日下部保雄の悠悠閑閑

韓国のモータースポーツと次世代スポーツBEV

フェスティバルの始まりはモリゾウ/鄭会長のドリフトとK-POPから

 韓国のヨンインスピードウェイでヒョンデとTOYOTA GAZOO Racingの合同イベント、Hyundai N×TOYOTA GAZOO Racing Festivalが開催された。詳報は既報どおりで、世界第1位と3位のメーカーが協力してモータースポーツ文化を花開かせようというイベントだった。

 オープニングは旧ヤリスラリー車に乗るモリゾウさんがヒョンデの鄭(チョン)会長をコ・ドライバーに派手なドリフトを披露して始まった。車両がステージに上がって降りてくるまでクルーが誰だか知らされていなかったからインパクトが大きかった。トヨタとヒョンデの会長がドリフトしてるんだから!

 韓国のモータースポーツの下地はあり、まだまだ発展する余地は大きい。公道を使うラリーは開催されていないが、メジャーなサーキットが3つある。かつてF1が開催されたKIC(韓国インターナショナルサーキット)、ソウルの北東にありクルマで3時間ほどかかるインジェ・スピーディウム、そしてソウルから近いヨンインで、それぞれ4kmから5.6kmの長さがある。このほかにもコンパクトなサーキットがいくつかあったと記憶する。

 フォーミュラレースは一般的にはなじみがなくてイベントはない。韓国のトップカテゴリーは6.3リッターのGM製V8を搭載したスーパーレース。スープラのカウルをかぶった独自のカテゴリーだ。今年は15台ほど、多い年は20数台が出走する。NASCAR的なクルマの作り方で合理的でコンペティティブ。コストも抑えられている。

 ヒョンデのお膝元だけにワンメイクレースは盛んだ。特異な3ドアクーペのヴェロスターのMTで数シーズンを送ってきたが、近年は4ドアのアバンテ Nに切り替わり、さらに盛況になった。MTからDCTになったことで参加者が増えたという。こちらは2クラスに分かれる。

 スリックタイヤを履いた改造範囲が広いN1クラス。そして韓国で最大規模を誇るのがN2クラスで、サスペンションも含めてほぼノーマル。タイヤもスポーツタイヤで80台ぐらいのボリュームがあるという。

韓国モータースポーツを牽引するヒョンデ。アバンテ Nのワンメイクで改造クラスのN1。タイヤはクムホだった
同じくアバンテ NのN2。無改造クラスで、日本でいえば86レースのFF版。290PSもあるのでワンメイク指定のネクセンタイヤも大変だ

 面白いのは日本にはないプリウスPHEVのワンメイクレースだ。車高調整サスにブレーキパッドはプロμを使い、タイヤはブリヂストンのRE-71だ。3年間参加する必要があるが、面白い取り組みだと思った。

プリウスPHEVのワンメイクレース、3年契約で購入してレース参加する。途中売買も可能だが車両はレースに参加する必要があるらしい
レースでは珍しい光景、PHEVへの充電。EVが進んだ韓国らしい

 BEVのヒョンデ・アイオニック 5 Nはトーナメント形式のタイムトライアルで行なわれている。

 日本だと短距離レースがシリーズ化され、アイオニック 5 Nがデビュー戦で1-2フィニッシュを飾ったが、そのポテンシャルを見るとさもありなんだ。

 ヨンインでのフェスティバルでは本コース、パドックを使っていろいろなプログラムが組まれていたが、パドックに作られたスタジアムで繰り広げられた冒頭の両会長のドリフトで始まったショータイムは多くの観客が集まった。K-POPあり、ジムカーナありだ。ヒョンデはヌービル、ソルド、ミケルセンといったWRCのエースドライバーが、TGRはラトバラ監督と勝田貴元選手とお父さんの範彦選手がドーナツターンやスピンターンを繰り広げて、クルマを自在に操る面白さに沸いた。

ヒョンデ i20 N ラリー1のドーナツターン、すごく安定して走りやすそうだった。シーズンも最後でヌービルはドライバータイトルに王手をかけている
ヤリス ラリー2は勝田選手のドリフトで。手堅く、そしてダイナミックだった

 興味を引いたのはヒョンデ RN24という次世代のBEVスポーツコンセプトを走らせたことだ。軽量/コンパクト/高剛性を標榜して、一見バギー車のように見えるのはウワモノがパイプで組まれているから。コンセプトに忠実に則って限界まで挑戦した結果である。サイズはBセグメントに該当し、アイオニック 5 Nよりホイールベースは340mm短い2660mm。まさにヒョンデのWRCカーを思わせる。バッテリはアイオニック 5 Nの84kWhを搭載し、クーリングシステムは大きく進化して安定した出力を取り出せる。

 サスペンションシステムもラリー1からインスパイアされたもので、セッティングの自由度は驚くほど広い。

Rolling Lab 次世代スポーツBEVの実験車RN24
RN24をリアから。軽量ハイパワー高剛性が目標

 走る姿勢は明らかに量産車とは違い、路面に張り付いたように走る。手練れのWRCドライバーもちょっと勝手が違うと感じたに違いない。

 ヒョンデのRolling Labはコンセプトメーキングにとどまらず、走らせてデータと経験を積み重ねる現実的な実験車だ。現在1880kgまで軽量化されているが、次世代のコンパクトBEVスポーツはこの値が目標になるだろう。そしてRN24はモータースポーツと量産Nモデルの架け橋となる実験車だ。

 ヒョンデは巨大グループ。傘下にあらゆるカテゴリーの産業を持ち、そのネットワークも活かしながら新しい技術に恐れず挑戦する、そのスピードとバイタリティには驚くばかりだ。10年前のヒョンデとは明らかに違う力強さを感じた。

漢江もようやく紅葉が始まった。今年の秋の訪れは遅いという。温暖化を肌で感じているのは世界中で一緒だ
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。