【最新ニュース】
【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」

Text by 鈴木ケンイチ


 6月にデリバリーが開始される「ザ・ビートル」。その国内メディア向けの試乗会は、エクステリア・デザインを手がけたデザイナーのクリスティアン・レスマス氏によるプレゼンからスタートした。

 レスマス氏は、初代「ビートル」、「ニュー・ビートル」、ザ・ビートルの3代の「ビートル」のデザイン上の特徴と狙いを、その場でスケッチしながら説明したのだ。

 そこで、最も重要なポイントとして挙げられたのは、ルーフの一番高い位置であった。大人4人が快適に乗ることを目的とされた初代ビートルは、後席空間を確保するためにルーフのピークはBピラーよりも後ろに設定されていた。しかし、初代のイメージをデフォルメしたニュー・ビートルはBピラーの真上。そのため、後席のヘッドクリアランスはややスポイルされる格好となっていたのだ。

 そして、新しいザ・ビートルのルーフのピークは、初代と同じようにBピラーよりも後ろ。ここにザ・ビートルの狙うコンセプトが表れていたのだ。

ザ・ビートルのデザイナー、クリスティアン・レスマス氏が、3代のビートルをスケッチしながらプレゼンした
初代ビートルことフォルクスワーゲン タイプ1 ニュー・ビートル(左)とザ・ビートル

21世紀のビートルを再創造する!
 そもそもの話、初代ビートルは「4人が乗れる高性能車を手の届く価格で」という狙いで開発された国民車だ。そこには“ファニー”やら“レトロ”といったデザインコンセプトはみじんもない。合理を突き詰めた先のデザインであった。

 しかし、2代目ニュー・ビートルは一転、「ファニー」「レトロ」「モダン」「ノスタルジック」といったイメージを狙う。しかもデザイン手法はドイツのバウハウス的なもの。とことんシンプルでスタイリッシュなものとなった。逆に言えばデザイン優先で、使い勝手や走行性能などは後回しにされていたのだ。

 そして3代目となるザ・ビートルはといえば、後部座席のヘッドクリアランスを確保するように、ルーフのピークが先代よりも後退している。つまり、ここに「先代よりも実用性を重視したクルマなんだ」という主張が表れているのだ。

 「21世紀のクルマとしてビートルを再創造した」とフォルクスワーゲンはいう。つまり、レトロでノスタルジックなクルマを作りたいのではなく、ビートルというクルマの本質をよくよく考え抜き、その根本にあったもの定義し、それを21世紀のクルマとして体現させたという。それが高品質であり、高い信頼性であり、ドライビングプレジャーを兼ね備えたザ・ビートルだという。

レスマス氏のスケッチ。左から初代ビートル、ニュー・ビートル、ザ・ビートル。ルーフの頂点の位置が、ニュービートルだけ前方に出ている

 

日本導入は先進のダウンサイジング・ターボ・エンジン&7速DSG
 日本導入第1弾は、1.2リッター4気筒のTSIエンジンを搭載するモデルだ。このエンジンは、いわゆるダウンサイジング・ターボと呼ばれるもので、最高出力77kW(105PS)/5000rpmと最大トルク175Nm/1500-4100rpmというスペック。組み合わせられるトランスミッションは7速DSG。これによりJC08モード燃費は17.6km/Lとなり、エコカー補助金(10万円)とエコカー減税(50%)の対象となっている。

 また、仕様は内外装をカラーコーディネートした「ザ・ビートル デザイン」をベースにレザーシートを追加した、上級の「レザーパッケージ」。ファブリックシートのベーシックなグレードの導入は後まわしになる。

 これは過去の日本の販売傾向から導き出された方策であり、ザ・ビートルのようなコアなファンを望めるクルマの場合、上級グレードから売れてゆく傾向があるとフォルクスワーゲン グループ ジャパンは説明する。

 ちなみに北米向けには2.5リッターの5気筒エンジンにMTを組み合わせたものや、2リッターターボなども存在する。時期が来れば、日本にも他グレードの導入があるだろう。そのときが楽しみだ。

 

低くワイドになりながらも運転しやすさや居住性は向上
 試乗会場には新型のザ・ビートルだけでなく、先代のニュー・ビートル、初代ビートルが並べられていた。3台並ぶと新しいザ・ビートルがいかにワイドに低く構えているのかが分かる。ニュー・ビートルと比べ全長で140mm、全幅で80mmサイズアップしながらも、全高は−5mm。室内空間は後席ヘッドルームで+60mm、ラゲッジルームでは約1.5倍も拡大していた。

 ザ・ビートルのプラットフォームは、現行の「ゴルフ」や「パサート」などに使われているものと同じだ。サスペンションはフロントがストラットで、リアがトレーリングアーム。これは専用設計されたものであり、ポロのものが流用されたわけではないという。また、北米向けなどにある2リッターターボモデルには、マルチリンクのリアサスが用意される。モデルごとのキャラクターにあわせてサスペンションまで作りわけているのだ。

 いかにフォルクスワーゲンがザ・ビートルに期待をして、力をかけているのかが、その仕様を聞くだけで想像できる。

 室内を覗けば、円形をうまく使ったポップなインパネ。ニュー・ビートルとディテールは異なるが、ボディ同色のパネルやフタが上に開く物入れ(通称 ビートル・ボックス)など、初代ビートルを彷彿させる意匠となっている。

 ちなみに、ニュー・ビートルで話題となった一輪挿しの装備は、今回のザ・ビートルではオプション扱いとなる。取材時には右ハンドル仕様の製品を開発中であり、現物を見ることができなかったのは残念なところだ。

 シートに座って外を眺めると、Aピラーが近くに感じられ、ボンネットの先を見ることができる。ニュー・ビートルが広大なダッシュボードの向こう、はるか遠くにピラーを眺める景色だったことを考えれば、ザ・ビートルの眺めは、ごく“スタンダード”なもの。この視界ならば、誰もがクルマの車体感覚を把握しやすくなり、運転もしやすく感じることだろう。

ザ・ビートルのインテリア
ザ・ビートルの「ビートル・ボックス」(上)とグローブボックス。ビートル・ボックスの容量はあまりないが、ミュージックプレーヤーを入れておくのにちょうどいい こちらは初代ビートルのインテリア
ザ・ビートルのラゲッジルーム。後席は5:5の分割可倒式

滑らかでトルクフルなパワートレイン
 続いてザ・ビートルを走らせたインプレッションを紹介しよう。

 まずは駐車場内をゆっくりと走り出す。7速のDSGの変速は滑らかだ。低速域でギクシャクするようなことはない。フォルクスワーゲンのDSGの洗練度の高さが体感できる。

 パワーステアリングの切り応えは、微少舵からぐっと重めで、しっかり感を得られる。ただし、切り込んでいっても、その手応えの重さは一定のままであった。

 街中を流れに乗って走ると、わずか1500rpmで最大トルクを発生するトルクフルなエンジン・キャラクターを味わうことができる。最高出力などのスペックには、やや寂しいものがあるが、街中を流す分には、洗練されたトランスミッションもあり、不満を感じることはない。

 逆に言えば、それだけの先進パワートレインなのだから、どうせならばアイドリング・ストップ機構も搭載してほしかったという欲張りな気持ちも湧いてくる。フォルクスワーゲン グループ ジャパン曰く「将来的に搭載を予定するが、現在のところは開発中」という。一刻も早い搭載を願うばかりだ。

 街中を普通に走るのには十分とはいえ、最大で77kW(105PS)のパワーは、どうにもインパクトが足りない。また高回転までひっぱってもパワーの伸びがあるわけでもない。残念ながら「踏むほどに楽しい」とか「官能的」というようなエンジン・フィールではなかった。

 ステアリング操作に対するクルマの動きは「素直」という印象だ。どっしりとしたステアリング・フィールそのままにクルマの動きにも落ち着きがある。どちらかといえば挙動はFFハッチバック車としてオーソドックスなもの。やたらに曲がる! というようなものではないため、ドライバーは構えることなく運転できる。

 また、乗り心地や静粛性は飛び抜けたものはなく、Cセグメントのトップクラスをゆくゴルフほどの高みではない。つまり走りはよくもわるくもオーソドックスで“スタンダード”なもの。しかし、無理矢理に“スポーティ”を主張しないところは、幅広いユーザーに受け入れられるビートルの伝統を受け継いだ美点と言っていいのではないだろうか。

 トータルで試乗を振り返れば、ザ・ビートルは、初代ビートルを彷彿とさせる“ユニーク”なルックスを持っているが、その中身は洗練を極めた現代のクルマそのものであった。運転のしやすい視界、充分な居住性、洗練されたパワートレイン、安心感のある走り。どれをとっても「デザイン優先だから我慢してね」というものはない。

 フォルクスワーゲンの言うところの「21世紀のビートル=ザ・ビートル」は、誰にでもエクスキューズなしで勧めることのできるクルマであったのだ。先代に引き続き、このモデルも息の長いヒットモデルになることだろう。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 5月 30日