インプレッション

BMW「i3」

操縦安定性に優れ軽快感に溢れたモーターサイクルのような乗り味

 BMWといえば“走り”のブランドイメージが強いけれど、じつは環境対策にも昔から力を入れてきたメーカーとして有名だ。エコ意識の高い欧州が土壌だからといえばそれまでだが、BMWは日本でもディーゼルエンジンやハイブリッドモデルなど燃費数値のよいモデルを積極的に販売してきた実績がある。

 今回BMWが初めて送り出した量産型の4人乗り電気自動車(EV)「i3」は、通常のEVモデルに加えて、発電用のエンジンを搭載したモデル「i3レンジエクステンダー」をラインアップしている。両モデルともにバッテリー総容量は同じ21.8kWhだが、車両重量は発電用エンジンを搭載しているため「i3レンジエクステンダー」が130kg重い1390kg(日産「リーフ」は24.0kWhで「S」グレードの車両重量は1430kg)。車両重量の違いが走りにどんな影響を及ぼすのか気になるところだが、純粋にEVの効率として考えてみればボディーは軽いほど有利な条件が揃うわけで、あえて2タイプのEVがある意味をじっくりと味わってみた。

 ちなみにi3のステアリングを握ったのはこれで2回目。最初の試乗ステージは鹿児島県屋久島だった。世界自然遺産に登録されている屋久島は日本の年間平均降水量の約2倍を誇り、その独特な地形と相まって年間発電量の99.8%を水力発電でまかなっているという。ご存知のように、水力発電は発電時に発生するCO2が他の発電システムと比べて格段に少ないことから、クルマの製造段階からCO2発生量を抑制したi3を最初に味わうには最適な場所だった。

 屋久島ではワインディング路を堪能したが、驚いたのはナロータイヤと軽量高剛性ボディーによる鋭い走り。i3の装着タイヤサイズは前後とも155/70 R19という400ccクラスのモーターサイクルが後輪に装着する幅よりも狭く、それでいてホイール径は19インチとBMWのMモデル並に大きい。i3レンジエクステンダーでは後輪のみ175/60 R19と若干太くなるが、これは車体後部の右側に搭載される発電用エンジンの重みが後軸にかかることを受けたものだ。

i3のボディーサイズは4010×1775×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2570mm。i3はパワートレーンやバッテリーを収めたアルミ製の「ドライブモジュール」と、CFRP製のパッセンジャーセル「ライフモジュール」で形成され、今回の撮影車であるi3レンジエクステンダーの車重はi3と比べ130kg重い1390kgとなっている。ボディーカラーはソーラー・オレンジ
i3はハロゲンヘッドライトが標準装備となるが、撮影車はオプションのLEDヘッドライトを装着
他のBMW車と同様、キドニー・グリルを装着するが、i3ではクローズドタイプを採用する
i3レンジエクステンダーのエンジンはリアに搭載されるため、フロントフード下は収納スペースが用意される
フロント155/70 R19、リア175/60 R19という前後異形のタイヤを装着するのがi3レンジエクステンダーの特長の1つ。撮影車はオプションの19インチ BMW iライト・アロイ・ホイール タービン・スタイリング428を装着
U字型のLEDテールライトを装備
i3レンジエクステンダーのフューエルリッドは右フロントフェンダーにある
i3はCHAdeMO(チャデモ)方式の急速充電に対応し、約30分で80%充電できる。充電口は右リアフェンダーに設置
フロントフード下の収納スペースに普通充電用の充電口があり、普通充電(200V/15Aの場合)の場合は約8時間で満充電にできる

 1260kgの車両重量に対してモーター出力は170PS/25.5kgmと、パワーウエイトレシオ換算でいえば一昔前のスポーツモデル並。さらにゼロ発進時から最大トルクを発するモーターのトルク特性が加わるため、体感加速が非常に優れているのはこれまでのEVと同じ。i3では、これにアルミ製シャーシとカーボンファイバー強化樹脂製のパッセンジャーセルによる新しいボディーの一体感が加わるため、シャープさが一層強められた加速フィールが味わえた。しかもこの一体感は、アクセルを踏み込む右足の微々たる動きに忠実に反応するから、いつでも期待値通りの加速感が生み出せる。この感覚はクルマというよりモーターサイクルに近い。世界でモーターサイクルを販売するBMWモトラッドのラインアップでいえば、並列2気筒800ccエンジンを搭載したミドルクラスのスポーツモデル「F800R」のように操縦安定性に優れ軽快感に溢れたものだ。

 前述したナロータイヤの功績は、直進安定性の向上や電費効率を上げるだけでなく、鋭いハンドリングを生み出したことにも現れている。タイヤの横幅は非常に狭いが、大径化によって相対的に縦方向の接地面積が大きくなり、結果としてコーナリング時の安定性も高く保つなど、これまで相克するとされていた課題を両立したからだ。また、専用設計タイヤ(ブリヂストン「ECOPIA EP500 ologic」)はサイドウォールの剛性がしっかりと保たれているため、雨にたたられた屋久島のワインディング路でも終始手応えたっぷりの安心感の高いコーナリング性能を堪能させてくれた。後軸の後にモーター(と発電用エンジン)を搭載するRR方式の後輪駆動だが、これなら雪道の下り坂であっても不安なく走れることだろう。

 ただ、EPSやサスペンション特性とのバランス故か、直進時のすわりが心許なく過敏に反応してしまうところや、市街地走行で多用するゆっくりとしたステアリング操作に対して、切り始めてヨーが発生する瞬間にグラッと一気に反応する兆候が見られるなど、ナロー&大径タイヤ特有の現象も確認できた。

 都内では、平均車速15km/h以下の渋滞路やループ状の勾配路がある大きな橋、さらにはアンダーパスの交差路など、いわゆる日常走行するシーンを中心に試乗した。試乗時間の関係もあり正確な電費計測はかなわなかったが、i3のユーザーになったつもりで素直に走りを楽しんでみた。

観音開きの4ドア+バックドアスタイルを採用するi3。フロア下にリチウムイオンバッテリーを搭載する
ナチュラルとモダンの融合を図ったインテリアのテーマは「次の時代のプレミアム」。撮影車のインテリアは、シートやインストルメントパネルにブラウンカラーの天然なめし加工レザーをあしらった「BMW i インテリア・デザイン SUITE」仕様。インストルメントパネルに使われるユーカリ・ウッドが車内に明るさをもたらしている
日本に導入されるi3のステアリング位置は全車右となっている
ドアパネルにもブラウンカラーの天然なめし加工レザーを採用
フロントシートの足下は左右に遮るものがなく、フラットな空間が広がっている
ヘッドライトはダイヤル式
セレクターレバーはステアリングの右側に配置。スタート/ストップボタンもこのレバーにある
カーナビなどの操作はセンターコンソールにあるiDriveコントローラーで行う
オートエアコンを装備
車両の前方/後方にある障害物との距離を、信号音とともに表示でアナウンスするPDC(パーク・ディスタンス・コントロール)を標準装備
助手席側のインストルメントパネル上部に収納スペースが用意される
カーナビや車両情報などの表示が可能な10.2インチディスプレイは標準装備
ブラウンカラーの前後シート
5:5分割可倒式の後席シートバックを倒せばフラットな空間を作り上げることができる
10.2インチディスプレイの表示例

“成人男性2人分”の発電用エンジンを搭載した、レンジエクステンダーの乗り味が好み

 すでに業界各所からリポートがあがっているように、i3のアクセルワークには独特の流儀がある。通常は踏み込むことで加速度を生み出すアクセルペダルだが、i3の場合はペダルを戻すことで減速度を生み出すことができる。その減速度は車速など外的要因に応じて変化するものの、時に0.2以上のしっかりとした減速度を記録する。ちなみに減速度0.2とは、たとえば路線バスの車内で立って乗車している場合、手すりやつり革などにつかまっていないと転んでしまいそうなるほどの減速度だ。「アクセルを戻しただけでそんなに強く減速するなんて後続車に対して危険なのでは……」と思われるだろうが、減速度が0.13を超える際には、ブレーキペダルを踏んだ時と同じくストップランプが点灯するので安心だ。

 こうした独特のアクセルワークにより、なんの予備知識なく乗り込むと走りにギクシャク感が出てしまうのは否めない。ただそれも当然で、いわゆる2ペダルのトランスミッションを搭載している車両の多くは、踏み込む=加速、戻す≒惰性走行状態を生み出すだけに留まるものの、i3ではアクセルを戻す=減速という新しいタスクが加わってくるからだ。

 では、どうしたらギクシャク感を出さずに運転できるのかといえば、その答えは非常に明快。戻す操作に意識を集中させるべく、「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」を「ECO PRO」モードに入れるだけ。こうすることでアクセルワークに対する加速度の発生が緩やか(≒電費を伸ばす特性)になり、相対的に戻す操作に集中できるようになる。とはいえ、当然これは狙って設計されたものではなく、持てる性能をフルに発揮する「COMFORT」モードでの走りっぷりが非常に活発だからこそ思うに至った筆者独自の発想だ。

 緩やかな加速感となる「ECO PRO」モードでは、加速も減速もしない、いわゆる滑走状態を生み出すことも容易となるため、たとえば一般路におけるアンダーパスなどで前車に追従しながら走行したい場面では非常に有効だった。また、「ECO PRO」モードからエアコンの使用に制限を設けるなど、さらに電気を節約する「ECO PRO+」モードの設定もあるが、加速感という意味では「ECO PRO」モードとほぼ同等だった。

 i3レンジエクステンダーであっても、EVとしての走行性能はi3と同じだ。とはいえ、i3に対して車両重量の10%以上を占める130kgの増加は乗り味を大きく変えた。車検証上の後軸荷重は「i3」の670kg(車両重量の53.1%)に対して、i3レンジエクステンダーは780kg(同56.2%)。違いは僅かだが、ボディーの後端にいわゆる成人男性2人分(65kg×2名)にあたる発電用エンジンを搭載しているだけあって、体感変化は数値以上に大きなものだ。

 筆者はi3レンジエクステンダーの乗り味を好む。前述したナロー&大径タイヤの過敏な動きが抑制されるとともに、段差通過時の上下動が明らかに少ないからだ。ちなみに乗り心地を左右するシートの減衰特性は、なめし剤にオリーブ葉の抽出物を使ったレザーシート(オプション設定/通常はペットボトルなどのリサイクル材を使ったシート地)が優れていたが、外気温に影響される部分でもあるためウインターシーズンに入ったら再度検証してみたい。

 乗車定員の4名でも試乗してみたが、意外なまでにハンドリングに対する影響力が大きかったことも付け加えたい。モーターサイクルでタンデマー(2人乗り)を乗せたライディングをした感覚に近く、前輪の接地感が薄らいでしまうのだ。たとえば50km/h付近で車線変更することをイメージしていただきたいのだが、こうしたシーンでのゆっくりとしたステアリング操作に対してフワッと軽く感じられる瞬間がある。もっともワインディング路など、コーナーへのアプローチに対して十分な減速により前輪に荷重がしっかりとかかった状況であればこうした不安はなかった。EPSのセッティング次第でこうした症状はいくぶん穏やかにもなりそうだが……。

 加速タイムでは車両重量の軽いi3が速いが、運転していると発電用とはいえエンジンを搭載するi3レンジエクステンダーに親近感が湧いた。直列2気筒647cc発電用エンジン(38PS/5.7kgm)は、2000-5000rpm前後の回転域をSOC(State of Charge:充電率)や走行シーンによって行き来しながら発電する。理論上、エンジンの稼働時間は広くとられていて「チャージ」モードに設定すると、SOCが75%以下に減った段階でエンジンが必要に応じて掛かりSOCをキープする。また、「チャージ」モードを使わずにEV走行のままSOCが6.5%を切った場合には、自動的にエンジンが掛かり電欠を防ぐ。いずれにしろ発電しながら走行するので、9.0Lのガソリンタンクを使い切るまではバッテリー切れによる電欠の心配はないわけだ。

 発電用のエンジンはBMWモトラッドの「C 650 GT」、「C 600 Sport」(車名は600だが647cc)が搭載するものと基本は同じ。出力特性こそ60PS/6.7kgmとモーターサイクル用は本来の性能を発揮しているが、わりとしっかりとした振動を伴う特性はi3レンジエクステンダーにも受け継がれている。

 ドライバーとして耳を澄ましていると、エンジンが始動したことを示す燃焼音がしっかりと伝わってくる。「チャージ」モードに設定しエンジン始動条件が揃った段階でアクセル開度を大きく(おおよそ70%以上)すると、今度は聴覚だけでなく、ステアリングやシート座面から触覚として2つのシリンダーが上下する鼓動を感じ取ることができるのだ。そのままアクセルを踏み続ければ、エンジン回転数もそれに応じて上昇していくため非常にエモーショナル。決して不快ではない。既存の国産ハイブリッドモデルでも同じような運転環境を体感できるが、それらは非常に静かで振動をほとんど感じさせない作り込みがなされている。

 一方、i3レンジエクステンダーの場合は欧州、とりわけドイツの常でありフェールセーフの観点からも重んじられている、“正常に稼働しているものが発する音や振動を無理に消さない”というセオリーが貫かれており、EVなのに慣れ親しんだ内燃機関のフィーリングが色濃く残っていた。最先端なEVが意図的に残した乗り物としての普遍的な部分に好印象を抱いた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:安田 剛