【特別企画】トーヨータイヤのスタンダード低燃費タイヤ「ナノエナジー 3」(後編)
袖ヶ浦フォレストレースウェイで、ナノエナジー 3の実力を確認


 トーヨータイヤ(東洋ゴム工業)のスタンダード低燃費タイヤ「NANOENERGY 3(ナノエナジー スリー)」が12月1日より全46サイズで発売される。ナノエナジー 3は、同社のエコタイヤブランド「ナノエナジー」シリーズのエントリーモデルにあたり、転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」を実現。低燃費テクノロジーを、タイヤの“持ち”にも配分することで、同じ転がり抵抗性能「A」のスタンダード低燃費タイヤ「ECO WALKER(エコウォーカー)」と比べ、ライフ性能を約51%向上。ドライ・ウェットでのブレーキ性能も向上させている。

 前編ではナノエナジーシリーズの概要をお伝えしたが、後編では新製品のナノエナジー 3などを含むナノエナジーシリーズの試乗リポートを、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏の手によりお届けする。

トーヨータイヤのスタンダード低燃費タイヤ「ナノエナジー 3」。トレッドパターンは、いかにも剛性の高そうなブロックが並ぶ。対称パターン、回転方向指定なしのため、タイヤのローテーションも楽だ

 袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ヶ浦市)で開催されたナノエナジーシリーズの試乗会。エコウォーカーなど従来の製品とナノエナジーシリーズを比較し、実際にどのような性能の違いがあるかを体感するというものだ。

エコウォーカー vs. ナノエナジー 2(転がり抵抗)
 最初は、転がり抵抗性能の違いを目で見て確認するために、パドックで転がり抵抗の違いを視覚的に表すデモンストレーションを実施した。同じ車両にエコウォーカー(転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」)と、ナノエナジー 2(転がり抵抗性能「AAA」、ウェットグリップ性能「c」)を装着。キャリアカーのスロープから滑り落として、どこまで惰性で転がっていくかを比較した。

 同じウェットグリップ性能ながら、転がり抵抗の異なるタイヤを履いた状態での比較となり、AAAとAではどれほどの違いが出るかを試してみようというものだ。

トーヨータイヤのスタッフによる転がり抵抗比較デモ。キャリアカーのスロープから惰行させて計測。そしてタイヤを交換して同様に計測

 結果は、エコウォーカー装着では、1回目が42.8m、2回目が44.9m。ナノエナジー 2では、1回目が60.6m、2回目が67.5mといずれもナノエナジー 2のほうが転がり抵抗が“小さいであろう”という結果になった。小さいであろうとしたのは、袖ヶ浦フォレストレースウェイのパドックが完全な水平ではなく、若干ながら片斜面気味のため。また、2回目には追い風となっており、風の影響が如実に出ている結果となっている。逆に言えば、転がり抵抗が小さいナノエナジー 2により大きな風の影響が出ており、そういった意味でも転がり抵抗がクルマに占める抵抗の大きさが分かる。とくにナノエナジー 2は、もう止まりそうに見えてから、さらに前にじわじわ進んでくのが印象的だった。

計測結果。ナノエナジー 2のほうが、追い風による影響が強く出る感じだった

エコウォーカー vs. ナノエナジー 0(ウェットグリップ)
 続いては、ナノエナジーのフラグシップタイヤ「ナノエナジー 0」(転がり抵抗性能「AAA」、ウェットグリップ性能「a」)と、エコウォーカーのウェット路面対決。袖ヶ浦フォレストレースウェイの途中に散水した区間を設け、ウェットグリップ性能の違いもチェックできるようにしたコースを走行した。

 最初にエコウォーカー装着車に乗って、それほどわるくもないと思ったのだが、続けてナノエナジー 0を装着してサーキットコースを走ったところ、2つのタイヤはまったく別物であることが分かった。最初に気がつくのはエコウォーカーと比べてナノエナジー 0は乗り味がしなやかでコントローラブルであることだ。

 肝心のウェットグリップ性能も段違い。

 ナノエナジー 0は、転がり抵抗性能に優れたコンパウンド(素材)を使用。溝を浅くすることでブロック剛性を確保していている。溝を浅くすると排水性の面では不利になると思われるが、走行した感じでは、高いウェットグリップ性能を確保している。

ウェットグリップ性能の比較をサーキットで行う。葉っぱのようなパターンがエコウォーカー袖ヶ浦フォレスト走行中

 また、ナノエナジー 0は、とても静かであることも印象的だった。トレッドパターンも見るからに静かそうなのだが、実際にドライ路面で走行する限りにおいては、走行音の侵入が少ない。ただし、ドライ路面では静かだが、ウェット路面でのスプラッシュ音に限っては大きくなっていたのは、それだけウェットグリップが上がっているからだろう。

静かな走りも印象的だったナノエナジー 0

 ウェットグリップ性能だけでなく、ドライ路面での走りもなかなかのもので、グリップ感が高く、しっかりとした剛性感もある。ほかのメーカーの低燃費タイヤでも同様のことを感じたことがあったが、ウェットグリップとドライグリップというのは相反するものではなく、ウェットグリップが向上すればドライグリップも当たり前のように向上している。低燃費タイヤのラベリング制度ではウェットグリップの表記のみ義務づけられているため、ウェットグリップを重視しがちだが、ナノエナジー 0のドライグリップのよさを改めて認識する結果となった。

エコウォーカーナノエナジー 0

エコウォーカー vs. ナノエナジー 3(ドライグリップ)
 ウェットグリップ走行に続いては、袖ヶ浦フォレストレースウェイの外周を用いたドライハンドリング体感コースで、エコウォーカーと、その後継に当たるナノエナジー 3でどのような差があるのかをチェック。ラベリング制度表示はいずれも、転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」であり、スタンダード低燃費タイヤの3年の進化を体感するものとなる。

 同じメーカーの同じラベリング制度表示のタイヤということもあり「それほど違わないのでは?」と予想していたのだが、実際には大きく違った。エコウォーカーは、いわゆるエコタイヤと聞いてイメージする、爪先立ちしているようなグリップの頼りなさを感じた。対するナノエナジー 3は、走りはじめから印象がまったく違っており、地に足のついたしっかりとしたグリップを感じた。

 とくにそれが顕著に出るのが、コースの途中に設定された、80km/hでのレーンチェンジ区間。80km/hのレーンチェンジと言えば、一般的な高速道路でのレーンチェンジと同様の速度となり、頻繁に使う速度域だ。この速度域では、エコウォーカーとナノエナジー 3は、ケース剛性やグリップがまったく異なるレベルにあり、ステアリング操作に対する反応がまるで違う。

サーキットを大きく使う形で、ドライグリップを確認80km/hで進入するレーンチェンジ区間

 ステアリング操作に対するダイレクト感があり、またヨーモーメントがスッと即座に立ち上がるナノエナジー 3に対し、エコウォーカーは少し遅れてついてくる。さらにエコウォーカーでは、グラッと車体が揺れて、挙動の収まりもよろしくない。発生した挙動を後までひきずるという感じ。ナノエナジー3は、同じ速度域で走っても、何事もなかったかのようにスムーズにレーンチェンジできてしまう。

 試乗会の前に降った雨のせいで、コース上はほぼドライとなっていたものの、最終コーナーと1コーナーの途中の路面が一部ウェットとなっていおり、そこでの違いも顕著に感じられた。ドライ路面で荷重を掛けたコーナリングを開始し、ウェット区間に入ると、エコウォーカーでは急激にグリップが抜け、走行ラインがずれて挙動が大きく乱れる。そのため、立て直すのに一苦労。一方、ナノエナジー 3は、グリップは失うものの、その滑り出しの挙動はおだやかで、滑り方も一定。そのためコントロール性が高く、発生した挙動の収束性にも優れていた。

 ラベリング制度上は同じ表示となる両者だが、全体的なグリップ感がまったく違うし、剛性感も段違い。ナノエナジー 3は、長持ちタイヤがコンセプトのため主溝(ワイドグルーブ)を深く取り、横方向の溝をたくさん配置しているのに、しっかり剛性を確保できているところもたいしたものだと感じた。

 走り終えたあとのタイヤを見てみると、ナノエナジー 3のほうがトレッド面があまり崩れていない。対するエコウォーカーは、主溝周辺が大きくダメージを受けている。コースの特性上、左リアがとくにそうなっていた。また、ナノエナジー 3の左フロントタイヤを見ると、サイドウォールまで摩耗していた。スポーツタイヤではないので、そこまでのケース剛性は確保されておらず、タイヤのたわみによって起きた現象だと思うが、逆に言うとそこまで接地するほど高いグリップが出ているということでもある。

走り終えた後のエコウォーカーナノエナジー 3タイヤ状態を確認中の筆者

 転がり抵抗は同じレベルだが、ナノエナジー 3は摩耗が少ないとされていること、そして何より、エコタイヤでありながら、こうしてサーキットをそこそこ満足に走れてしまうことには大いに感心させられた。

高速道路と一般道をナノエナジー 3装着で走行。バランスのよさを改めて感じた

 最後に、ナノエナジー 3を装着したゴルフで、一般道や高速道路を走行。転がり抵抗の小ささはいうまでもないが、十分な剛性感もあり、かといって硬すぎない、とてもバランスのよいタイヤであることを再確認した。ナノエナジーシリーズの量販モデルでもあり、価格もスタンダードタイヤレベルになることが予想されるタイヤだが、安価なタイヤにありがちな、やや硬めのチープな乗り心地とは異なる、しっかりした走行性能を感じることができた。

 ラベリング制度が導入されたことで、他メーカーも含め短期間で大幅に進化したエコタイヤの技術には驚かされてばかりだが、エコウォーカーとナノエナジー 3の関係においても、それを非常に強く感じた次第。しかも、各メーカーがしのぎを削る中で、ナノエナジー 3には“長持ち”という長期的な価格メリットも備えてきた。ナノエナジー 3は、多くの点で優位性を持つ、非常にオールラウンドなニューモデルである。


(岡本幸一郎)
2012年 11月 21日