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SUPER GT開幕戦 富士、FRになったホンダ NSX-GTが公式練習でトップ。ホンダ SUPER GTチーフエンジニア佐伯氏に聞く

2020年7月18日~19日 開催

公式練習でトップタイムをマークした100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)

 SUPER GT開幕戦「2020 AUTOBACS SUPER GT Round1 たかのこのホテル FUJI GT 300km RACE」は、7月18日~19日の2日間にわたり富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で開催されている。本来であれば4月に岡山で開幕する予定だったSUPER GTだが、新型感染症(COVID-19)の感染拡大により延期。新しいスケジュールとして第1戦が富士スピードウェイで開催されることになった。感染症対策のため無観客で行なわれている。

 初日の7月18日は、16時から公式練習が行なわれる予定だったが、富士スピードウェイに霧が発生してしまい、公式練習のスタートは1時間以上延期。17時15分から走行が開始されるという展開になった。

 そんな中でトップタイムをマークしたのは100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)。ホンダ NSX-GTは今シーズンからエンジンの搭載位置をミッドシップからフロントへと変更。駆動方式はFRと、そのほかのGT500マシン同様となった。ホンダのSUPER GT活動を統括するホンダ技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏によれば、そのFR版NSX-GTをドライブしたドライバーの第一印象は「何も変わらない」だったという。それはなぜなのか?

GT500はNSX-GT勢が1-2、そこにGRスープラ勢が続く。GT300はロータスがトップタイム

2020年シーズンから新導入されたGR スープラベースのセーフティカー

 開幕戦初日は悪天候に振り回される1日となった。午前中は雨が降り、午後に雨は上がったものの、今度は霧が出てくるという天候に。公式練習のスタート時刻となる16時には霧がひどくなり、公式練習スタートは延期されることになった。その延期中に新しく導入されたGRスープラのセーフティーカー(SC)がコース上の検査を行なうために周回を重ねていた。結局1時間以上スタートが延期されたが、17時過ぎに急速に霧が晴れ、17時15分からスタートすることが決定された。

 17時15分に各車が続々とコースイン、タイム計測が始まった。今回のセッションは、通常の公式練習よりも重要な意味がある。というのも、決勝日である7月19日(日曜日)午前中に行なわれる予選の時間帯には雨という予報が出ており、レースができないほどのコンディションの場合、つまり開始時刻から30分予選を開始できなかったら中止ということがすでに決定されているため。その際には土曜日の公式練習のタイムでグリッドが決定される可能性があるからだ。

 このため、両クラス混走の時にはどちらのクラスもロングランに終始していたが、最後の20分に10分ずつ用意されている占有走行の時間帯ではいずれも予選アタックのような緊張感のあるセッションとなった。最後の10分間は、GT500車両のタイムアタック合戦となり、その中でトップを奪ったのは100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)、2位になったのは8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺組、BS)で、NSX-GT勢が1-2を獲得した。NSX-GTは2019年までは特例でMRになっていたが、2020年からFR変更しており、初めてのレースになる。そのパフォーマンスには注目が集まっていた。

GR スープラ勢で最上位の3位。39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(中山雄一/山下健太組、BS)
36号車 au TOM'S GR Supra(関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ組、BS)

 NSX-GTに続く3位となったのは39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(中山雄一/山下健太組、BS)。トヨタ勢は今年からGR スープラに車両を変更して最初のレースとなる。4位に36号車 au TOM'S GR Supra(関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ組、BS)、5位に37号車 KeePer TOM'S GR Supra(平川亮/ニック・キャシディ組、BS)が入るなど、最初の公式練習から上々の滑り出しとなった。

日産のエースとなる23号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組、MI)は11位

 日産勢の最上位は10位の3号車 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正組、MI)。エースカーとなる23号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組、MI)も11位に沈むなど、やや苦しい滑り出しとなっている。決勝日の巻き返しに期待したいところだ。

公式練習 結果 GT500
順位カーナンバーマシンドライバータイヤタイム
1100RAYBRIG NSX-GT山本尚貴/牧野任祐BS1分27秒248
28ARTA NSX-GT野尻智紀/福住仁嶺BS1分27秒279
339DENSO KOBELCO SARD GR Supra中山雄一/山下健太BS1分27秒370
436au TOM'S GR Supra関口雄飛/サッシャ・フェネストラズBS1分27秒408
537KeePer TOM'S GR Supra平川亮/ニック・キャシディBS1分27秒662
638ZENT GR Supra立川祐路/石浦宏明BS1分27秒774
714WAKO'S 4CR GR Supra大嶋和也/坪井翔BS1分27秒923
817KEIHIN NSX-GT塚越広大/ベルトラン・バゲットBS1分28秒084
916Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT武藤英紀/笹原右京YH1分28秒183
103CRAFTSPORTS MOTUL GT-R平手晃平/千代勝正MI1分28秒267
1123MOTUL AUTECH GT-R松田次生/ロニー・クインタレッリMI1分28秒562
1264Modulo NSX-GT伊沢拓也/大津弘樹DL1分28秒755
1324リアライズコーポレーション ADVAN GT-R高星明誠/ヤン・マーデンボローYH1分29秒258
1419WedsSport ADVAN GR Supra国本雄資/宮田莉朋YH1分29秒545
1512カルソニック IMPUL GT-R佐々木大樹/平峰一貴BS1分29秒590

 GT300に関しては両クラス混走の時間帯は昨年のチャンピオンカーである55号車 ARTA NSX GT3(高木真一/大湯都史樹組、BS)がずっとタイミングシートの上位に立っていたが、最後の占有走行の時間帯に2号車 シンティアム・アップル・ロータス(加藤寛規/柳田真孝組、YH)が最後にトップタイムをマークしてセッションを終えた。

公式練習 結果 GT300
順位カーナンバーマシンドライバータイヤタイム
12シンティアム・アップル・ロータス加藤寛規/柳田真孝YH1分36秒719
255ARTA NSX GT3高木真一/大湯都史樹BS1分36秒817
365LEON PYRAMID AMG蒲生尚弥/菅波冬悟BS1分36秒845
411GAINER TANAX GT-R平中克幸/安田裕信DL1分37秒030
561SUBARU BRZ R&D SPORT井口卓人/山内英輝DL1分37秒261
656リアライズ 日産自動車大学校 GT-R藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラYH1分37秒314
7360RUNUP RIVAUX GT-R青木孝行/田中篤YH1分37秒334
831TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT嵯峨宏紀/中山友貴BS1分37秒360
918UPGARAGE NSX GT3小林崇志/松浦孝亮YH1分37秒562
1030TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT永井宏明/織戸学YH1分37秒569
116ADVICS muta MC86阪口良平/小高一斗BS1分37秒579
1296K-tunes RC F GT3新田守男/阪口晴南DL1分37秒654
1352埼玉トヨペットGB GR Supra GT吉田広樹/川合孝汰BS1分37秒657
145マッハ車検 GTNET MC86 マッハ号坂口夏月/平木湧也YH1分37秒693
1560SYNTIUM LMcorsa RC F GT3吉本大樹/河野駿佑MI1分37秒705
167Studie BMW M6荒聖治/山口智英YH1分37秒788
1788JLOC ランボルギーニ GT3小暮卓史/元嶋佑弥YH1分37秒819
189PACIFIC NAC D'station Vantage GT3藤井誠暢/ケイ・コッツォリーノMI1分37秒861
194グッドスマイル 初音ミク AMG谷口信輝/片岡龍也YH1分37秒864
2010TANAX ITOCHU ENEX with IMPUL GT-R星野一樹/石川京侍YH1分37秒906
2134Modulo KENWOOD NSX GT3道上龍/ジェイク・パーソンズYH1分38秒180
2221Hitotsuyama Audi R8 LMS川端伸太朗/近藤翼YH1分38秒289
2325HOPPY Porsche松井孝允/佐藤公哉YH1分38秒427
2487T-DASH ランボルギーニ GT3高橋翼/山田真之亮YH1分38秒683
25244たかのこの湯 RC F GT3久保凜太郎/三宅淳詞YH1分38秒818
2648植毛ケーズフロンティア GT-R田中優暉/飯田太陽YH1分39秒096
2733エヴァRT初号機 X Works R8ショウン・トン/篠原拓朗YH1分39秒692
2850ARNAGE AMG GT3加納政樹/山下亮生YH1分40秒456
2922アールキューズ AMG GT3和田久/城内政樹YH1分40秒998

 決勝日の19日9時30分から予選が予定されており、決勝レースは15時スタートの予定。レースはBS放送/ケーブルテレビのJ SPORT 4で生中継されるほか、スマートフォンタブレットやPCなどで視聴できる「J SPORTSオンデマンド」でもライブ中継される予定。詳しくはJ SPORTSのWebサイトをご覧いただきたい。

すでに2019年車両でも必要なものはフロントに移動。限りなくFRに近くなっていたホンダ NSX-GT

ホンダ NSX-GTの開発をリードする株式会社 ホンダ技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏

 公式練習終了後にはホンダ NSX-GTの開発をリードするホンダ技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏へのインタビュー機会が設けられた。

──今シーズンのNSX-GTはクラス1既定に合わせ、ミッドシップをFRにしました。ミッドシップからFRに変更したのはなぜなのでしょうか?

佐伯氏:元々14年既定を導入する時に、ドイツのDTMと車両を共通化するという中で、モノコックはほぼ共通のモノコックで、そこに各社のフラグシップ車両のボディをスケーリング(伸縮)して乗せるという考え方だった。その中でホンダはNSXのイメージとして、ミッドシップでハイブリッドという特例を認めていただいて参戦してきたというのが過去の経緯だった。2020年からは一部違うところはあるけど基本的にはDTMと共通のクラス1既定ということで統一してやっていきましょうという中で、今のシャシーにはリアにはエンジンを載せられない構造になっており、ホンダとしてもFRを選択してNSXのボディをスケーリングして車両を作ってきたというのが経緯になる。

──ミッドシップからFRになったことによる、メリット・デメリットはそれぞれなんですか?

佐伯氏:それはぜひとも我々のドライバーさんにも聞いていただきたいのですが、とても意外な答えが返ってくると思います。全員口を揃えて言うと思うのですが、「何も変わらない」というのが昨年からGT500に乗っていたドライバー全員の一致した第一印象で「音がするところが違うだけだよね」という反応だった。

 確かに、これが市販車ベースのレーシングカー(筆者注:例えばNSXのGT3とGT-RのGTなど)のミッドシップとFRだったら、大きな違いがあると思う。しかし、GT500では車両は全く違う仕組みで作っている。我々が昨年まで使っていた元々はFR用のモノコックにエンジンをミッドシップに搭載した車両の場合は、どうしてもリアヘビーで、アンダーステアが強く、フロント荷重が乗せにくいクルマに当初はなってしまっていた。

 3メーカーで戦って行く中で、我々もいろいろと工夫をしだして、目標値をどんどんFRに近づけようとしてきた。ミッドシップであっても軽くできるところは軽くしたり、重心が高いところにあるものは重心を落として、規則上前に置けるものは前に置こうという取り組みを続けてきた。例えば、オイルタンクは当初は後ろにあったのを、エンジンから遠く離れたフロントに持ってくるなどの取り組みをしてきた。重たいモノは前に置いて重量配分をなるべく前に近づけようとしてきたのだ。

 それはタイヤメーカーさんともお話しをしていく中で、以前のようにミッドシップ専用タイヤというのはないということも影響している。ほかのメーカーも履いているタイヤ、つまりFR用のタイヤのよいところを引き出すためにはそうした取り組みが必要だったということも影響している。

 そうした中で、いざFRにしてみてすごくよくなるのかと期待していた部分もなかった訳ではないのだが、ドライバーのフィードバックはすでにお話ししたように「何も変わらない」だった。ドライバー達はかなり期待していたと思うのですが、実際には昨年までの車両もFR(の車両重量配分)に近づいていたので、FRにしてみてもあまり変わらなかったという感じているということだと理解しています。

エンジン搭載位置をミッドシップからフロントに変更したNSX-GT。MRからFRになった

──FRにしたメリットはまったくなかったのか?

佐伯氏:もちろんあります。最大のメリットはブレーキングです。フロントに重量が来ているので、特に高速からのビッグブレーキでのブレーキ力というのは格段に上がっている。

──例えば富士の1コーナーでのブレーキングなどか?

佐伯氏:そのとおりだ。また、前回のテストから入れたエアロがどちらかというとセッティングの幅を広げたエアロになっている。全体的に感度が穏やかなエアロになっており、それにより各種セッティングなどがやりやすくなっていると考えている。今年は初めてのFRということで、ピーキーよりはそうした特性が大事だろうと考えている。ただ、今後安定していくと、よりピークが欲しいという意見が出てくるのではないかと考えている(笑)。

 いずれにせよ、昨シーズンまではこの車両はこのようなサーキットに強いとかいう特性があったと思う。例えばホンダであれば岡山やスポーツランドSUGOやオートポリスに強いなどがあったと思うが、それは今シーズンは大きく変わっていくと思う。3メーカーともFRになったことで、その特性は限りなく近づいていくのではないだろうか。

──エンジンはMRとFRの違いはあるが基本的には同じものだと考えてよいのか?

佐伯氏:エンジンの基本的な諸元はあまり大きくは変わっていない。しかし、マウント点は違うし、MR用のエンジンはフロントにはまったく入らなかった。このため、補機類、ギヤトレーン、吸排気系などは新規設計に限りなく違いものになっている。ミッドシップではスペースに余裕があったため、性能重視で設計ができていたが、FRになってからは限られたスペースに入れるために、性能を妥協して設計している場合がある。実際FRのエンジンに取り組んでみて、トヨタさんや日産さんはこんな苦労されていたのかということがよく分かった(苦笑)。

──今日のフリー走行ではホンダ勢が1-2を独占した、まずまずの滑り出しだと思うが、どうか? また、今年は富士が4戦あるというスケジュールになっており、その重要性が増していると思うが……。

佐伯氏:結果的には1-2だったが、GT300との混走の時間はトヨタさんのGR スープラはロングランをやられていた。こちらはまだいろいろなセットを試しているという状況だっただけに、余裕があるなと感じたのは事実だ。今シーズン富士が重要になるのはもちろんで、セットアップの方向性などまだ悩んでいる部分もある。例えば、今日のNSX-GT勢はセクター3が速かったが、ストレートの速度では時速5kmほど差をつけられていた。今シーズン我々はFRに切り替えた年になるのでチャレンジャーとして取り組んで行きたい。