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ツインリンクもてぎ、「ハローウッズシンポジウム2013」を開催

世界初のレアアース回収技術を同日発表

東京大学名誉教授の養老孟司氏による基調講演を実施
2013年3月3日開催

ツインリンクもてぎの大野至総支配人

 栃木県芳賀郡茂木町にあるサーキット・ツインリンクもてぎで、「森の元気と子どもの元気をつなぐもの」をテーマにしたシンポジウム「ハローウッズシンポジウム2013」が3月3日に開催された。

 ツインリンクもてぎ内にあるホテルツインリンクを会場に行われたこのシンポジウムには、報道関係者や教育現場の担当者などに加え、ハローウッズのホームページ内から申し込みをした一般参加者など約180人が出席。ハローウッズの創立10周年を記念して2010年にスタートし、今回で3回目の開催となった。

 シンポジウムでは、まずツインリンクもてぎの大野至総支配人からツインリンクもてぎにおけるハローウッズの立ち位置を紹介。「私たちはツインリンクもてぎにある豊かな自然の森を、さらに子供たちの歓声があふれる森にしたいと考えています。そのため、ツインリンクもてぎには、この春からハローウッズの山と国際レーシングコースサイドを結ぶ全長343mという日本最長の“メガジップライン つばさ”がオープンします。この“つばさ”は日本最長という規模だけでなく、原始的なモビリティとも言えるジップラインによって、ハローウッズの森とモビリティの最先端であるモータースポーツフィールドの架け橋になります。さらに子供たちの挑戦する気持ちや未来に羽ばたく勇気を育て、今回のテーマにこじつけるなら、子供たちの元気のシンボルであると考え命名しました」と語り、ツインリンクもてぎが「どこにもない森の中のモビリティテーマパークを目指す」という将来像を披露した。

「変わり続けることが自分たちにとって一番大切なこと」と語るハローウッズの崎野隆一郎プロデューサー

 ハローウッズで“森のプロデューサー”を務める崎野隆一郎プロデューサーからは、2000年にオープンして13年目を迎えるハローウッズの歩んできた歴史と、試行錯誤の中から生み出されてきた数々のイベントやワークショップの内容になどついて解説された。

 とくにテーマである森と子供の元気については、ハローウッズでキャンプイベントを開始するにあたって本田技研工業の担当者から「崎野さん、元気ってなんですか?」と質問され、元気がなにかを説明するために悩んできたが、2007年から日本体育大学の野井真吾准教授に協力してもらい調査をスタート。キャンプの参加前と参加後に子供たちの生活リズムやメラトニンの分泌量などをデータ化したところ、キャンプに参加したあとは体調が朝方のリズムに変化して前頭葉の発達が促されていることが明らかになった。ただ、この変化はキャンプが終わって日常生活を送るようになると元に戻ることもわかっているとのことで、今後も調査が継続されていく予定となっている。

ハローウッズでのキャンプイベント中に子供たちが元気になっていく様子を実感として感じていたが、2007年から行われるようになった調査で森での生活を通じて子供たちが活発になっていく科学的なデータも記録されるようになった

 今後について崎野プロデューサーは、スタートから13年目を迎え、今年からはとくに子供たちが参加するプログラムを変化させたいと考えていると明かした。大人が事前に用意して指示するのではなく、子供たちが自主的に考えて遊べるような内容に変え、子供たちに元気になってもらいたいと語った。

現在では毎月のように行っている間伐は、すべて参加者を募って行うワークショップで実施。チェーンソーメーカーの協力を受けてチェーンソーの取り扱い講習も行い、より安全に本格的な作業ができる体制が整えられている
高く育った木が間伐でなくなると、地面に太陽光が多く当たるようになって背の低い植物が活性化。さらに切られた木自体も、切り株から萌芽更新(ほうがこうしん)で新しい芽が出て数を増やしていく
間伐で伐採した木を集めて作った「生命(いのち)の塔」。内部に貯められた落ち葉で微生物や昆虫が増え、昆虫を狙って小動物や鳥が集まり、蛇や蛙が冬眠するなどの役割を果たし、5~6年で朽ちて土に還っていくとのこと
ハローウッズは環境省の「モニタリングサイト1000里地調査」に参加して、敷地内に生息する動植物を調査。ホームページ内にも専用の紹介コーナーを用意して写真や情報を公開している

 基調講演を行ったのは、東京大学の養老孟司名誉教授。1時間以上にわたって行われた講演の中でさまざまなエピソードを紹介しながら、「山を手入れするのと子供を育てるのは根本的に同じロジック。山は人間の都合で木が生えているのではなく、放っておいても勝手に再生する。しかし、手入れせずにいると木は伸び放題で細く高くなり、そこから間伐すると台風の風に抵抗できずに倒れてしまう。子育ても同じで、適切な時期に手入れをしないといけない。戦後の日本中に放置された森が増えてしまったように、子育てでも向き合いかたのノウハウを失いつつあるのではないか」と語り、現代人はホンダが作るクルマのように、設計図があって精度の高い製品を求める半面、土の地面のように下になにが埋まっているかわからずコントロールがしきれないものを遠ざける傾向があると分析。これを自覚して、意図的に自然に向き合う場を設けることで、自然と同じように予測が困難な子供との向き合いかたが見えてくるかもしれないと提案した。

専門の解剖学以外にも多彩なジャンルで活躍する養老孟司名誉教授。とくに昆虫採集は長年にわたる趣味として知られている
基調講演の最後に登場したのは、日本に古くからある「花鳥風月」という言葉。これを意識することで、人間世界での重みが半分になり、人生が楽になると語られた
「私が子供のころは世界が4つあって、人間の世界と自然の世界。そこにプラスとマイナスがあって、親に褒められたりすると人間の世界でプラス、怒られたりいじめられたりするとマイナス。自然の世界では山に入って昆虫が捕れればプラス、大雨や地震がくればマイナスですよ。この状態でいじめられても1/4、でも、今の子供は自然の世界がないから、いじめられると重さが倍になっちゃう。だから人生を辞めちゃうんですよ」と昨今のいじめ問題を解説する養老孟司名誉教授
個と環境の関係性を生物の細胞に置き換えて説明する養老孟司名誉教授。細胞膜で個を確立していながら、その内側に別の生物であるミトコンドリアを取り入れて共生していることを紹介し、個と環境を区別することの難しさを解説した

 シンポジウムの最後には、「森の座談会」と題するパネルディスカッションを実施。崎野プロデューサーと養老孟司名誉教授のほか、ハローウッズでのイベントに積極的に参加しているホンダの伊東孝紳社長、ハローウッズと人工樹液を共同開発しているフマキラーの杉山隆史開発本部長の4人が登壇し、それぞれの立場から自然と子供についての意見や体験談などを語り合いながら、テーマである「森の元気と子どもの元気をつなぐもの」がなんなのかを模索した。

森のなかにいるような雰囲気を演出したステージで行われた「森の座談会」
ホンダの伊東社長は昨年のキャンプイベントに参加したときのエピソードを披露。4人の中では専門家ではない立場から、素朴な質問を投げかけることで話題の展開役となった
「虫除け剤は自分で昆虫採集するときにいやな虫に悩まされずにいられるかという観点で開発しています」と語るフマキラーの杉山本部長。アルゼンチンアリが広島県廿日市市に定着していることを初めて発見した人物でもある
シンポジウム会場の外には、ホンダが行っている社会活動について紹介するさまざまな展示品を用意。ビーチクリーン活動は2012年に15カ所の砂浜に出動してゴミを回収。新しく追加された回転ドラム式のビーチクリーナーも展示されていた
子供の育成支援活動に参加した子供たちが作った「ドリームハンズ」のダンボールクラフトや「森の夢工房」のネイチャークラフト
ダンボールクラフトの作品は、切り抜いて貼り合わせただけとは思えないほどしっかり実物を再現
東日本大震災の復興支援活動では、現地で作られている「布ぞうり」の素材となるTシャツの回収と提供、社内販売なども実施している

ニッケル水素バッテリーからレアアースを金属としての抽出に成功!

新技術について解説するホンダ・経営企画部の加藤久開発技師

 また、シンポジウム当日には、ホンダの新しい環境技術についての技術説明が別会場で行われた。ホンダは昨年4月の段階でも「ハイブリッド車用ニッケル水素バッテリーに使用されているレアアース(希土類)の抽出技術」について公開しているが、今回はこの内容をさらに発展させ、これまで抽出していたレアアースを含有する酸化物を「溶融塩電解」することで、さまざまな製品にそのまま加工できる純度99%以上という金属状態での抽出を世界で初めて実現している。

 これにより、寿命を終えたハイブリッドカーの駆動用ニッケル水素バッテリーをホンダの販売店などで回収し、そのバッテリーから抽出したレアアースが再びハイブリッドカーとして市場に送り出される循環体制が確立されたと説明。さらにホンダでは、ニッケル水素バッテリー以外のさまざまな使用済み部品からのレアアース抽出を目指し、モビリティ社会全体での環境負荷低減を実現したいとしている。

ホンダで行っているバッテリーリサイクルの行程解説。これまでは酸化物までの抽出だったが、アルミニウムやナトリウムの精製で用いられている溶融塩電解することで純度99%以上というインゴッドの生産に成功。回収率もこれまでと同じ80%以上で、環境負荷低減に大きく貢献すると期待される
今回の抽出作業で使われたのは、東日本大震災で納車待ちの状態で被災して廃車となった386台のハイブリッドカーに搭載されていたIMAバッテリー
レアアースが使われているのはバッテリーの負極板。今回抽出された現行モデルのニッケル水素バッテリーではNd(ネオジム)がほとんど。ちなみに、2006年から2009年までのモデルに搭載されていたニッケル水素バッテリーではレアアース合金のミッシュメタルが主体だが、Ndと同じ技術で抽出できるとのこと
ホンダでは、これから先はハイブリッドカーやEVの駆動用バッテリーがニッケル水素からリチウムに転換していくと予想しているが、製品寿命を終えたハイブリッドカーをリサイクルする需要は十分にあると分析

(佐久間 秀)