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梶山経済産業大臣、トヨタ内山田会長も出席した水素バリューチェーン推進協議会 設立イベントレポート
梶山大臣「水素を新たなエネルギー源に位置付け、その社会実証を加速化していくことが最も重要」
2020年12月8日 13:29
- 2020年12月7日 開催
菅総理大臣は10月26日の所信表明演説にて「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。同時に積極的な温暖化対策を行なうことは、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるとも表明した。
このように脱炭素社会の実現に向けた取り組みの重要性が高まるなか、これまで以上に注目が集まっているのが水素である。水素は地球上に「水」という形態で豊富に存在する元素であり、燃焼による温室効果ガスを排出しないことからクリーン社会実現のカギを握るエネルギー資源とも言われている。
こうした水素社会の構築・拡大に取り組む民間企業9社(岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、神戸製鋼所、東芝、トヨタ自動車、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産)が中心となって、水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進する新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会(JAPAN HYDROGEN ASSOCIATION:略称JH2A)」の設立に対して、12月7日に都内にて設立イベントが開催された。
設立イベントには参画9社の代表者に加え、トヨタ自動車 代表取締役会長 内山田竹志氏、三井住友フィナンシャルグループ取締役会長 國部毅氏、岩谷産業 代表取締役会長兼CEO 牧野明次氏、そして来賓として経済産業大臣の梶山弘志氏。国際協力銀行 代表取締役総裁 前田匡史氏が出席し、設立理念書の手交を行なった。
水素バリューチェーン推進協議会とは
現在、世界各国で水素社会実現に向けた取り組みが加速しているが、日本では2017年と早い段階から水素基本戦略を策定し、以降に水素・燃料電池戦略ロードマップ、水素・燃料電池技術開発戦略が策定されていた。
こうした動きから水素社会構築を進めていくのだが、それに対しての課題として挙げているのは「水素の需要創出」「技術革新によるコスト削減」「事業者に対する資金供給」で、これらの課題解決には幅広い業種の企業による横断的な団体が必要だった。そこで水素バリューチェーン推進協議会が設立されたとのことだ。
水素バリューチェーン推進協議会の共同代表はトヨタ自動車の内山田氏、三井住友フィナンシャルグループの國部氏、岩谷産業の牧野氏が務めていて、理事会員として岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、神戸製鋼所、東芝、トヨタ自動車、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産が参加。さらに88社(2020年12月7日時点)が会員となっている。
水素バリューチェーン推進協議会 共同代表の挨拶
水素バリューチェーン推進協議会設立イベントに出席した共同代表の挨拶を紹介しよう。最初に挨拶をしたのはトヨタ自動車の内山田氏だ。
演台に立った内山田氏は来賓への挨拶のあと、「水素は自動車だけでなく、化学や鉄鋼など多くの産業で技術実証が行なわれて、実際に利用もされております。2000年代初頭には未来の技術であった燃料電池はすでに家庭用燃料電池システムとして普及しており、弊社は第2世代となる新型の燃料電池自動車『MIRAI(ミライ)』を今月から発売する予定でございます。燃料電池自動車ならではの魅力や水素社会の可能性をMIRAIを通じてお客さまに感じ取っていただきたいと願っています。このように水素は身近なものとなりつつありますが、本格的に社会実装するためにはこれまでの取り組みの延長線上とは違う動きが必要になります。また、諸外国と比較して厳しい規制についても緩和の取り組みが重要になります。そこで水素推進バリューチェーン協議会は水素の生産、物流、利用などさまざまな関係者の皆さまと議論を重ね、さらに関係諸団体とも連携して政府へ提言活動も行なってまいります」とスピーチ。
続いて三井住友フィナンシャルグループの國部氏が登壇。國部氏は銀行としての立場から「三井住友グループがなぜ本協議会に参画しているかについて少しお話をさせていただきます」と切り出し、「金融機関として脱炭素社会の実現に向けて環境分野、エネルギー分野におけるファイナンスや決済サービスを提供することと、事業会社さまと事業創造を行なうことという両面から取り組んで参りました。再生可能エネルギー分野へのファイナンス面、そして水素分野につきましてはベンチャー投資や関連企業への出資などさまざまな取り組みを進めてきております。水素社会実現するためには、技術革新につながります研究開発やスケールアップの繋がるインフラへの融資など、多額で多様な性質の資金が必要となります。そこで金融機関として政府や国際協力銀行さまを始めとした政府系金融機関と協調した事業のスケールアップのための間接金融の仕組みの構築、資本市場における投資もファンドを通じて呼び込む仕組みなども考えていきたいと思います」と語った。
続いて岩谷産業の牧野氏の挨拶。牧野氏は「岩谷産業は約80年前から水素の販売を開始しております。その後、種子島のロケット燃料供給であるとか水素ステーションの整備など日本の水素供給の先頭を走ってまいりました。岩谷産業の創業者は“そのうち飛行機も水素で飛ぶ時代になる”と話をしていたことがいまでも私の耳に残っています。それから半世紀経った本日、水素社会構築という共通の夢を持つ多くの企業が団体にご参加をいただくことは誠に感慨深く大変うれしく思います。水素社会実現にはまだまだ乗り越えていかなければならないことがたくさんございます。まず水素価格の低減で、そのためには自動車だけでなく船舶、鉄道、発電など幅広い分野で需要が拡大し、市場規模が大きくなることが必要です。本協議会には世界トップレベルの知見をもつ企業が多数参加しており、これらの課題に会員一丸となって取り組んで参りたいと考えております」と力強いスピーチを行なった。
ここからは来賓の挨拶となる。最初は経済産業大臣の梶山弘志氏だ。梶山氏は「水素は輸送、発電、産業などさまざまな分野の脱炭素化を進めるうえで必要不可欠なエネルギーです。日本は早くから水素に対して着目をし、世界に先がけて水素基本戦略を策定するなど市場と供給の両面から官民一体となって取り組んできました。その結果、燃料電池自動車を世界で初めて商業化するなど、技術で世界をリードしてまいりました。しかし、未来の地位は必ず安泰というものではありません。諸外国の脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速されるなか、日本が引き続き世界をリードしていくために何が必要か、また、2050年までのカーボンニュートラルを目指すなかで、私は水素を新たなエネルギー源に位置付け、その社会実証を加速化していくことこそ、いま最も重要と考えております。そのためには製造、輸送、利用というバリューチェーンに関与する幅広いプレイヤーを巻き込み、水素利活用の量を拡大し、同時にコスト低減を実現することが重要と考えております。そのためにも本協議会には高い期待を寄せています。また、経済産業省といたしましても皆さまの努力には全力で応援して参ります」とスピーチした。
国際協力銀行の前田氏は「なによりも大事なことは、この水素が新しい時代のエネルギーとして、国民にとって快適で使いやすいものになる必要があるという点です。しかし、まだ残念ながらコストが高い状態です。この水素は化石燃料のように特定の地域だけにあるものではありません。また、さまざまな作り方、運び方があります。日本企業はこれらのことに対して多くの高い技術を有しているわけですが、技術があるだけでは社会実装はできません。コストを的確に把握しながら利益などのこと考えなければいけません。われわれ、国際協力銀行は融資だけでなく出資も行なっています。例えばカリフォルニア州における水素ステーション事業を行なっています。これはトヨタ自動車さんのMIRAIを年間約8000台作っていくために必要なスタートアップ企業に対する出資です。このように、さまざまな金融ツールを持ちながら、民間金融機関の皆さまとともに金融面からこの水素社会実現に向けて、先端を走っていきたいと思っています」と語った。
以上が水素バリューチェーン推進協議会の設立イベントの概要だ。会場になった三井住友銀行本店東館の1階には、12月9日に発表されるトヨタの新型MIRAIを展示するなど、水素バリューチェーン推進協議会に参画する企業による情報展示が12月11日まで行なわれているので、興味のある方は見学に行っていただきたい。