人とくるまのテクノロジー展 2023

自動車技術会、バッテリやレアメタルや樹脂など、循環型社会実現に向けた自動車部品&資源のサステナブル技術を多数紹介

2023年5月24日~26日 開催

入場無料

自動車技術会は「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」にてカーボンニュートラル実現とサーキュラーエコノミー型社会の実現をテーマにした主催者企画展を実施している

 自動車技術会は開催中の「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA(会場:パシフィコ横浜、会期:5月24日~26日)」にて、カーボンニュートラル実現やサーキュラーエコノミー型社会の実現に向けた主催者企画展示を実施している。

 展示ブースでは、再利用する「リユース」、原材料まで戻す「リサイクル」、自動車以外の産業へ転用する「リパーパス」といった資源循環技術や、バイオマス由来の再生可能資源技術を展示するほか、循環型社会を実現するための「サステナブルな資源とは何か?」について共に考えるきっかけ作りの場として、1万点以上から構成される自動車部品・資源のサステナブル化に関する展示を行なっている。

日産リーフの使用済みリチウムイオンバッテリを再利用

中央がポータブルバッテリ、右にあるのが実際にリーフに搭載されているバッテリセル

 日産自動車、JVCケンウッド、フォーアールエナジーの3社は、日産「リーフ」に搭載されているリチウムイオンバッテリの再利用の実例を紹介。2010年12月に販売を開始したリーフはグローバルで累計約59万台を販売。そのため搭載されているバッテリの中には、自動車用としては使用限界を迎えるものも出てくるといい、リーフの再生バッテリを取り扱っているフォーアールエナジーは、使用後でも高い残存性能と安全性を持ったバッテリをポータブルバッテリへ転用する技術を開発。

 実際にリーフに搭載されているバッテリセル2枚を無加工のままポータブルバッテリに内蔵し、フォーアールエナジーの技術によって制御。通常の出力は600Wだが、お湯を沸かすような高出力が必要な場合に900Wモードも搭載している。

日産自動車、JVCケンウッド、フォーアールエナジー3社によるリチウムイオンバッテリの再利用活動

使用済みバッテリからレアメタルを回収する技術

 エマルションフローテクノロジーズと本田技研工業は、ホンダが2021年10月に発売した着脱式バッテリから、希少金属(レアメタル)を回収する「溶媒抽出技術(エマルションフロー)」を紹介。

 従来の溶媒抽出技術は、液相同士を「混ぜる」「置く」「分離する」の3工程を必要としていたが、エマルションフローでは、「送液」のみで3工程を同時に行なえるという。その結果、10倍以上の生産能力がありランニングコストの削減が図れるほか、連続処理ができる多段エマルションフローを用いれば99.99%以上の高純度化が可能になるという。

 ブースでは、劣化バッテリより回収したBM(ブラックマス)から、エマルションフローによって抽出したレアメタル「硫酸Co七水和物(コバルト)」「硫酸Ni六水和物(ニッケル)」が展示されていた。

左にある「ブラックマス」から、右にあるレアメタル「コバルト」と「ニッケル」を抽出する技術を確立させた
エマルションフローテクノロジーズと本田技研工業の取り込み
エマルションフロー技術の特徴

リサイクルしても素材の性能が劣化しにくい樹脂

 繊維メーカーのユニチカは、100%マテリアルリサイクルが可能な「強化ナイロン樹脂」を展示。従来の樹脂はリサイクルすると、その回数に応じてどんどん劣化が進んでしまうが、ユニチカの開発した強化ナイロン樹脂「ナノコン(NANOCON)」は、超微細な無機フラーを用いたナイロン系複合材料で、従来よりも低比重で高い機械物性、耐熱性、寸法安定性などを実現。また、超微細でナイロンと静電的相互作用によって結合しているため、社内データでは100%リサイクルを5回繰り返しても性能に大きな変化がないという。

ユニチカの強化ナイロン樹脂「ナノコン」
ユニチカの強化ナイロン樹脂の詳細
ナノコンは耐熱性や寸法安定性に優れるのでエンジンカバーなどにも利用されている

間伐材を活用してより強固なプラスチックを開発

 トヨタの「ランドクルーザー」でダカールラリーに参戦し、何度も優勝していることで知られるトヨタ車体は、石油由来のプラスチックへの依存度を下げるための取り組みとして、植物材料(ここでは杉の間伐材)を混ぜ込んだプラスチックの生成技術を紹介。

 すでに植物材料を融合させる技術は確立していたが、衝撃強度の低下が課題となっていたという。そこで植物繊維を樹脂補強材とすることで剛性アップを実現、さらに弾性をもつ柔らかい高分子素材であるエラストマー材料設計により衝撃強度を向上させ、植物材料を40%配合したプラスチックの開発に成功したという。

実際に植物材料の入ったプラスチック製品を展示している
自動車向け植物材料の汎用化に向けた開発の説明

被災地や停電に強い電源いらずの自立型街路灯

 三菱自動車工業、三菱商事、三菱商事クリーンエナジー、MIRAI-LABOの4社は、三菱自動車「アウトランダーPHEV」のリチウムイオンバッテリの再利用した「自立型街路灯」を提案。

どこにでも設置してすぐに使えるのが特徴の自立型街路灯

 最大の特徴は上にソーラーパネルを搭載し、太陽光で発電した電気をリチウムイオンバッテリに蓄え、高効率の照明で長時間照射を可能として、災害被災地などで停電が発生した際に電線など電源供給が不要なので、必要な場所に設置すればすぐに使用できる点。

 MIRAI-LABOのスタッフによると、利用済みバッテリの劣化レベルをA~Eの5段階に分けた場合、DやEのように再利用可能なレベルを下まわっていても、AやBといった再利用可能レベルの高いバッテリと組み合わせることで、全体的に再利用が可能なレベルまで性能を引き上げることが可能という。

使用済み電池モジュールを使用した自立型街路灯の詳細

 また、ソーラーパネルの下に搭載している照明機器、MIRAI-LABOの特許で、少しの光源でも広範囲を明るく照らせる技術を採用している。現在は三菱自動車の岡崎工場内に設置していて、実際に日の光があたらないとどのくらいで消えるのか? など実証実験を行なっている最中という。

MIRAI-LABOの少しの光源でも広く明るく照射できる特許技術が使われているライト

 主催者企画展ブースではそのほかにも、住友金属鉱山の使用済み車載用蓄電池の水平リサイクル技術や、日立アステモのバイオマス材を適用した電動パワーステアリング用ウォームホイール、マツダのバイオエンプラ新意匠2層形成技術、三井化学グループのバイオマス戦略とリサイクル戦略、JX金属の廃車載リチウムイオンバッテリから高純度金属塩回収リサイクル技術、トヨタ自動車とUACJの自動車ボディ用リサイクルアルミ板なども展示されている。

住友金属鉱山の使用済み車載用蓄電池の水平リサイクル技術
日立アステモのバイオマス材を適用した電動パワーステアリング用ウォームホイール
マツダのバイオエンプラ新意匠2層形成技術
三井化学グループのバイオマス戦略とリサイクル戦略
JX金属の廃車載リチウムイオンバッテリから高純度金属塩回収リサイクル技術
主催者企画展示は直面している社会の課題を社会全体で考えようというメッセージを込めていると開会式でコメントした公益社団法人 自動車技術会 会長 大津啓司氏(本田技研工業株式会社 執行役常務 兼 株式会社本田技術研究所 代表取締役 社長)
編集部:塩谷公邦