるくらいアウトランダーPHEVの走りは面白い。単なるエコカーだと思ったら大間違いなのだ。