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トヨタ、エンジニア向けオンラインイベント「TOYOTA Developers Night 〜 ソフトウェアエンジニアが支えるデータフローとその未来 〜」レポート

自動運転の社会実装に向けたインフラ研究の最前線からみた、コンピューティングと人の共存に向けた課題

2020年12月17日 開催

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 主幹 松本直人氏

 トヨタ自動車は12月17日、「TOYOTA Developers Night 〜ソフトウェアエンジニアが支えるデータフローとその未来〜」と題したオンラインイベントを開催。トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 主幹 松本直人氏が登壇して、コネクティッドカーやスマートシティを支えるシステム・インフラストラクチャに関して、現在から未来までの中長期的なシステム環境とその技術動向、さらにはコンピューティングと人の共存に向けた課題などについて話した。

 一般的に「クラウド」と呼ばれる、何十万、何百万台のデバイスがネットワークを介して同時接続するシステムは、実に多くの、複雑性の高いソフトウェア・コンポーネントやシステム・インフラストラクチャによって支えられているという。クラウドの普及に伴い、サービス開発やシステム全体を支えるシステムエンジニアにとって、そのシステム・インフラストラクチャの全体像が見えにくくなってきているのが現状という。

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 主幹 松本直人氏
社会はクラウド・コンピューティング等の普及により高度に進化した。しかし、システムインフラストラクチャ全体像を見通すことも難しくなった。このイベントでは、未来のシステムインフラストラクチャのカタチを探る先端技術研究の現場から「ソフトウェアエンジニアが知っておくべきシステム・インフラの今」が紹介された

 同イベントでは、トヨタで5~10年先の実用化を考える次世代コンピューティング領域における先進技術研究に従事する松本氏が、自動運転の社会実装に向けたシステム・インフラストラクチャに関する先端技術研究から見えてきた課題、今後起こりうるデータフローの変化、今後の展望について説明した。

 このオンラインイベントを視聴した感想としては、通信モジュールを搭載する“つながるクルマ”が増え始めると、それを受け止めるインフラストラクチャにどのような影響を与えるのかといった視点や、通信遅延などの影響を受けるクラウド環境において、国内では最高で100~120km/hの速度で移動するクルマのどの領域にまでクラウドで計算をさせるのかといった、トヨタはインフラストラクチャ全体を見渡してシステム設計に向けて取り組んでいる姿勢を感じられた。

 オンラインに登場した松本氏のトークセッションでは、「私たちを取り巻くシステム・インフラを知ろう」「ツナガリ続けるコトの中身とは?」「一般的に利用されるデータフローのあらまし」「いまどきの技術トレンド」「これから起こる(かもしれない)データフローの変化」「コンピューティングと人が共存する時に避けて通れない課題」と題したテーマで話が展開された。

私たちを取り巻くシステム・インフラを知ろうのパートで示されたスライド
ツナガリ続けるコトの中身とは?
一般的に利用されるデータフローのあらまし

 その中で「私たちを取り巻くシステム・インフラを知ろう」のパートでは、データ通信は距離に応じて通信遅延が発生し、連絡先であるクラウドコンピューティングへの接続箇所も限りがあることを紹介。さらに、クラウド上にある計算機(コンピューター)も有限であることを強調。ソフトウェアエンジニアは、ネットワーク全体を見渡しながらシステム開発をすすめなければならないことを強調、またネットワーク上に流通させるデータ量を小さくするために、あらかじめ情報を前処理しておく重要性も説いた。

いまどきの技術トレンド
これから起こる(かもしれない)データフローの変化

 また、近い将来クラウドへの依存度が80%を超えるとの予想があることを紹介。そうした状況下の中で、「これから起こる(かもしれない)データフローの変化」パートでは、近い将来、さまざまな場所に偏在するデータ保存/処理というカタチも考えられることを強調。発生するデータ特性を理解して、最適なデータ処理/保存を考えることも重要と説いた。さらに、データ特性/処理方式に合わせて、用いるシステム・インフラの選択も必要になるとの見通しも示した。

ブラックボックスの中身
コンピューティングと人が共存する時に避けて通れない課題

 一方で、「コンピューティングと人が共存する時に避けて通れない課題」のパートでは、クラウド上のコンピューティングに負荷をかけることは消費電力が増加するなど、環境に負荷をかけることになると強調した。

 松本氏は「先ほどサーバーが、データが、インフラが、という話をしたと思うんですが、実際にそれらは実在するんですね。クラウドの向こう側に雲があるわけじゃありません。データセンターがあり、ネットワークが光ファイバーで繋がり、実際に計算する。イコール消費電力がかかっていますので、われわれがコンピューターと共存するということで、もう日常的にコンピューターをクラウドの向こうで使ってると思うんですが、これが非常に集約されている傾向があります。サーバー、ワークステーション、いろんなところで動いてると思いますが、その消費電力の8割以上がそのまま熱に変換されます。で、通常iPhoneやスマホを使っていて熱いなってあまり思わないと思うんですが、それが何万台あったら当然熱いわけです。それを冷やさなくてはいけないですし、集まってる場所イコール、クラウドの向こう側のデータセンターなんですが、当然それを動かし続けなければいけないので、それを処理するための室外機ですとか、場合によっては止めちゃいけないので非常用発電機っていうのも存在します」と、巨大な計算機となるデータセンターが、環境や人体にも影響のあるものであることを説明した。

 そういった課題もある中で、まとめの段階として、松本氏は「巨大なデータ、もしくは大多数のデバイスや新しいサービスを、データフローとして受け止めなければいけない、そういった時にどういう課題意識が現状のわれわれが生活しているインフラストラクチャ上であるのかというのを、お話しさせていただきました。でも、これからも変わらないことっていうの1つあります。それは、ほとんどのデータ処理に関してはセオリーがあるわけですよね、ラムダアーキテクチャですとか、いろんな名前にはなっていますけども、やることは変わりません。入力されるデータを、サービス連携して、サービスのアウトプットを出す、ということがあると思うんです。前処理してバッチに渡すか、リアルタイムに渡すか、最後にデータ連携して、ユーザーに提供する。ここはほとんど変わりません。ですが、これをどこでやるか、どういった形でやるか、どう連携するか、時代によって変わってきます。そういったことを考えた上で、皆さんには、そういえば松本がインフラストラクチャの話をしていたな、あんなこと言っていたな、実はこういうことだったんだ、みたいなことを思い出していただければ」と話を締めくくった。

左から松本直人氏、司会を努めた堀真由華氏

 同イベントは、総合人材サービス、パーソルグループのパーソルイノベーションが運営する「TECH PLAY(テック プレイ)」とトヨタが共同で開催したもので、過去に開催したオンラインイベントでは、1000名を超えるエンジニアをはじめとするテクノロジーに関わる一般の人が参加したという。

 今回のイベントに参加したことついて、松本氏は「おそらくですねトヨタっぽくないなと思っていただいたと思います。こういった新しいこと、そして未来に向けた考え方を共有する方を強く強く求めているのが、今のわれわれの会社だと思っていただいていいと思います。今日登壇するにあたり上司である者から言われてるのが、“ファンを増やしてくれ、たくさんのファンを増やして、一緒に物事を考えてよくしていく人たちを増やそう”、そういうことでお話してきました」と、このイベントに対する狙いを明かした。