まるも亜希子の「寄り道日和」

人とくるまのテクノロジー展で気になったものあれこれ

会場でひときわ目をひいていた、東レのブース。未来モビリティの快適空間コンセプトモデル「TEEWAVE CX1」に私も吸い寄せられてしまいました。このシートの座り心地は素晴らしく、書斎にも欲しいと思ったほどでした

 499社が出展し、13件の世界初公開と21件の日本初公開展示があり、大盛況のうちに幕を閉じた「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」。私もお邪魔してきたんですが、会場となったパシフィコ横浜はどこを見ても人、人、人、テクノロジーの大洪水で、やっぱり今年も頭はクラクラ、足は棒のようになって帰ってきました(笑)。理系の人たちってスゴイ、と心底尊敬するド文系の私です。

 気になった展示はたくさんあったのですが、その中でも注目したのはまず、東レのブース。東レは2023年2月に、次世代のモビリティに向けた材料開発をさらに進めるため、新研究棟を名古屋に新設することを発表したばかり。今までも、東レといえば乗用車のインテリアでは「ウルトラスエード」が有名で、親しみがある人も多いと思いますが、地球環境問題の深刻化にともなって、持続型社会を実現するためにはさらに環境配慮型素材への転換が必要と判断し、その研究開発を加速させるといいます。

 そんな東レのブースでは、未来モビリティの快適空間コンセプトモデル「TEEWAVE CX1」が目を引いていました。あまりに居心地がよさそうだったので、思わず私もシートに座らせていただき、記憶にある通りの手触りに「これ、ウルトラスエードですよね?」と聞くと、「実はこれは従来のウルトラスエードと異なりまして……」。長い歴史を持つウルトラスエードとして初めて、100%植物由来ポリエステルを使って作られたものになるそうです。しかも、部分的にはその表面に特殊な樹脂加工を施した銀面調人工皮革となる、ウルトラスエードnu(ヌー)を採用しているとのこと。高級感はそのままに、サステナブルな素材へと進化していて驚きました。

 そして、奥のウインドウには「PICASUS IR+白調光」という技術が使われていて、遮熱性、遮光性に加えてスクリーンとしての機能も実現している優れモノ。外からの視線を遮りたい時や、暑い日差しを避けたい時にサッと調整できるのがいいですよね。さらに、移動しながら会議をする時にプレゼン資料を映したり、家族で映画鑑賞をしたり、なんてこともできちゃうんでしょうね。他にも吸音カーテンや、東レ独自のナノ積層技術を駆使した金属調・電磁波透過フィルムといった、20もの先進素材が揃っていたのでした。

トヨタ車体のブースでは、植物材料TABWD(タブウッド)を使ったカーボンニュートラルに貢献した、「もくまる」がとってもキュートでした。TABWDというのは、Toyota Auto Body WooDの頭文字だそうですよ

 続いて、同じく素材に興味を持ったのが、トヨタ車体のブースで見た植物材料「TABWD(タブウッド)」を使った小型BEV「PLANT COM(プランコム)コンセプト」。このTABWDという素材は、スギ間伐材を粉砕して作られた木の繊維とベースプラスチックを組み合わせ、カーボンニュートラルに大きく貢献するという素材です。

 すでに2012年から、海外向けハイエースなど9車種でユーザーからはあまり見えない部分の部品に採用されていたのですが、今回のように内外装がほとんどTABWDというパターンは初めて見ました。外観はブラウンとベージュのツートーンで、インテリアはブラック。あまり高級感はないですが、どこか素朴で温かみのある印象です。「もくまる」という名前がついているのもかわいいですね。既存のプラスチックを用いた部品と比べると、車体上部だけでも93%のCO2排出量削減を達成しているというから驚きです。無印良品などが好きな人にウケそうかなと思ったので、もし発売の目処が立ったら、コラボしてもいいかもしれないですね。

 しかもTABWDは割れない、腐らない、熱に強い、いろんな形に自由自在に加工できる、リサイクル可能で繰り返し使うことができるという、素晴らしい特徴があるそう。顔料を混ぜて加工できるため、塗装工程が不要というのも環境負荷軽減につながります。もくまるの市販化は未定だそうですが、先日、このTABWDの技術をベースに開発された新素材「TRANSWOOD(トランスウッド)」が、隈研吾氏デザインの食器に採用されたというニュースも。この先も、いろんな可能性が感じられて楽しみです。

ヴァレオジャパンのブースでは、交通整理員とスーツ姿の人をクルマが見分けて、交通整理員の動作だけを認識するというデモを見学。国によって異なる制服や動作の意味を習得させているというから、実用化が楽しみです

 さて最後は、ヴァレオジャパンが日本初公開した「パントマイム」。CES2023で世界初公開されていましたが、なんと自動運転をするクルマが警察官や交通整理員、工事現場の警備員などの動きを理解して、指示に従うことができるようにするソリューションなんです。ブースでは、交通整理員の制服を着たスタッフと、一般的なスーツを着たスタッフが並んでいるところで、クルマがそれらを見分けて、交通整理員の動作だけを認識し、スーツ姿のスタッフは除外するという区別ができる様子をデモで見せてもらいました。これはスゴイですね。

 ただ、制服や手信号などは国によってさまざまなので、現在はグローバルでそれぞれのデータを収集し、AIに習得させているところだそう。聞いただけで気が遠くなるような作業ですが、近いうちに実用化されるのでしょうね。

 そんなわけで、こうした先進の技術たちがいつ、どんな車種に搭載されて私たちの前に現れるのか、またまた楽しみになった1日でした。7月5日〜7日には、第7回となる「人とくるまのテクノロジー展2023 NAGOYA」がAichi Sky Expoにて開催されますので、お近くの方はぜひテクノロジーのシャワーを浴びに行ってみてくださいね。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。