まるも亜希子の「寄り道日和」

SIP最終成果発表会に参加して未来に期待するもの

秋葉原UDXで開催された、SIP最終成果発表会。エントランスには歩行者のダミー人形と、最先端の技術を搭載した車両が置かれていました

 日本が提唱する未来社会のコンセプト「ソサエティ5.0」は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって実現する、人間中心の超スマート社会だと言われていますよね。そして、その実現のために欠かせないのが自動運転。

 クルマ業界にどっぷり浸かっていると、どうしても自動運転はクルマが主役と思ってしまいがちだったのですが、3月に開催されたSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)最終成果発表会に参加してみると、じつに多種多様な技術の再構築と地道な研究開発、地図データを含む環境整備、そして何より私たち1人1人の意識改革のために、これほどの人たちが動いていたのだということを見ることができて、終始圧倒されてしまいました。

多岐にわたる展示とともに、これからのスマート社会に不可欠となる新技術のプレゼンテーションも行なわれていました。これは、サーバー攻撃の新しい手法と対策に関する調査研究。今後、今までの常識では思いもよらない技術が必要になってくるのだと実感しました

 私たちがこれまで見てきたのは、最初は走行中の車両の目の前に迫った前走車を検知して、警告とともにブレーキをかけて衝突を回避または被害を軽減する技術でした。そこから、歩行者や自転車、夜間の検知も可能になり、前走車に追従できるようになったら、ついにハンズオフでの追従や、車線変更までが可能に。そしてホンダ・レジェンドがハンズオフだけでなくアイズオフ、前を見ていなくても走行することができる自動運転レベル3を実現。日産は飛び出してきた車両や歩行者を自動で避ける技術を発表し、私もまさにそれを体験して大きな衝撃を受けました。

 これらはまず、交通事故ゼロ社会を早期に実現するために。そしてその先には、さまざまな社会問題を解決するために。島根県の飯南町などで稼働している自動運転サービスは、地方での住民の高齢化、過疎化、人手不足などによって危機に瀕しているライフラインをつなぐ救世主として、ぜひ今後増えていってほしいと感じました。

 というのも長野に住む私の父が昨年、自主的に運転免許を返納したのですが、それ以降、外出する機会が減ったこともあって体力が落ち、人とのコミュニケーションも減ってしまっているのを目の当たりにしているのです。家の近所にバス停はなく、徒歩圏内にスーパーもないので、食品や日用品の買い出しにはタクシーを呼ぶしかないのですが、1回の買い物で4000円程度の乗車賃がかかるとのこと。週に1回としても、月に1万6000円の出費は年金暮らしには厳しいはずです。

 それならばと宅配サービスを利用すると、食品の調達には困らないものの外出する機会が減り、ずっと家にいるので足腰がどんどん弱っていきます。誰とも話をしない日が増えて、生活にハリがなくなっていくのではと心配にもなっています。やはり、できる限り長く「自分の足で出かけ、自分の目で見てほしいものを選び、生身の人と触れ合う機会」がある方がいいのではないかと感じるのです。

 そうなると、スーパーや病院、銀行、床屋といった生活に必要な場所を定期的に回ってくれる自動運転サービスが整備されることは、大きな一歩になるのではと思います。いよいよ政府は、これまでの成果を踏まえて「スマートモビリティプラットフォームの構築」に着手する予定とのこと。今後の進化にも注目していきたいと思います。

これが、島根県飯石郡飯南町で行なわれている自動運転プロジェクトで走行している「い〜にゃん号」。電磁誘導線などを路面に埋め込み、それを車両が感知しながら走行しています。運転席があり、運転免許を持った人が座る必要がありますが、無人車両よりも乗員とのコミュニケーションがとりやすく、不安も少ないのが特徴でしょう。これによって町の人々の交流が生まれ、町が活性化するといったメリットもあるとのことでした。同様の取り組みは福岡県みやま市、滋賀県東近江市、秋田県上小阿仁村でも行なわれています
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。