まるも亜希子の「寄り道日和」

BYDの日本進出にワクワク

中国のメーカー、BYDが2023年1月に日本での発売を予定している、ミドルSUVのATTO3。ドアやフェンダーまわりのプレス技術がとても精度が高くて、思わず釘付けになってしまいました。日本ではBYDの名前を聞いたことがないという人が多いと思いますが、実はEVバスの日本でのシェアは7割を超えているそうなので、すでに身近にあるかもしれませんね

 2008年くらいから中国のモーターショーを取材するようになって、北京、上海、広州と訪れるたび、想像を絶する規模と熱気と勢いに圧倒されてきました。ジャーナリストの先輩が「まるで80年代の東京モーターショーみたいだよ」と言っていたように、そこに広がっていたのは、人々がまさにクルマに熱狂している光景。クルマが主役、クルマが憧れの的、みんながクルマを欲しがっている。日本にはもう存在しない、そんな空気の中に浸ることができ、夢のような時間を過ごしたものでした。

 東京の数倍はある会場を、クタクタになりながら練り歩いて取材していると、当時は数十社以上がひしめいていた中国の自動車メーカーの中でも、だんだん自分のご贔屓ができてくるんですよね。私は長城汽車、ジーリー(吉利)、BYD汽車、CHERY(奇瑞汽車)がお気に入り。機会があれば試乗したいなぁと思っていたものの、中国では国際免許が有効ではないので、残念ながら運転するのは難しいのです。空いた時間に観光をする際に、なるべく中国車で送迎してくれるツアーを選んで、後席試乗に励んでいたのでした(笑)。

 なので、まさかBYDが日本進出を果たし、日本で運転できる日がくるなんて! 私としてはかなりワクワク。さっそく、日本で2023年1月ごろに発売を予定しているという、ATTO3(アットスリー)と対面してきました。もともと、さまざまな分野のバッテリー技術で有名なBYDが日本で販売するのは、どれもEVです。コンパクトカー、セダン、ミドルSUVが予定されていて、ATTO3はミドルSUV。すでに中国以外ではシンガポール、オーストラリアでも販売されていて、好評を得ているのだそう。詳細なスペックや価格の発表は秋ごろを予定しているそうですが、航続距離はすでに公表されていて、WLTCモードで485km。日産リーフの60kWhが450kmなので、それを上まわる十分な距離ですよね。

 で、運転する前から驚いたのが、独創的なデザインと仕立てのよさ。中国のモーターショーを取材していたころは、ボディのフォルムもどこかのペーっとした単純なものが多く、細部のチリがあっていなかったり、雑な仕上がりだなと感じたことも多かったのですが、このATTO3はサイドから見るととくに、高度な技術でプレスされたキャラクターラインが、抑揚のある豊かな表情を作っていると感じます。実はこのボディは、日本の群馬県館林市で金型が制作されていると言うからビックリ。設計段階から技術者が参加して、高精度なボディ金型を実現したのだそう。

 そしてCピラーに大胆にあしらわれたプレートは、中国では縁起のいいモチーフである龍のウロコにインスパイアされたデザイン。ドアを開ければ、縦に丸いカタチのエアコンルーバーとか、まるでギターの弦のような飾りとか、斬新なデザインの連続。インテリアはスポーツジムをテーマにデザインされているというのも、なかなか他にない発想ですよね。

「ジムをイメージしました」というインテリアは、とても斬新。中央の大きな液晶ディスプレイは、スイッチを押すとくるりと回転して縦置きにチェンジ! ナビを使うときに見やすくなるんです。斬新だけど、使いやすさを考えた仕掛けに感心しちゃいました

 さらに、インパネに大きな液晶パネルが置かれた光景は、最近のクルマにはよくあるデザインですが、なんとATTO3では、スイッチを押すとパネルが90度回転して、縦置きに変わるのです。ナビを作動させるときにはこの方が見やすいから、ということですが、まったくその通り。これも画期的なアイディアで感心してしまいました。まだこの日の試乗車は表示が英語だったのですが、発売までには日本語表記になり、スマホとの連携もできるよう準備を進めているとのこと。使い勝手や先進の運転支援システムに関しても、自信を持って日本のユーザーに届けられるように調整中だということでした。

 そして肝心の試乗は、今回は一般道のみで15分という短い時間だったので、もっと長距離を乗ってみないと多くは語れないのですが、乗り心地が素晴らしくよいというのは強く印象に残ったポイント。EVはおしなべて低重心である中でも、さらに「低い」と感じたのも興味深いところです。EV専用に開発されたプラットフォームに、BYD独自に開発したブレードバッテリーが搭載されるのがその低さの秘密らしいのですが、このあたりは正式発表を待ち、しっかりと試乗してまた確認したいと思います。

ドアを開けると、ドアポケットに珍しい装飾が。ギターなどの弦をイメージしているそうで、シートのステッチとカラーコーディネートされていて、とってもオシャレです。インテリアは全体的に、個性的なデザインが炸裂している空間でした
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。