インプレッション
マツダ「アクセラ」(2016年大幅改良)
2016年9月2日 00:00
ディーゼルの選択肢が充実
現行「アクセラ」が発売された2013年秋から3年足らずの間にも、マツダはいくつかの新しい技術とニューモデルを送り出してきた。そして2014年秋の「アテンザ」と「CX-5」の改良の際に、マツダは従来の「マイナーチェンジ」という概念を廃し、今後は折にふれて商品改良を行なっていく方針を打ち出した。
大幅改良されたアクセラの変更点は、どことなく印象の変わった内外装をはじめ、装備、エンジン、グレード体系、ボディカラーと多岐にわたり、新しいものがいくつも盛り込まれている。見た目はあまり大きく変わっていないように感じるが、中身はかなり変わっていることを以下でお伝えしていきたい。
エンジンおよびグレード体系については、ディーゼルの選択肢が非常に充実した。1.5リッターのディーゼルがハッチバックの「スポーツ」に搭載されたのが最大の注目点であるのは言うまでもないが、ディーゼルの設定がなかったセダンも2.2リッターのディーゼルが選べるようになったほか、これまでAWDの設定がなかったところ、2.2リッターのみではあるがスポーツ、セダンともに設定された。
また、ガソリンには設定のない「Lパッケージ」が、ディーゼルでは1.5リッターでも選ぶことができるのも特徴。代わりに個人的に気に入っていた2.0リッターガソリンが廃されたのは少々残念ではあるが、やむを得まい。
マツダの車種では、ディーゼルの販売比率がおしなべて高いなか、これまでは高価な上級グレードのみの設定だったアクセラでは1割程度にとどまっていた。もっと手ごろなディーゼルがあったらほしいと思っていた人は少なくないはず。より価格の低いグレードが加わったことで、販売の傾向も大きく変わることだろう。また、いよいよアクセラで初めて市販車に搭載された話題の「G-ベクタリングコントロール」についても、のちほど紹介したい。
インテリアは、見た目の変化もさることながら機能面での進化が大きい。アクティブ・ドライビング・ディスプレイは、表示される情報の整理やカラー化などにより、格段に読み取りやすくなった。さらに、シートポジションと連動してディスプレイの角度や明るさ、ナビの表示設定などが登録できるようになったのも重宝しそうだ。2.2リッターディーゼルのみではあるが、電動パーキングブレーキが採用されたのも新しい。
「i-アクティブセンス」についても、マツダ初となる「交通標識認識システム(TSR)」や「アダプティブLEDヘッドライト(ALH)」を新たに採用したほか、衝突被害軽減ブレーキもカメラを採用して歩行者の検知を可能としたり、作動速度域を大幅に拡大するなど進化している。
フルスカイアクティブの新世代商品の第3弾として開発されたアクセラは、以降のマツダ車に採用されるヘッズアップコクピットの考え方をいち早く盛り込んで設計されており、今回の大幅改良でそれがさらに一歩前進したといえる。
また、魂動デザインの造形の魅力をより際立たせるという新色の「マシーングレー」は、たしかに印象深く目に映り、アクセラにまた違った表情を与えていた。
1.5リッターディーゼルが選べるようになっただけじゃない
もっとも気になっている人が多いであろう1.5リッターディーゼルについて述べると、発進時から十分なトルクがあり、加速感に大きな不満は感じない。最大トルクは「CX-3」と同じ270Nm仕様で、車両重量はアクセラのガソリンより80kg重く、「デミオ」のディーゼルより230kg重いものの、どちらに対しても最終減速比が低めに設定されていることも効いているようだ。
また、今回ディーゼルにはいくつかの新技術が与えられたことも注目だが、既出モデルの1.5リッターディーゼルに対して、よりアクセル操作に対してリニアに加速するように感じたのは新技術の「DE精密過給制御」によるものだろう。ゆっくり踏むとじわっと加速し、素早く踏み込むと力強く加速する。
音や振動についても、これまでもディーゼルとしてはかなり抑えられていると感じていたところ、さらに静かで振動が小さくなった。これにも新技術が効いている。
ディーゼルエンジンが発するノック音には周波数帯で4つのピークがあり、このうち一番大きな3.6kHz付近のピークに対しては、既出の「ナチュラル・サウンド・スムーザー」で対応し、残る3つのピークについては、燃料噴射タイミングを細かく制御することでエンジン加振力と構造系共振のピークをずらし、逆位相にしてノック音を低減するという新技術「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」を採用した。事前に教えられていなければ、ディーゼルだと気づかない人も多いのではないかと思ったくらいだ。
2.2リッターディーゼルをドライブしても、同じく従来よりもさらに静かで振動が小さくなっているように感じた。また、従来は過剰とも思える強力な加速が持ち味だったところ、出足でドンと前に出る感覚は一見薄らいだように感じるが、それはまさにDE精密過給圧制御のたまもの。
実は、従来モデルでは初期応答に不感帯があってから急激にトルクが立ち上がっていたので、それを「速い!」と感じていたことになる。むろんリニアリティには欠けるし燃費面でも不利。新しい特性のほうが好ましい。
一方の1.5リッターのみとなったガソリンは軽快な走りが持ち味。ディーゼルを知ってしまうと非力に感じるのは否めないが、スムーズによくまわり気持ちよいエンジンフィールはガソリンならでは。また、今回いくらディーゼルが静かで振動が小さくなったとはいえ、やはりその点ではガソリンにはかなわない。
「G-ベクタリングコントロール」の恩恵は?
「G-ベクタリングコントロール」の効果のほどは、正直な話、厳密に比較しないと分かりにくいものであることは否めないように思う。ただし、効果があることは明白で、筆者は今回、改良前後の車両を乗り比べることができて、いろいろ違うことを確認した。
コーナーを曲がる際の舵角が小さくなることは、交差点を曲がる程度でも誰でも分かるはず。高速では直進性が向上して修正舵が明らかに減っている。マツダはダイアゴナルロールを意識しているので、もともと前輪への荷重が大きめなのだが、全体的によりグリップ感が増して、しっとりと落ち着いた走り味になっている。また、後席に乗ってみるとより顕著だったが、コーナリング時の身体の横揺れが抑えられることも確認できた。
G-ベクタリングコントロールの最大のテーマは、ライントレース性の確保にあると思うが、普通に運転している限り、いつ制御が介入したのかを体感することはない。ただし、わざと挙動の乱れる運転をすると判別できる状況もある。
また、G-ベクタリングコントロールの採用に合わせて足まわりも最適化されていて、乗り心地がさらに快適性になっていることと、しっかり感が増しているのも改良後のアクセラの美点だ。むしろそちらのほうが分かりやすいかもしれない。
とにかく、わずか3年足らずで、しかももともと出来がよかったところをさらに進化させたのは大したもので、感心せずにいられない。大いに驚かされた次第である。また、選択肢のバリエーションが実情に合ったものになったことも大歓迎だ。まさしくいいことづくめのアクセラの大幅改良であった。