デロイト トーマツ、EVの本格的普及は2020年以降 EVの進化だけでなく、用途限定EVやシェアリングなどで普及 |
2011年10月25日開催
デロイト トーマツ コンサルティングは10月25日、次世代自動車についてのプレスブリーフィングを開催した。
次世代自動車とは、内燃機関ではなく電気や水素を燃料とし、モーターで駆動する車両。現在のところハイブリッド車(HV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)がある。
■市場シフトと電動化
同社自動車セクターの佐瀬真人パートナーによれば、現在の自動車産業には「市場シフト」と「電動化」の2つの流れがある。
前者は、新興国市場の拡大。先進国市場は依然として大きな市場ではあるものの横ばいであり、いわゆるBRICs及びNext BRICsと呼ばれる新興国が急激に拡大していることを表す。
後者はパワートレーンの電動化。その背景には、石油依存と大量エネルギー消費から、再生可能エネルギー利用と省エネルギーへの転換を目指す各国のエネルギー・環境政策や、次世代自動車普及策がある。
同社は2020年以降に本格的な「電動化」が進み、2030年には次世代自動車が過半数を占めると予測する。
■電動化は自動車産業を変える
佐瀬パートナーによれば、電動化は大きな変化を自動車産業にもたらす。
1つめは、販売台数200万台以上の大規模メーカーと、それ以下の小規模メーカーの動向。次世代自動車開発には多額の投資が必要となるため、小規模メーカーは単独での開発が難しく、合従連衡が起きる可能性がある。
2つめは車両の構造の変化。エンジン等が不要になる代わりにモーター、バッテリー、インバーターなどが必要になるほか、インフラとして充電器が必要になる。
3つめは業界構造の変化。電動化で必要になる部品はモジュール化・標準化・共通化して大量生産することでコストメリットが見込めることなどから、長期的に見れば業界構造を現在の垂直統合型から、水平分業型に移行する。
こうしたことを契機に、新規参入ベンチャーが続々と登場する。メーカーとしてはテスラ・モーターズやSIM-Driveが代表例。販売店としてはヤマダ電機やヨドバシカメラといった家電量販店が進出。
また新交通システム(ITSやカーシェアリング)、スマートグリッドなど自動車と社会のつながりが広がり、新しい社会システムの一翼を担うことで、マイクロソフトやグーグルといったITの大手が自動車メーカーと提携して自動車業界のキープレーヤーになる。
■バッテリーと充電インフラが普及の鍵握る
さて同社の調査によれば、消費者がEVを選択するキーになるのは航続距離と価格。具体的には「航続距離320km以上、車両価格250万円以下」となるが、この条件を満たす現行のEVはなく、現状ではHVのみが選択肢に入る。
この状況を打破し、EVを普及させるには、「持続的イノベーション」「ローエンド型イノベーション」「新市場型イノベーション」の3種類のシナリオが考えられるという。
「持続的イノベーション」は、バッテリーのエネルギー密度向上や低価格化、充電インフラの普及といったイノベーションにより、EVの品質が向上して普及するシナリオ。
とくにバッテリーはEVの価格の半分を占めており、「現在のガソリン車の価格+バッテリーの価格=EVの価格」という構造は将来も変わらないと言う。バッテリーのイノベーションは必須だが、現在の技術発展のスピードから予測すると、消費者のニーズを満たせるのは2020年になると言う。2020年のバッテリーは、コストが約6割減の約80万円、エネルギー密度は現在の約150Wh/kgから200~250Wh/kgに向上すると見ている。
充電インフラの整備には、急速充電器が高価であり、収益の回収までに時間がかかるのが問題。急速充電器はEVの航続距離が短いというボトルネックを解消できるが、普及のためには政府補助金が必要としている。
これらにより、EVのコスト優位性が内燃機関車を超えるのは、2020年以降としている。
■用途限定型EVの可能性
「ローエンド型イノベーション」は、これまでとの自動車とは違う、用途を限定した低スペック・低価格のEVを普及させること。45km/h以下で公道を走行できる全長3m以下、3万ドル以下のマイクロEVを、高齢者の短距離移動、地域内巡回、商用などの用途に使う。
マイクロEVの普及は、法規制を緩やかにすることで促進できるが、安全性に問題があるという議論もある。
「新市場型イノベーション」は、カーシェアリングのような新交通システムやスマートグリッドで新しい価値を創造することで、EVの普及を図ること。カーシェアリングは運転距離が短いため、EVに向いているとされており、ダイムラー、BMW、日産がサービスを開始してる。
スマートグリッドでは、再生可能エネルギーを安定して利用するためにバッファとなる蓄電池が必要であり、その役目がEVの大容量バッテリーに期待されている。家やグリッドとEVが、電力をやり取りする仕組みが必要であり、その研究開発投資を促すために、この仕組で利益が上がるビジネスモデルの開発が急務としている。
これらの課題を解決し、スマートグリッドとEVの関係が商業化されるのは2020年以降と予測している。
(編集部:田中真一郎)
2011年 10月 26日