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ノキア、C-V2X/コネクテッドカー最新動向説明会で「C-V2XはLTEで開始し、その後5Gへ移行」

「DSRCとは共存していくのが現実的な答え」と5GAA副会長 ティエリー・クライン氏

2017年5月23日 開催

 フィンランドの通信機器インフラ事業者であるNOKIAの日本法人・ノキアソリューションズ&ネットワークス(以下合わせてノキア)は、5月23日に同社オフィスで記者説明会を開催し、加盟しているC-V2X(携帯電話回線を利用した車車間・路車間通信)を推進する業界団体5GAA(5G Automotive Association)の取り組みなどについて説明した。

 この中でノキア 車両革新管理主任 兼 5GAA 副会長 ティエリー・クライン氏は、「DSRCに比べてC-V2Xには無線の性能と、経済的合理性で優れている。ただ、DSRCとは共存していくというのが現実的」と述べ、何かと比べられてしまう2つの規格について、技術的にはC-V2Xの方が優れているがDSRCとは共存していくことになるだろうと説明した。クライン氏によれば、すでにLTEベースのC-V2Xは規格化が進んでおり、5G(第5世代移動通信システム)の実用化を待たずに、まずはLTEベースでの普及を目指すという。

携帯電話回線を利用した車車間・路車間通信を実現するC-V2X

NOKIA 車両革新管理主任 兼 5GAA 副会長 ティエリー・クライン氏

 説明会の冒頭、NOKIA 車両革新管理主任 兼 5GAA 副会長のティエリー・クライン氏が、米国から電話会議で参加する形で5GAAの取り組みについて説明した。

 5GAAは、QualcommやIntelなどの携帯電話用モデムを開発している半導体メーカー、NTTドコモやKDDIなどの通信キャリア、ボッシュやデンソーなどのティアワンの部品メーカーなどで構成される非営利の業界団体。携帯電話回線(英語ではCellular)を利用したV2X(Vehicle to everything、車車間・路車間通信)の応用例などを研究し、各国政府などに提案をしていくことを主目的としている。

5GAAの紹介
5GAAの加盟企業

 V2Xと言えば、これまではIEEE802.11pとして規格化されているDSRC(Dedicated Short Range Communications)がよく知られている。日本ではすでにETC 2.0として5.8GHz帯を利用したサービスが開始されており、将来もその発展系として車車間・路車間通信を行なうというロードマップが引かれている。5GAAが提案する、携帯電話回線を利用したV2XはC-V2X(Cellular-V2X)と呼ばれる技術で、DSRCとは別の技術として開発されたものになる。

V2Xには車車間(V2V、Vehicle to Vehicle)、路車間(V2I、Vehicle to Infrastructure)、そしてスマートフォンを持つ人間との間の人車間(V2P、Vehicle to Pedestrian)、そして車両とクラウドの間(V2N、Vehicle to Netowrok)などがある

 C-V2Xの最大の特徴は、その名前の通り現在携帯電話向けに利用している無線のインフラを利用して、車車間(V2V、Vehicle to Vehicle)、路車間(V2I、Vehicle to Infrastructure)、スマートフォンなどを持つ人間との間の人車間(V2P、Vehicle to Pedestrian)、そして車両とクラウドの間(V2N、Vehicle to Netowrok)という、DSRCでは実現が難しいと考えられるV2PやV2Nをサポートできることが大きな特徴となる。

 特に自動運転車ではその仕組み上、常時クラウドサーバーに接続して通信することが前提とされており、結局V2Nとしての携帯電話回線のインフラが必要になるので、であればV2VやV2Iなども携帯電話回線を利用したらどうかという議論になるのは不思議ではない。ただ、自動車メーカーにとっては、すでにIEEE802.11pをベースにしたDSRCに長年取り組んでおり、そことの整合性をどうするのかというのは自動車業界にとってのトピックの1つになりつつある。

C-V2Xは無線性能や経済性で強みがあるが、DSRCとは共存していくのが現実的な答え

 そうした5GAAの狙いについて、クライン氏は「5GAAは昨年設立された。こうした業界団体を通じて通信業界は自動車業界のニーズを理解できるし、その逆もしかり。V2Xを実現していくには両者が協力していかなければならないからだ。我々の目的はそうしたV2Xに必要な仕組みは何なのかを研究し、応用例を開発して提案していくということだ。規格策定を行なうのは別の組織の仕事になる」と述べ、5GAAの主目的はあくまで応用例の開発やプロモーションであって、規格策定そのものが目的ではないと述べた。

 C-V2XのDSRCに対しての強みとしては、「特に無線の性能に関してはC-V2Xは強みがある。また、通信キャリアにとっても、スマートフォンなどの一般消費者向け用途のインフラをそのまま活用できるので、スケールメリットを出しやすいなど経済性に優れている」と述べ、携帯電話回線を利用することによる無線性能や一般消費者向けの携帯電話回線を利用する経済性をメリットとして挙げた。

C-V2Xの現状について

 クライン氏によれば、C-V2Xの規格そのものは3GPPなどの既存の携帯電話回線の規格を策定する組織で策定が進められており、5Gを待たずに4G LTEなどの現行の技術でも策定が進められ、LTEを利用した車車間通信(V2V)は3GGP Release 14という4G LTEの最新規格の中ですでに規格策定が完了しているという。その後、V2NなどのほかのC-V2Xの機能に関しては、今年の後半から来年の前半にかけて規格策定が進められていく予定だとクライン氏は説明した。

 DSRCを推進している企業などからは、C-V2Xに否定的な意見がでているのではないかという質問に対し、クライン氏は「DSRC陣営は異なる意見をお持ちなのは承知している。我々は携帯電話回線をプッシュしており、なぜC-V2Xの方が優れているのか、そのメリットなどを明確にしていく必要があると認識している。ただ、現実的には両者が共存していく形になるのが現実的な解ではないか」と述べた。

 また、5GAAに日本のメーカーが加入していないことに関しては、「もちろん我々は日本メーカーが参加して下さるなら大歓迎だし、実際にお話をさせていただいている。ただ、実際にお話をしてみると、我々とは異なる見解をお持ちのところもあり、まだ実現には至っていない」と述べ、暗に日本のメーカーはDSRCを重視しているので、まだ参加に至っていないことを示唆した。

クライン氏のプレゼン資料

LTEベースのC-V2Xでも製品化は3~4年かかる、このため5Gを待たずにLTEから製品化を目指す

 説明会の後半では、ノキアソリューションズ&ネットワークス テクノロジー統括部長の柳橋達也氏が、C-V2Xに関するノキアの取り組みに関して説明を行なった。柳橋氏は「V2Xの市場規模は数十億ユーロ(日本円で数千億円)とされており、大きな産業になると予想されている。そうなるのも、V2VだけでなくV2P、V2I、V2Nも含めているからだ」と述べ、V2Xは大きな産業になり、多くのプレイヤーにとって新しいビジネスチャンスだと指摘した。

ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社 テクノロジー統括部長 柳橋達也氏
V2Xの市場規模は数十億ユーロ

 柳橋氏は「例えばドイツの自動車メーカーは自動運転を実現するのにセンサー、AI、HDマップなどに加えて、コネクティビティの重要性を訴えている。実際、すでに欧州のハイエンドの自動車メーカーはLTEモデムを搭載し、テレマティクスや車載情報システムなどに使っており、それが将来はV2Xに発展していく」と述べ、欧州ではC-V2Xが自然に受け入れられていると説明した。その上で、5GAAや各国政府などでC-V2Xを利用した利用モデルを検討されており、日本でも総務省などで「Connected Car社会の実現に向けた研究会」などで議論が進んでいると説明した。

各国の取り組みの状況

 そうしたC-V2Xの実装計画と商用化のスケジュールについて、「LTEベースのC-V2Xは3GPPのRelease 14で標準化は完成し、今年の第4四半期からパイロット版のモデムが入手できる。その後、車載装置の検証が2018年第1四半期から開始され、2018年末頃には通信業界の検証が終わる」(柳橋氏)と、通信業界側の検証が2018年末までに終わる見通しであると説明した。

 その後、自動車業界側での検証が始まり「約2年程度は自動車業界での検証が行なわれ、商用車に搭載されるには3~4年かかる見通し」(柳橋氏)となるため、仮に2020年頃に実用化される5GからC-V2Xを始めた場合には、実用化が2020年代の半ばになってしまうため、2020年代の初頭と考えられている自動運転車の実用化に間に合わないことになるためLTEベースのC-V2Xに取り組むことが重要だと説明した。

V2X実装計画と商用化ロードマップ

 その後、柳橋氏は基地局にエッジコンピュータ(小型サーバー)を置いて、自動車からのデータなどを処理するエッジコンピューティングのソリューションなどノキアが用意しているソリューションを紹介し、ドイツや中国で通信キャリアやティアワンの部品メーカーと行なった実証実験の例について紹介した。

柳橋氏のプレゼン資料