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TEAM MIRAI、2014年は“レーシングミク”仕様のEVバイクでパイクスに挑戦
レース参戦で技術を進歩させ、EVバイクメーカーを目指す
(2014/3/26 00:00)
TEAM MIRAIは3月24日、東京・秋葉原にある秋葉原UDXで6月23日~29日に開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム2014」の参戦体制を発表した。
TEAM MIRAIを運営するMIRAIは、愛知県一宮市にあるEVバイクの開発と販売を行っているベンチャー企業。EVバイク開発の一環として2011年からイギリス王室自治領のマン島で行われているバイク競技「マン島TT」に参戦しており、2013年も「TT零13」で挑戦。2014年からはTT零13をバージョンアップさせた「TT零13改」を開発し、レースの舞台をアメリカ・コロラド州のパイクスピークで開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(PPIHC)」に移すことになった。
TT零13改 主要スペック | |
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全長×全幅×全高 | 2010×700×1121mm |
フレーム | トライアンフ 675R |
スイングアーム | アドバンテージ製オリジナル |
重量 | 143kg |
モーター | DCブラシモーター |
ブラシ | オーパック製 |
最高出力 | 100PS/6000rpm |
バッテリー形式 | リチウムイオンポリマー電池 |
バッテリー電圧 | 92.5~111V |
タイヤ(前後) | 120/70 ZR17/180/55 ZR17 |
パイクスピークとはロッキー山脈にある山の1つで、ここを舞台にするPPIHCは、2輪、4輪のマシンが参加するタイムアタック競技。アメリカで最も歴史が古いバイクレースとなっているが、PPIHCの特徴は歴史だけではない。
日本ではなじみが薄いが、アメリカやヨーロッパでは麓から頂上を目指して峠道を駆け上がる「ヒルクライム」がメジャーなモータースポーツとなっており、PPIHCの舞台となるパイクスピークは、ゴールとなる頂上の位置がほかのレースイベントとはかなり違う。その標高は4301mとなっており、そもそもスタート地点も標高2862mという高い場所に設定されている。このような高地を全開で駆け上がるレース車両の姿から「雲へ向かう競技」とも表現される。
このPPIHCにはさまざまなクラスが設けられているが、TT零13改が参加するのは2014年から新設されたEVバイククラス。今回が初開催となるクラスだけに、ライバルの状況からコースとEVバイクのマッチングなどは一切不明だが、なにも分からないのはほかのチームも同様だ。それだけに「出場するすべてのチームに優勝するチャンスがある」とも言えるだろう。
企業、個人を問わず「仲間」が支えるMIRAIの活動
冒頭でも紹介したように、ベンチャー企業であるMIRAIは多額の開発費が必要となるプロトタイプEVバイクをレースで走らせるための資金力に乏しい。しかし、MIRAI 代表の岸本ヨシヒロ氏の「電動バイクの発展を目指す」という目標に賛同する協力者が存在する。
その協力者とは、参戦体制発表会に出席したチームのメインスタッフや協賛企業に加え、MIRAIとTT零13改の活動を応援するファンたち。TEAM MIRAIではファンがスポンサーとなる「個人スポンサー制度」のほか、もっと深く「仲間」としてチームを支えてくれる人を対象にした「フェロー制度」も用意している。TEAM MIRAIの活動は、そんな個人スポンサーやフェローとなった企業、個人によって支えられている部分が大きい。
また、TEAM MIRAIをサポートする企業の1つに、SUPER GTの強豪チームとして「GSR 初音ミク BMW」を走らせる「グッドスマイルレーシング」がある。グッドスマイルレーシングと言えば、レーシングカーのボディーに貼られた「初音ミク」のイラストが最大の特徴。音声合成システムの「VOCALOID」として初音ミクが2007年にリリースされた当時は“新しい時代の音楽”と呼ばれ、ユーザーによって育てられて一大メディアに成長した。
そんな初音ミクを登用するグッドスマイルレーシングもファンによって支えられているチームであり、MIRAIが開発を続けている電動バイクも「これからの乗り物」。さらにサポートしてくれる仲間の存在によって育てられている部分などはグッドスマイルレーシングの活動と重なる部分があり、これに共感したグッドスマイルレーシングが2013年からTEAM MIRAIとコラボレーションをスタートさせている。その証としてTT零13改のカウルには、2014年仕様のGSR 初音ミク BMWでも使用されている「レーシングミク 2014 Ver.」のイラストがデザインされている。
スポーツタイプ電動バイクの走らせ方とは
さて、やはり気になるのはTT零13改を走らせたときのフィーリングだが、これについて本番のPPIHCでもライダーを務める岸本代表に質問してみた。まず、動力がモーターということで、アクセルを開けた瞬間から急激にトルクが立ち上がるイメージだが、TT零13改に使っているモーターは高回転型。低回転域のトルクが穏やかな出力特性なので、ガソリンエンジンのようなアクセルワークも可能になっている。そのため、アクセル操作がとくにシビアということもないという。
ただ、エンジンと違ってアクセルオフにしたときのエンジンブレーキはない。それが影響するのがコーナー進入時で、エンジンブレーキが発生すれば自然とフロントタイヤに荷重が掛かってグリップが強まり旋回力も生まれるが、現在、TT零13改のモーター制御システムではエンジンブレーキの代わりになるものはないので、コーナー進入時はフロントブレーキを意図的に残し、それでフロント荷重状態を作り出しながらターンインするライディングだという。
運動性能的にはモーター、バッテリーという重量物をマスの中心位置にレイアウトし、動きの軽さを作り出す。さらに2013年式と比べて2014式はバッテリーを小型化し、そのほかも各部で軽量化を図った。その結果、車重143kgという250ccバイク並みに重量を抑えているので、その面でバイクの動きはかなり鋭くなっているとのこと。PPIHCのコースはストレートがあまりなく、コーナーが続くレイアウトなのでTT零13改の動きのよさは生きるはずだと説明された。
困難もトラブルもすべて経験値に変換、そして完成度を高める
EVバイクを使うことで心配な点もある。モーターは特性上、ハイスピードを維持できる巡航状態では電力を絞った省エネ運転が可能だが、低回転から高回転に回転数を上げるときには多くの電力を消費する。そのため、アクセルのON/OFFが激しいコースではバッテリーの消耗が早いのだ。さらに、常時強い電気が流れていると発熱量も多くなり、TT零13改に使っているモーターはブラシ式なのでブラシが回転する摩擦でも熱が発生する。そしてその熱が一定以上の温度になると、いわゆる「熱ダレ」が起こりやすくなるのだ。
これを防ぐためにTT零13改のカウルは、外側と内側にモーターやベアリングを冷却するためのダクトが設けられていて、これまでのテストではとくに問題は出ていないという。標高が高いパイクスピークは酸素密度も少ないため気温も低くなることから、熱によるトラブル発生の危険性は大きく低下する。
ちなみに、EV関連の技術に詳しい人は「モーターを最新のブラシレスタイプにすれば熱の問題で有利になるし、出力もさらに上がるはずだ」と思うかもしれない。それは確かに正解ではあるが、そこには大きなハードルが存在する。それはモーターの価格だ。ブラシ式モーターとブラシレスモーターでは金額が1桁異なる。実際に去年のマン島TTでは、資金が豊富なメーカー系チームだけがブラシレスモーターを使っていたという。
しかし、実はこの部分こそMIRAIがチームを運営してPPIHCに参戦する大きな理由となっている。競技を通じてEVバイクの技術を進歩させ、EVバイク開発のキモである高出力で低価格なモーターを生み出していくことが目標。つまり、将来的にはモーターやシステムなどをすべて自社で手がけるEVバイクメーカーになることがMIRAIの最終目的であるという。
2014年のPPIHCは6月23日~29日の期間で開催される。このレースには日本からも自動車メーカーや有力チームも数多く参加する。そういったチームやマシンは多くのメディアで報道されるはずだが、そこに混じって、小さいけれど強い気持ちを持って挑戦するTEAM MIRAIにも、ぜひ注目して頂きたい。