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橋本洋平のツインモーター4WD搭載「アウトランダーPHEV」を氷結湖面で乗ってみた

ランエボ譲りの4WDシステム「S-AWC」と、パドルコントロールによる回生ブレーキは雪道最強!!

ツインモーター4WD搭載「アウトランダーPHEV」をとことん楽しむために女神湖にやってきました。実は前日も「2014 iceGUARD5 & PROSPEC Winter Driving Park」取材のために女神湖にいたのですが……

 「三菱自動車工業の『アウトランダーPHEV』を長野県の女神湖氷上で走らせるイベントがあるんですけれど、ご予定いかがですか?」。Car Watch編集者からの電話は、いつもよりどこかウキウキした声に感じた。雪山を愛し、昔は週末の度にスキー板を積んでゲレンデへと向かっていたというCar Watch編集者。雪とか氷とか聞けばそれだけでウキウキなのだろう。だが、愛していたのはスキーだけではない。雪道をクルマと対話しながら走るドライブも大好物。雪道のためにフルタイム4WD車を愛車にしているという。

 対する筆者も同類項で括れる人間だ。その昔は映画「私をスキーに連れてって」に影響を受け、スキーにクルマ、そして無線機(もちろん免許も取りました)まで揃え、ゲレンデに向かうまでの道のりを仲間と共に楽しんだクチである。当時乗っていたFRスポーツにムチを入れ、クルマと路面に格闘しながらワインディングを走っていた。それだけに飽き足らず、スキーもせずゲレンデの駐車場で1日クルマを走らせていたこともある。一体何をしに雪山へ行ったのやら(笑)。

 そんな雪道偏愛二人組をアウトランダーPHEVが納得させられるか否か。今回の氷上試乗におけるポイントはそこである。

三菱自動車のアウトランダーPHEV。前輪をエンジンとモーターで、後輪をモーターで駆動する先進の4WDシステムを持つ。PHEVは高性能かつ大容量のバッテリーを積んだハイブリッド車と考えれば分かりやすいだろう。充電設備がなくても使えるのが電気自動車と大きく違うところ
最高出力87kW(118PS)、最大トルク186Nm(19.0kgm)の直列4気筒DOHC 2.0リッター MIVEC「4B11」エンジンを搭載するほか、前輪用に60kW(82PS)/137Nm(14.0kgm)、後輪用に60kW(82PS)/195Nm(19.9kgm)のモーターを搭載する
アウトランダーPHEVの試乗会に展示されていたアウトランダー(ガソリン車)。1月31日に静粛性の向上やメッキパーツの追加などが行われた最新モデル

未来を先取りする4WDシステムを搭載した「アウトランダーPHEV」

 アウトランダーPHEVはその車名が示すように、充電もできるハイブリッド車、つまりプラグインハイブリッド車という環境対応車としての側面がある一方、ツインモーター4WDという成り立ちを活かし、かつてランサーエボリューションシリーズで培った4輪制御技術をそこに惜しみなく投入することで悪路走破性を高めている。これはすなわちアクティブヨーコントロール(AYC)、アクティブスタビリティコントロール(ASC)、そしてABSを統合制御するS-AWC(Super ALL Wheel Control)が備わっているということだ。駆動力、そして4輪個別でブレーキを操ることで、クルマを曲げる制御もやってのけるのだ。

試乗の前に、アウトランダーの開発者である三菱自動車工業 商品開発統括部門 C-seg商品開発プロジェクトの上平真氏より、4WDシステムについてのプレゼンテーションが行われた

 メリットはそれだけじゃない。アウトランダーPHEVが採用するツインモーター4WDは、プロペラシャフト等の機械的な結合がないためレスポンスは良好。ガソリン車のようなアクセル操作に対するレスポンス遅れが極めて小さく、要求したトルクが即座に展開されるという利点もある。かつて舗装路における試乗でもその辺りのメリットを十分に感じたことがあるが、氷上という悪条件でどう走るかが気になるところだ。

アウトランダーPHEVが目指したもの
三菱自動車の4WDシステムの歴史
S-AWCのメカニズム
ツインモーター4WDについて
S-AWCの4WDロックスイッチ。これにより、さらなる駆動力を得ることができる
S-AWCのNORMALモード。NORMALモードでも、4輪の制御を行っている
S-AWCの「4WD LOCK」モードであれば、走破性が向上しているのが分かる
性能イメージ
パッケージング

 女神湖に訪れてみると、試乗用のアウトランダーPHEVが並べられていた。実はココ、夏場は完全なる湖。クルマが並んでいる場所は湖面なのだ。およそ30cmはあるという氷の厚みで今回のようなイベントができるというわけ。はじめは氷が割れやしないかとヒヤヒヤものだったが、車重1.8tのクルマが何台並ぼうともビクともしない環境を見ていると、そんな心配事も吹き飛んでくる。

 そんな湖面だからして、コンセントなんてものがあるハズもなく……。アレ? 充電はどうするんだっけ? ──なんて心配事がまたまた浮かんでくるが、よくよく考えてみればコンセントを探す必要もない。アウトランダーPHEVは、その名が示すとおり単なるEVではなく、ガソリンエンジンを搭載し電気を作り続けることが可能。それを蓄電してモーターを駆動するのだから、ガソリンさえあればコンセントがない状況であってもいつまでも走ることができるのだ。

「おー、充電器は~どこですか~」。心配ありません、アウトランダーPHEVはガソリンだけあれば問題なく動きます
「この辺りで充電できますか~」。心配ありません、SUVのアウトランダーはガソリンだけで動きます。もちろん充電すれば燃費は劇的によくなります
アウトランダーの充電リッド。普通充電用と急速充電用の2つを備える。急速充電器の整備は急速に進みつつあるので、両方あるのは便利

 そんなアウトランダーPHEVに乗り込み、早速氷上を走らせてみる。すると、走り出しから圧倒的な駆動力でグッと加速を重ねてくれる。発進時にフロントホイールがスリップした瞬間、リアのモーターが駆動を開始し、巨体をスルスルと動かすのだ。鈍重な感覚は一切なくスピードを乗せて行けるところに好感が持てる。

4輪ドリフトなんてこともできる
氷結路面で定常円旋回中のアウトランダーPHEV。アウトランダーPHEVではランエボと異なり、安定方向の4輪制御が行われている。前輪と後輪の回転速度が異なるのが分かるだろうか。前輪のトルク配分を多めにすることで、ステアリングを切った方向に進みやすくなり、お尻のスライド量も抑えられる。つまり安心な運転をしやすいわけだ

 ただし、そこまで加速ができてしまうと、今度は止まる&曲がるが心配なところ。試しにドカンとブレーキングを行いコーナーへとアプローチしてみると……。1.8tの車体は素直にコーナーのクリッピングへ向けて旋回を始めるのだ。これは4輪を独立してブレーキ制御し、ヨーを発生させることができるからこそ。ステアリングだけに頼らず、クルマ全体で曲げるための動きを作れるから曲がりやすいのだろう。さらにいえば、ガソリンモデルのアウトランダーに比べて30mmも重心高を下げているということも効いている。床下に総電圧300V、総電力量12kWhを生み出すリチウムイオンバッテリーが備わることをネガとはせず、すべてをポジティブに使おうと狙った形跡がそこに見える。これにはCar Watch編集者も驚き。

「この4WDロックスイッチがポイントっす」
アウトランダーPHEVのコクピット。頑丈かつ職場感が漂うデザイン。三菱車はこのようなデザインが本当にうまい
セレクトレバーと4WDロックスイッチ。その間には、常に充電を行うチャージモードスイッチなどがある
真ん中のスイッチがアクティブスタビリティコントロール(ASC)スイッチ。3秒長押しすると、トラクションコントロール機能、スタビリティコントロール機能がOFFになる。姿勢作りをしたかったのでOFFにするなどした。Car Watch編集者はONのほうが走りやすかったとのこと

Bモードをパドルでコントロールすることで、速くて安全なブレーキが可能に

 少し乗っただけでアウトランダーPHEVのよさを感じ取った我々は、さらなるよさを発見しようと限界域を探り出す。狙うはこのイベントの最後に行われるらしい媒体対抗タイムアタック大会での優勝である。そこでアクティブスタビリティコントロールをOFFにし、今度は本気で氷上を攻めてみる。

 すると、トラクション方向の制御はドライバー主体になるが、ブレーキングやコーナーリング時の4駆制御は残されていることが判明した。シャシー制御は絶対に変えないという自信の現れか? 人間の右足だけでは絶対にできない4輪制御は最後まで残すのだ。

 けれどもそのS-AWCはあくまで安定方向に制御されるということも知った。かつてのランサーエボリューションのように右足のコントロールで派手にドリフトをするようなトルク配分を行うことはできなかった。技術者にそこをうかがえば「やろうと思えばランエボのようにもできるが、あくまでSUVを考えたセッティングとした」とのこと。フロント&リアともにオープンデフとしていることもランエボとは違う。曲げすぎれば横転の危険もあるSUV。そのことをよく知ったセッティングがそこにある。

「雪道や凍った道の運転は楽しいっす」

 感心したのはそれだけじゃない。ステアリングに備えられたパドルを操作することで、回生ブレーキ量を任意にコントロールできる点が低μ(ミュー:摩擦係数)路ではかなりのメリットであると確認できたのだ。これはよくあるダウンシフトのようにパドル操作をすればエンジンブレーキが効くように減速を開始。回生ブレーキの介入量を6段階(B0~B5)でコントロールすることが可能だ。

アウトランダーPHEVのメーターパネル。中央のMFD(マルチファンクションディスプレイ)上部にはS-AWCの動作具合を示す表示がある。その下部にはポジションインジケータがあり、ここにBモードのレベルが表示される
走行中のS-AWC動作表示。前後トルクやヨーモーメントが表示される
「ここ、このパドルがポイントっす」。パドルでBモードのレベルを変更でき、回生ブレーキ量をスムーズに変更できた

 このエンブレならぬモーターブレーキを可能にするこの制御により、ブレーキングをせずして4輪が安定したまま減速する感覚を味わえる。リアにもモーターを備えたアウトランダーPHEVならではの減速の仕方といっていい。フロントエンジンにモーターをプラスしたようなクルマではこうはいかない。回生ブレーキをマックスで効かせたB5モードで走ると、フロントタイヤの負担は明らかに減り、コーナーリングフォースを発生させやすくなるから面白い。はじめに感じたスイスイ曲がる感覚はより一層増してくるのだ。

 そこで見えてきた氷上ドライブ最速メニューは、スタビリティコントロールカット+ツインモーター4WD・LOCKモードによってトラクションを稼ぎ、さらに回生ブレーキをマックスにするというセッティングだった。Car Watch編集者とともに「これならイケル!」と思うほどの乗りやすさ。まさかSUVでありPHEVの車両でここまで一体感ある走りが楽しめるとは……。ホントに驚くばかりだ。

 さらに我々には元ラリーストの大先輩モータージャーナリスト 日下部保雄氏から伝授していただいた低ミュー路の乗り方がある。それはスタッドレスタイヤの旨味を最大限に活かす走法で、低ミュー路では小刻みにステアリングを動かし(切ったり戻したりするいわゆるソーイング)を行い、常にピークグリップを探れというのだ(詳細は下記の記事参照)。

●氷結路面で1日楽しめる「2014 iceGUARD5 & PROSPEC Winter Driving Park」に参加してみた
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140213_635093.html

タイムアタックイベントでトップとなり、副賞として「パジェロ」のRCカーをいただいた。これは別途読者プレゼントとして提供予定

 アウトランダーPHEVの走りやすさに加え、この走り方があれば我々Car Watchチームは鬼に金棒。試乗会の最後に行われた参加ジャーナリストと編集者との合計タイムで争うタイムアタックイベントでトップになることができた。これは、積極的に回生ブレーキを用いるB5モードの使いこなしが大きく影響したのだろう。

 SUVのアウトランダーPHEVでここまでできるのならやっぱり見てみたいのは同様のシステムを思い切り走りに振った“ランエボPHEV”。そんなことを思わせるくらいアウトランダーPHEVの走りは面白い。単なるエコカーだと思ったら大間違いなのだ。

ARアプリ「三菱自動車×ガールズ&パンツァー 自動車道 三菱流」でアウトランダーPHEVをパチリ。西住殿もアウトランダーPHEVに乗車したら、雪道や氷結路の走破性の高さに驚かれることだろう

(橋本洋平)