【インプレッション・リポート】 メルセデス・ベンツ「Bクラス」 |
2005年の登場から6年、「Bクラス」としては初となるフルモデルチェンジが実施された。
Bクラスが出てからというもの、日本での「Aクラス」の販売は激減したそうだが、それほど大きくない価格差で使い勝手はずいぶんよくなるのだから、無理もない話だろう。
実は当初、高級車というイメージの強いメルセデスにおいて、多くのユーザーもまさに高級車であることを求めて購入するであろう中で、はたしてA/Bクラスの路線が受け入れられるのだろうか? という思いもなくはなかった。ところが初代Bクラスは、日本で累計約2万9000台、世界でも約70万台が販売されたという。立派な数字である。
そんなわけでモデルチェンジに当たり、Bクラスはユーティリティ重視のキャラクターを踏襲しつつ、あらゆる要素の強化を図ったとのこと。一方のAクラスの次期モデルが従来と違った方向性のクルマになることは、すでに明らかにされているとおりだ。
B 180 ブルーエフィシェンシー |
B 180 ブルーエフィシェンシー スポーツ |
■「特殊なクルマ」から「普通のクルマ」に
ただし、初代のキープコンセプトとはいえ、中身は大きく変わっている。まず、A/Bクラスの大きな特徴だった2重フロア構造が廃された。そして、ボディシェル後部のメインフロアパネルのみ交換することで、バッテリー等を搭載できるようにしたモジュラー構造を新たに採用した。
初代で2重フロアを採用していたのは、フロア下にバッテリーや水素タンクなどを搭載して次世代自動車への対応を図ることと、衝突安全性の確保が主な目的だった。ところが、技術の進化により、もっと小さな容積ですむようになったことを受けて見直された。
これにより、初代では非常に高いサイドシルとツライチだったキャビンのフロアが、2代目では、むしろ生じた段差が乗降時に気になるほど低くなっている。もちろんヒップポイントは大幅に低くなった。車高も65mm低くなり、全高が1540mmに抑えられたので、日本の立体駐車場でも問題ない。
背高な印象の薄まったエクステリアは、大型化したフロントグリルや、LEDを多用した派手な前後ランプ、複雑なキャラクターラインを組み合わせたサイドビューなど、なかなか特徴的。メルセデスのクルマであることを、より強くアピールしようとしたことをうかがわせる。
また、初代は未来的なコンパクトカーで、いろいろな部分に「特殊なクルマ」であることが見て取れたのに対し、2代目はちょっと大きめのコンパクトワゴンになり、いたって「普通のクルマ」になったように思える。
グレード体系は、標準モデルの「B 180 ブルーエフィシェンシー」と同「スポーツ」があり、そのスポーツのみに設定された「ナイトパッケージ」を選ぶと、さらにスポーティなルックスとなる。中でも専用の18インチホイールは、アフターパーツのように凝ったデザインだ。
インテリア全体の雰囲気も、より乗用車的になったのは見てのとおり。そして、質感が大幅に高められたことを直感する。ソフトパッドの多用や凝ったデザインも効果的だが、このクラスながらウッドパネルまで用意されているというから驚く。
X字型のエアコン吹き出し口や、iPadのようなCOMANDシステムのディスプレイも目を引く。こうしたディスプレイは、もちろん見やすい位置にあるほうが好ましいが、収まりをよくするには、どこにどのように置くか悩ましいところ。そこを後付け感を逆手に取り、このように設置した発想はナイスアイデア。もちろん視認性にも優れている。
また、レバー式だったパーキングブレーキは、インパネ右端にスイッチを配した電動式に変わり、おかげでセンターコンソールの収納スペースが充実した。ちなみに、初代では特徴的だったワイパーの動きも、普通になった。
日本仕様のハンドル位置は右のみ。左足のスペースが少々狭いのは否めず、さらに、右ハンドルでも「ダイレクトセレクト」(シフトレバー)が右側にあるのはしっくりこないところではあるが、慣れれば大丈夫なのだろうか? むろんウインカーレバーはハンドル位置を問わず左側に設置すべきというISO規格との兼ね合いによるものだろうが、できれば日本仕様だけでも、ウインカーレバーを右に、ダイレクトセレクトのレバーを左にしてくれるよう望みたかったところだ。
優れたスペースユーティリティは、もともとBクラスの訴求点だが、2代目では前後席ともヘッドクリアランスやシートのサイズが初代よりも拡大されている。サイドウインドウも垂直に近い角度に設定されているので、頭まわりの空間にはかなり余裕がある。居住性はEクラスを上回るというのもうなずける。
荷室は十分に広く、使いやすい素直な形状。さらにオプションで、フロアの高さを2段階に変えられたり、リアシートにスライド機構が付いたり、背もたれの角度調整機能が付いて垂直に立てて箱型の荷物を積載しやすくなるなど、より便利に使える「イージー・バリオ・プラス」が用意されているので、ぜひ選びたいところだ。
■こんな形でもスポーティー
走りについては、まずヒップポイントが低くなったおかげで、走行時の腰高な感覚が払拭されたのが初代との大きな違い。さらに、初代では特殊な形式を採用していたリアサスペンションが、一般的なマルチリンク式(4リンク)とされたことも大きな変更点で、これにより格段にストローク感が増している。
前席の乗り心地は快適そのもの。その感覚を基準に後席に移ると、けっして不快なほどではないが、「スポーツ」だけでなく17インチの標準モデルでも若干の固さを感じる。あとで確認したところ、日本導入モデルの足まわりは、本国で「スポーツ」と呼ばれる設定のみで、それは、日本仕様の標準モデルも「スポーツ」も、その18インチ仕様も共通とのこと。本来はもっとコンフォート寄りの仕様もあるようだ。また、上記は前後1名ずつの2名乗車での話なので、4人乗って多くの荷物を積んで、もっと重くなれば、印象はまた変わってくるのかもしれない。
ステアリングは現行「Cクラス」のように軽い。「スポーツ」では操舵角に応じてギア比が可変するダイレクトステアリングが装備されている。街中での取りまわしもよく、ワインディングに持ち込めばクイックなハンドリングを楽しませてくれる。
街中では少し固めに感じられた足まわりは、ワインディングではちょうどよく、ロールなどの挙動も非常に自然な仕上がり。
さらに、4輪の接地感も高く、タイヤの状態がよく伝わってくるおかげで、攻めた走りをしても何の不安も感じることはなく、操縦感覚はまさに意のまま。こんな形のクルマなのに、これほどスポーティに走れてしまうという、そのギャップがまた面白い。
そして、高速道路に持ち込めば、おそらくエアロダイナミクスもかなり効いているのであろう巡航時の安定感が頼もしい。総じて、メルセデスの一員としての期待に十分に応える走りを披露してくれる。
一新されたパワートレインは、初代の1.7リッター自然吸気エンジンに対して、出力で5kW、トルクで45Nmのスペック向上をはたした1.6リッター直噴ターボエンジンに、7速DCTを組み合わせ、アイドリングストップ機構も付く。
中~高速での加速は十分にパワフル。ただし、市街地ではどうしても小排気量エンジンの宿命で、過給が十分に得られない領域では少々リニアでない加速の仕方をするのは、他メーカーのダウンサイジングターボ勢と同じ。そこは勘弁するしかない。
一方で、乾式単板クラッチではなく湿式多板クラッチを採用する7速DCTは、発進や駐車など微低速でのつながりも比較的なめらかで扱いやすい。制御も燃費を重視して高めのギアを積極的にセレクトするのではなく、ひとつのギアをワイドに使う設定で、ビジーな印象ではないところも個人的には好み。その点でも運転しやすい。
アイドリングストップは、とくに新しいことをやっている感じではないが、動作はスムーズで振動も小さく、印象はまずまず。
燃費について、これらパワートレインの変更に加えて、「CLS」と同等というCd値0.26を達成した空力性能の向上などもあって、JC08モード燃費で19%もの燃費改善をはたしたというから立派だと思う。感触としては、とくに高速巡航時の燃費がかなりよさそうに感じられた。
■メルセデスの「良心」のようなクルマ
安全面では、コンパクトクラスでは世界初となる、ミリ波レーダーを用いた衝突警告システム「CPA」と、ドライバーの注意力低下を検知した際に警報を発する「アテンションアシスト」が標準装備されたことが特筆できる。
これらが安全に寄与することはいうまでもなし。レーダーを用いているので、天候や昼夜の影響を受けにくいところもよい。ただ、どうせならレーダークルーズコントロール「ディストロニックプラス」も標準装備になっているとありがたかったところだが、こちらは「PRE-SAFE」とセットで15万円のオプション。ぜひ装着をオススメしたい。
ディストロニックプラスで設定できる前走車との車間距離は、こんなに必要だろうか? と思ったのだが、なんと7段階も選べるようになっている。この類のシステムは、最短にしても割り込まれがちなものが多いところだが、Bクラスでは100km/hで25mを切るほどで、イライラさせられることもない。個人的には常時、最短にしておけばいいように思えた。
ちなみに、レーダーセンサーはフロントグリル中央の大きなスリーポインテッドスターの円の中に収められている。こうなっているほうが、これまでのようにグリルの格子に唐突にパネルが設置されているものよりも、はるかに見た目がよいこともいうまでもないだろう。
全体的に内容を振り返ると、初代に比べて実質的には大幅値下げといっていいと思う。
多くの人が憧れるメルセデス・ベンツというブランドのラインアップにおいて、A/Bクラスのような車種は異端という印象もなくはなかったところだが、今では世の中の動向としても、こうした比較的コンパクトでユーティリティに優れるクルマを受け入れる素地ができている。
そんな中で、走行性能、安全性能ともメルセデスとしての本質を満身に宿し、そこに大きな実用性を加え、しかも価格も手ごろなところに収まっているという、まさにオールマイティな2代目Bクラスは、いわばメルセデスの「良心」のようなクルマではないかと思う。
実車を目にしたときの第一印象も、これは売れそうだと直感したのだが、触れるほどに、そのとおりになるであろうことへの確信が深まっていった。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 5月 28日