インプレッション

ボルボ「XC60 T5」(Drive-E搭載モデル)

新世代パワートレーン「Drive-E」を日本導入

 2009年に日本導入され、クーペのスポーティさとSUVの逞しさを融合したボルボの新世代クロスオーバーとしてXC60は一定の人気を維持している。ボルボの他モデルと同時に2013年8月にマイナーチェンジが実施されて2014年モデルとなったが、そこからまだ半年足らずというこのタイミングで、S60、V60、XC60などの60シリーズに新しいパワートレーンが設定された。

 これは、ボルボが始めた「Drive-E」と名付ける新しいパワートレーン戦略の一環であり、最初の一歩ともなる。「ドライブ イー」というと、これまでボルボでは1.6リッター直列4気筒の直噴ターボにDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせたものを「DRIVe」と呼んでいたが、それとは意味合いが異なり、今回紹介する2.0リッター直列4気筒の直噴ターボだけでなく、今後展開していくものを含めた総称となる。

 60シリーズに設定されたDrive-E第1弾が、2.0リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンを搭載した「T5」モデル。さっそくXC60 T5に試乗できたのでリポートしよう。

 と、始める前にここで少し整理すると、ボルボで「T5」と名付けられたパワートレーンには、執筆時点で2通りが存在する。排気量はいずれも2.0リッターだが、まず「5」の数字そのままとなる直列5気筒のエンジンがあり、こちらは高性能版という位置付けで「V40 T5」「V40 クロスカントリー」などに搭載されている。一方で、これまでXC60 T5には既存の別の直列4気筒エンジンが搭載されており、これが今回から新しい“Drive-Eエンジン”に置き換えられたということだ。

 ご参考までに、同エンジンはXC60ではエンジン換装という扱いになるが、S60とV60では既存のT4とT6の間を埋める新規モデルとして追加設定されている。

 これまでXC60 T5に搭載されていたエンジンは、フォードとのアライアンス時代に開発されたもので、基本的にはフォードが「エコブースト」として展開しているものと共通性が高いエンジンとなっている。対する新T5エンジンは、2.0リッター直列4気筒の直噴ターボという点は不変だが、ボルボが最初から独自開発したものだ。このためにスウェーデンの自社工場の設備を一新したという。年間の生産台数が40数万台という規模のメーカーでこれをやってのけたのは、相当に大変なことに違いない。

XC60 T5 R-DESIGN
XC60 T5

 これに伴ない、トランスミッションも従来のフォードとゲトラグが共同開発したDCTからアイシン製の8速ATに変更され、エンジンマネージメントもデンソー製とされた。

 従来比で5PS、30Nmの向上となる最高出力180kW(245PS)、最大トルク350Nm(35.7kgm)というスペックは、奇しくもエンジン性能で定評のあるBMW 328iと同じ。また、8速ATを搭載する点も共通する。ただし、BMWのATはZF製でエンジンマネージメントはボッシュ製。欧州製のBMWに対し、ボルボは日本製というサプライヤーの対比も面白い。

 JC08モード燃費は、従来比で23%の改善となる13.6km/Lを実現し、XC60 T5モデルはボルボ初の免税(100%減税)対象となった。燃費をXC60で考えると不利すぎるのでS60との比較だが、JC08モード燃費では328iに負けているものの、欧州と米国の燃費モードではS60の燃費が上まわっているという。ご参考まで。

245PS/350Nmを発生する新世代の“Drive-Eエンジン”

トルクフルでスムーズな走り

 ドライブすると、これまでも性能的には十分だったが、新パワートレーンはより力強く、スムーズで乗りやすいことがすぐに分かる。振動が少なくエンジン透過音も抑えられていて、4気筒特有の騒々しさが小さい。「4気筒でも6気筒や8気筒に負けないフィーリングを追求した」と開発者が胸を張るだけのことはある。

 従来型のエンジンもトルク感は十分だったが、さらに低回転からトルクが立ち上がり、全体的にトルクが上乗せされた印象となっている。これにはエンジン単体の性能向上もさることながら、トランスミッションがDCTからトルコン付きのATに変わったことも大きく寄与しているに違いない。

 直噴ターボエンジンの宿命として、ある程度まで過給されるとパワフルになるが、ごく低回転域のトルクは薄い。また、DCTとの組み合わせでは機構的な負荷を抑えるため低速トルクを絞らざるを得ない面も大きい。これがATとの組み合わせになれば、エンジン側もトルクを出しやすく、トルコンによるトルク増幅効果もある。

 ATはスリップロスが大きいという固定概念はこのクルマでは当てはまらない。新開発のATは、変速を感じさせないほどスムーズに8段のギヤを行き来しながらも、心地よいダイレクト感がある。また、2014年モデルになってから、これまでボルボではR-DESIGNのようなパフォーマンス系モデルにも装備されていなかったパドルシフトがようやく設定されるようになった。このおかげでエンジンの性能をより意のままに引き出してドライブできるようになったことも歓迎したい。ちなみに、8速で100km/h走行時のエンジン回転数は約1500rpmと低く抑えられている。これが低燃費や静粛性に寄与することは言うまでもない。

変速機は6速DCTから8速ATに変更。ステアリングの背後にパドルシフトが追加された

 もう1つ驚いたのが、スタート&ストップシステムの完成度の高さだ。エンジン停止と再始動で音や振動が極めて小さく抑えられていて、まるでハイブリッドカーのような滑らかさに仕上がっている。また、エンジン停止時にもトルコンの油圧を維持する仕組みがあるおかげで、発進時にもたつくこともない。

 このほか、ドライブモードで「エコプラスモード」を選ぶと5%の燃費向上が見込めるという。変速の制御も燃費重視になるが、それに加えて減速時に完全停止しなくても7km/hを下まわるとアイドリングストップが作動するようになり、65km/h以上で巡航中にアクセルを抜いてもエンジンブレーキを働かせずコースティングする。このあたりも、これまでにはなかった新しい価値を身につけた部分になる。

2014年モデルからデザインを一新して先進安全装備を進化

 ここであらためて、2013年8月からXC60に採り入れられた2014年モデルの変更内容をおさらいしておこう。

 エクステリアでは、フロントバンパー、ヘッドライト、フロントグリルが新しいデザインとなり、水平ラインを強調したクロームトリムなどでよりワイド感を強調したフロントマスクとなった。また、ヘッドライト下部には縦型のLEDポジションライトが配置され、伝統的なVシェイプを強調したボンネット形状も新しくなった。

 さらに、ドアミラーやアルミホイールのデザインが一新され、デュアル・クローム・テールパイプを採用。ボディーカラーについても「クリスタルホワイトパール」「ブライトシルバーメタリック」「リッチジャバメタリック」が新たに設定されている。

 インテリアでは、V40に採用して注目を集めた「Elegance」「Eco」「Performance」という3モードを選択可能なデジタル液晶メーターパネルがXC90以外のモデルにも採用されたのが大きな変更点。そのほか、パネル類やシフトノブのデザインが新しくなり、ステアリングホイール・ヒーターが装備に追加された。

XC60 T5 R-DESIGNの内装
XC60 T5の内装

 一方で、最先端を行く先進安全装備はさらなる進化を遂げた。まず、低速用追突回避&被害軽減オートブレーキシステムの「シティ・セーフティ」については、作動速度域が30km/hから50km/hまでに引き上げられた。また、歩行者検知機能付き追突回避&被害軽減フルオートブレーキ・システムである「ヒューマン・セーフティ」には、新安全技術の「サイクリスト検知機能」が追加された。

 さらに、「BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム)」はこれまでのカメラ式からミリ波レーダー式に改められたほか、常に70m後方まで監視して急接近する車両の存在を知らせる「LCMA(レーン・チェンジ・マージ・エイド)」や、駐車場などで後退するときに左右から近づく車両の存在を知らせる「CTA(クロス・トラフィック・アラート)」、対向車が来た場合などに自動的に遮光して常にハイビーム状態での走行を可能とする「フル・アクティブ・ハイビーム」などがパッケージオプションに追加された。この「セーフティ・パッケージ」は、多くの機能を有しながら20万円高に価格が抑えられていることもありがたい。

 そのほかでは、アクセルオンでのコーナーリング中に左右輪のトルク配分を調節することでアンダーステアの軽減を図る「コーナー・トラクション・コントロール」が標準装備された点も新しい。

 なお、モデルラインアップ体系も新たに見直され、エントリーモデルを担当する標準グレードに加え、各種上級装備を標準装着する「SE」、スポーティな仕様の「R-DESIGN」がT5とT6の両方に設定されたことで、合計6モデルの展開となっている。

【お詫びと訂正】記事初出時、パワーテールゲートの設定がないと記載しましたが、正しくはT5 SE、T5 SE+Leather Package、T5 R-Designにオプション設定(7万円)されます。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学