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ジェイテクトと徳島大学、共同開発の「移動型PCR検査施設」取材会レポート
2020年7月より徳島県立中央病院で運用中
2020年9月14日 14:16
- 2020年9月10日 開催
ジェイテクトは、2019年6月より国立大学法人徳島大学(以下徳島大学)と新領域分野での研究開発や事業化を共同して進めている。
その一環として製作していたのが医療分野向けトレーラー式の移動型試験施設だが、開発の最中に新型コロナウイルス感染症の流行が発生。この事態を受け、ジェイテクトと徳島大学は感染拡大の抑制と徳島県内の医療環境の拡充を図ることを目的として、開発中だった試験施設を「移動型PCR検査施設(移動式PCR検査施設現行機)」へと緊急の改造を行なった。
そして現在、移動式PCR検査施設現行機は徳島県立中央病院に配備されて実際にPCR検査施設として稼動し、検査実績もあげている。
今回は愛知県名古屋市にあるジェイテクト本社にて行なわれた移動型PCR検査施設に関する取材会の模様をお伝えする。
移動型PCR検査施設の紹介に入る前、林田氏からジェイテクトの概略、及び徳島大学との繋がりについてが解説された。
ジェイテクトは日本の産業発展に貢献してきた光洋精工と豊田工機の2社が2006年に合併した自動車部品製造会社で、自動車用のステアリング部品と駆動系部品を手がけるJTEKT、ベアリング製造を手がける「Koyo」、工作機械、メカトロニクスの「TOYODA」という4事業3ブランドの展開を行なっているとのことだった。
今回の取り組みを進めているのはジェイテクトの研究開発本部に属するFFR部(新領域の研究をする部署。Future&Frontier Research)。FFR部では自社の技術だけなく外部機関とも連携し、SDGs(エス・ディー・ジーズ。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)に関わる環境エネルギーや生物資源などの研究を行なっているとのことだ。
そして徳島県は光洋精工の創立者、池田善一朗氏の出身地であり、現在もジェイテクトの工場があるなど長年に渡る関係を持つ自治体。その徳島県にある徳島大学とはここ5年ほどの間に共同研究が増え、2019年6月にジェイテクトと徳島大学は包括連携協定を締結しているのだそうだ。
さて、本題の移動型PCR検査施設だ。冒頭でも紹介したとおり、ベースになったのは徳島大学 生物資源産業学部及び医学部と共同で開発していた医療研究者向けの「移動式試験施設」。しかしその開発中に発生した現在のコロナ禍で「移動式試験施設」を「移動式PCR検査施設」へ改造することに決定した。
今回の改造では医療従事者及び被検査者が安全にどこででもPCR検査が行なえる(受けられる)環境を提供することをテーマにしている。そこで検査を行なう室内をバイオセーフティレベルのレベル2(BSL2)の条件を満たすバイオクリーンルームを持つ作りとしているのが構造面の特徴である。ちなみにBSLは1~4まであり、レベル2は中程度の危険度に対応するものである。
移動式PCR検査施改造機は5月に徳島大学 新蔵キャンパスに入り、その後、徳島県庁、徳島大学 常三島キャンパスに立ち寄りながら、各所で運用時の問題点やニーズ等が集められた。そして7月17日にいよいよ徳島県立中央病院へ到着。ここでもさらに検証が行なわれるが、平行して一般の患者を対象としたPCR検査も開始されている。
ちなみに移動式PCR検査施設改造機が発電能力や水のタンクを装備していないので、病院等で稼動する際は建屋から供給するが、移動式のメリットを生かしてクラスター発生地などで稼動する際は、牽引車であるピックアップトラックに発電機や水タンクを搭載することで通常どおりの検査を行なうこととしている。
こうした機動性を持つ車両だけに、林田氏からは新型コロナウイルス感染症だけでなくいろいろな災害にも対応させることができるのではないかと考えていると言う発言もあった。
今回の取材会では実際に検査車両を運用する徳島県立中央病院など徳島県側の関係者とインターネット回線を使った質疑応答も行なわれたのでその内容についても触れおこう。
移動式PCR検査施設改造機は現在、徳島県立中央病院の救急外来病棟の前に置かれていて、陰圧テストや温度管理などの検証作業をこなすと同時に緊急外来に来院した患者さんを中心にPCR検査を行なっている。検査実績は9月10日の取材日時点で35件程度(陽性の件数ではない)とのことだった。
なお、検査に掛かる時間は約75分で検査装置を稼動している最中の車内は無人にしているとのことだった。また、検査車両内は室内の空気圧が部屋の外より低く設定しているが、いわゆる山登りのように気圧が低いというものではないので人間が活動するにはなんら問題がないとのこと。
病院関係者にPCR検査を検査車両で行なう利点を挙げてもらったところ、検査を病院内で行なうより感染リスクが低いことや施設がBSL2に対応していることが挙げられた。ただ、現状の室内レイアウトには作業のしにくさがあるという。また、今年の猛暑では車両内の室温が高くなってしまったため、断熱面でも改良の余地があることが見えたとのことだ。
このように現在は医療関係者が使用して効果を見ている段階ではあるが、徳島県及び病院関係者では、そもそも移動式PCR検査施設という発想を持っていなかったので、この車両に関して、どこかでクラスターが発生した場合であっても、検査施設ごと移動して現地で迅速な検査が行なえるメリットはしっかり感じているとのことだった。