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本田宗一郎の夢、小型ビジネスジェット機「HondaJet」が羽田空港に初飛来

ホンダのパーソナルモビリティが陸から空へと離陸へ

2015年4月23日開催

羽田空港に着陸したホンダの小型ビジネスジェット機「HondaJet」
HondaJet解説映像

 本田技研工業は、同社の子会社となるホンダ エアクラフト カンパニーが開発を続けてきた小型ジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」の日本でのお披露目「HondaJet World Tour in Japan 2015」を、4月25日の仙台空港を皮切りに日本各地の空港で開催する。

 それに先立つ4月23日、東京国際空港(羽田空港)において記者会見を開催するため、日本にHondaJetが飛来した。

着陸態勢の「HondaJet」。小型ビジネスジェット機のため、機体はコンパクト

 航空機開発はホンダの創業者である本田宗一郎氏の夢であり、HondaJetはそれを具現化した製品として大きな話題となっていた。機体サイズは、全長12.99m、全高4.54m、翼幅12.12m。定員がパイロットを含めて7名という小型ビジネスジェット機なり、米国などを中心にプライベートジェット機として販売が始まっている。

ホンダ提供によるコクピット写真
ホンダが公開した機内写真など
発表会場に展示された「HondaJet」の搭載エンジン「HF120」

HondaJetが日本の空にやってくる。記念記者会見実施

 「HondaJet World Tour in Japan 2015」は、今週末より日本各地の空港(4月25日仙台空港、4月26日神戸空港、4月29日熊本空港、5月2日〜3日岡南飛行場、5月4日成田空港)で行われ、HondaJetがお披露目される。

 羽田空港では、お披露目に先立ち記者会見が実施された。

 会見は15時30分ぐらいから始まったが、HondaJetは14時30分前後に羽田空港のC滑走路に着陸。その後、記者会見場であるANA(全日本空輸)の整備ハンガーまでタキシングして到着した。報道陣が待ち構えていたANAの整備ハンガーのドアが開けられると、そこにはN420HEの機体記号がつけられたHondaJetが駐機していた。

 HondaJetからは、ホンダ エアクラフト カンパニーの藤野社長が降り立ち、同日発表となった新型「ステップワゴン」に乗り移るというセレモニーが行われた。その後、HondaJetはトーイングカーに引かれ、ハンガーの中のセレモニー用の駐機場所まで移動した後、記者会見が始まった。

羽田空港内をタキシング中のHondaJet
ANA整備ハンガー前に停止したHondaJet、機体記号はN420HE
停止後、ドア兼タラップが降ろされる
ホンダ エアクラフト カンパニーの藤野社長が降機
新型ステップワゴンに乗り換えて、会場へ移動
航空牽引車に引かれてハンガーの中へ移動

ホンダが創業者、本田宗一郎以来持ち続けた、空への夢を具現化したHondaJet

空への夢を具現化したHondaJet

 記者会見の冒頭で挨拶に立ったのは、本田技研工業 代表取締役 社長執行役員 伊東孝紳氏。伊東氏は「ホンダは、創業以来空への夢を持ち続けてきた。それは同時に本田宗一郎の夢であり、3次元のモビリティへの参入という夢の実現だ」と述べた。ホンダは創業(1948年、昭和23年)以来、航空産業への参入を目指しており、それがホンダの創業者である本田宗一郎氏(故人)の夢であると紹介。ホンダはこれまで、2輪、4輪、そして船外機などにより陸海とパーソナル向けの乗り物を提供してきたが、HondaJetでそれが空にも広がり、ついに夢が叶ったという。

 その上で伊東氏は「ホンダは1986年からジェット機用エンジンに参入することを決め、HondaJetに関しては1997年より開発を開始している。それぞれ大変な開発だったが、ホンダのチャレンジングスピリットの精神で開発を続けてきた。その結果として、クラストップの低燃費と低騒音製を兼ね備えた新世代エンジンを採用するなど、性能、快適性において小型ビジネスジェット市場に新しいスタンダードを切り拓く飛行機になったと自負している」と述べ、開発には自動車とは比較にならないぐらいの期間がかかったが、その分満足できる仕上がりになったと強調した。

 伊東氏は「ホンダは常に新しい技術に向かってチャレンジするモビリティカンパニーでありたい」と述べ、「これからも2輪、4輪など従来の枠組みにとらわれず、様々な形のモビリティ(乗り物)を提供する会社になっていきたい」という意気込みを表明し、挨拶をまとめた。

本田技研工業株式社会社 代表取締役 社長執行役員 伊東孝紳氏
航空事業参入はホンダ創業者 本田宗一郎氏の夢だった
ホンダの持つチャレンジングスピリット
新しいことに果敢にチャレンジすると伊東社長
性能、快適性において小型ビジネスジェット市場に新しいスタンダードを切り開く飛行機
GE-Honda製のジェットエンジンHF120は同クラストップの低燃費と低騒音性を実現

同クラスの飛行機に比べて、速く、高く飛べて、低燃費でしかも乗客が快適

 ホンダの伊東社長に続き、HondaJetの開発、製造を担当している子会社ホンダ エアクラフト カンパニーの藤野道格 社長がHondaJetの技術概要を説明した。藤野氏は「日本の皆さんに間近で見ていただく機会を待ち望んでいたので、今回このようにお見せできることは感無量だ」と、日本で初めてHondaJetをお披露目することができて非常に嬉しいと述べた。

 藤野氏はHondaJetの特徴として「高性能、高燃費、快適性、高品質、この4つが共存している」と述べ、それぞれの特徴に関して説明した。最初に藤野氏が強調したのは、エンジンの置き方だ。藤野氏は「主翼の上にエンジンを置く配置にしており、エンジンの支持構造を取り払っている。それにより居住性と燃費を最大化している」とし、通常のジェット機のようにエンジンを主翼の下に取り付けると必要になる、支持構造(エンジンが脱落しないようにする構造物のこと)をなくすことができ、その分だけ重量を減らして燃費を改善し、胴体のスペースをより多く客室などに割くなど効率よく使うことができると説明した。

 主翼も独自に開発しており、自然層流翼(NLF)と呼ばれる形の主翼を開発することで、世界最高の揚抗比を実現し、結果的にクラス最高の燃費と高速性能を実現しているという。その主翼が取り付けられている胴体に関しても独自開発のカーボンコンポジット(複合材製胴体)にすることで軽量化を実現した。

 また、コックピットには高解像度のディスプレイとタッチスクリーンを持つ新開発の先進アビオニクス(航空機用電子機器)を採用しているという。藤野氏によれば、2つのタッチパネルでさまざまな操作ができ、従来の同クラスの飛行機に比べて操作性が向上しているとのこと。

 こうしたHondaJetだが、藤野氏によれば最高速度は420ノット(778km/h)と同クラスの飛行機と比較して16〜80ノットほど速く、燃費では同クラスの飛行機よりも12〜17%優れており、最高高度は4万3000フィート(1万3106m)とやはり他の同クラスの飛行機に比べて2000フィートほど優れているとした。「4万1000フィートに達するまでは20分程度と非常に速く、4万3000フィートまでも20数分程度だ」とのことで、いずれの指標でも性能面では同クラスの飛行機を上回っていると述べた。

 「キャビンの大きさも余裕があるように作っており、同クラスの他機種では向かい合わせのシートの長さが183cmであるのに対して、HondaJetでは218cmとなっており、この点でもクラス最高だ」と語り、性能や燃費だけでなく、乗客の快適性に配慮していることも長所だと強調した。

ホンダ エアクラフト カンパニー 社長 藤野道格氏
HondaJetの特徴は高性能、高燃費、快適性、高品質の4つ
主翼の上にエンジンが搭載されている
通常は主翼の下などにエンジンを配置するが、それとは逆のユニークな構造
自然層流翼(NLF)
カーボンコンポジットの胴体
新開発の先進アビオニクス
最高速は420ノットでクラス最高
燃費も他社と比較して12〜17%改善でクラス最高
最高高度も4万3000フィートでクラス最高
乗客の居住性もクラス最高

日本ツアーでの見所は主翼やエンジン取り付け部の空力設計や低いエンジンノイズなど

 藤野氏はHondaJetの開発の歴史に関しても説明し、「HondaJetは2011年から基本的なテストを行い、昨年の6月には量産レベルの飛行機の飛行テスト、9月からはご購入いただいた顧客の試乗会などを行っている。現在はお客様へのデリバリーに備えて、パイロットに向けたフライトシュミレータを導入する準備に入っている段階」と述べ、量産機のデリバリー(顧客への引き渡しのこと)に向けて最終段階に入っているとした。

 現在は、デリバリーを控えて、4月と5月にワールドツアーが行われている。「ヨーロッパ最大のビジネス航空ショー EBACE(European Business Aviation Convention & Exhibition)に参加し、欧州で初公開する。その後ヨーロッパ各地でディーラーなどを回って、お客様に体験飛行してもらう予定。そこに行く前に、日本のお客様に見ていただきたいというホンダの意向もあり、4月23日〜5月4日に日本ツアーをすることにした」と述べ、欧州での初公開の前に日本でツアーを組んだ意図を説明した。

 一般的にこうした小型ビジネスジェットの市場は、北米が最大で、次いで欧州、南米となっており、日本を含むアジアでの需要は今のところはそれほど大きくない。従って、今回の日本ツアーはビジネス的な理由というよりは、ホンダの母国である日本のファンに対する“ファンサービス”として企画されているのだろう。ただ、小さいとはいえ日本にもビジネスジェットのニーズはあるため、日本ツアーにおいて、4月27日〜28日に成田空港で顧客向けの試乗会が行われる予定であることを藤野氏は明らかにした。

 こうした日本ツアーでは、4月27日〜28日の顧客向けの試乗会を除き、一般公開イベントでの試乗のチャンスは残念ながらないという。このため、一般向け公開では駐機状態での展示と、デモフライトが中心になる。藤野氏は「主翼の取り付け、エンジンの形状などが特徴的になっており、見ていただければ空力設計で効率を上げようとしていることが分かってもらえると思う。例えば主翼に関しては表面が非常にきれいな整形になっており、理論的にベストな性能を得るように製造をしている。そうした製造技術を分かってもらえると嬉しいし、地上での低空飛行などではエンジンノイズが低いことなどが実感してもらえると思う」と述べ、一般公開イベントでの見所を説明した。

 なお、HondaJetは100機以上がすでに受注済みで、北米や欧州に構築しているディーラーネットワークを通じて、販売とサポートを行っていくと説明した。

2010年の量産機の初飛行に成功してから経た開発の各段階
今後のワールドツアーのスケジュール。欧州でのツアーの前に日本でツアーが行われる
日本ツアーの予定
日本ツアーの見所
北米や欧州ではディーラーネットワークなどがすでに構築されている
北米では顧客向けの試乗会が既に行われている

1997年にコンセプトのスケッチを開始してから量産型のデリバリーまで実に18年

 藤野氏はHondaJetを開発、製造しているホンダ エアクラフト カンパニーに関しても説明を行った。ホンダ エアクラフト カンパニーは、米国ノースカロライナ州グリーンズボロにあるグリーンズボロPTI空港の敷地内にあり、従業員数は1300人で、研究開発から、製造、販売、アフターサービスまで一貫して行っているとのこと。藤野氏は「最新のIT技術を導入しているのが特徴、顧客の発注から、製造、サポートまですべてITで接続されている」と述べ、ITを積極的に導入して効率を上げていると強調した。

 工場では18機並んで製造しており、最終的な認証を待っている段階だという。すでに説明したとおり、今年の3月からは、パイロットが訓練に利用するフライトシミュレータが設置され、それにも取り組める段階になっているという。

 最後に藤野氏はHondaJet開発の歴史について触れ「1997年にコンセプトのスケッチから始め、その後2年間はその技術が実現できるのかを検証する基礎研究を行い、実現できると踏んでから、コンセプト実証機の初飛行を2003年に行った。その後、2005年にEEA Airventureという航空ショーで初公開をしたが、その時の反響が大きく、事業化して会社を設立することができた。それからはビジネスプロセスの構築やFAAの認定をとるなど適合性を一つひとつ確認しながら部品を作り、2010年に最初の量産型初号機を飛ばすことができた」と説明。そして検討を始めてから18年後の2015年に日本でのデモフライトが実現した。

 18年といえば、その時生まれた赤ちゃんが大学生となるだけの時間であり、いかに飛行機が長期的な視野に立って取り組まなければいけないビジネスであるかが分かるだろう。

ホンダ エアクラフト カンパニーの概要
開発から、製造、販売、サプライチェーンまで一貫して提供している
量産機の組み立て最終ライン、現在18機が組み立てられているという
パイロット訓練用のフライトシミュレータも設置が終わっているという
30カ国以上の国籍の社員から構成されている多国籍なチーム
HondaJet開発の歴史、1997年にスケッチからスタートして、実に18年だ……

HondaJetのノーズはフェラガモのハイヒールからヒントを得ている

 記者会見終了後には、ホンダの伊東社長、ホンダ エアクラフト カンパニー藤野社長などが参加しての質疑応答が行われた。以下に一問一答形式で紹介する。

──ホンダにとっての航空産業参入の意味。航空業界は保守的で、安全性が重視される業界。既にエンブラエルやセスナなどの老舗がいる小型ジェット機に参入する勝算は?また、今後ラインナップを増やしていく計画はあるのか?
伊東氏:挨拶でもいったけど、ホンダはパーソナルモビリティを提供しようという会社。2輪、4輪をやってるけど、それを空へ拡張する。それが本田宗一郎の夢でもあるし、パーソナルモビリティを陸海空へと広げていく、ホンダにとっての大きなステップになる。

藤野氏:航空機は工業製品として最高の安全性、信頼性が必要になる。FAAによる認定は非常に厳しく、部品1つ1つに関しても認定を取得しなければならないほど。でも逆にそうしているので信頼性は高いし、そういう厳しい基準を満たしていることが大事。もう1つ指摘しておきたいのは、飛行機の安全性というのはこの20〜30年で大きく向上しており、今とそうした過去では安全性の基準が違う。確かに競合他社は既に確立されているブランドではあるが、我々のHondaJetは最新の安全基準で認定されていることを強調しておきたい。性能だけでなくそうした安全性や信頼性にも自信をもっている。

 次のモデルに関しては隣に上司が座ってますので、あまり言えません(笑)。が、航空機事業を始めた以上は、なんとかやっていきたいと考えています。ホンダが航空事業に参入したからには、自動車でアメリカの自動車文化に影響を与えていったように、航空事業でも新しい文化を持ち込みたいと考えている。

──ホンダは昨年リコールなどが多発したが、安全性については大丈夫なのか?
伊東氏:飛行機というのは非常に厳しい基準をもって作られている。過去の経験からそうした基準は年々厳しくなっているし、そうした基準を学びながらお客様に絶対に迷惑をかけないようにという信念で長くやってきた。安全性には自信を持っているし、これからも研鑽を続けたい。

──最初の航空機エンジンに参入から29年かけてようやくこの形になったが、その間に苦労したエピソードを教えてほしい。また、今回のHondaJetのノーズはフェラガモの靴からヒントを得ているという話もあるが、それは本当なのか?
藤野氏:29年間のことをこの短い時間に説明するのは難しいが、何か壁にぶち当たる度に多くの人に助けてもらってここまでこれた、社内、社外問わず感謝したい。

 フェラガモの話をすると、若い頃には計算をしてから理論を組み立てるという思考方向だったが、経験を積んでくるとむしろ最初に思いついてそれを理論で組み立てていくというように思考プロセスが変わってきた。

 今回のHondaJetをどのようなデザインにしようかと考えた時に、ハワイの免税店でフェラガモのハイヒールを見て、美しさとか人間工学を極めて今の形に到達しているのではないかと考えた。それで美しい先端形状をヒントにした、大まかな形状を作った。その後で実際に空力学的に最適な形状などを計算して現在の形状に行き着いた。

──日本での需要もあると思うが、そうした需要に応えるサービス体制や、官公庁への売り込みは考えているか?
藤野氏:以前は日本ではあまり需要がないと考えていたが、最近では問い合わせもある。アメリカで登録するために購入している日本のユーザーさんもいらっしゃる。また、日本の航空当局に対して、日本でも小型ビジネスジェットが使えるように規制緩和の働きかけをしている熱心な方もいらっしゃるなど、私個人としてはそうしたお客様がいらっしゃるなら可能性はあると考えている。

 官公庁に関してもあらゆる可能性があると考えている。今後政治家や官僚などの仕事がより忙しくなるが、地方で(夜の)11時とか12時まで仕事をしても、東京に帰ってくることができる。時間や仕事の効率、そしてその仕事が多くの方にメリットがあるという仕事では採算性が十分にあるのではないかと考えている。ぜひHondaJetを使われるということを期待して日本市場を見ていきたい。

──アジア市場での可能性は?
藤野氏:アジア市場のポテンシャルは高い。現在は北米がトップでそれに次いで欧州、南米が大きなビジネスジェット市場になっている。アジアは2020年には南米を抜くのではないかと考えている。そういうタイムスパンでみたときには、有望な市場。燃費が高いHondaJetには高い市場性があるのではないかと考えている。

(笠原一輝 / Photo:高橋 学)