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ホンダ、「HondaJet」日本発売発表会。価格は約5億7800万円

「ビジネスジェットの市場を作り、試金石になることが目標」とHACI 藤野氏

2018年6月6日 開催

「HondaJet Elite」の受注開始発表会の登壇者。左からホンダ エアクラフト カンパニー 代表取締役社長 藤野道格氏、本田技研工業株式会社 代表取締役社長 八郷隆弘氏、丸紅株式会社 輸送機グループCEO 常務執行役員 氏家俊明氏、丸紅エアロスペース株式会社 代表取締役社長 遠矢源太郎氏

 本田技研工業の航空機事業子会社 HACI(ホンダ エアクラフト カンパニー)は6月6日、小型ビジネスジェット機「HondaJet Elite」を日本市場で受注開始。同日に東京 青山の本田技研工業本社で記者発表会を開催した。

 HondaJet Eliteは、2014年5月に量産1号機が初公開された「HondaJet」のアップグレードモデル。12.99×12.12×4.54m(全長×全幅×全高)の機体にGE Honda エアロエンジンズ製の「HF120」型エンジンを搭載。最大巡航速度は約782km/h(422ノット。高度3万フィート時)で、航続距離は従来のHondaJetから約17%アップの2661kmを達成。2018年度の価格は525万米ドル(約5億7800万円)。

発表会の会場壇上で展示されていたHondaJet Eliteの模型
HondaJet Eliteの模型
会場の壁一面を使い、HondaJet Eliteの「ほぼ原寸大」というイラストを紹介
演台の背景にもHondaJet Eliteのイラストが

HondaJet Eliteは「次の次元の性能を実現したHondaJet」

本田技研工業株式会社 代表取締役社長 八郷隆弘氏

 発表会では最初に、本田技研工業 代表取締役社長の八郷隆弘氏が登壇。八郷氏は日本市場でもHondaJetの展開をスタートすることになり、日本における型式証明の取得手続きを開始したことに加え、販売ディーラーとなる「HondaJet Japan」を設立。同日から受注を始めたことを発表した。

「ホンダは創業以来、モビリティカンパニーとして、皆さまに自由な移動の喜びを提供することに取り組んでまいりました。そうした中、空を自由に移動できるモビリティの実現は、ホンダにとって創業当初からの夢でした。この夢の実現を目指して、1986年に始めた航空機の研究・開発は『HondaJet』という形で実を結びました。未知の領域であった航空機の開発には数多くの困難がありました。しかし、それを乗り越える原動力になったのが、ここにいる藤野をはじめとした開発者の『ホンダがやるからには、今までにない航空機を創りたい」という思いでした」。

「環境負荷を低減し、移動時間を楽しく、楽にすることで、お客さまに新たな価値を提供できる。常に人を中心に考え、さまざまな移動を通じて人々の役に立つことを目指しているホンダは、このような航空機の開発に取り組みました。その結果、モビリティカンパニーであるホンダだからこそできる、航空機の常識にとらわれない発想と技術を投入することで、高い空力性能や静粛性、広く快適な室内空間、そして低燃費を実現した小型ジェット機を生み出すことができました」と八郷氏は語り、小型ジェット機の開発でも“ホンダらしさ”にこだわったことを紹介。

1986年からスタートした小型ジェット機開発の原動力になったのは「ホンダがやるからには、今までにない航空機を創りたい」という思いと語る八郷氏

 さらに八郷氏は「HondaJetは、おかげさまで昨年、小型ジェット機のデリバリー数で世界第1位を獲得するなど、グローバルビジネスとして着実に成長しています。そしてついに、日本でもHondaJetのビジネスを開始することになりました。海外での高い評価を聞いて、日本の皆さまからも販売のご要望を数多くいただいておりました。そうした声に応え、日本の皆さまにHondaJetをお届けできることを、心から嬉しく思っております」。

「本日は、販売ディーラー『HondaJet Japan』の運営を担っていただく、丸紅株式会社の氏家さま、丸紅エアロスペース株式会社の遠矢さまにもご出席いただきいております。グローバルで評価をいただいているHondaJetを、日本の多くの皆さんにもご利用いただけるよう、丸紅エアロスペースさまと共に取り組んでまいります。そして、航空機ビジネスの成長とともに、ホンダがあらゆる環境で人々の移動を支える真のモビリティカンパニーとしてさらに進化できるよう取り組んでまいります」とコメント。HondaJetを日本の多くの人にも利用してもらいたいとの意気込みを口にした。

ホンダ エアクラフト カンパニー 代表取締役社長 藤野道格氏

 八郷氏に続き、ホンダ エアクラフト カンパニー 代表取締役社長の藤野道格氏が登壇して、HondaJetの技術解説、HondaJetの日本におけるビジネス展開などについて説明した。

 藤野氏は、日本で発売するのが5月末にスイス ジュネーブで発表した最新型のHondaJetになるHondaJet Eliteで、既存モデルと比較して航続距離が大きく伸び、安全機能を強化した「次の次元の性能を実現したHondaJet」だと紹介した。

HondaJet Elite紹介ムービー(1分34秒。無音)
発表したばかりの最新モデルであるHondaJet Eliteについて解説する藤野氏
エンジンインレットのファンブレードに「パーフォレーテッド ハニカムパネル」を新採用。高周波ノイズの発生を抑制している
最大巡航高度、最大巡航速度、燃費、上昇率、座席間距離などの主要要素でクラストップの性能を実現
燃費のよさは航続距離の延伸だけでなく、環境負荷の低減にも資する
航続距離を約17%アップさせたことで、北米のデンバーからニューヨークやマイアミ、英国のロンドンからモスクワやイスタンブールなど、これまで1回のフライトで到達できなかった都市間を接続可能に
日本国内では84カ所の空港にアクセス可能。東京から北京、ソウル、台北といった都市までリーチする
機内装備を充実させて移動時間の快適性を高めた
フライトプランの自動計算や安全性の強化、対応アプリとのデータ連動などで操縦者をアシスト
HondaJetの開発の歴史
販売網は米国、メキシコ、欧州、カナダ、中南米、東南アジア、中国、インド、中東などで構築されており、ここに日本が加わることになる
日本では、フリート販売はHACIが直接行ない、一般ユーザーに向けた販売では丸紅エアロスペースが機体を販売し、整備は岡山空港で実施
これからもHondaJetで小型ビジネスジェット機の世界に新しい価値を提供してきたいと藤野氏は意気込みを語った
丸紅株式会社 輸送機グループCEO 常務執行役員 氏家俊明氏は「丸紅エアロスペースは、航空機や関連機器、エンジンなどの輸入販売を行なっております。ビジネスジェット事業においても、販売だけでなく運行管理やチャーターなども行なっております。丸紅では航空関連の分野で機体やエンジンのリース、開発投資、部品トレード、さらに宇宙関連事業も行なっております。私が担当する輸送機グループでは航空機関連分野の他に、自動車、船舶、建設機械などを取り扱っております。HondaJetの日本国内販売という重要な役目を拝命し、身の引き締まる思いです。丸紅グループの総力を挙げて、日本でビジネスジェットをもっと身近にして、さまざまなお客さまにHondaJet Eliteによる快適な空の旅をご提供できるよう全力を尽くしてまいります」とコメントした
丸紅エアロスペース株式会社 代表取締役社長 遠矢源太郎氏は「本田技研工業さまが航空機の研究・開発を始められたのは1986年とのことですが、その同じ年に私たちはビジネスジェット機の国内販売を開始しました。両社における取り組みは製造分野と販売分野で異なりますが、偶然にもほぼ同じ歩みをしてきたと言えます。その2社が、今日から手を携えて日本の空を変えていきます。今までのように個人のオーナーさまが、好きなときに好きな場所に行けるといった使い方はもちろん、国内でのチャーター運航による移動や、主要空港に到着したお客さまを中央都市に直接お連れする乗り継ぎサービスなどにも、リーズナブルな運航コストを誇るHondaJetは大変適しております」とコメントした
質疑応答の様子

 後半に行なわれた質疑応答では、このタイミングでHondaJetの日本導入に踏み切った理由と狙い、価格などについて質問され、HACIの藤野氏は「ホンダではずっと日本市場を見てきました。欧米で非常に評価が高いことから日本のお客さまからの問い合わせも多く、どれぐらいの可能性があるかを慎重に検討してきました。参入のキーポイントになるのは、日本にはまだ十分にビジネスジェットの市場がないということです。それはチャンスでもありますが、アンノウンの部分も両面あります。そんなメリット、デメリットをいろいろと検討して、現時点ではかなり需要が見込めそうだとほぼ確実に分かってきたので参入を決定しました」。

「狙いですが、ホンダはいつもそうですが、既存のシェアを狙うとか、すでにあるものを置き換えるだけではなく、新しい市場を作り上げていくことが大きな目的です。日本はまだ十分に市場が確立されていないので、そこにどうやって入っていったら新しい市場が作れるのか、どうすればもっとパイを大きくしていけるのか。そこが非常に重要で、ホンダが参入することで新しいビジネスジェットの市場を作り上げて、新しい交通システムの試金石になることを目標に始めました。価格は2018年度の価格で525万米ドル(約5億7800万円)です」と回答した。

「ホンダが参入して新しいビジネスジェットの市場を作り上げ、新しい交通システムの試金石になることが目標」と語る藤野氏

 日本のビジネスジェット市場は2016年時点で57機であり、年間2万機という規模の米国と比較して非常に小さく、まだHACI自体も事業が赤字の状態で参入する意義と将来的に目指す日本のビジネスジェット市場規模について質問され、藤野氏は「ご指摘のように、まだ日本のビジネスジェットの市場規模は小さいです。ただ、先ほども述べたように、われわれは現在だけを見ているわけではなく、将来どんな姿にしていくか、どうなっていくかに焦点を当てています。まだ日本にはビジネスジェットを使う文化もないですが、購買能力という観点、また購買しなくてもビジネスジェットを使う力を持っている人は、欧米と比較してコンペティティブな数がいます。そんな市場を掘り起こして数を増やしたいと考えております」。

「数はこれからのことですので正確なことは言えないのですが、そういったマクロ的に見た購買能力やニーズを考えると、少なくとも今の2倍は需要があると考えております。また、飛行機の場合は単純に売って利益を上げて終わりではなく、整備などのサービスなどの収入も非常に大きいです。なので、機数を増やすことはビジネス全体を見たときに非常に重要なファクターで、世界に広げてフリートを増やす。また、フリートを増やすと自動車のカーシェアのようなビジネスオポチュニティが生まれます。ホンダとしては機数を増やすことで、次の大きなステップになるビジネスオポチュニティのトリガーになると考えています」。

「あと、飛行機の場合は1機1機でコストが下がっていって、機体をどんどん作るほどにコストが下がって収益性が上がる構造なので、やはり機数を増やすことはビジネスの観点から非常に重要なファクターです」と答えた。