まるも亜希子の「寄り道日和」

人とくるまのテクノロジー展で発見した興味深い技術

5月25日〜27日までパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2022横浜」。リアルだけでなく、オンライン展示も併催されました。会場ではあまり大きなコンセプトカーなどの出展は少なかったのですが、その中でひときわ目をひいていたのが旭化成のコセンプトカー「AKXY2」。過去にトミーカイラZZを手がけたことで知られるカーデザイナーの石丸竜平さんが手がけ、2017年、2019年に発表してきた3代目に当たります。優雅なサンルームでリラックスしているようなキャビンが印象的。乗り降りする際にはクリアなルーフが電動で上にあがり、ステップが倒れてドアの役割を果たしていました。まさに、未来!

 日本初披露が17、世界初披露が3という、興味深いイベントとなった「人とくるまのテクノロジー展2022横浜」。久しぶりのリアル開催にちょっとドキドキしつつ、出かけてきました。このイベント会場に来ると、ふだんは1台のクルマの内側に隠れている部品たちの多さ、奥の深さ、進化の度合いにいつも圧倒され、頭の中があっという間に情報過多となってクラクラしてきます(笑)。

 小さいけれど、それがなくてはクルマが完成しない重要なパーツたち。その1つ1つのパーツを専門に研究・開発している技術者の皆さんが集まる場所ということで、なかなか専門知識がないと理解するのが難しいところもあるのですが、毎回、ブースを回っているうちに何となく「今回は◯◯系の技術が多いなぁ」といったトレンドのようなものを感じます。今回はやっぱり、EV関連の技術が多いという印象。でもそれと同じくらい、安全技術やAIなどを使ったデータ処理技術、車載ソフトウェアのような技術も多く感じられました。

 私はいつも生活者視点で見て回るのですが、すぐにでも実用化してほしいと思うものや、自分でも実際に欲しいと思うものに出会うと、とてもうれしくなるんですよね。今回も、そういう発見がいくつかありました。

東海理化のブースに展示してあった、幼児置き去り検知システム。日本ではまだ記憶に新しいのが、保育園の送迎バスに取り残された幼児が亡くなったというニュース。そうした悲劇が二度と起こらないよう、1日も早く装備が進むことを願います

 その中でまず1つは、これから外気温が上がってくると心配になってしまう、子供の車内置き去り。日本だけでなく世界中で問題になっていて、欧州では2022年中に、安全性能評価試験「EURO NCAP」の項目に「幼児置き去り検知システムの動作評価」が加わる予定となっています。そのため多くのサプライヤーがそのシステム開発に力を入れてきているのですが、日本で同様の動きがあるような情報はまだなかったのです。今回、東海理化が2025年の実用化を目指している「幼児置き去り検知システム」を展示していたので、そのあたりの話を聞いてみると、メインは欧州市場での展開なのですが、日本でも保育園や幼稚園の送迎バスなどに装備できるよう、アプローチしていく予定とのこと。これはすごくいいことだなと思いました。これを機に、乗用車への装備も進んでいくといいですよね。ちなみにこのシステムはカメラやミリ波センサー、Wi-Fiを使ったものなど、いろいろなタイプがあり、東海理化のシステムはミリ波センサーを使用。天井に取り付け、1つのセンサーで3列シートまでカバーするとのこと。また、EURO NCAPの評価要件が、「後ろ向きチャイルドシートの幼児を含む6歳までの子供を検知すること」「足元エリアを含む車室内すべてを検知エリアとすること」「毛布および日除けに覆われた子供の検知が必要」の3つなので、それをクリアする性能を備えるということでした。他社のシステムでは、子供やペットの泣き声(鳴き声)を認識するものもあったりするので、愛犬家のドライバーにも早く実用化して欲しい技術ではないでしょうか。

 もう1つ、今回が世界初披露となった技術の「アクアブレードナノジェット」。これもすごく欲しいと思ったものです。もうすぐ梅雨の時期ということもあるのですが、ワイパーって、もう21世紀なんだからもうちょっと劇的に進化してもいいのでは? と勝手に思っていたパーツ。これはヴァレオジャパンが出展していて、なんと従来のワイパーに比べてフロントガラスを拭く際に使用するウォッシャー液を60%も削減しつつ、素早く正確なクリーニングによってドライバーのブレーキングへの反応時間を0.315秒短縮できるというのです。距離にして、50km/h走行時に約4mも制動距離が短縮できるそう。しかもブレードにはヒーター機能が備わっているので、寒冷地での使用も快適になるというではないですか。いやこれ、すぐにでも欲しいですよね。雨の日の運転がかなり安心になると思います。

 そして、自分で使いたいとか欲しいと思うものとは違うのですが、試乗してものすごくいい! と感じたクルマに採用されているパーツが出展されていて、「なるほど、これがその秘密の1つだったのね」と判明することがあるのも、面白いところです。今回もいくつかあって、そのうちの1つが現行ハスラー。最初に試乗したときに、あまりの静かさ、振動の少ない上質な乗り味にビックリしたんですね。そしたらヘンケルジャパンのブースを見ていて、「TEROSON HDF(テロソンハイダンピングフォーム)」というものを発見。

 これは、ルーフなどに塗布することで、車体構造への伝搬振動を効果的に減衰させることができ、車室内の振動やノイズを低減することができるという画期的な新素材。これが量産ラインに採用されたのはハスラーが世界初だったとのこと。いや〜、これだったんですね、私を驚かせてくれた秘密の一片は。試乗会での取材だけでは、なかなかこうした内部の細かな部分のお話までは聞くことができないので、こういうところで出会うとあらためて感心します。この新素材はその後、ワゴンRスマイルやソリオ、アルトにも採用されているそうです。

 ということで、今回もおなかいっぱい、頭クラクラ、充実のイベントでございました。「人とくるまのテクノロジー展」は場所をポートメッセ名古屋に移し、6月29日〜7月1日に開催されますので、お近くの方はWebで来場登録の上、たくさんの技術たちに触れてみてくださいね。

コロナ禍による社会変化で地元(地域)愛が増すことを踏まえ、Z世代をターゲットとした脱炭素・循環型社会を見据えたパーソナルカーのインテリアを表現した豊田合成のコンセプトカー。まるでビジネスホテルの一室がギュギュっと車内に凝縮したような、使いやすく居心地よさそうな空間が印象的でした。ゴム・樹脂のリサイクル材や、植物由来のバイオ材がコクピット部に採用されているそうです
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在は新型のスバル・レヴォーグとユーノス・ロードスター、ニッサン・スカイラインクーペ。