イベントレポート

【東京モーターショー 2019】クロスオーバーSUV「ミツビシ・エンゲルベルク・ツアラー」で見る、三菱自動車の新世代デザイン

デザイン本部の松岡亮介氏、矢野和雄氏に聞いた

2019年10月23日 開幕

2019年10月25日 プレビューデー

2019年10月25日~11月4日 一般公開日

クロスオーバーSUVのコンセプトカー「ミツビシ・エンゲルベルク・ツアラー」

 東京モーターショー 2019の三菱自動車工業ブースには、半艶のシルバーに塗られたクロスオーバーSUVのコンセプトカー「MITSUBISHI ENGELBERG TOURER(ミツビシ・エンゲルベルク・ツアラー)」が展示されている。

 これはジュネーブショー 2019でデビューしたモデルで、市販を視野に入れたコンセプトカーだ。同モデルについて、三菱自動車工業 デザイン本部 先行デザイン部 東京デザイン部長の松岡亮介氏、デザイン本部 デザイン戦略・企画部長の矢野和雄氏に話を聞いた。

三菱自動車工業株式会社 デザイン本部 先行デザイン部 東京デザイン部長の松岡亮介氏(左)、三菱自動車工業株式会社 デザイン本部 デザイン戦略・企画部長の矢野和雄氏(右)

スノーリゾートにストレスなく行こう

――エクステリアは力強さとともに、とてもクリーンに感じます。このデザインの意図はどのようなものなのでしょう。

松岡氏:基本的にはプラグインハイブリッドの技術を持たせつつ、このサイズで6人乗りのパッケージを成立させることを目的としています。

“エンゲルベルク”という名前はスイス中央部にある山間部の村で、壮大なパノラマの景色を楽しめる有数のスキーリゾート地から取られています。つまり、雪山とかスノーリゾートに友人や家族と一緒にストレスなく行けるというのがコンセプト。当然、それに見合った車格を表現しました。顔などもすごく大きいと思います。

 しかし、一歩間違うと怖いとかオラオラ系の顔になってしまうのですが、そういったものよりもう少しソフィスティケーション、洗練された感じも少し入れつつ、スポーティで迫力がありながらも賢さも狙っています。

上の写真は東京モーターショー 2019で、下はジュネーブショー 2019で公開されたミツビシ・エンゲルベルク・ツアラー。パワートレーンには「アウトランダーPHEV」で培ってきた独自のツインモーター方式PHEVシステムをベースに、次世代の電動化技術と4輪制御技術を採用。2.4リッターのPHEV専用ガソリンエンジンを搭載し、満充電・燃料満タンの状態からの総航続距離は700km以上(WLTPモード)としている

――サイドのキャラクターラインの入れ方にも特徴がありますね。これはどのような意図なのですか。

松岡氏:これは色にも関係するのですが、今回はわざと半艶のカラーを採用しました。これは強い金属の塊をザクッと削いだような、潔い形。一度ノミのようなものでザクッと削いだ潔さと、シャープな新しさを狙っています。

特徴的なサイドのキャラクターライン

――それはキャラクターラインと面の両方で勝負したいということなのでしょうか。

松岡氏:どちらかというと面の彫刻的な塊や無垢のような、単に板金で板を曲げたのではなくて、もともと無垢のどしっと重いものをザクッと人の手で削ったようなイメージです。石膏ではありませんが、そういったものを削ったイメージです。立体の構成は板を曲げたのではなくて無垢で、「重いですが何か?」というイメージ(笑)。この色も含めて、それをより強調しているのがコンセプトです。

――それはどちらかというとヨーロッパの考え方ですね。日本はどちらかというと盛っていく方向であるのに対し、ヨーロッパは削る方です。

松岡氏:そうだと思います。

三菱自動車のルーツと機能を両立

Cピラーのデザインはミツビシ・エンゲルベルク・ツアラーの特徴の1つ

――そのほか特徴的なところはどこでしょう。

松岡氏:ピラーのグラフィックも非常に特徴的です。これもあえてやっているところですが、普通のクルマですとCピラーは角度をつけるなどでダイナミックさを表現しがちです。しかしあえて三菱自動車ではサイドウィンドウ側をまっすぐにしています。これによりクルマが止まって見えると言われてしまう部分でもあるのですが、すべてを水平基調にしながら、ウィンドウグラフィックの下の部分を1度キックアップしてワンアクセントを与えました。

 ピラーまわりは「ジェットテールフィン」という言い方をしているのですが、三菱自動車が航空機メーカーから来たこと、ルーツを感じさせるようなところを感じていただきたいと考えています。また、その下でザクっと削いでいることで空気抵抗、エアロダイナミクスにも寄与していることも当然狙っています。そういったところも機能として見せられればいいですね。

 また、この力強い太いピラーがドンとあり、さらに面もすごく広いので、ここも三菱自動車の力強さやタフさを表現できればという意図でデザインしています。さらにリアまわりの六角形のモチーフ(エンブレムを中心としたテールゲートの六角形デザイン)は(東京モーターショー 2019でスモールサイズの電動SUVコンセプトカーとして世界初公開された)「MI-TECH CONCEPT(マイテックコンセプト)」に近い処理をしています。ここもわれわれが今こだわっているモチーフです。

――この六角形はどういう意味があるのですか。

松岡氏:六角形という形自体に意図があるというよりも、1つの流れに彫刻的な印象を与え、三菱自動車ならではの特徴的な、「こういうのって三菱自動車だよね」という味付けを与えています。リアコンビネーションランプもグラフィックを含めてなんとなくそう感じてもらいたいという、われわれの狙いでもあります。

エンブレムを中心としたテールゲートの六角形デザインは、現在同社がこだわっているモチーフという

――インテリアはとてもシックですね。

矢野氏:シンプルですが強いものをデザインしたい。そこでインパネは水平基調で骨がドンと通っている構造体としながら、コンソールは高くて幅が広く、構造体として強く見せています。その先端は上に向かって駆け上がるのではなく、フローティングして空間的に力を表したいと思っています。

 また、欧州車の質感を狙いました。それでいて三菱自動車らしい構造としての強さとともに、水平基調も意識しました。水平の方が車体姿勢の変化に気付くのが早い。そういう機能的な意味も含めて、三菱自動車らしいインパネとして今進めている形がこれなのです。

水平基調のインテリア

――このインテリアデザインを形容詞で表現すると何になりますか。

矢野氏:ファンクショナルビューティ、機能美です。その上でまさに日本のクラフトマンシップとして、ピュアやクリア、クリーンを狙っています。

松岡氏:またストラクチュアル、構造体もイメージしています。また、このクルマはジュネーブモーターショーでお披露目したクルマなので、カラーのマテリアルや色使いもまさにスイスというお国柄も少し意識してデザインしています。

矢野氏:クリーンで清潔とだけいってしまうとよくあるのですが、そこに三菱自動車としてはストラクチュアル、構造体として強さを持たせ、同じクリーンでも違うものをデザインしています。

 あとは“三菱タッチ”と呼ぼうとしているのですが、ステアリングのグリップの太さは他社よりも太くなっており、ダイヤルの断面とかも指が最もフィットする断面を作っています。握り応えや操作のしやすさなど、細かいところにまでこだわっているのです。

握り応えや操作のしやすさなど、ステアリングなどの造形にもこだわった

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。

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