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「マツダファン 東北ミーティング 2017 in SUGO」に展示された名車たち(前編:787B 202号車)

787Bのメンテナンス担当者が車両解説

2017年4月8日~9日 開催

「マツダファン 東北ミーティング 2017 in SUGO」でデモランを行なった「787B 202号車」(JSPC仕様車)

 4月8日~9日に開催された「マツダファン 東北ミーティング 2017 in SUGO」では、すでに紹介している「GLOBAL MX-5 CUP」開幕戦をはじめ、各種のプログラムが組み込まれていたが、なかでも来場者の注目が集まったのが「787B 202号車」(JSPC仕様車)だ。

 787Bといえば1991年のル・マン24時間レースで総合優勝を飾ったクルマで、その55号車がマツダミュージアムに永久保存されることになったことを受けて、日本国内で開催されていたJSPC(全日本スポーツプロトタイプ選手権)に継続参戦するため、急きょ787B-003(202号車)が製作された。今回展示されたのはそのクルマだ。JSPCでは夜間走行がないのでヘッドライトはなく、ゼッケン灯もない。また空力パーツも形状が違うなど変更点があった。外観上での最大の特徴はレナウンカラーの配色で、55号車とはグリーンとオレンジの配色が逆になっている。

787B 202号車 JSPC仕様車
787B 202号車の走行シーン(26秒)

メンテナンス担当者が車両を解説

787Bを実際に作りあげたスタッフが現在もマシンの整備を担当し、デモランに同行している。右の方が今回話を伺った野村氏

 今回は特別にカウルを開けていただき、車両のメンテナンスを担当しているマツダの技術研究所 スペシャリストの野村裕之氏に解説していただいた。

 まず走行させることに関してだが、普段のメンテナンスをどのように行なっているのか聞いてみた。予想では頻繁に重整備を行なっているのではと思っていたのだが、レースを引退してから10数年は止まったままで、そこから動かすときはバラしてチェックを行なっていたものの、キャリパーのオイルシールなどの消耗品交換をする程度で、エンジン内部やギヤなどの主要部品交換はしていないという。

 何カ月かごとに定期的に走れる環境があれば、そんなにメンテナンスをしないでも済むとのこと。反対に止まりっぱなしではシール類の固着などが起こるので、ずっと止まっていたクルマを走らせるには整備コストが掛かるようになってしまうので、787Bに関しては最低でも年に1回、走らせる機会を作るようにしているという。

787Bの走行シーン。デモ走行なのでコーナーはほどほどだが、ストレートはアクセルを踏んでくれていた

 そんな感じで定期的に走らせているので、クルマ自体の重整備はかなり前にやったきり。最近行なったことはダンパーのオーバーホールくらいとのことだが、これも壊れたとかではなく、20年前のダンパーだから「いい加減オーバーホールしようよ」ということで行なったと野村氏は笑いながら語った。

 また、エンジンはどうかというとこれはオーバーホールではなく、マツダに保管してあった中古のエンジンに数年前に載せ替えただけとのこと。すると程度などが気になるところだが、そこはル・マン用エンジン。もともと全開で5000km走れる作りなので、現在も何ともないという。また、エンジンだけでなくル・マンカーは全体的に丈夫と言うことだった。そういったクルマなので、デモランでも安全確認のためのトルクチェックなどを行なうだけで走れてしまうそうだ。

 787Bというと芸術性すらあると言われる独特の排気音が印象的だが、この丈夫さ、信頼性の高さも戦うクルマとしての魅力だろう。

プロトタイプ選手権は2座仕様なのでドライバーズシートは右に寄っていて、左側にはもう1つシートが付くスペースがある。この当時のクルマはパワステがなく、しかも極太のスリックタイヤなのでステアリングは非常に重い。そのためステアリング径は現在のレースカーと比べるとかなり大きめだ
787Bはフロントにラジエターがあるのでドライバーの足下は非常に熱くなる。そのため長時間走る耐久レースでは足先に水ぶくれができるほどだったという。そこで202号車には足下の温度を下げるためのダクトが設けられた(RENOWNのRとNの文字横にあるのがそれ)。風圧の高い位置にあるのでかなり冷えるとのこと。入った空気を抜くためにサイドウィンドウの後ろにエア抜き用の隙間が設けてある
前後のカウルを外した状態。フロント部ではラジエターのセット方法やサスペンションの作りがよく分かる。リアの手前に見えるのはオイルクーラーで、この下にもコアが入った2段式になっている。フィッティングは16番という大きなサイズを使っていた。シャシーはカーボンモノコック、車体の鉄の部分は場所によって違うが、主にSCM435のクロモリ材が使われる
右からマツダR26B 4ローターエンジン、ドライサンプ用オイルタンク&デフ、5速のギヤボックスという順番で並んでいる。4ローターエンジン自体は基本的に生産車と同じような材料を使うが、調合などを変えているとのこと。リアハウジングはアルミ製。ギヤボックスのケースはマグネシウム製
カーボン製のサージタンク内には、スロットル開度などの信号を受けたECUからの制御によって全長が変わる吸気管が装着されている。低速時はトルクを出すために長く、高速時はパワーを出すため短くなる。その動作は写真にあるモーターで行なう。スロットル自体はスライドバルブを使っている。よりよい燃焼にして燃費やパワーを向上させるため点火コイルは12個装着。1ローターあたり3つのコイルを使っていた
サーキットごとに周回方向が異なるので、どのコースにも対応できるよう左右に給油口がある。当時は給油要員が2名使えたので片側で給油、片側で圧を抜いていた。当時のレギュレーションは1秒間に1Lしか入れてはいけないものだったので、100L近く入れるには1分30秒くらいのストップが必要だったとのこと。また、当時のレギュレーションではギヤボックス交換は禁止、修理はOKという決まりだった。修理やギヤレシオ変更の作業性を上げるため、ギヤボックスを囲うようにレイアウトされているリアウイングステーが前方へ跳ね上がるようになっている
カウルサイドのダクトは吸気用とマフラー冷却用がある。上が吸気、下がマフラー冷却だ。ロータリーエンジンは排気温度が非常に高温になるため、仕切りで区切ったほうのダクトはエキマニに直接走行風をあてるエキマニ冷却用。ちなみにエキマニの材質はインコネル
787Bといえばエキゾーストサウンドが特徴だが、本来は120dBくらいに抑えるようになっているという。実はいまはサイレンサーがへたっているので、音が大きめになっているとのこと。音量規制があったのはデイトナくらいで、そこでは音を絞っていたという話も聞けた。排気温度の高いロータリーエンジンではマフラーも高温になるので、カウルサイド部と上部にも熱抜きのダクトが設けられていた