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ホンダ、「S660」最後の特別仕様車「Modulo X Version Z」説明会。当時22歳だったS660開発責任者椋本氏からのメッセージ

Version Zの開発責任者である松岡氏のビデオメッセージも合わせて公開

2021年3月12日 発売

315万400円

S660 Modulo X Version Z

少量生産ながら3万2000台以上を販売してきたS660最後の特別仕様車

 本田技研工業は3月11日、軽スポーツカー「S660」に専用パーツを装着したコンプリートカー「S660 Modulo X」の特別仕様車「Version Z」モデルの事前説明会を行なった。説明会ではコロナ禍に配慮して、当時開発責任者を務めた椋本陵氏と、今回の特別仕様車Version Zの開発責任者である松岡靖和氏のビデオメッセージが放映された。

 S660は2015年4月に誕生。1996年に生産を終了した「ビート(BEAT)」の面影のあるパッケージが話題となった。2018年5月にはModulo Xを発表。2020年1月にはマイナーチェンジが行なわれ、累計3万2000台を販売している。また、ユーザー層の80%は男性で、その9割が40代以上の子離れして自分が楽しむためのクルマ選びをしている人たち。さらに全体のうち6割強がMT車を選択しているという実態もS660らしい特徴だろう。

S660販売状況
S660お客さまからの評価

 ユーザーの評価が高いポイントは、質感のいい内外装のデザインやメカニズムをはじめ、オープンカーであること、動力性能のよさが挙げられることが多いという。しかし、残念ながらこの日「2022年3月をもって生産を終了する」と正式にアナウンスされた。

 そして、これまでS660を応援してくれたファンへの感謝を込めて、スペシャル仕様となる最後の特別仕様車「Modulo X Version Z」を用意したという。「Z」はもちろんアルファベットの最後の文字であることから「S660の究極のモデルである」という意味と、往年の名車ビートも最終モデルでVersion Zが設定されたことも考慮していると明かされた。

社内コンペで生まれたS660。開発責任者は当時22歳という椋本氏が抜擢

株式会社本田技術研究所 椋本陵氏

 当時開発責任者を務めていた本田技術研究所の椋本陵氏は、幼い頃からクルマが好きで自動車雑誌を読みあさり、ホンダに入社してクルマの開発に携われ、自分たちが作ったスポーツカーが雑誌の表紙を飾り書店に並んでいる姿を見たときの感激は今でも覚えているとあいさつ。

 続けて椋本氏は、10年ほど前の日本のスポーツカー市場は「高価格」「高スペック」なモデルが中心で、「クルマ離れ」という言葉を耳にするのが増えたのもこの頃だったと回顧。自分にも手が届き、誰もが性能をもて余すことなく使い切れる、もっと身近なスポーツカーがあればといいのにと思っていた時、ちょうど社内で新商品提案コンペがあり、「どうせ落選するだろう」と軽い気持ちで初めて企画書を作り応募。なんとそこでコンペを勝ち抜いていったことがS660の始まりだったという。

当時は高性能で高価格なスポーツカーが多かった
椋本氏は誰もが手軽に乗れるスポーツカーがあればいいのにと常々思っていたという
椋本氏がコンペに応募したスケッチ

 そして、社内コンペに勝ったご褒美として「実物大のモックアップ(模型)を作っていい」と許可がおりたが、当時モックアップを作る部署にいた椋本氏は「モックアップの部署がモックアップを作っても面白くない!」と一念発起し、自走可能な試作車をこっそり作ってしまったという。

 ところが、自分たちで乗って「楽しかったね」ですべて完結するハズだったこの計画は、当時の社長の目に留まり「こんなのあるなら量産しよう」と突然量産に向けた開発が始まったという。アイデアの発起人である椋本氏は若干22歳で開発責任者に任命され、開発チームも立候補制とし、自ら志願したやる気のある若者メンバーと、それを見守るベテラン3名の開発チームができたという。

椋本氏は当時モックアップを製作する部署だった
こっそり試作車を製作
実際に走れるクルマまで作ってしまった
自ら志願した若者中心となったS660の開発チーム

 開発は東北大震災などもあり決して順風満帆ではなく、さらに研究所も大きなダメージを負い、働くこともままならない状態からのスタートだったという。しかし、開発に拍車をかけたのが、第42回東京モーターショー2011に出展した次世代電動スモールスポーツコンセプトモデル「EV-STER(イーブイ スター)」で、開発チームの想像を超える反響があり、その反響に応え、期待を超えるという想いで開発を進めていたと椋本氏は当時を振り返った。

次世代電動スモールスポーツコンセプトモデル「EV-STER(イーブイ スター)」
開発当時の様子

 自分たちの理想のスポーツカーは何か? 真剣に議論し、疑問があれば乗ってみる、試してまた議論することを繰り返してきたという。「見てよし、乗ってよしの心昂るスポーツカー」を目指し、反響の大きかったEV-STERの雰囲気を残しながら、軽自動車の寸法に収められるようにデザイン。同時に「痛快ハンドリングマシン」というコンセプトを掲げて、とことん走りを磨き上げ、通勤中に交差点を曲がるだけでも痛快な気分になれるクルマを目指したという。ただし、絶対的な速さではなく、自分とクルマが一体となって思い通りに操れる感覚を大事にした。オープントップボディにしたのも、運転の楽しさを五感で味わうためだと振り返った。

目指したのは痛快ハンドリングマシン
工場内にファンを招待するイベントも開催

 S660は特殊な造りと少量生産のため、当時「アクティ トラック」の製造を請け負っていた三重県四日市市にある八千代工業(現ホンダオートボディ)が製造を請け負っていた。開発チームも何度も四日市へ足を運び、生産に関する課題をクリアし、一緒になってS660を作りあげてきた。工場は丁寧なクルマ造りを心掛けているのはもちろんだが、常にファンに喜んでもらいたいと考え、毎年S660オーナーを工場に招待するイベントを開催しているという。

 最後に椋本氏は「新車でS660を購入できるのはあと1年しかありませんので、購入を迷っている方は後悔のないよう、ぜひ前向きにご検討ください」と締めくくった。

「S660 Modulo X Version Z」に込めた想い

株式会社ホンダアクセス S660 Modulo X Version Z 開発責任者 松岡靖和氏

 続いてS660最後の特別仕様車となるModulo X Version Zの開発責任者となる松岡氏より、まずは「意のままに操れる操作性」「所有感を見たし、走行性能にも寄与するデザイン」「見て、触れて、乗って実感できる上質感」というホンダ純正コンプリートカーブランド「Modulo X」の共通要件の紹介があり、Modulo Xの走行性能は市販完成車からさらに上質なものに仕上げられている特別な1台であることも解説した。

「Modulo X」とはホンダ純正コンプリートカーのブランドで、いろいろなホンダ車の質を高め、特別な1台に上げた状態で販売している
Version Zのコンセプト

 そんなModulo Xシリーズで初のスポーツカーが、2018年5月に発売された「S660 Modulo X」となる。Modulo開発アドバイザーにレーシングドライバー土屋圭市氏を起用して徹底的に走り込み、足まわりや空力パーツなどを開発。「大人のスポーツドライビングの歓びを叶える、もうひとつのS660」とグランドコンセプトを掲げ、インパクトのあるエクステリアや上質なインテリア、大人の操安性能を実現している。

S660 Modulo X Version Z
S660 Modulo X Version Z

 今回発売される「Version Z」は、Modulo Xのコンセプトを踏襲しながら、さらによりストイックで非日常に憧れるユーザー向けに特別感を際立たせたという。特にVersion Zだけに設定されたのが、専用カラーの「ソニックグレー・パール」や、メッキエンブレムのブラッククローム化。さらにアクティブスポイラーをブラックオフしたほか、アルミホイールもステルスブラック仕様へと変更されている。

 Version Z専用となるソニックグレー・パールは、「シビック」にも採用されている色で、オーナーの年齢層が比較的高いことも考慮しつつ、戦闘機のような特別感があり唯一無二の存在感を感じさせるカラーを選んだという。

ブラック塗装になったアクティブスポイラー
専用カラーのアルミホイール
専用のシートセンターバッグは取り外して持ち運びが可能
Hマークエンブレム
車名エンブレム
Modulo Xエンブレム

 内装ではメーターバイザーパネル、センターコンソールパネル、助手席エアアウトレットパネルをカーボン調へと変更。さらに、ドア内側部分をラックス スェード×合皮製にするなど、質感を高めてより大人の落ち着いたモデルへと昇華させている。

メーターバイザーパネル
センターコンソールパネル
助手席エアアウトレットパネル
タイプエンジントランスミッション駆動方式価格
Version Z直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ6速MT2WD(MR)3,150,400円

 なお、Version Zの価格は315万400円で「さいこうよ(最高よ)」とも「さいごよ(最後よ)」とも読み取れるが、真意のほどは明らかにされていない……。