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【インタビュー】ホンダ「シビック TYPE R」の商品企画について齋藤文昭氏に聞く

ホンダの血、TYPE Rの血、シビックの血は“操る喜び”

「シビック TYPE R リミテッドエディション」と本田技研工業 技術工業商品ブランド部 商品企画課の齋藤文昭氏

 本田技研工業のスポーツカーを表す名称「TYPE R」。これまでもさまざまなクルマに設定されており、2020年夏ごろには新しい「シビック TYPE R」が発売される。すでに東京オートサロン 2020で発表されているのでご存じの人も多いだろうが、改めて商品企画を担当する本田技研工業 技術工業商品ブランド部 商品企画課の齋藤文昭氏に、このクルマに込めた想いについて語ってもらった。

育てていくということ

夏ごろの発売を予定する「シビック TYPE R」改良モデル

――1月10日にシビックのマイナーチェンジが発表されました。その真価を踏まえながら少し遅れてTYPE Rが発売されますが、商品企画としてこのTYPE Rをどのように考えて開発をスタートさせたのでしょうか。

齋藤文昭氏:まず、2017年に誕生したTYPE Rが世の中にしっかり受け入れられているという確信を得ることから始めました。その上で、お客さまが喜んでくれて、求めていることをどこまで超えられるか。それを開発陣と一生懸命話をして、期待を超えたシビック TYPE Rにすべく、世の中にちゃんと(TYPE Rを)“育てていく”という姿勢を伝えようと考え、今回の投入に至りました。

 今回のポイントは育てていくということです。2017年以降、3年間マイナーチェンジを行なっておりませんでした。そして、2019年11月にハッチバックとセダンの改良モデルを発表した際に、「TYPE Rがなくなってしまうのではないか」という声が大きく聞かれたこともありました。そこで、TYPE Rをこれまで育ててきて、これからも育てていくということをしっかりと伝えなければいけない。これを商品企画の第一義と考えたのです。

1年待ってもいいと思わせるクルマ

シビック TYPE R リミテッドエディション(左)は日本で200台が販売される予定

――今のお話で、2017年モデルは市場に受け入れられたということでしたが、その判断はどのようにして行なわれたのでしょう。

齋藤氏:1つは販売台数です。計画は年間1500台だったのですが、3000台近くのご要望をいただき、そして届けることができました。読みが甘かったと言われればそれまでなのですが、この市場において、この価格でどこまで受け入れられるかを精査した結果ですので、より受け入れられてもらったという実感がありました。

 もう1つは、納車までに時間がかかることをお客さまがどう捉えるかです。それによって反応を見ようと思っていました。しかし、「1年待ってもいいと思わせるクルマだ」と言っていただけました。もちろん、納車までに時間がかかってしまい、ご迷惑をかけたということは反省しなければいけません。ただ、納車された時のお客さまの声では、価格やデザインなどへの不満の声はなく、納期の遅れもなくなってきた時に、われわれとしてはお届けできてよかったということを確信しました。

シビック TYPE Rのリアビュー
シビック ハッチバックと同様に広いラゲッジスペースを備える

シビックブランドを育てるということ

――2017年にデビューして以来、この3年間育ててきたTYPE Rですが、企画面では何を育てなければいけないと考えたのでしょうか。

齋藤氏:シビックにはハッチバック、セダン、そしてTYPE Rとあります。これらはシビックという名前で日本国内では認知されており、TYPE Rという名前が大きく認知されているとは思っていません。その理由は、国内ではずっと手に入りやすいクルマとしてシビックを販売してきており、そのもとで極端なクルマとしてTYPE Rを出したからです。もちろん個々では認知されてはいるでしょう。

 しかし、今回は改めて、まずシビックをどのように認知させていくべきかを考え、今回東京オートサロン 2020においても、ハッチバックとセダンをまず出し、その後会場においてサプライズ的にTYPE Rを出しました。このようにシビック全体として発信することが、まずはお客さまに伝わりやすいと考えたからです。つまり、セダンやハッチバックなどと分けないで、まずはシビック全体として訴求をしようということです。これは3つのモデルとも系譜や起源は一緒だと捉えているからです。

 今回はセダン、ハッチバック、TYPE Rのいずれもアップデートしましたが、そこに流れている“血”は一緒です。それをきちんと伝えたいという思いで訴求していこう、そして育てていこうという姿勢で臨みました。今回の進化幅のみを捉えて、TYPE Rだけ、走りを追求したクルマだけが残るんだということも言われましたが、それを打ち消すためにも3機種そろったシビック全体として育てていくという姿勢を伝えることに意志を込めたのです。

ホンダ車として初めてステアリング表皮すべてにアルカンターラを使用
車速を数字で表示する大型コンビネーションメーターを採用
6速MTのシフトノブは形状を球体からティアドロップ形に変更。内部にカウンターウエイトを備えて操作性も高めている

――それはすごく難しい判断だと思います。例えば、先々代はシビック TYPE Rオンリーでの導入でした。そういった背景を踏まえながらも、今回あえてTYPE Rを含んだシビックファミリーとして訴求しているのはなぜでしょうか。

齋藤氏:今回のマイナーチェンジで、TYPE Rだからやったこと、ハッチバックだからやったこと、セダンでやったことの進化幅は全然違います。そうではあるのですが、進化を止めないという観点ではすべて一緒です。特にTYPE Rは今回の変化幅が大きいものになりました。その結果として、TYPE Rにだけ力を入れたと思われることは避けたいと考えたのです。

 もちろんこの3年間、TYPE Rを育ててきたわけですし、こだわりが強い技術者ですから求められている期待を越えようというところの意志はやはり出てきてしまっています。ただ、今回のマイナーチェンジでは、それぞれの性格に合わせた進化をさせています。シビックトータルとしてそれぞれの個性に合わせた進化をした結果、TYPE Rはよりこだわったことから、他よりも大きな進化幅になったのであり、シビックファミリーとしてみた時には、その方向性、つまり“血”は同じということなのです。

レッドの表皮を多用して見た目にも刺激的なTYPE R専用シートを装着する

――今おっしゃられた、シビックの中に流れている血とは何ですか。

齋藤氏:これはすごく難しくて、自分もずっと考え続けてきたのですが、操る喜びだと思っており、それはホンダの血でもあります。走りを求めるものとかチャレンジングスピリット、レーシングマインドにも繋がります。

 そこが今、台数が売れているミニバンや軽自動車などにホンダのイメージが引っ張られてしまっており、もちろんその方向性も重要なのですが、ホンダの血、TYPE Rの血、シビックの血として、操る喜び、これをちゃんと育てていこうと今回の企画に落とし込んでいきました。