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トヨタ、2017年3月期通期は売上高2.8%減の27兆5971億9300万円、純利益20.8%減の1兆8311億900万円で減収減益
「等身大の実力が素直に現われたもの。連敗予想だが“負け嫌い”は私だけじゃない」と豊田社長
2017年5月11日 00:00
- 2017年5月10日 開催
トヨタ自動車は5月10日、2017年3月期の通期決算内容、ならびに2018年3月期の見通しに関する決算説明会を東京本社で開催した。なお、当日の様子はYouTubeの「トヨタグローバルニュースルーム」で全内容の動画を見ることができる。
2017年3月期(2016年4月1日~2017年3月31日)の売上高は27兆5971億9300万円(前年比2.8%減)、営業利益1兆9943億7200万円(同30.1%減)、当期純利益は1兆8311億900万円(同20.8%減)で減収・減益となった。
連結販売台数は、日本国内では21万5000台増の227万4000台、海外市場全体では7万5000台増の669万7000台で、全体では29万台増の897万1000台となっている。
営業利益の増減要因としては、「原価改善」「営業面の努力」が増益要因になっているが、為替が円高方向に推移したこと、諸経費が増加したことで前年から比べて8595億円の減益となっている。為替変動では輸出入等の外貨取引分の全体で7800億円の減益要因で、内訳では米ドルの影響が最も多く4750億円、ユーロが750億円、その他通貨が2300億円となっている。なお、この為替やスワップ評価などの影響を除いた場合、諸経費の増加を原価改善と営業面の努力が上まわって1200億円の増益という計算になるとしている。
所在地別に見ると、日本国内は「プリウス」「ルーミー/タンク」「C-HR」などの新型車が販売好調となり、前年から21万5000台増の227万4000台となったが、為替変動の影響や諸経費の増加などによって営業利益は前年から4707億円減の1兆2060億円となった。
北米では前年から2000台減とほぼ横並びの283万7000台を販売。営業利益は前年から1747億円減の3309億円で、この原因をインセンティブなどの販売諸費用の増加や販売面の影響などとしている。欧州では新発売した「C-HR」「RAV4」などが好調で、前年から8万1000台増の92万5000台を販売したが、諸経費の増加に加えてポンド安、ルーブル安といった現地通貨安の影響を受け、営業利益は前年から876億円減で-118億円となっている。
アジアでは「CALYA」「シエンタ」「IMV」などの新型車が好評を受けているインドネシア、フィリピンといった市場で販売台数が増加。前年24万3000台増の158万8000台を販売し、営業利益は為替変動の影響や中近東向けの輸出台数減少といった要因から305億円減の4244億円となっている。その他の地域では中近東での販売台数が大幅に減少したことから前年比24万7000台減の134万7000台となり、営業利益も前年比399億円減の634億円となっている。
来年度となる2018年3月期の見通しでは、連結販売台数が前期比7万1000台減の890万台を想定。連結決算では為替レートを前期米ドル108円、ユーロ119円から米ドル105円、ユーロ115円に変更。売上高は27兆5000億円(前期比971億円減)、営業利益1兆6000億円(同3943億円減)、当期純利益は1兆5000億円(同3311億円減)を見込んでいる。
決算内容の解説を担当したトヨタ自動車 副社長 Chief Financial Officerの永田理氏は最後に、今回の決算を重く受け止め、よりいっそうの収益改善が必要であるとの見解を述べた。各地域での効果的な増販活動、商品力や競争力の強化、固定費の見直し、原価改善活動などのあらゆる手段を講じて最大限の挽回に努めると締めくくっている。
「ここをボトムラインとして持続的成長を進めていく」と豊田社長
今回の決算説明会では決算内容の説明に先立ち、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏から冒頭挨拶が行なわれた。スピーチ内容の全文はニュースリリースとして公開されているが、このなかで豊田氏は、2017年3月期に1兆9943億円という営業利益を確保したことについて、世界でトヨタ車を愛用するユーザーにたいして深く感謝し、販売店、仕入先などの尽力に対しても感謝の言葉を述べている。また、株主に対しては「トヨタの株を持っていてよかった」を思ってもらえるよう、今後も持続的な企業価値の向上に努めるとしている。
今回の決算に対する認識では、為替による追い風も向かい風もないという状況下での決算内容を「現在の等身大の実力が素直に現われたもの」と表現。「もっといいクルマづくり」では「TNGA(Toyota New Global Architecture)」という新しい取り組みによって「プリウス」「C-HR」といった新型車を世に送り出し、ユーザーから評価を受けた一方でもっといいクルマを目指す思いがコストやリードタイムなどの要素を後まわしにしたり、「適正販価-適正利益=あるべき原価」という基本原則を突き詰めきれていないのではないかといった危機感を口にした。
また、決算内容から目先の利益確保にとらわれず、将来に向けた投資も継続的に進めていることをアピール。自動車産業でパラダイムシフトが求められるようになっており、2016年1月にAI(人工知能)技術の研究・開発を行なう「Toyota Research Institute」(TRI)を設立しているなど、10年後、20年後に向けた「種まき」を続けていくとした。新領域であるソフトウエアの革新に加え、これまで磨き上げてきたハードウェアと全方位で取り組んでいくという。
最後に豊田氏は、今回の決算で見えた「自分達の等身大の姿」を正面から見据え、徹底的に競争力を磨き上げていくと述べ、できたこと、できなかったことを真摯に見つめて、ここをボトムラインとして持続的成長を進めていくとコメントしている。
「売り上げが伸びない状況では、なにかを止める決断も必要」と豊田社長
決算説明会の後半に行なわれた質疑応答では、豊田社長、永田副社長に加え、トヨタ自動車株式会社 専務役員 Chief Communications Officerの村上晃彦氏の3人が登壇して記者からの質問に答えた。
まず、決算が今回の2017年3月期に加え、2018年3月期でも減収・減益の見通しとされていることから、2期連続の減収・減益となることに対しての見解と、主力市場となっている北米で販売台数減となることについての詳細について質問され、これに対して永田副社長は「2017年3月期は『為替の影響がない等身大の実力』と社長の豊田が申し上げましたが、2018年3月期の見通しの数字は非常に厳しい内容となっており、これを等身大の実力と思うのは私自身として大変悔しい思いです。これでは絶対にいけないと思っており、収益向上のための施策を強力に推進して、最大限の挽回に努めたいと思います。さらにつっこんで言えば、作る人も売る人も、もっとお金を賢く使うように徹底したい。他社さんの取り組みをいろいろと勉強させていただいて、製品やアライアンスなどから学んだことを照らし合わせて、まだまだやれることがあると気づいています。カンパニー制やTNGAなどの我々が打ち出してきた戦略をフルに活用して競争力を磨き直し、お客さまにとってのいいクルマづくりをさらに強化していきたいと思います」。
「2点目の北米事業については、インセンティブが業界全体で上昇傾向となっていて、市場の競争環境は激化しております。私どもとしては、今年モデルチェンジを迎えるTNGAの主力モデルの1つである「カムリ」や最近発表した「C-HR」などの新型車の販売促進、これまでは小規模な投資で能力増強してきたSUV、ピックアップトラック系の能力をフル活用してライトトラック系車種の供給改善をしていきたいと思っています。そうしたことで前年並みの販売を見込んでいます。当社は他社に比べて少ないインセンティブの金額で、きめ細かな需給管理、適正在庫の維持といった対応で頑張ってきたつもりです。これからも新車効果や生産の能力増強などで過度なインセンティブ競争に陥らないようコントロールしていきたいと思っております」と回答した。
また、中長期の経営課題として、4年連続で1兆円以上の研究開発費を計上していることについて、TRIやEV事業開発室といった新しい取り組みを行なっている意図について質問され、これには豊田社長が回答。
豊田社長は「私どもはリーマンショック後に赤字に陥りました。そのとき、多くのステークホルダーの方々に大変なご迷惑をおかけした思いが私の身体や魂に染みついていると思います。トヨタのような規模の会社が赤字になるということは、大変多くのステークホルダーに対し、持続的成長のブレーキをかけることになってしまいます。そこで、今後は20%下がったとしてもある程度の利益を確保できるような改善を続けてきたわけです」。
「そのなかで、問題には構造的な問題と、為替や原材料費といった一過性の問題の2つがあると思います。構造的な問題ではトヨタが1000万台の規模を超え、『大きくなりすぎたことが一番の問題』ということで、昨年4月からカンパニー制をスタートして、『1000万台規模の課題』を明確化するのではなく、『各カンパニーごと、各リージョンごとの課題を明確にする』ということで問題解決を図ろうとしています。ただ、なにぶんにも80年近くの長いあいだを機能分業してきた会社ですので、なかなか“器の形”を変えてみても結果が出ていないということだと思います。構造的な問題についてはお時間をいただきたいと思っています」。
「あと、私どもの設備投資と株主還元はともに1兆円規模で続けていますが、やはりトヨタ規模の会社になると、それぐらいのことを継続していくことがステークホルダーとともに持続的に繁栄していく1つの責務だと思っています。そのなかで、今は売り上げがなかなか増えない状況で、そういったことを持続的に続け、パラダイムチェンジがあるということで、言わば『利益を生まない分野』にも投資をしていかなければならない。これが難しいところだと思います」。
「売り上げが伸びないなかで、今までの売り上げが伸びているときは、将来に向けた種まきと現在の刈り取り、耕しといった作業を並行して進められましたが、売り上げが伸びないということになったら、なにかを止める、なにかを変えるという決断も必要になると思います。成功している会社でなにかを止めるということはなかなか苦労することですが、2期連続で減益ということは、スポーツの世界で言えば『連敗』になるわけです。連敗というのは『負け嫌い』は私だけじゃありません。今期(2017年3月期)で分かったことや改善が進んだところなどを踏まえて、来期につなげていきたい」と豊田社長はコメントした。
また、今回の決算説明会から初めて参加した永田副社長と村上専務役員の2人に、それぞれの立場から今後の収益向上にどのように貢献していきたいかという質問が出され、これに対して永田副社長は「私の業務経験では調達や渉外広報、生産といったことがこれまでの中心でしたので、直接の担当者として財務や経理、販売といったことをやったことはございませんが、社内での動き方として、これまで心がけてきたことを続けていこうと思っています。CFO(Chief Financial Officer)として、各カンパニーのプレジデントやリージョンの責任者に直接働きかけていく。そのためには彼らがどんな課題を抱えていて、なにが見えていないのか、なにをしなければいけないのか、どんなアイデアが欠けているのかといったやり取りを、自分で直接影響力を行使して、動機付けや活性化を図っていきたいと思っています」と回答。
村上専務役員は「Chief Communications Officerとしての私の役割は、まずは社内のメンバーだけではなく、販売店や仕入れ先様といったトヨタグループ全体で働く1人ひとりが同じ方向を見て最大限の効果を出していけるよう、そのためのコミュニケーションをどうしたら力を結集していけるのかと常に考え、実行していくことが、おそらく私の務めかなと考えています。対外的には我々のやっている取り組みや努力といったことをしっかり理解していただいて、信頼していただけるようにすること。そんなよいコミュニケーションをすべてのステークホルダーの方とやっていくことが私の役割だと思っています」。
「とくに弊社の場合、横に座っております豊田章男が最も素晴らしいスピーカーでありますので、私はCCOとはいうものの、言い方は少しわるいですが、上手く社長を活用しながら、私はそれをしっかりとサポートして、影でしっかりと頑張るといった立ち位置でやりたいと思います」とコメントしている。