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日産、「プリンス グロリア スーパー6 優勝仕様車」の再生完了宣言式。日産グローバル本社でエンジン音を響かせる
伊藤修令氏らプリンスOBも当時を振り返る
2020年2月5日 00:00
- 2020年2月1日 開催
日産自動車の開発部門が集まる日産テクニカルセンター内の従業員を中心とした「日産名車再生クラブ」は2月1日、「プリンス グロリア スーパー6 第2回日本GP T-VIクラス優勝仕様」の再生完了宣言式を行なった。グロリア スーパー6はしばらくの間、日産グローバルギャラリーのヒストリックコーナーに展示され、一般公開される。
プリンス自動車が上位を席巻した日本GPに出場したグロリア
日産名車再生クラブは、神奈川県座間市にある「日産ヘリテージコレクション」に収蔵するクルマから毎年1台、動態保存するようレストア作業を行なっているが、2019年はプリンス グロリア スーパー6 第2回日本GP T-VIクラス優勝仕様が選ばれた。
第2回日本GP(第2回日本グランプリ自動車レース大会)は、日産と合併する前のプリンス自動車工業がクラスによっては上位を独占するような成績を挙げ、排気量で分けたツーリングカーのT-VIクラスではグロリアが1、2、4位を、その下のT-Vクラスでは「スカイライン 1500」が上位を独占。さらにGTカーのGT-IIクラスでは1位をポルシェ「カレラ GTS」に譲るものの、「スカイライン GT」が2位以下を占めてスカイライン伝説のきっかけとなったことでも知られている。
レストアされたモデルは実際にレースに出場したクルマではなく、その後にデモカーとして作られたレプリカ車両。50年以上も前のことで、このレプリカ車両が作られた経緯やどのような仕様で作られたかは不明だが、残っている写真や資料、雑誌記事などを元に、内外装を第2回日本GPのT-VIレースで優勝した39号車のグロリア スーパー6になることを目指した。
そして、名車再生クラブでは2012年にレストアした「プリンス スカイラインGT」と合わせ、第2回日本GPで入賞したクルマを同時にサーキットを走らせたいという目標があり、並行してスカイライン GTの整備も行なう予定を立てた。
スケジュールは5月のキックオフからスタートし、通常は12月の「NISMO FESTIVAL」でお披露目となるが、今回は前月となる11月に鈴鹿サーキットで行なわれた「SUZUKA Sound of ENGINE 2019」での試走が決まったため、通常よりも前倒しで作業が進められ、予定どおり同イベントでの走行を果たした。
楽そうな感じだったが……そんな簡単ではなかった
2019年5月時点のグロリア スーパー6はきれいな状態で、クラブ代表の木賀新一氏はその姿を見て「楽そうな感じだった」とレストア前の心境を振り返って笑いを誘ったが、実際には簡単でなかったとレストアの状況が語られた。クルマには10年ほど前に触られた痕跡があり、その際の再生作業が十分ではなく、見た目がきれいにされていたものの、メンバーで解体して直したという。
また、今回は鈴鹿サーキットでの走行が予定され、レストア期間が通常よりも短い5か月間であったことや、秋の台風で休んだ期間もあってスケジュール的にも苦しかった様子が語られた。
各パートに分かれたレストア作業は、それぞれのパートのメンバーからレストア作業の様子が語られた。エンジンについては航空機メーカーをルーツに持つため、量産エンジンにも関わらずワイヤーロックがあることや、細かい部品までプリンスのマークが鋳込んであることなど、分解して初めて分かったことが語られた。また、全体的に錆との戦いや、この世代のグロリアの装備ではマストアイテムとされるドアトリムやシートで使うそれぞれ別の西陣織生地の調達が難しく、奇跡的に見つかったことも紹介された。
さらに、もともときれいで磨けば終わると思われていたボディも、ガラスを外すと錆があり、パテで盛った部分が多く発見されるなどしたため、試作部のメンバーを招集。板金で対応したほか、モーターショー出展車などで塗装を手掛ける人にも協力を仰ぎ、塗装もやり直したという。電装も手がかからないと思われたが、エンジンルームのハーネスに大きな損傷があり再作成。ほかにも手を加えられた形跡もあって、複雑な回路を1つひとつ検証して組み上げた。
細かいところでは、途中の整備でネジにJISと旧JISが混在していたことや、サスペンション調整にシムを用いている点は部品管理をしっかりしないと元通りに組み上げが難しかったことなど、苦労した点が語られた。レース出場時の再現度という点では、内装のグロリアのロゴも当時と違っていたため、当時と同じものに交換をするなどしたが、作業にあたったメンバーの中にはまだ心残りの部分もあるという。それでも「よそに出しても恥ずかしくない仕上がりになった」と胸を張った。
また、メンバーからは感想も織り交ぜて語られ、「社内にこんな楽しい場所があったのか」など、参加したことへの喜びの声も聞かれた。
なお、2020年のレストア車両については現在未定。クラブ代表の木賀氏は候補を考えているというが、まだ決まっていないとのことだ。
伊藤修令氏らプリンスOBも参加
今回は当時のプリンス自動車工業のOBも参加した。1959年にプリンス自動車工業に入社、その後、R32型スカイラインの開発主管でも知られる日産アーカイブズの伊藤修令氏は、レストアした2代目グロリアが開発された時代について「1960年代というのは各社が自前でクルマを開発し、欧米の自動車に追いつけ追い越せと、頑張ってきた時代」と振り返った。
また、「技術員も大きな夢を抱いて、無理もしながら寝食忘れてこのクルマの開発に取り組んだ」と思い出を語り、技術的な特徴として国産で初めての6気筒OHCエンジン、センターベアリングを持った3ジョイントのプロペラシャフト、ド・ディオンアクスル、当時として画期的な2枚ばねのリーフスプリングなどを挙げ、グロリアが再生できたことを喜んだ。
グロリア スーパー6の発売前年となる1962年にプリンス自動車工業に入社した野田孝男氏は、当時エンジン開発を担当しており、搭載されたG7型は最初に設計を経験したエンジン。「レースエンジンの改良とか、チューニングとかを担当することになって、一番思い出深い経験をしたエンジン」としたほか、プリンス自動車は第2回日本GPで優秀な成績を残すことができたが、その前年の第1回日本GPでは大敗していたことから「“上の方”から大号令がかかって、来年はどうしても勝つように」という状況でレースに臨んだことも語られた。
続いて、日本モータースポーツ推進機構理事長で日産OBの日置和夫氏は、11月の鈴鹿での走行を提案した張本人。レストアを間に合わせたことに礼を述べるとともに、日産ヘリテージコレクションでの説明で、日産名車再生クラブ員の気持ちが伝わるように説明をしたい希望を述べた。さらに「クルマを電子化、自動化しないといけない状況で、自動車の基礎をこういう活動で学び、先輩諸氏が築き上げたことを継承しながら進めていただければ、OBの一員として非常にありがたく思っている」と、クラブの活動を讃えた。
エンジン始動、G7エンジンの音をグローバル本社に響かせる
続いてレストアされたグロリアの前に移動してお披露目。これまでの名車再生クラブの再生完了宣言式とは違い、今回は日産グローバル本社ギャラリーで行なわれたため、一般来場者のギャラリーも取り囲む形で披露された。
屋外スペースにグロリア スーパー6が置かれ、エンジンを始動、敷地内をデモ走行した。
日産グローバル本社ギャラリーのヘリテージゾーンで3台を展示
完了宣言式では、2020年1月3日に亡くなられた砂子義一氏についても紹介があった。砂子氏は第2回日本GPに参戦し、スカイライン GTで2位になるなど、プリンスと日産のワークスドライバー。スカイライン GTやスカイライン 1500で成績を残したほかグロリアでも参戦し、その後の第3回日本GPでは「プリンス R380」で優勝した。
日産グローバル本社ギャラリーのヘリテージゾーンでは砂子義一氏を偲び、今回レストアしたグロリア スーパー6、スカイライン GT、プリンス R380の3台を展示する。2月1日は再生完了宣言式でグロリアはこの場所にないが、2月2日~29日の予定で3台並びで展示する。
ヘリテージゾーンではバックの大型モニターで映像が流れるが、SUZUKA Sound of ENGINE 2019で星野一義氏がグロリア スーパー6を走らせた車内映像も流れる。通常とは異なるHパターンで、ダブルクラッチを駆使してギヤ鳴りをまったくさせずにドライブする様子を見ることができる。