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トヨタ、燃料電池車「MIRAI」を本格量産車へ。次期型開発最終段階「MIRAI Concept」について田中CEが語る

スタイリングだけでない、大幅変更

燃料電池車 次期型開発最終段階の「MIRAI Concept」と、チーフエンジニアの田中義和氏

 東京モーターショーのMEGA WEB会場「FUTURE EXPO」に展示される燃料電池車 次期型開発最終段階の「MIRAI Concept」。現行の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」から大きくスタイリングを変更し、エモーショナルなスタイリングとなったのが話題だ。

 次期型MIRAI、そして現行のMIRAIのチーフエンジニアである田中義和氏(以下、田中CE)に、次期型開発最終段階の「MIRAI Concept」が、なぜこのような大幅に異なったクルマになったのかいくつか聞くことができたので、ここにお届けする。

まずは、現行MIRAIのスペックから

 燃料電池車は、走行時のCO2排出量がゼロ、短時間で燃料となる水素充填が可能で、しかも航続距離も500km以上にしやすいことから夢のクルマとして各社が開発を行なっていたクルマになる。トヨタ自動車のMIRAIは、量産型セダンとして世界初の燃料電池車として登場。トヨタの高い技術力、生産力、そして市販するためのディーラーネットワークの力を象徴するクルマになる。

 言うまでもなく、燃料電池車を成立させるためには、燃料である水素のタンクが必要になる。これは70MPaという高圧に対応するもので、このタンクの量産技術、メンテナンス技術の確立が必要。現行のMIRAIに搭載された水素タンクは2つで、その位置は前輪駆動のため後輪の前後に1本ずつ。容量は合計122.4Lで充填可能水素量は約4.6kgと発表されている。

 そして、水素から化学反応で発電をするためのFCスタックをトヨタは自社開発。現行のMIRAIに搭載されたFCスタックは、最高出力114kW(155PS)、出力密度3.1kW/Lになる。FCスタックを構成する固体高分子型のセルは370個で、非常に高価な部品とされている。

 水素タンクから水素を使ってFCスタックで発電、その電気をトヨタがこれまで培ったハイブリッドシステムと融合。駆動用バッテリーも搭載することで減速時の回生も行ない、FCスタックからの発電で走行もできるし、駆動用バッテリーで走行もできるようになっている。その航続距離は、JC08モード走行パターンで一充填走行距離約650km。JC08走行パターンで発表されているのは、回生時の充電による走行距離の延長があるため。つまり単に高速道路を巡航する場合は、これより悪化しがちだし、逆に回生を積極的に使える市街地などでは伸びていくことになる。

次期型開発最終段階「MIRAI Concept」とは?

「思わず振り返る魅力的なスタイリング」という「MIRAI Concept」のエクステリアデザイン。水素充填口が、後輪の左上に見える。となると水素タンクの位置は……

 今回公開された「MIRAI Concept」は、「次期『MIRAI』の開発最終段階のモデル」になるとトヨタから発表されている。位置づけについて確認したところ、現行のMIRAIの後継車となるもので、2014年12月に発売された現行MIRAIの次のモデルで、現行MIRAIを置き換えていくものになる。

 MIRAI Conceptの現状については、「開発最終段階ということです」と田中CEは微笑みながら語る。なにをもって開発最終段階というのかは非常に曖昧だが、4975×1885×1470mm(全長×全幅×全高)のボディサイズをもつスタイリング、140mm長い2920mmのホイールベースも決まりということだろう。

 田中CEが何度も語っていたのが、「思わず振り返る魅力的なスタイリング」と「思わず踏みたくなる新感覚の走り」だ。そもそも現行のMIRAIは、前輪を駆動しており、モーター駆動ならではの走り味はあるが、走りを熱く語るクルマではない。ところが田中CEは、次期MIRAI(つまり、MIRAI Conceptの生産型)は、熱い走りを持つというのだ。「どう熱いのか?」「なにが新感覚なのか?」「加速なのか伸びなのか?」、いくつか角度を変えて聞いてみたが、「ぜひ来年(2020年)乗っていただきたい」の一言。非常に自信を持って語っていた。

 1つだけ分かったのが、タイヤサイズは245/45R20のMIRAI Conceptのものが採用されそうだということ。「タイヤサイズは、これで決まりですか?」と聞いたら、にやっと笑って「そうでないと、スタイリング説明で強調はしない」(田中CE)と語る。ほかのサイズも用意されるだろうが、このタイヤサイズも用意されるだろうし、当然走りもこのタイヤサイズで開発されているだろう。

 燃料電池車のキーコンポーネントは、水素タンク、FCスタック、モーターになる。前輪駆動の現行MIRAIでは、フロントのボンネットにモーターやPCU(パワーコントロールユニット)、前輪軸の後ろにFC昇圧コンバータ、床下にFCスタック、後輪軸の前に水素タンク1本、後ろに水素タンク1本と駆動用バッテリが搭載されている。後方から前方に向かって電気を作り出し、前輪のところにあるモーターを駆動するイメージだ。

 ではMIRAI Conceptは? というと、それについては不明。普通に考えると後輪駆動のためモーターは後輪軸の近くにあるだろうが、軸の前か後ろかも不明。電気の流れを考えると、フロントに水素タンク、FCスタック、FC昇圧コンバータ、PCU、後ろのモーターとなるだろうが、衝突対策などを考慮すると水素タンクの位置はどこだろう。MIRAI Conceptの左後方、後輪の斜め上に水素充填口があるので、70MPaという高圧を扱うことを考えると、そう遠くない場所に水素タンクは配置されていると思うのだが……。

後席は現行MIRAIの2名乗車仕様から3名乗車仕様に。FCスタックの配置などを工夫したという。そして右後席の横には、ハイブリッド車でもおなじみの空気取り入れ口が。これは、なにを冷却するためのものなのだろうか?

「MIRAI Concept」が切り開く、量産FCVという世界

 この「MIRAI Concept」で発表されている数字に、航続距離の3割増がある。この実現手段について田中CEは、「水素タンクの容量アップと効率を向上させたFCスタック」と語っており、水素タンクの形状も変更されているのは間違いない。また、このMIRAI Conceptについては、TNGAプラットフォームを採用することが発表されている。これについて田中CEに、「TNGAは、サイズ的にGA-Lプラットフォームなのか?」と確認したところ、「Lとかそういうものではない」と語る。記者は、田中CEが「走りを重視」と強く強調していたので、TNGAプラットフォームは走りの追求のために採用したと思い込んでいたが、どうもそうではないらしい。

「現行MIRAIは、匠の技によって生産されてきた。それが量産できない理由でもあった」(田中CE)と語り、TNGAプラットフォームの採用は量産性の向上、つまり工場の生産ラインに乗せることにもあるようだ。現行のMIRAIは、1台、1台、職人が手作りしており、そのため水素タンクなどはいかにも組み付けが大変そうな場所に入っている。トヨタは公式に2020年以降、グローバルで年間3万台以上(バスなども含む)の燃料電池車の販売を計画しており、このMIRAI Conceptはその中核となる車種。ざっとした計算で、月産台数を10倍に引き上げる必要がある。

 そのために必要なのが、匠の職人による1台、1台の生産ではなく、きちんと製造ラインに乗せること。つまり、製造ラインに乗せるために、製造工程をタクトタイムで分解し、同じ時間だけかけて製造する工程を積み上げていくこと。部品の組み付けや配置の検討など膨大な作業が必要となり、2020年末の発売ということを考えると、そのための作業をほぼ終えている必要があり、TNGAプラットフォームを採用することで、設計や製造、そして衝突安全などの作業量が現実的なものになる。それらが終わったモデルが、次期型開発最終段階「MIRAI Concept」という名称に現われていると考えられる。

 やや話が脱線したが、そのような量産体制を前提にしたクルマが次期型MIRAIになる。つまり製造コストが高価と言われる水素タンクの容量アップも単にMIRAI 1台の航続距離アップを狙ったものではなく、このMIRAIユニットを2つ使って作られるFCVタイプのバスまでを見据えているものであり、トヨタの今後のFCV戦略の基幹となる部品であるのかもしれない。

 というような背景を持つクルマでありながら、田中CEがMIRAI Conceptで強調するのは「思わず振り返る魅力的なスタイリング」と「思わず踏みたくなる新感覚の走り」だ。航続距離が伸びるというさらなる安心感を手に入れつつ、クルマの本質的な価値を追求したという。

 東京モーターショーでは、そのエモーショナルなスタイリングに注目すると同時に、FCVのコンポーネント配置についても類推していただきたい。これまでにない量産体制も敷かれていることから、現行の740万円台を下まわる価格での登場と、新感覚の走りにも期待したい注目車種になる。

MIRAI Conceptのフロントボンネットの中にはなにがあるのだろうか? 前輪軸との関係も気になるところ