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「シビック TYPE R」開発責任者が語る“速さのための3つの進化点”

1020台限定軽量仕様のリミテッドエディションも全貌が明らかに

2020年2月20日 発表

シビックシリーズ開発責任者の松井充氏(左)とTYPE R開発責任者の柿沼秀樹氏(右)

 本田技研工業は2月20日に新型「シビック TYPE R」を発表した。また、同時に2020年秋に発売を予定している「シビック TYPE R リミテッドエディション」に関する情報を特設サイトにて公開した。

株式会社本田技術研究所 オートモービルセンター TYPE R開発責任者 柿沼秀樹氏

 説明会で登壇したTYPE R開発責任者の柿沼氏は「1990年にホンダから初のピュアスポーツカーであるNSXが発売されました。そしてもっとスポーツスピリットを高めたクルマを作りたいというエンジニアたちの強い想いからTYPE Rが誕生しました。そして1995年にはそれまでのFF量産車の常識を覆す圧倒的なハンドリングを実現したインテグラ TYPE Rを登場させ、さらに2年後には世界のベーシックカーであり、グローバルでホンダを支える基幹機種に成長したシビックをベースとしたTYPE Rが登場します。それ以降、歴史を積み重ねてきたTYPE Rは、ホンダにおけるスポーツブランドとして確固たる地位を築き上げました」とTYPE Rの歴史を語った。

1992年のNSXで初めてTYPE Rが誕生
1997年にホットハッチで世界に名を馳せるシビック TYPE Rが登場
脈々と受け継がれてきたTYPE Rの血統

 続いて「これまでのTYPE Rはすでに存在しているベースモデルの枠の中で運動性能を高めるために、走りに不要なものはそぎ取り、日常性能と引き換えに速さを求めてきました。しかし、次世代のTYPE Rとはどう進化させていくべきかを、これからの時代のスポーツカーとはどんなものであるべきかということを、われわれは必死に考えてきました。そして2017年に出した結論は、圧倒的な速さとかつてないグランドツアラー性能を兼ね備えた異次元のTYPE R。つまり“スポーツカーの枠を超えたアルティメットスポーツカー”をコンセプトに開発しました。過去を頑なに守るのではなく、今の時代にあるべき姿のスポーツカーとして、TYPE Rの新たな歴史を作るためのクルマです」と現行のシビック TYPE Rの存在意義を表現した。

新しいTYPE Rは「サーキットパフォーマンス」も「グランドツーリングパフォーマンス」も、従来のスポーツカーの領域を超えたアルティメットFFスポーツとして定義される
世界中のメディアで高い評価を得ているシビック TYPE R

進化点は「サーキット性能」「一体感/ダイレクト感」「ドライビング空間」の3つ

2月20日に発表されたシビック TYPE Rの進化点
サーキット性能の進化

 マイナーチェンジが施された新型シビック TYPE Rについて、柿沼氏は「私たちのこだわりをカタチにしたシビック TYPE Rの進化について説明します。まず始めに取り上げるのがサーキット走行性能についてです。今回のTYPE Rではエンジンパフォーマンスをより体感できるようにエンジン冷却性能を向上させています。そのためにフロントグリルの有効開口面積を拡大させることでラジエターに効率よく風を送れるよう形状を変更しました。同時にラジエターのフィンピッチを変更して放熱性を向上させていますので、サーキット走行時の最高水温を大幅に低下させています。それにグリル開口部の形状変更によるフロントダウンフォースの減少に対応するため、フロントバンパースポイラーの形状変更や剛性に至るまで見直すことで、現行モデル同等以上のダウンフォースを実現しています」と冷却と空力に関する変更点を解説した。

フロント開口部の拡大とラジエターフィンピッチを細かくして水温を上がりにくくした
フロントエアスポイラーの形状変更と両端にリブを追加して補強を行なっている

 続いてブレーキの変更点に関しては「サーキット走行での更なるブレーキフィールの進化を目指しました。そこで採用したのが2ピースのフローティングタイプのディスクローターです。これにより熱による“ディスク倒れ”が減少したので、連続走行時に起こるブレーキペダルのストローク変化や踏力変化を大幅に低減でき、常に安定したブレーキフィールを実現するとともに、台あたり2.5kgのバネ下重量を減らすことにもなりましたので、運動性能向上にも貢献しています。また、ブレーキパッドの有害物質における法規対応も取り込んだ摩擦材に合わせて、マスターパワーの最適化も行なっています。そのため常用領域のコントロール性のよさについてもさらに進化させています」と、大幅に性能が向上していることを説明。

フロントローターは2ピース化。一体型の1ピースタイプに対してローターがフローティングタイプになり放熱性が高く、ローターの温度が上がった際にローターが倒れにくい構造になった
一体感/ダイレクト感の進化

 続いてサスペンションまわりの変更について、柿沼氏は「次に紹介するのは一体感、ダイレクト感の進化です。今回のTYPE Rでは、アダプティブダンパーシステム制御やサスペンションブッシュ、ボールジョイントに至るまで変更しています。これらは従来のTYPE Rにおけるマイナーモデルチェンジで手を入れていなかった領域ですが、今回のTYPE Rではきめ細やかなチューニングを施しました。その結果、コーナー進入から脱出までの一連のハンドリング性能や、荒れた路面における接地性、制振性をさらに進化させています」と語った。

 さらに「サスペンションにおいてはフロントロアボールジョイントについても改良を加えました。ここはボール部分の動きがよりなめらかになる加工を施したことで、微小なストローク領域からサスペンションをスムーズに追従させるとともに、ダンパーシステムのセンサーサンプリング周波数を向上させることでより緻密なダンパー制御性を実現しました。これらによって路面のアンジュレーションにおけるタイヤの接地荷重抜けが減少して、荒れた路面での接地性を向上させています。街乗りから高速クルージング、ワインディングやサーキットでのドライビングを含め、あらゆるシーンでのTYPE Rの一体感、ダイレクト感の進化を味わっていただける仕上げになっています」と乗り味の進化を説明した。

サスペンションまわりは、ボールジョイントや強化ブッシュなど細部が見直された。また、ダンパーの制御も見直したことでコーナリング性能が向上。接地性がよくなりコーナー出口でもアクセルをさらに踏めるようになった
サーキットやワインディングだけでなく、普段の街乗りレベルの乗り心地も向上している
ドライビング空間の進化

 柿沼氏は、3つめのポイントとなるドライビング空間の進化について「スポーツカーとの特別な時間を充実させるため、ステアリングホイール表皮やシフトノブ形状の変更を行なうことで、ドライビングエクスペリエンスを向上させました。ステアリングはホンダ初となるフルアルカンターラ表皮となりました。アルカンターラ素材の触感のよさとフィット感から、車両の挙動をダイレクトに感じ取れるようにしています。ただ、アルカンターラ素材は本革よりも生地が薄いので、そのまま巻いたのではグリップ径が細くなってしまいます。そこで今回のTYPE Rではぜいたくにも裏地を2枚重ねとすることでグリップ径を維持しています。また、アルカンターラ素材に合わせたグリップの弾力性も持たすことで質感と機能性を向上させています」と、ステアリングの作り込みについて説明。

ホンダ車では初となるアルカンターラ素材をフルに使ったステアリング。素材が薄いので下地を2枚入れてグリップの太さを最適化

 続けて取り上げたのがシフトノブについてだ。ここは「クルマとの一体感のさらなる進化のために見直したのがシフトノブです。これは2007年モデルから10年以上に渡って変えていなかった丸型形状ですが、今回のモデルでは新たなティアドロップ形状にすることで、ドライバーの手のひら形状にジャストフィットさせながら、ショートストロークシフト独得のノブの傾きの認識性や操作性を進化させました。さらにノブ内部には90gのカウンターウエイトを入れることで、トランスミッション側の操作荷重とノブ側の操作荷重とのバランスを合わせることで、シフトフィーリングを向上させています」と、冒頭にも出た「こだわり」という言葉を表すような解説も行なった。

丸型からティアドロップ型に変更。ノブの傾きが触感で分かりやすくなった。また、歴代のシフト比較も公開された
今の時代のスポーツカーには安全性の進化も重要なポイントであると考え、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を含む、Honda SENSINGを装備する。サーキットなどでは安全機能をOFFにすることも可能
エクステリアカラーは全5色で、新色となるレーシングブルー・パールとポリッシュドメタル・メタリック(国内新色)が追加された

軽量化が施された限定版「リミテッドエディション」

「シビック TYPE R リミテッドエディション」とTYPE R開発責任者の柿沼秀樹氏

 エンジニアの強いこだわりと情熱で魅力的なマイナーチェンジが行なわれたシビック TYPE Rだが、「TYPE Rの起源に立ち返り、コアなファンに向けたエディションモデルも用意しました。時代進化と技術進化の上でこれほどまでの進化を果たしたシビック TYPE Rだからこそ、その起源に立ち返り速さと軽さを研ぎ澄ませたものがリミテッドエディションです。このクルマには1990年代のTYPE Rを彷彿させるサンライトイエローIIとブラックの2トーンを専用カラーとして、世界で1020台限定、日本では200台限定で発売します」と柿沼氏により全貌が明かされた。

リミテッドエディションのボディカラーは、1990年代のTYPE Rを彷彿させるサンライトイエローII×ブラックの専用2トーンカラーのみの設定

 さらに「リミテッドエディションではピュアスポーツ性能をさらに磨き上げるために、徹底した車体の軽量化を行ない、鍛造アルミホイールと合わせて約23kgの軽量化を図りました。また、防音装備もそぎ落としながら室内に伝わるエンジン音や車体から聞こえる走りのサウンドをスポーツカーらしくチューニングすることで、よりピュアなスポーツ性能を際立たせています」と、徹底した軽量化の手法と聞こえてくるサウンドにまでこだわったと柿沼氏。

ボディ軽量化のポイントと、車内に伝わるサウンドチューンの解説

 最後に取り上げたのがリミテッドエディションに採用したBBS製鍛造アルミホイールについてだ。こちらは「2002年のNSX-R以来となるBBSとの共同開発を行ない、リミテッドエディション専用の鍛造ホイールを用意しました。ボディ部分のバネ上ウエイトと鍛造ホイールによるバネ下重量の軽減によりさらに軽快な身のこなしや路面追従性というリミテッドエディションならではのスポーツ性を実現しています。

 また、リミテッドエディションでは専用タイヤとしてミシュランの『パイロットスポーツCUP2』を選択しました。このタイヤはドライ路面のパフォーマンスにより特化したコンパウンドと内部構造を持つものです。そして軽量化やホイール、タイヤ変更に合わせてダンパーシステムと電動パワーステアリングの操舵感をリミテッドエディション専用セッティングとしています」と解説した。

BBSでは鋳造アルミビレットを4分の1以上にまで押しつぶす鍛錬成型比(原断面積と成形後の断面積の比)4以上を基準としていて、これは最大9000tという大型プレス機を持つBBSならではの技術。これにより軽量でありながら強固で粘りのあるホイールとなる。完成までには約1年が費やされた
高額になりがちな専用設計タイヤではなく、ユーザーが長く楽しく走れるようにと、誰もが購入できる市販品をチョイスする

 なお、リミテッドエディションの購入方法については、決まり次第先行公開ページで案内されるので、ご参照いただきたい。