安全とエコは正確なタイヤ空気圧測定から
国産タイヤゲージ「ゲージボタル AG-8006-1」
メーカー:旭産業
価格:3万1900円(通販購入価格:1万2000円)

 

まずは空気圧管理のおさらいをしてみる
 今回はタイヤの空気圧チェックがお題。考えれば当たり前のことだが、自動車が地面と接しているのはタイヤだけ。しかもタイヤのごく一部、およそハガキ大程度の接地面のみと言われている。これだけに命を乗せて日々走っていると考えると、ちょっと怖くなってくる。

 このわずかなタイヤ接地部分の性能は、充填された空気の圧力(空気圧)によって、その能力が大きく左右される。空気圧が高ければ風船のように膨らみ中央部分だけが接地し、低ければ接地部分がたわむので中央部が接地しにくくなってくる。これによりタイヤの転がり抵抗も大きく変わってしまうワケだ。さらに空気圧はタイヤ全体にも影響を及ぼし、極端な低空気圧で高速走行するとバーストの危険すらあったりする。

 このようにタイヤの空気圧は命にかかわるほどのものでありながら、JAFの高速道路出動理由のワースト1がタイヤトラブルになってしまうほど、日常的に点検する人は少ない。高速走行でバーストしてしまう前に、ちょっとばかり気にかけてもバチは当たらないだろう。かくいう筆者も毎回ドライブ前のチェックは欠かさない几帳面タイプではない。気持ちよく計測できる環境を整えれば、もう少しチェック頻度がアップするのでは、というのが、タイヤゲージ導入のもくろみである。

 空気圧を適正に管理することは、安全はもちろん、乗り味やエコにも通じる重要な整備ポイント。そのため、すべての車は標準装着のタイヤにおいて推奨される指定空気圧は決められていて、通常は運転席側のフロントドアを開けた内側周辺にシールで貼られているのを見たことがある人も多いはず。今一度確認してみてほしい。

運転席ドア開口部にある指定空気圧表示シールの例。この車種の場合、単位はbarで100倍すればkPaに換算できる。通常の1人乗り、2人乗りの場合と重量物を乗せた場合の2種類の表記がある。

 空気圧測定で注意したいのは表記されている単位。これまでの計量法改正で圧力に関する単位は「kgf/cm2」(工学気圧=at)から国際単位の「kPa(キロパスカル)」に統一されている。だがまれに「kgf/cm2」の表記もまだ見かける。おおよそだが「kgf/cm2」を100倍したものが「kPa」の値になると覚えておくと便利だ。ほかにも輸入車では「bar(バール)」や「PSI」といった表記を見ることもある。各値の換算はカシオ計算機がWebで提供している「高精度計算サイト」のサイト内にある「圧力の換算」ページが便利だ。

 実際に空気圧を計測するタイミングは、運転前のタイヤが冷えている状態でするのが鉄則。これは守らないと意味がない。走行後はわずかだが空気圧が上がってしまうからだ。また、充填する空気が水分を含まないように気をつけたい。コンプレッサーを使って入れる際には、タンクからの水抜きをしたり、厳密には水抜きフィルターを使うようにしておきたい。

高精度なタイヤゲージ選び
 前置きが長くなったが、本題のタイヤゲージに移ろう。実際にタイヤゲージを購入しようと調べると、単に空気圧を計測するだけなのにたくさんの種類があり、価格もかなり開きがあるため迷ってしまうところだ。価格差を考慮しつつの選択ポイントはズバリ、計測精度をどれだけ気にかけるかだ。当然精度が高いものは高価。これは、安定して計測可能な精度の高い計器は、組み立ての厳密さはもちろん、精度を出すための特別な部材が必要だったり、最終的に校正作業を厳密にして出荷したりする必要があり、よりコストがかかっているからだ。

 メーターの見やすさは当然チェックするだろうが、同時に計測可能な最大値が大き過ぎないことも確認しておきたい。最大値は400~600kPa程度がよいだろう(テンパータイヤの空気圧は通常タイヤよりも高いので注意)。最大値があまり大きいと、少ない部分での針の動きが少なくなるので確認しにくい。画面が大きく常用する圧力部分(0~300kPaあたり)が大きくとられ、針が細いと微細な確認がしやすい。

 使い勝手や機能から選択する際のポイントは、バルブに密着させるチャックに力をかけやすく空気漏れがしにくい作りか、空気を抜く機能がある場合にはボタンが押しやすいか、メーター周囲に衝撃吸収スポンジがあるか、といった部分に目を向けた。特に衝撃や振動はタイヤゲージにとって大敵だ。整備作業時は雑に扱われがちなので、衝撃に強いことは必須と言える。

 以上のことを考えた結果、業務用としても広く使われていて信頼の高い、旭産業のタイヤゲージ「ゲージボタル AG-8006-1」を購入した。旭産業というメーカーは一般にはなじみがないかも知れないが、国内の自動車整備工場やタイヤショップの多数で採用されている。いわば業界では知らない人はいないというタイヤゲージ専門のトップメーカー。

 ゲージボタルには、タイヤチャックなどの違いにより各種バリエーションがあり、購入したのは、一般的な使い勝手がよさそうな小口径ストレートチャックのAG-8006-1。このAG-8006-1は、当然ながら上記に挙げた条件は高い次元でクリアしている。メーター部分は直径11cmほど(クッションまで含む実測値)の巨大さで、全面に蓄光塗料が塗ってあるため暗い場所でもハッキリ確認できる。このメーター部が光る機能は「ゲージボタル」シリーズの特徴だが、メーター面が広く発光するため想像以上に明るく、ちょっと薄暗い(ガレージは薄暗いことが多い)場所でビックリするほどに見やすい。また、チャックは精密な作りで、軽く力をかければ「プシッ」っという音とともに針はブレることなく測定値でぴったりと気持ちよく静止する。もちろん最近では珍しい「Made in Japan」であり、全品が出荷前に厳しく検査されていることもうれしいところ。

メーター部分の直径は11cmもあり視認性抜群。kPaのみの表記で30~600kPaまで計測可能。メーターの針が0点からわずかにずれているのは故障ではなく、こういう作り実際の作業時には、地面に置かれ意外と雑に扱われることが多い。メーター部周囲は、ぶ厚い衝撃吸収パッドで覆われている蓄光塗料により夜間でも読み取りやすいのが「ゲージボタル」シリーズの特徴

高価なことをどう納得するか
 ただし、作りがよい分標準価格も3万1900円と破格である。業務での使用を想定しているため一切の妥協がないためだろう。実売はかなり割り引かれており、通販サイトであれば1万円台で購入できる(今回は、1万2000円で購入した)ことが多い。ただ、それでも他の安価なタイヤゲージなら2000円台から売られているので、やはりちゅうちょするところだろう。この価格差をどうとらえるかだが、個人的には、出荷時に正確に校正されているので測定値に不安がないこと、後で国内で校正を依頼できること、精度の高い操作感が日常的に使えるという満足感を総合すると納得できるものだと感じた。よいモノを長く使うという考えだ。

 タイヤゲージの精度は長期間にわたって安定的なものではなく、経年変化で狂いが生じてくる。正しい値を知りたいなら定期的な校正は必須になる。メーカー推奨の校正間隔は、ゲージホタルで1年ごととなっている。技術料金はかかるが、後々メーカー校正が依頼できるかどうかは、長く使い続けたい場合の重要なポイントといえるだろう。

 なお、今回紹介しているゲージボタルシリーズは、エアコンプレッサーと接続すると、エアの充填作業もできるようになっている(エアコンプレッサーを接続しなければ、抜く操作だけ利用できる)。エアを入れるのと抜くのを、レバーのちょっとした握り加減で素早く調節できる点もこのモデルの特徴の1つだ。もしエアコンプレッサーと接続することがないなら、抜く機能だけの「ぬきボタル」や計測だけの「ダイヤルタイプ」のほうが、安価に揃えることができるのでお勧めだ。

エアを効率よく充填するにはエアコンプレッサーを用意するとベスト。小型のタイプでも十分だ。安価なモノなら1万円程度からあるゲージボタルシリーズは、握り部分の末端にコンプレッサーのホースが接続できるハイカプラープラグが装備されている。エアツールで利用する一般的なものだ実際にホースを接続したところ。ホースのソケットはワンタッチで接続できる
コンプレッサーをつないだ状態でレバーを深く握ると増圧。つまりエアを入れるという作業ができるレバーを軽く握ると減圧になる。タイヤに空気を多めに入れておき、空気を抜きながら目的の空気圧にあわせやすい

 使い勝手を大きく左右するため選択時に特に注目したいのが、バルブに密着させるチャックの形状だ。今回選択した小口径ストレートチャックは、アルミホイールに向いていると言う。チャックのストレート部分の大きさが、ちょうどバルブに押し当て、力を入れる作業に向いている。

AG-8006-1は、小口径ストレートチャックになっている。乗用車のアルミホイールなどに使いやすい汎用性の高いタイプストレートチャックは、グッと押し込んで使う。中途半端な押し込みだと空気が漏れるが、精度がよいのでバルブに収まりやすいチャックを押し込むと、空気圧が測定される。針はピタリと気持ちよく静止する

測定値が「ビシッ」と一発で決まる快感
 実際にエアコンプレッサーと接続してゲージボタルを使ってみると、まずチャックがバルブに押し当てやすいことに驚く。押し当てはじめると空気が抜けることになるが、ここから力を入れていくと空気漏れは止まる。この一連の作業が実にスムーズにできるのだ。チャックをシッカリと押し込んだ状態にすると、針が動き空気圧が測定される。この針の動きもスムーズに止まり読みやすい。

 その状態から、レバーの握り加減によって空気を加減するのだが、このレバーも節度のある軽さで作業ができ気持ちがよい。レバーでエア操作している際には、針はいったん0に戻るので、メーターを見ながら少しずつ増圧を微調整ということはできない。少し高めに増圧(0表示)→圧確認→少し減圧(0表示)→圧確認→さらに減圧(0表示)→適正圧に、というような作業工程になる。この圧確認の度に値が「ビシッ」と一発で決まるのが爽快だ。この動きを見ているだけでも、空気圧チェック作業が楽しくなってくる。

 タイヤの空気圧は、気温や外気圧、もちろん高度によっても変化してしまうものなので、あまり細かな数値(10kPa以下は精度誤差と考える)にこだわり過ぎずに、実際に入れる値は、メーカーの推奨値から「0~+20kPa」を目安にしておくとよいだろう。欧州車の指定空気圧表示は、乗車定員や積載物によって指示が異なる場合がある。国産車は最大定員時の表記のみがほとんどだ。乗車人員や積載物に応じて、指定空気圧を基準に自分なりの快適な値を把握しておくようにしたりすれば、今回の投資も無駄にならずにすむだろう。ただし下限は指定空気圧に、上限は1割増しまでにとどめておくのが無難だ。

 ちなみに、記事執筆にあたり旭産業に精度を出すための工夫をうかがったところ、精度を決めるスプリングの品質管理を徹底して行うことと、出荷する全数検査(抜き取りではないところがポイントだ)をしていることを教えていただけた。正確な値を知りたければ定期的な校正は必須で、可能なら最低1年ごとに検査に出してほしいそうだ。家庭で使う分にはそこまで厳密でなくてよいと思うが、国内でいつでも点検と校正に出せるということは使い続けていく上でとても心強い。

 タイヤの空気圧管理だけに、ここまでの装備を揃えるかどうかは意見が分かれるかも知れないが、車好きであれば、空気圧管理がどれだけ重要かは理解しているはずだ。空気圧チェックのたびに正確さと便利さの恩恵に受けられることを考えると、個人的にはそれほど贅沢なツールとも思えない。自宅に駐車場があるなら、ぜひ小型コンプレッサーと一緒に装備してみてほしい。空気圧チェックのたびに、その精密感あふれる操作にニンマリしてしまうこと請け合いだ。

(村上俊一)
2010年 4月 23日