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ZF、E-モビリティ事業部の事業説明会。2021年投入予定の「eVD3」などEV向け製品ロードマップを公開

HV、PHEV、EVの各電動車に最適な各種ソリューションをラインアップ

ZF Eドライブ 企業買収・応用事例責任者 ウドゥ・ノイハウス氏

 ドイツのティアワン部品メーカー「ZF」(ゼットエフ、正式名称はZF Friedrichshafen AG、以下ZFで統一)は、同社のE-モビリティ事業部があるドイツ・シュバインフルトの同社オフィスで記者説明会を開催し、E-モビリティ事業部の事業概要、製品ラインアップ、将来製品のロードマップなどについて説明した。

ZFのE-モビリティ事業部の本部があるシュバインフルトは旧SACHSの本拠地

将来に向けたE-モビリティ

 ZF Eドライブ 企業買収・応用事例責任者 ウドゥ・ノイハウス氏は、同社のE-モビリティ事業部があるドイツ・シュバインフルとのZFオフィスで行なわれた記者説明会で、E-モビリティ事業の事業概要、製品ラインアップ、そして将来製品のロードマップについて説明した。

 ZFは本社があるドイツだけでなく世界各国に拠点を持っており、それぞれ異なる役割を持たせている。シュバインフルトはドイツ経済の中心となるフランクフルトから約160kmに位置している地方都市で、フランクフルトからクルマで約1.5時間、電車で2時間というロケーションに位置している。元々は2001年にZFが買収したSACHS(ザックス)の本社があったところで、2001年にZFが子会社化し、2011年にZFに統合したという歴史がある。SACHSはダンパーやパワートレーンを生産していた部品メーカーで、現在ZFの製品ラインアップにもSACHS由来のものが多数ある。

ZFが開発する未来に向けた技術

 近年ではZFのシュバインフルト事業所は、同社がE-モビリティと呼んでいる電動車(EV/PHEV/HVなどの総称)および自動運転向けのソリューションを開発、生産する拠点と位置付けられており、EV向けのパワートレーン(モーターやインバーター)などの製造などが行なわれている。

すべてのセグメントに向けて製品を開発中

 ノイハウス氏は「ZFはグループをあげてE-モビリティ事業に取り組んでいる。乗用車、商用車、産業用、そしてアフターマーケット向けを含めてさまざまなソリューションを開発しており、OEMメーカーに供給している」と述べ、E-モビリティ事業が同社にとって現在最も注力すべき事業の1つになっていると強調した。

EV市場のリーダーは中国、北欧が急速に市場を伸ばしている一方、日本はやや停滞

各国のCO2排出規制の状況

 ノイハウス氏は現在の電動車の中でも注目が集まっているEV(電気自動車)市場の現状について説明した。ノイハウス氏は現在EVが注目されている背景には、パリ協定などにより世界的にCO2削減に取り組んでいるということがあり、世界各国でCO2削減に向けた目標が設定され、自動車メーカーとしてもそこに配慮しなければならないということがあると指摘した。

乗用車向けのCO2排出規制の推移

 例えば、欧州では2020/2021年に新車のCO2の排出量を95g/kmにまで減らさないといけない。日本も同様で、2020年には105g/kmに減らすことを目標に設定している。各国とも2025年~2030年にはもっと厳しいターゲットを設定しており、例えば欧州では2030年に59g/kmまで減らすことが定められている。この目標は今後も下がる一方になる。つまり、CO2を排出しない自動車、ゼロエミッションのEVを実現することが自動車メーカーにとっては重要になりつつある。

事故0、ゼロエミッションが自動車メーカーにとって重要なテーマに
EVの出荷状況。テスラがトップで、それに次ぐのは中国メーカー

 そうしたEVの市場だが、グローバル市場で販売台数トップなのは米国のテスラで45万台~50万台、それに続いているのは中国のBAIC、BYDで、4位に日本の日産自動車が「リーフ」で入り、5位がフランスのルノー、6位が韓国のヒュンダイで、7位~10位までは中国メーカーが占めるという現状になっている。

 これを見て分かるように、現状では電動化を叫ぶ欧州メーカーでEVで上位にいるのはルノーのみという状況で、ドイツ勢は1社も入っていない。つまり現状ではテスラと中国メーカー、そしてルノー・日産アライアンスが主役で、欧州メーカーの多くはこれからキャッチアップしていくという現状だと言える。

グローバルのEV+PHEVのマーケットシェア。中国が高いことが見て取れる
EVの販売状況。中国がダントツのトップ、次いで欧州

 次に電動車の中でEV+PHEVで2013年~2018年に国別の伸びを見ると、中国の成長は著しく、実に78%も成長している。また、欧州で急速に伸びているのが北欧のノルウェーとスウェーデンの2か国で、両国ともに国策としてEVを増加させる税制や補助金などの仕組みを採用しているため、急速に伸びているということだった。その逆が日本市場で、EVのセールスもあまり伸びておらず、市場としては停滞してしまっているとのことだった。

日本はEVの産業としてのレベルは高いが、台数は増えていない

 そして、今後のトレンドしてはいわゆるCASE(Connectivity, Autonomous, Shared, Electrificationの略。インターネット接続、自動化、シェア、電動化を意味する自動車の次のトレンドを示す言葉)やMaaSなどへの対応が重要になるとノイハウス氏は説明し、ZFもグループとしてそうしたCASEやMaaSなどへの対応を強化していると説明した。その中でE-モビリティ事業部は、EV用の各種コンポーネント(モーター、インバーター、パワートレーン、ECUなど)をOEMメーカーに提供すべく、開発や生産を行なっていると述べた。

CASE
ZFが提供するソリューション
E-モビリティ事業部の組織とポートフォリオ
事業所
4つの工場

 ノイハウス氏によれば、E-モビリティ事業部の拠点は世界中にあるが、その本部はシュバインフルトにあり、開発と一部製品の生産を行なっているという。シュバインフルトで生産されているのは付加価値の高いもの(例えばEV用パワートレーンなど)で、主力工場となるのはセルビアとチェコという東欧2か国にある工場で、そちらで生産したものを欧州メーカーに提供し、中国の杭州市にある工場では中国などアジア向けの製品を生産しているという。

生産車での採用例

 ノイハウス氏によれば、同社のE-モビリティ事業部の製品はメルセデス・ベンツ、ボルボ、アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーで採用例があるとのことだった。

2021年にeVD3を投入。2022年には800Vで250kWの出力を実現するハイエンド向けを投入

CO2削減に向けて

 そうした自動車メーカーが目指すCO2削減のために、ZFが用意しているソリューションは、ハイブリッド用のトランスミッションやEV向けのパワートレーンなどだという。といってもその範囲は多岐にわたっており、モーターからインバーター、クラッチ、トランスミッションなどの各コンポーネントから、それを1つにしたパワートレーン全体まで選択できるようになっているという。例えば、フランクフルトモーターショー(IAA)2019でも展示されていた8速のPHEV用トランスミッション、同じく8速でデュアルクラッチのPHEV用トランスミッション、eVDと呼ばれるEV用のモーターなどが現在提供されている。このため、OEMメーカーはHV、PHEV、EVと各電動車の種類に応じて最適なパーツを選択することができるという。

ポートフォリオ
提供するコンポーネント
ポートフォリオの電動化が進められている
各種の電動車に対応

 現在のEV向け製品は主に出力150kWのミッドレンジを狙ったものとなっているが、ノイハウス氏が示した同社のロードマップによれば、将来は出力が200kWを越えるハイエンド向け、150kWのミッドレンジ向け、100kW以下のローエンド向けにそれぞれ製品を投入していく計画だという。特にミッドレンジ向け、ローエンド向けは2022年、ハイエンド向けは2023年に製品が投入される計画だという。これは、将来電動車の種類が増えるという予測がされているからだろう。現在は電動車は種類が少なく、ミッドレンジのパワーユニットだけで充分にカバーできるが、今後はそれこそスポーツグレードのような製品も電動車になったり、逆に軽自動車も電動車になっていく可能性が高い。そうした時にこうした出力が異なるパワーユニットが必要になるということだ。

出力が200kWを越えるハイエンド向け、150kWのミッドレンジ向け、100kW以下のローエンド向けにそれぞれ製品を投入していく計画
eVDのロードマップ

 具体的には現行製品として2018年に発表されたeVD2の後継として、2021年にeVD3が投入される。eVD3は150kWのeVD3 midと100kW以下のeVD3 lowの2つのラインアップが投入される計画で、次世代のインバーターが統合される計画だ。また、2022年にはハイエンド向けのeVD3が投入される計画で、800Vで200kW以上の出力を発生させる計画だ。

15ED35A

 例えば、eVD3 midの「15ED35A」ではインバーター、ギヤ、パーキングロック、モーターなどが1つのパッケージになり、最大出力150kW、最大トルク3500Nmというスペックを実現して重量は120kgとなる。

10ED21P

 eVD3 lowの「10ED21P」も同じようにインバーターなどが1パッケージになっており、最大出力が100kW、最大トルクが2100Nm、重量は約55kgと15ED35Aの半分以下の重量になるという。

EVplus
ハイブリッドモジュール

 また、フランクフルトモーターショーで発表されたPHEV用トランスミッション「EVplus」、既存のエンジンなどに追加するハイブリッドモジュールなどのスペックも説明された。後者はポルシェ911などに採用されており、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェで最速タイムを出して話題になったという。

2ギヤのEV用モーターを開発中。ハイエンドeVD3ではSiCのMOSFETを投入

2速のモーター

 ノイハウス氏は将来の製品に関しても説明した。その1つは2速のEV用モーター。ハイトルク用、ハイスピード用の2つのギヤを備えており、それぞれの利用シーンで切り替えて利用することで、トルクが必要なシーンと、スピードが必要なシーンに分けて利用することができるという。例えば、SUV車など大きなトルクが必要なハイエンドなクルマなどで意味がでてくるという。ただし、ギヤの分重量が増えることになるので、そのトレードオフをカバーできるような車種向けということになる。

800VのeVD、SiCのMOSFETを採用

 また、800Vという高電圧に対応したEV用モーターも検討されている。現在欧州では48Vの低電圧のモーターに注目が集まっている。48Vのモーターは高電圧なモーターなどに比べて軽量コンパクトに作ることができるので、低コストでPHEVやHVを実現するのに最適と考えられている。その一方で、EVで従来のガソリン車に匹敵するようなパワーを出すには、高電圧なモーターが必要とされている。現在ZFが提供しているeVD2では400Vまでとなっているが、次世代ではそれが800Vまで対応可能になる。新しい素材となるシリコンカーバイト(SiC)のMOSFETが活用されており、それにより電圧切り替えの能力を引き上げられている。

モジュール化されたEV向けパワートレーン

 また、将来的にはeVD、ドライブシャフト、サスペンションなどモーターや駆動系を1つのパッケージとして提供することも計画しているという。これにより、自動車を製造する経験が少ないスタートアップのEVメーカーなどが容易にEVを製造することが可能になる。

E-モビリティ事業部の技術はFormula Eでも使われている
自動運転技術も開発中

 なお、こうしたE-モビリティ事業部の技術は、市販車だけでなくZFがサポートしているFormula EのVenturiチーム、HWAチームにも供給されており、2018年の香港ラウンドではVenturiチームが優勝(別記事参照)するなどの結果を出しているともノイハウス氏は説明した。