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戦略と想いを伝える「デンソー ダイアログデー2021」レポート 「非デンソービジネスの開拓に挑む」と有馬社長
2021年5月27日 11:43
- 2021年5月26日 開催
2020年度は大惨事の年、2021年は新しいスタートを切る年
デンソーは5月25日、将来のモビリティ社会の実現に貢献するため2017年10月に策定した「2030年に向けた長期方針」や、2020年12月に策定した「環境」「安心」分野での成長戦略の立案・実行と、環境変化に左右されない引き締まった強靭な企業体質への転換を同時に推進する変革プラン「Reborn(リボーン)21」などの達成に向けた事業の取り組みや進捗について、メディア、アナリスト・投資家を対象に説明する「デンソー ダイアログデー(DENSO Dialog Day)2021」をオンラインで開催した。
デンソー ダイアログデーは2019年に初開催され、今回が2回目。登壇したのは取締役社長 有馬浩二氏、経営役員 CCRO 篠原幸弘氏、経営役員 CTO 加藤良文氏、経営役員 CSwO 林新之助氏、経営役員 CFO,CRO 松井靖氏の5名で、「環境戦略」「安心戦略」「ソフトウェア戦略」「企業価値創造に向けた成長戦略」と4つのパートに分け、戦略とそこに込められた想いについての説明が行なわれた。
冒頭で有馬社長は2020年度を振り返り「新型コロナ、自然災害など、まさに大惨事の年であった」と振り返ると同時に、取引先など関係各所のおかげて乗り越えられたと感謝を伝えた。また、「危機管理の重要性を痛感した年でもあった」と述べ、これらに関しては東日本大震災など過去の経験が活かされ、速やかな連携と迅速な初動対応ができたとした。そして今後は「危機は必ず訪れるという前提のもと、危機管理対応を最重要課題に位置付けて、対応への取り組みを強化していく」と語った。
また、2020年度の大きな出来事として、世の中の価値基準が大きく変化した年という点を挙げ、生活様式や働き方、コミュニケーションの方法などが変わったことで「仕事の価値」「人と接触することの価値」「移動の価値」などが大きく見直されるきっかけになったことを振り返った。
続けて「カーボンニュートラル」も、ビジネスや消費の価値基準を大きく変えたもう1つの要素として挙げ、今後は製品そのものが環境に優しいだけでなく、「生産」「運搬」「廃棄」までを含めた工程がクリーンであることがビジネスでの取引の前提となり「カーボンニュートラルが商品や企業を選ぶための新しい物差しになった」と言う。
これらのさまざまな変化により、デンソーも新しい存在価値が問われる時代に移り、これまでの主戦場であった「モビリティ領域」と得意分野の「モノづくり」から、新たに「非車載向け製品の開発」や「非デンソービジネスの開拓」に挑戦していくと紹介した。
そして、変革プラン「リボーン21」で掲げている「環境」「安心」への取り組みを中心にデンソーの体質強化と新たな土台作りを進めてきた2020年に対して、2021年は新しいスタートを切る年にするとし、これまでの「モビリティ」と「モノづくり」からさらに「ソサエティ」にまで分野を広げることを宣言。
また、環境対策である「CO2排出ゼロ」の実現については、国や地域によるエネルギー政策の違い、動力や燃料の違い、用途やサイズの違いなど、多様なニーズとソリューションに対応していく必要があり、選択肢を広げるための技術開発を加速させ、幅広い領域でカーボンニュートラルの実現に貢献していくとした。
さらに、安心への取り組みについては「交通事故ゼロ」にするための「普及」が重要で、新車だけでなく、現状の保有車、中古車の安全性能の向上に取り組んでいくと明言。これは日本だけでなく、世界の異なる交通事情や異なる交通インフラ事情にも対応できる選択肢を提示できるようにしていくという。また、世界の保有台数が14億台以上あることにも触れ、「保有車や中古車をカーボンニュートラル化することや、後付けの安全装置を普及させることのインパクトは計り知れないだろう」と語った。
最後に、モビリティ分野だけにとどまらず、ソサエティ領域では街作りや農業など「非デンソー」ビジネスによる新しい価値の創造に挑戦し、地域に根差したパートナーと連携しながら、デンソーの強みである「メカ」「エレクトロニクス」「ソフトウェア」の三位一体を活かした新しいソリューションを生み出していくとした。
これからは「まったく新しいやり方に果敢に挑戦しながら、環境と安心を通じて人と社会を幸せにするために、デンソーが貢献できることならカテゴリーは絞らないという姿勢で臨んでいく」と締めくくった。
環境戦略では3つの領域からカーボンニュートラルに取り組む
環境戦略については、経営役員 CCRO 篠原幸弘氏が登壇。デンソーでは、内燃機関の効率向上、電動化での回生技術、熱マネジメントなどの環境技術と快適理念を両立するために、自社が得意とする科学、熱技術、エレクトロニクス技術を駆使して、車載技術はもちろん、バイオ燃料の研究、非接触給電などの領域においても、従来からCO2排出量を低減させるために取り組んできたという。
また、今や「カーボンニュートラル」という言葉を聞かない日がないくらい、世界各地で取り組みが行なわれていて、2050年までにカーボンニュートラルをコミットしている国は120を超え、世界は低炭素から脱炭素へと動き出していると解説。
しかしデンソーでは、遠い未来ではなく2035年までに生産活動におけるカーボンニュートラルの実現を目標としていて、そのために「モづくり」「モビリティ製品」「エネルギー利用」の3つの領域からカーボンニュートラルに取り組むとしている。
モノづくりの分野では、世界に200ある工場で徹底した省エネ活動と、自社での再エネ導入などを進めていて、2021年度の時点で2020年度比12%減を達成できる見込みであることを紹介。そこからさらにCO2循環技術などを開発して、再生可能エネルギー100%のカーボンニュートラル工場を目指すとしている。
カーボンニュートラル工場を実現するための構想も具体化していて、例えば生産をしない時間帯は、エネルギーを回収できる。そんなクルマに採用されている省エネ技術、ハイブリッドカーのような設備の開発も行ない、持続的な省エネ活動の進化と新製品のエコなモノづくりが実践できる工場へと進化させるという。
モビリティ製品の分野では、駆動システムとサーマルシステムを核に、エネルギーマネジメントを行ないながらカーボンニュートラルの実現を目指すとしていて、自社製品の一例として篠原氏は、先日(5月23日)富士スピードウェイで開催されたスーパー耐久シリーズの富士24時間レースに、世界で初めて水素エンジンを搭載したトヨタ「カローラ スポーツ」が見事24時間を走り切り完走したが、そのカローラにデンソー製の水素インジェクターが使われていることを嬉しいニュースとして紹介。クルマのカーボンニュートラルと性能・信頼性が貢献した成果だとアピールした。さらに、空のモビリティの活用で移動の自由が拡大し、渋滞緩和や事故の低減につながるとした。
また、これらの技術は小型モビリティから大型トラックまで、HEVからFCEVまでと、幅広い出力領域のシステムをカバーできる品揃えを誇り、バッテリマネジメントには自社の内製半導体を使用したバッテリマネジメントユニットを高品質に高速で生産できる体制を世界で整えてきたという。そしてそれを空の領域へと拡張させると明らかにした。
エネルギー利用については、エネルギー循環社会に向けた技術開発をメインとしていて、再生可能エネルギーは供給が不安定であることからデンソーは、電池、水素、燃料を蓄える技術を開発するとともに、人口光合成など新技術によりCO2を資源化する技術に取り組んでいるいう。
また、貯める取り組みについては、自動車工場といった産業や家庭から排出されるCO2は収集して回収することが困難であるのと同時に、大気にも膨大な量のCO2が蓄積されているが、濃度が低くまだCO2を回収する有効な手段が確立できていないという。そこで篠原氏は「デンソーはこういった産業や家庭から出るCO2や大気にあるCO2を、必要な場所でどこでも回収できて、いつでも再生可能エネルギー・再資源化できる技術の開発に取り組んでいる」と語った。
水素カローラに積まれた水素タンクと水素エンジンを見る
交通事故ゼロなどを目指す「安心戦略」
続いて、安心戦略については経営役員 CTO 加藤良文氏が担当。カーボンニュートラルと同様に世界でも課題となっている交通事故死者。EUやアメリカは2050年までにゼロ、日本は2025年までに2000人以下という目標を掲げている。デンソーは1980年代後半から衝突安全商品を提供し、乗員や歩行者の衝突時の被害軽減に貢献してきた。さらに1990年代からは、ライダー、ミリ波レーダー、画像センサーなど、さまざまな予防安全製品を世に送り出し交通事故低減を後押ししてきたが、これからはより「深み」と「広がり」の2方向で取り組みを行ない交通事故ゼロを目指すとしている。
深みについては、車両の全周囲やドライバーのセンシングを行なうことによる事故の未然防止。信号などインフラ情報と連携させることによる事故の未然防止。さらにAIを活用して危険予知を行なうことによる事故の未然防止など。ドライバーを危険に近づけないといった技術も開発している。
広がりについては、これまでに既販車向けの車両運行管理システムやペダル踏み間違い加速抑制システムなど、後付けの安全装置を提供してきたが、これからもADASの進化に合わせた製品を開発していくという。
快適空間の実現については、大気汚染やウイルス感染などがマイナス要因として挙げられるといい、デンソーでは2025年までに「安心空間」の提供と普及、2030年までには「活力あふれる空間」の提供を目指すとしている。また、そのためには「温度」「音」「空気」「司会」の4つ環境をよりよくする必要があるという。空気が常に清浄され、その状態が見えるようにすること、そして体を活性化させる空気の提供に向けて開発を続けていくとしている。
安心空間の提供については、ウイルス除去や有害物質の見える化で安心な「空気質」の実現を目指し、既存の技術にくわえ、新規のソリューションを開発。2021年2月に発売した「ピュアミエ」は従来比25分の1のサイズまで確保できるようになったという。今後はさらに浄化技術とセンシング技術を強化していき、バスやタクシーといった公共交通機関はもちろん、公共スペースまで安心空間を広げるとした。
働く人の支援については、いま高齢化や後継者不足が深刻になっている農業をはじめ物流業界、製造現場など労働人口の減少が大きな問題となっているが、それに対してデンソーは、これまで自動車分野で培ってきた、環境制御や自動化、ICTなどを駆使して、業界を超えて解決策をもたらすとしている。社会に安心を与えるリーディングカンパニーを目指し、今後も事情を通じて社会課題を解決していくと結んだ。
クロスドメインでの進化が問われる「ソフトウェア戦略」
ソフトウェア戦略を担当したのは経営役員 CSwO 林新之助氏。ここまで環境と安心について述べられてきたが、デンソーではクルマの位置付けを「さらなる進化」と「社会のノード化」の2つの側面で捉えていると明かす。それはつまり、クルマ1台1台がひとつのセンサーやアクチュエータのように振る舞うことで、社会のインフラの1つに位置付けられ、「その進化と新たな役割を持つためのカギとなるのがソフトウェアである」と言う。
これまでは「パワートレーン」「ボディ」「シャシー」「コクピット」「セーフティ」など単一ドメインごとに進化して、その総和としてクルマの価値が高められていたが、これからは単一ではなくクロスドメインでの進化が問われる時代になり、エネルギーマネジメントや統合HMI、自動運転やOTAのようなコネクテッド技術など、ドメインを超える製品の開発が拡大していくという。また同時に、多様かつ素早い開発が重要になり、企業や業界の垣根を超えて、協働することが求められる。
またクロスドメインの動きと合わせて、業界標準の基盤づくりも強化するとしていて、デンソーの強みである全ドメインのソフトウェア技術と開発ノウハウを活用することで、質の高い製品ができるとしている。また、クルマと社会のつながりやクルマの中のつながりを開発重点ポイントとし、標準化団体への参画や提案なども視野に入れているとした。
さらに各製品事業部に配置していたソフトウェア部門や人材についてもクロスドメイン型の横断組織に集約を開始し、2021年6月から電子PF ソフトウェア統括として稼働させると明らかにした。
企業価値創造に向けた成長戦略
財務戦略については経営役員 CFO,CRO 松井靖氏が登壇。企業価値創造に向けた目標は「事業を通じて社会課題の解決に貢献することとし、健全な財務基盤をもとに成長しながら、すべてのステークホルダーに貢献することが使命である」と述べた。具体的にはCO2と交通事故をゼロにするという「究極のゼロ」を実現することが目標となる。
財務についてはROE(自己資本利益率)10%超を目標に設定。エクイティ・スプレッド(ROEと株主資本コストの差)を中長期的に拡大させていくこと目指すとした。そのためにまず事業の競争力となるROIC(投下資本利益率)を向上させ、さらに財務レバレッジも活用することで、さらなる株主価値向上を図るという。
現状の財務状況については、決算発表で報告済みと前置きしつつ「売上高5.5兆円に対して営業利益率7.6%となっているが、仕入先の火災による半導体不足を除けば営業利益率9%はあるとして、実力値としては中期目標の8%は達成していると考えている」と述べた。
今後は成熟製品である内燃機関に関する製品や不採算事業を意思を持って縮小しながら、CASEやカーボンニュートラル、新モビリティ、農業などに軸足を移していくことで、持続的に成長できると解説。特に成長領域では業界をリードする存在を目指すとした。
また、これまで売上と利益を重視してきたが、これからは売上と利益に加え「資本コスト」「資本効率性」も重視して判断していく体制に変更するという。資本コストを下まわる事業であれば規模縮小もやむなしという。
成長分野(電動化)の拡販進捗については、製品ラインアップも揃っていて、2025年には今の倍の売上を見通していると明かした。また、主力製品のインバーターは、1997年にトヨタ「プリス」に搭載されて以降25年が経ち、海外生産も合わせると累計1800万台を突破。2021年度は360万台、2025年度は800万台超の生産を予定しているという。また、デンソーは電池サプライヤ、ECUサプライヤとは異なり、1社でシステムを構成できる強みもあり、そこを生かして持続的な事業成長を両立させるという。それはADAS製品にも活かすことができ、既販車など向けのアフターパーツも積極的に開発するとした。