イベントレポート 東京オートサロン 2024

世界をリードする日本のチューニングシーンの最新動向とは? 東京オートサロン2024でチェックしてみた

2024年1月12日~14日 開催

日本だけでなく海外からの注目度も高い日本のチューニングカー。機能重視のレーシングカーとは違い、速さを求めながらストリートカーとしての快適性や安全性、そしてカッコよさを求めた独特の存在だ

過剰な速さよりも、走りの気持ちよさを優先する時代に

 東京オートサロンはチューニングカーと呼ばれる改造車を展示するイベントから始まったが、現在はチューニングカーだけではなく、さまざまなジャンルの趣味車が集まるカスタムカーショーとなっている。

 とはいえ根本がチューニングカーイベントなので、現在もチューニングカーの展示は多い。ただ以前と違うのは、チューニングカーであっても合法であることが前提になっている点である。

 1970年代~1980年代のチューニングシーンでは、ベースとなるクルマの性能から速さを求めていくと必然的に改造度合いも高くなったし、使用するパーツの多くが競技専用という注意書きが添えられた非合法なものだった。

 ところが1990年代に「車検対応チューニングパーツ」が登場してから状況は一変。車検対応パーツを使えば違法改造で取り締まられることもなく、さらに車検にも通ることからチューニングパーツを扱う店も増え、それを紹介するメディア(当時は雑誌)も増えた。そしてちょうどこの時期のクルマは各自動車メーカーが競うように次々とハイパワーで高性能なクルマを発売していた時期でもあったので、そういった多くの要素の後押しもあってューニングカーに乗る人はグンと増えたのだ。

 チューニングが一般化したことで、現在では自動車ディーラーでもチューニングやカスタムができるようになったし、日本車が海外で人気になっていることから日本のチューニングパーツも海外へ進出するなど、大きな規模の業界になっている。

 昨今はベースとなるクルマがかなり進化すると同時に、ユーザーも増えているので、それらにあわせてチューニングカーもさらなる進化と発展が求められている。そのためパーツやクルマを作る側の考えもまた変わってきていて、本稿では東京オートサロン2024の会場に展示されていたチューニングカーの最新動向を紹介する。

BLITZ

 総合パーツメーカーである「ブリッツ」のブースにあったシビックタイプR。仕様としては吸排気パーツ交換やサスキット装着を軸としたライトチューンだが、細部に使用しているパーツは従来よりもグレードを高めているようだ。

ブリッツが展示していたシビックタイプR

 ブリッツによると「皆さんご存じのようにシビックタイプRのポテンシャルはノーマルでもう充分です。そのため行なっているのが、大きく変えるのではなくて純正のよさを生かしつつ、純正にはない機能や魅力を追加していくという方向性です。分かりやすいのがエアロパーツです。ブリッツではバンパーごと変えるようなエアロパーツも販売していますが、シビックタイプRでは純正エアロにアドオンするタイプとしています。純正のスタイリングを崩さずにそれでいてほかとの違いを生むというものです」という。

グレーの部分が追加したエアロパーツ。このほかの部位の純正エアロにも同様に小振りなパーツが追加される.これもひとつのトレンド

 また「サスペンションはローダウンが容易な全長調整式サスキットに変えていますが、乗り味はサーキットで速いというものでなく街乗りで乗り心地がいい方向です。ただ、減衰力の変更ができるのでスポーティに走ることもできます。そしてその切り替えですが走行時のクルマの挙動に応じて4本のショックアブソーバーがそれぞれ自動で減衰力を変更する装置を付けています。こういった機能は純正にはないものですが、今のチューニングはそういった便利さを追加して、走りのよさやユーザの満足度を高めることもしています。製品を作る企業としてのやり方も、昔とは変わってきています。ブリッツでは製品の開発や研究、営業販売、さらに広報が同じ部署で行なうようになりました。これによりユーザからの声が開発の現場に届きやすくなり、求められているものが的確に作れようになっています。またその製品をどのようにPRしていくかも決めやすくなりました」とのこと。つまり仕様としてライトチューンではあるが、改造の度合いやパワーでなくニーズに合った機能や作りを追加することで、新たな魅力をユーザーに与えている。

サスペンションにある減衰力調整ダイヤルをモーターで回す機構.。室内に付けるコントローラーの操作により減衰力を任意で調整できるほか、コントローラー内蔵のGセンサーからの信号により走行シーンにあった減衰力のフルオート制御も可能
シビックタイプRではエアクリーナーボックスがカーボン製であることだけでなく、ダクトの部分をクルマのイメージにあう赤に塗装。メカ的な魅力に高級感も追加している

HKS

 業界を代表する総合パーツメーカーHKS。日本にターボチューンを広めた実績を持ち、現在は自社でターボチャージャーを開発、製造するほどの能力を持つ企業。そんなHKSではGT-Rのチューニングパーツを多数発売していることから、GT-Rユーザーの注目度も高い。

HKSが展示していたGT-R。こちらはストリートチューニングカーのイメージリーダー的な車両で、HKS製コンプリートエンジンにタービン交換で1000PS以上のパワーを発生しつつも合法仕様

 GT-Rチューニングで人気が高いのはタービン交換で、パワーは800PSを越えることも可能だが、最近はピークパワーではなく、感覚面でGT-Rの魅力を感じたいという要望が多いという。例えばマフラーは、いまの時代はノーマルマフラーの性能が高いため、マフラー交換によってパワーが大きく向上することはほぼない。また、現在のクルマは音量規制が厳しいため、大きな音の出るマフラーもNG。それでも多くのユーザーは、音量規定を守りつつ「スポーツカーらしく心地よいサウンドが聞けること」を求めるという。

 そこでHKSでは音圧や音量ではなくて「音質のよさ」を求めるためのパイプレイアウトやサイレンサー構造を研究し、開発のため自社敷地内にマフラーの音量を計測する試験路まで製作。こうした取り組みを行なうことで、ユーザーが求める新しい世代のスポーツマフラーをリリースしている。

パイプ径やレイアウトだけでなく、サイレンサーの構造や電動式バルブによる排気バイパス機能なども盛り込んでいる。こうすることで性能低下や音量オーバーをすることなく気持ちのいい音が作れる
HKSでは「乗り心地」ではなく、気持ちよく走れることを指す「走り心地」という言葉を使い、それを実現するためのサスペンションを発売している。写真はGT-Rようの参考出品サスキット。フロントにエアバッグの機能を加え、段差などはエアバッグを膨らまして車高を上げ、リップスポイラーを擦らないいようにできる
つくばサーキットタイムアタック用GR86で開発されたパーツやノウハウをストリート向けに落とし込んだ車両。パワーチューニングと環境配慮を両立させた作りとする.もちろん保安基準適合
GR86のエンジンルーム。排気量は変えていないでボルトオンターボキットを装着。パワーは373.9ps。トルクは40.8kgm

TRUST

 こちらはトラストというチューニングパーツメーカーのRZ34フェアレディZ。名称はグレッディRZ34。ターボを試作のタービンキットに換えている。Zはまだ納車が間に合っていないので出展は少なかったが、注目度の高さから見て来年は台数が増えそうだ。

グレッディRZ34
グレッディRZ34のエンジンルーム。試作ターボキット、試作インタークーラーキットを装着。ストリートカー最高速仕様として開発中とのこと

オートエクゼ

 マツダ車用のスポーツパーツメーカーであるオートエクゼが展示していたロードスター。ロードスターと言えば軽快でスポーティな乗り味が魅力で、このクルマも走りの気持ちよさを高めることを狙って作られているが、ここで注目したいのが内装である。

オートエクゼが展示していたロードスター

 チューニングカーは運転操作が楽しいクルマだけに、運転の際に操作するステアリングやシフトノブと言ったパーツの「質感の善し悪し」はとても重要なポイント。そこでこのロードスターではステアリングやシフトノブの表皮を変えることで「触感」による満足度を向上させている。また、赤いステッチやパンチングレザーを使うことで見た目のよさも向上させていた。さらにクルマの動きを身体で感じるためにバケットシートに交換している。

ナッパレザーを使ったステアリング。グリップは楕円形状ですべりにくいディンプル加工も施される。シフトノブは直径が握りやすい51mmで球形状ゆえどこからでも操作しやすい。細かい部分だが、元の走りがいいクルマには操作系パーツの変更はありだろう
タイトな車内にマッチするスリム形状のバケットシート。材質はFRP。最大で35mmのヒップポジション低下が可能。体を支えるシートの交換はスポーツカーにおいてはとても効果の高いチューニングである

Kansaiサービス

 いまの日本車にはない小柄なスポーティカーで、チューニングパーツがそろっている点から、最近はフィアットアバルト595のチューニングが注目を集めている。Kansaiサービスと言う老舗のチューニングショップが製作したアバルト595。

Kansaiサービスというチューニングショップが展示していたフィアット595

 ブーストアップとサスペンション交換のライトチューンで、サスペンションはHKSのキットを使用。ただし、製品をそのまま付けただけでなく、製品を取り付けたあとにストリートやサーキットなどユーザが走るであろうステージを試走し、乗り味や挙動を改めてチェックして、気になった部分や付け足したい乗り味を実現するためにスプリング交換や減衰力調整を行なっている。

 また、展示車にはKansaiサービスがオリジナル製品として販売するためテストしているLSDが組まれているが、こちらのパーツも走っては取り外してバラし、特性を変えてから組み直してといった作業を繰り返しているとのこと。こうすることで気持ちよく効果的に機能するパーツに仕上げているという。

レイル

 レイルが展示しているスイフトスポーツは、サーキット走行趣味向けの車両だが、AT車であることが最大の特徴。筑波サーキットでは同レベルのMT車と同等のタイムを出している。プロが乗ってのことなので一般ドライバーであればATのほうが速いかもしれない。

エンジンはノーマルでタービンを交換済み

A PIT AUTOBACS SHINONOME

 オートバックス系列の「A PIT AUTOBACS SHINONOME」の展示車はバッテリEV。ストリート走行をメインとしたライトチューン仕様のため出力系はノーマル。サスペンションをオリジナルのキットに換えてローダウンとキビキビした動きを追加している。

A PIT AUTOBACS SHINONOMEのテスラ「モデル3」。外装はオリジナルのスポイラーセットが組まれている

 タイヤは横浜ゴムの「アドバンA052」というハイグリップラジアルタイヤを装着。イベントのためややオーバースペックのタイヤだが、バッテリEVは車重が重いのでストリート走行であっても安全のためにグリップの高いタイヤを選ぶほうがいいそうだ。

サスペンションキットも発売されている。速くて車重もあるクルマなのでスポーツ走行をしたいのならぜひ替えたいパーツ
ハイグリップタイヤはロードノイズが多い傾向。バッテリEVは走行中の車内が静かなので、ロードノイズが増えると、それはかなり気になるもの。そこでタイヤハウスの遮音と言うカスタマイズメニューが人気だという

 また、バッテリEVは回生ブレーキがあるのでブレーキについてはキャリパーを変えたりローターを大径に変えなくても十分な制動力があり、ブレーキはパッドを変えることで好みのタッチにしていく程度で十分だそう。

回生ブレーキがあるのでブレーキチューンはパッド交換してあれば十分とのこと
向かいのオートバックスブースではオートバックスオリジナルのスポーツカー「ガライヤ」をEV化した車両が展示されている
ガライヤEV
深田昌之