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NEXCO東日本、池波正太郎「鬼平犯科帳」とのコラボを発表

羽生PA(上り)を「鬼平江戸処」として12月にリニューアルオープン

羽生PA「鬼平江戸処」のミニチュア
2013年7月10日発表

 NEXCO東日本(東日本高速道路)は7月10日、池波正太郎原作の「鬼平犯科帳」とコラボレーションし、東北自動車道 羽生PA(パーキングエリア)(上り)を「鬼平江戸処(おにへいえどどころ)」としてリニューアルさせると発表した。2013年12月にオープン予定。

 これまで同社は、特定のテーマで統一された世界観をSA(サービスエリア)・PA全体で表現するテーマパークのような施設を「テーマ型エリア」として展開。2010年6月に関越自動車道 寄居PA(上り)で「星の王子さま」とコラボレーションしたテーマ型エリアを第1弾としてスタート。今回の羽生PAはそれに続くものとして、3年半振りに第2弾として企画された施設となる。

 故・池波正太郎氏の時代小説「鬼平犯科帳」の著作権を管理する「オフィス池波」と提携して実現した企画で、施設名称である「鬼平江戸処」は同作品が描き出す江戸の世界観を表現しているという。

 鬼平江戸処は、鬼平こと長谷川平蔵信以(のぶため)が生まれた1745年から、江戸の町人文化が開花したという文化文政時代(1804年~1829年)ごろをイメージし、建物から小物類に至るまで再現するという。民俗学者である神崎宣武氏が監修し、アートディレクターの相羽高徳氏がデザインを担当している。

リニューアルされる羽生PA(上り)
テーマは「温故知新」
東北道 羽生PAの新エリア名称「鬼平江戸処」。題字は池波正太郎氏の直筆をベースに制作された
鬼平犯科帳とのコラボレーション
NEXCO東日本の道づくり
関越自動車道 寄居PA(上り)の「星の王子さま」コラボレーション

 通常のPAと比べて豊富な緑や、木材、自然な風合いの地面にこだわってデザインしているとし、当時の染色技術に基づいた暖簾の色合い、看板や瓦なども当時のイメージに近いデザインとしている。メインとなる建物は江戸の繁栄を象徴する「日本橋大店」が建ち並ぶ大通りを再現。建屋の奥に行くと、「鬼平犯科帳」に登場する「弥勒寺山門」や「笹や」「植半」など、作品内でお馴染みの下町、本所・深川が再現されている。

 建物内は10分毎に朝、昼、夜と照明が変化。それにあわせて季節をイメージした風景や物売りなどの声など環境音を連動させ、臨場感のある演出が施される。

 また、施設内には「鬼平犯科帳」に登場する軍鶏料理屋「五鉄」のモデルとなったと言われる老舗「玉ひで」や、文化2年(1805年)創業の菓子店「舩橋屋」が高速道路に初出店。ここだけの限定メニューなどを開発中という。

高速道路初出店の2店
外観のラフイメージ
のぼりや看板なども当時のイメージを再現。大店の名前などは鬼平犯科帳に登場したものから取っているという
今回の施設のイメージの元となった「両国広小路」を描いた浮世絵
施設内は朝、昼、夜の照明を10分ごとに切り変えて臨場感を演出
東日本高速道路 代表取締役社長 廣瀨 博氏

 記者会見では、東日本高速道路 代表取締役社長の廣瀨博氏が同施設につて説明した。鬼平江戸処のコンセプトは「温故知新」。鬼平犯科帳の主人公である長谷川平蔵は、人々の暮らしを暖かな目で見守る人情味溢れる人物とされており、作品内では町人たちも互いに助け合い、その優しさが描かれている。そうした、誰もが何となく理解している江戸時代の世界観が新鮮な刺激となり、現代のドライバーの疲れを癒し、旅の手助けとなるような施設を目指しているそうだ。

 羽生PAは、日光街道の要衝であり、江戸の入り口となる「栗橋関所」が設けられていた埼玉県久喜市栗橋北とも近い場所。「東北道を上って東京に向かう人々を迎える最初の場としてふさわしい」とコメントした。現在の羽生PA(上り)の利用者は年間280万人。「鬼平江戸処」へのリニューアル後は年間300万人の利用を想定しているという。

オフィス池波 代表取締役社長の石塚富夫氏(右)から池波正太郎氏直筆の挿絵(レプリカ)が贈呈された
「鬼平江戸処」総合プロデューサーの工藤忠継氏
アートディレクターの相羽高徳氏

 また、今後、観光事業に力を入れていくため、同社が日本観光振興協会に入会し、本社とすべての支社、計4カ所に観光推進役を置いたことも発表した。同社は3720kmの高速道路と、309カ所のSA・PAを所有しているが、各地元地域と連携しながら、より質の高い観光情報をネットなどを使って配信していくという。

会場に展示された「鬼平江戸処」の完成イメージ
「日本橋大店」の大通りを再現
暖簾の色合いなども当時の色合いや工法などをベースとしたこだわりで再現される町並み
日本橋の擬宝珠を再現
中庭に入ると本所・深川の町並みが再現されている
こちら側はトイレ施設
小説家の逢坂剛氏(右)とフリーアナウンサー 西岡麻生氏

 記者会見の最後には小説家の逢坂剛氏とフリーアナウンサー 西岡麻生氏のトークセッションが行われた。

 池波正太郎氏とは挿絵を描いていた親の代から親交があったという逢坂氏。「池波さんの作品にはリズムがありとんとんと読める。くどくどと書かないところを読者が補う。一読するとスカスカのように感じるのだが、読み終わってみると想像で補っていたところがわっと出てきて、濃密な小説であることが理解できる。そしてすぐにまた読みたくなる」とその中毒性を強調。気軽に読めて、あとからじわじわと面白さが伝わってくるのが魅力という。

 池波正太郎氏の考えていた人間感とはどのようなものだったのかを問われると「池波氏の作品は勧善懲悪とは違う、独特の人間観がある。人間は白黒にハッキリと分けられない。どんな正義漢でも裏ではわるいことをしているかもしれないし、悪漢でも人のために何かをすることがあるかもしれない。人間には表裏がある。これを描く名人だった」と評した。
 池波正太郎氏は時間に厳しい人で「自分の人生も1つだが、他人の人生も1つだ。その他人の人生の時間を無駄にしてはいけない」という言葉が印象深かったという。

池波正太郎氏直筆の挿絵(レプリカ)
殺陣指導中の池波正太郎氏
池波正太郎氏が愛用したとされる日本刀

 鬼平江戸処の温故知新という世界観については、「人間はちょっと不便なところを残しておいたほうがいい。時代小説の中での生活は実に不便だが人間らしいものだった。それは人間の原点で、現代のように便利さや合理性を追求しすぎると、人間力が落ちていくのではないか」などとコメントした。

 最後に「こういう企画は今まであまりなかったが、芝居小屋の背景のようなハリボテでは寂しい。これが江戸の町か!と息をのむようなものを期待している。これをきっかけに池波氏の小説も読んでもらえると嬉しいし、私が書いた小説もついでに読んでもらえれば、さらに池波氏の凄さが分かると思う」と冗談を交えながらトークショーは終了した。

(清宮信志)